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なくすものがないぼくたち(後編) - (2008/02/10 (日) 14:25:17) のソース
**なくすものがないぼくたち(後編) ◆npj8TUxVrE ■ V3は覚醒する。 気を失っていたのは一秒にも満たない。 その間に振り上げられた銃底が、再びV3の眉間に振り下ろされようとしている。 V3は右拳でそれを受け止めた。 傷口が更に抉れ、血液が迸るが気にはならない。 それよりも、心が痛い。 目の前の男は、悪などではなかった。 ただ、空虚なだけだった。 V3は泣いていた。 正義を失い、悪に堕ちることもできず、自分を空っぽにするしかなかった同胞を想って。 複眼から血の様な涙を流していた。 ボイルドの拳を通してV3は感じ取った。 彼がかつて抱いた醜い妄想を。 良心が炸裂する爆心地を望む心を。 その矛盾に苦しむ魂を。 V3は僅かながらそれらを自分のものとして共感したのだ。 だからこそボイルドの拳はV3の胸に響いた。 だからこそV3はボイルドを倒さなければならない。 「ボイルド……俺とお前は違う。 俺にはまだ多くの仲間がいる。お前にはもういない。 俺の敵は滅んでも誰も困らない真の悪。お前の戦場は利害が絡み合い、正義の方向は明確でない。 俺には、お前の抱える虚無が理解できない。 だがッ!」 V3は傷か広がるのも構わずに、全力でボイルドの腹を叩く。 ボイルドの体が吹っ飛ぶが、ただ押されただけといった感じでダメージを受けた素振りを見せず、悠然と着地した。 「だからこそ知って欲しい! まだ世界にはマルドゥック・スクランブルと理想を共にする仲間が存在することを! 安易な方法でなく、血の滲む苦労でしか得られない種類の幸福に、掛け替えのない価値が残っていることを!」 思い浮かぶのは、修羅の如く怒りに燃えるチンクの姿。 復讐を遂げ、シグマを過剰にいたぶり嘲り笑うチンク。 妹の存在を、それを失った悲しみもろとも忘れ、呆けた様に笑うチンク。 殺し合いでただ一人生き残り、シグマの褒美で蘇らせた妹達と喜び合うチンク。 最初以外の可能性はゼロに等しいけれど、ひょっとしたら有り得る未来。 どのチンクも笑顔だ。 しかし、仮面ライダーV3は望む。 もう一人の妹と共に生き残り、セインを失った現実を正面から受け止め、力一杯泣く。 その悲しみを胸に、生存者たちと共に前向きに生きる。 そんな未来に、いつか、見せてくれるだろう笑顔を。 「魂を取り戻せボイルド! お前は空っぽなんかじゃない! お前の悲しみも、お前の怒りも、この仮面ライダーV3が受け止めてやる!!」 轟然と襲い掛かるボイルド。 ボイルドの左拳がV3の頬を弾き飛ばす。 ボイルドの右膝がV3の脇腹に叩き込まれる。 ボイルドの右足がV3の顎を打ち砕く。 V3は血反吐を吐いて後ずさる。 しかし決して倒れない。 決して膝を折らない。 「どうしたボイルド! その程度では仮面ライダーは倒せないぞ! もっと魂を込めて打ち込んで来い!」 両手を広げ挑発するV3。 何の躊躇いもなくボイルドはそれを叩き伏せた。 ボイルドの左アッパーが華麗に決まり、V3は錐揉みしながらぶっ飛ばされる。 意識が飛んでいる内に追撃すべく、ボイルドは拳銃を宙に舞うV3に向けトリガーを引いた。 「――――この瞬間を待っていた!」 頭を激しく揺さぶられたV3はしかし、気絶などしていなかった。 錐揉み状態のまま空中でバランスを取り戻すと、自身の回転をダブルタイフーンの力で加速させる。 宙返りしながら、V3とボイルドを結ぶ線を軸に、回転エネルギーを溜め込んで行く。 加速/加速/加速。 「V3スクリューキ――――ック!!」 V3の右足と50口径AE弾が激突する。 スクリューの様に回転するV3のキックは銃弾を粉々に打ち砕いた。 銃弾の持つ運動量自体は大したものではない。 V3の勢いが衰える兆しはない。 「やはりそういうことか!」 先程拳に銃弾を当てられた際、感じた違和感。 どうやらボイルドは銃を撃つ際に、銃弾を通すためにバリアーに穴を開けている様だ。 その僅かな隙間に針を通す様に、指向性の強いスクリューキックを放てば、防ぐ事はできないだろう。 V3の読みは当たっていた。 V3のキックは全くスピードを落とさず、そのままボイルドの胸に吸い込まれた。 ボイルドは堪らず吹っ飛ばされる。 二、三度地面をバウンド。 胸を押さえながらもひらりと身を翻して、膝立ち状態で止まった。 いまだ闘志を燃やす瞳で、V3を睨む。 「まだ倒れないか……ならばアレを使うしかない」 V3が走り出す。 腰のダブルタイフーンが逆方向に回転し始める。 力と技の風車から光が零れる。 「V3逆ダブルっ……タイフ――――ン!!」 V3を軸にして、膨大なエネルギーの渦が発生する。 渦は加速し竜巻となり、暴風となって当たり一面を無茶苦茶に吹き飛ばす。 更なる加速。 路面が剥がれ、粉々に砕けながら遥か上空に吹き飛ばされる。 建造物が跡形もなく粉砕され、瓦礫のつぶてとなって吹き荒れる。 地上の形あるもの全てがV3を中心にして炸裂した。 V3以外、何ものも存在を許されない。 その筈だった。 「――――ッ!」 ボイルドは立っていた。 大地に両足を着けて。 吹き荒ぶ嵐の中で、一歩も動かされることなく、微塵も揺れることなく。 相変わらずのうっそりとした眼付きで、V3を睨んでいた。 「馬鹿な……っ!」 V3の全エネルギーを載せた逆ダブルタイフーンをまともに受けて無事で済む筈がない。 V3は自ら渦中に飛び込み、渦巻く奔流に乗って空中で大きく回転し始める。 だが、遅い。 必殺の遠心キックが届く前に、銃口をもたげたボイルドの無慈悲な射撃がV3の胸を貫く。 「ぐわあァァァ――――っ!」 地面に打ち付けられ、倒れ付すV3の体。 逆ダブルタイフーンが終了し、嵐の時間は終わる。 ダブルタイフーンの回転が火花を立てて止まり、V3の変身が解除される。 うめきながら志郎が辺りを見回すと、周り一面廃墟と化していた。 まともに形を残しているものは、何もない。 ボイルドだけが立っていた。 男が呟く。 「俺の能力は無重力下での戦闘を考慮して開発されたものだ。 上下左右、どのベクトルから力を加えられても、俺は俺の軸を見失うことは無い」 志郎はようやく悟った. ボイルドの能力は念動力などではなかった。 重力だ。 近くの物体を触れずに動かすこともできるが、それよりも自身にかかる力場を操作することに長けた能力なのだ。 V3の攻撃が当たってもそれほどダメージを受けていなかったのは、とっさにその方向に自分の体を加速して、衝撃を受け流していたからなの だろう。 志郎は歯噛みする。 自分にとって相性が最悪な能力だ。 ストロンガーの電撃の様に、重力に作用されない攻撃手段を、V3は殆ど持ち合わせていない。 しかも、逆ダブルタイフーンの影響で、当分自分は変身できないのだ。 絶体絶命だった。 弾切れになった拳銃の弾倉を交換しつつ、ボイルドは一歩一歩志郎に近付く。 志郎もふらふらと立ち上がりながら睨み返してやるが、どうしようもない。 再装填を終えたボイルドが銃口を向けたその直後、どこからともなく飛来した棒状の物体が男の足元に突き刺さった。 赤い三角の道路標識="止まれ"。 けたたましい排気音が響き渡る。 「カザミイィィィ――――!」 おっかなびっくり、明らかに体に合っていない大きさのサイクロン号に跨って、去ったはずの隻眼の少女が猛烈な勢いでこちらに向かって来た 。 全くスピードを緩めずボイルド目掛けて突っ込む。 何の遠慮もなく大男を轢き飛ばすと、志郎の目の前で緊急停車。 「乗れッ!」 一瞬の躊躇。 目の前の暴走する強大な力を野放しにすることへの躊躇い。 だが変身できない現状では、ボイルドに正義を示すための力が足りない。 志郎は断腸の思いで単車の後部座席に飛び乗る。 再び発車しようとするバイクに向けられるボイルドの銃口。 チンクは左手でナイフを二本、後ろ手に投げ付ける。 ボイルドのフロート、重力能力が飛来するナイフを遠方へ弾き飛ばす。 しかし、ナイフはフェイクだ。 ボイルドとチンク達の間にある一時停止の道路標識が突然爆発。 一面に煙が充満する。 その間にチンクは再びエンジンを噴かせ、アクセルを全快にして、志郎と共に走り去った。 ■ 煙が晴れ、バイクが走り去って行く方向を確認しつつ、ボイルドは穿たれた胸を押さえる。 難攻不落のフロートによる防御、その数少ない弱点を見事に突かれた。 そしてその後の逆ダブルタイフーンもまた、少なからずボイルドにダメージを与えていた。 重量場の出力が明らかに落ちている。 そもそも本調子ならばV3を近付けることすら許していない。 恐らく修復される際に識閾値を落とされたのだろう。 痛む胸を押さえる。 ふと、V3の叫びを思い出した。 (――魂を取り戻せ!――) ボイルドは矢張り、何も感じられない自分を自覚する。 その魂は全て、あのネズミに託してしまったのだから。 銃が必要だった。 今手にあるものよりもっと強力な銃が。 V3の拳を一撃で吹き飛ばせるものが。 V3の必殺キックに対抗できるものが。 でなければ、少なくとも弾薬が必要だった。 先の戦いでは、残弾数を気にする余り攻め手を欠いていた。 しかし補給無しでは、このままの調子で撃ち続ければじきに手詰まりになる。 ボイルドは地面に落ちているナイフを拾い上げる。 銀髪の少女が囮に投げたものだが、爆発する様子はない。 今回の収穫はこれだけだ。 しかも向こうに再転送されてしまったら意味がなくなる代物。 一方向こうには、こちらの手札を知られてしまった。 彼らが体勢を立て直し、包囲網を形成する前に、追撃する必要がある。 今すぐに、だ。 ボイルドはPDAを手に取る。 使い慣れない移動手段ではあるが、仕方がない。 ボイルドは最後の支給品を転送した。 ■ 「……何故戻った」 大型二輪を見るからに規定身長以下の少女が操り、後部に大の大人が乗せてもらっていると言う奇妙な現状。 運転を代わろうかを言いかけて、今の自分の手ではハンドルを握れないことに気付いた志郎は、代わりにそんなことを尋ねる。 「……お前には借りがあった。それを返しに来ただけだ。 お前の負ける様を見れば、何か突破口が閃くかも知れなかったしな」 つっけんどんな調子で答えるチンク。 始めからあの道路標識の様に、何か役立つものを探しに行っていただけなのではないか。 もしそうなら、まったく、素直じゃない奴だ。 そんな考えがよぎって、志郎は小さく笑う。 「何を笑っている……気持ちの悪い奴だ。 そんなことより、お前の事だ、ただ一方的にあの男にやられていたわけではないんだろう。 何か弱点は判ったのか」 「ああ、奴は重力を操る。 近くの物体だけでなく自分自身にまでその効果が及んでいた。 電気や光と言った、重力の影響が小さい手段しか通用しそうにないな。 ただ、攻撃の瞬間だけ、奴の重力の盾に穴が開く。 力学的な攻撃でなら、狙えるのはそこだけだろう」 「厄介だな……。 寝込みを襲うか、疲弊した所で不意を突くしかないか」 もっとも志郎が卑怯な手を認めるとは思えないが。 チンクにもV3にも、有効な攻め手がない相手だ。 二人は黙り込み、男に対抗するための手段を考える。 ただ、志郎の胸には、また別のやるせない思いがあった。 (奴が……ボイルドが人を殺めるのならば、俺は絶対に奴を倒さなければならない。 だが、もしできるのであれば、ボイルドには仮面ライダーになってほしい) 結城=ライダーマンの時の様な、何か仲間になってくれる切っ掛けのようなものは、おそらくない。 それでも、かつて仮面ライダーと同じ理想を持った人間を救うことを諦めるのは、志郎には耐えられない事だった。 「……なあ、カザミ」 不意に、チンクが話しかけてくる。 「どうした?」 「いや、大したことじゃないと言ったら、確かにそうなんだが……」 「?」 彼女らしくもない、曖昧な物言い。 「背筋が寒いというか、何か物凄く嫌な予感がするんだ。 後方の確認をしてくれないか。 いや、できればで良いんだが」 「バックミラーがあるじゃ……ああ、そうか」 彼女の座高では、ミラーの角度が合わず、後方確認ができない。 指摘されて若干彼女の機嫌が損なわれたような気がしたが、気のせいだろう。 志郎は痛む身を捻って後ろを振り向き――――凍り付いた。 「チンク、逃げろ」 「はあ? 何を言って……」 「奴が追って来た、逃げるんだ」 「馬鹿な、我々以外のエンジン音は聞こえないぞ。 こっちが一体時速何キロで走ってると思って……何いイイィィィ――――!!?」 苦労して運転座席から後方へと顔を捻ったチンクは、驚愕した。 ボイルドが凄まじい速度で迫っていた。 ……自転車で。 どう見ても何の変哲もない、自前の動力無しの自転車が、二人乗りとは言え全速力のサイクロン号を、確実に追い上げていた。 全身から殺意を放つ怪物が、市販のスポーツ用自転車に乗って、前傾姿勢で一直線に猛追して来る。 幾多の修羅場を潜り抜けてきた二人をも震え上がらす程の、形容し難い未知なる脅威がそこにあった。 【F-4 道路/一日目・黎明】 【風見志郎@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:約三時間V3に変身不能、疲労大、両拳に重症、頭部と胸部と左肩に中程度のダメージ、 左腰から出血、全身に僅かな火傷、固い決意、やるせない思い [装備]:なし [道具]: 支給品一式、不明支給品0~2 [思考・状況] 基本:殺し合いを破壊し、シグマを倒す 1:ボイルドを振り切り、体勢を立て直して反撃 2:チンクと共に本郷・敬介・茂・村雨・スバル・ギンガ・ノーヴェを探し、合流する 3:殺し合いに乗った危険人物には容赦しない 4:可能ならば、ボイルドを仮面ライダーにしたい 5:シグマの真の目的を探る。そのためにエックスと呼ばれた男、赤い男(ゼロ)と接触する 6:弱者の保護 7:北東へ向い金属を集める(優先順位は低い) [備考] ※参戦時期は大首領の門に火柱キックを仕掛ける直前です(原作13巻)。また身体とダブルタイフーンは元通り修復されています ※チンクと情報交換をしました ※なんとなくチンクを村雨、そして昔の自分に重ねている節があります 【チンク@魔法少女リリカルなのはStrikerS】 [状態]:小程度の疲労、両腕に僅かな痛み、固い決意 [装備]:サイクロン号(1号)@仮面ライダーSPIRITS(志郎の支給品)、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(10/30) [道具]: 支給品一式、不明支給品0~2 [思考・状況] 基本:ノーヴェを守り、シグマを破壊する 1:ボイルドを振り切り、体勢を立て直して反撃 2:志郎と共に本郷・敬介・茂・村雨・スバル・ギンガ・ノーヴェを探し、合流する。 またノーヴェを最優先にする。 3:殺し合いに乗った危険人物には容赦しない 4:スティンガー、シェルコートを手に入れる 5:北東へ向い金属を集める(優先順位は低い) [備考] ※参戦時期は本編終了後です ※優勝者の褒美とやらには興味がなく、信用していません ※志郎と情報交換をしました、また完全には志郎の事を信用していません 【ディムズデイル・ボイルド@マルドゥックシリーズ】 [状態]:中程度の疲労、全身に中~小程度のダメージ、胸部に中程度の打撲 [装備]:轟天号@究極超人あ~る、 デザートイーグル(7/7)@魔法先生ネギま! 、弾倉(7/7)×1+(0/7)×1 ※弾頭に魔法による特殊加工が施されています [道具]:支給品一式、ネコミミとネコにゃん棒@究極超人あ~る ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス×2(チンクの支給品) [思考・状況] 基本:ウフコックを取り戻す 1:目の前の二人を追撃 2:バロットと接触する。死んでいる場合は、死体を確認する 3:ウフコックがいないか参加者の支給品を確認する 4:充実した人生を与えてくれそうな参加者と戦う 5:もっと強力な銃を探す [備考] ※ウフコックがこの場のどこかにいると結論付けています。 【轟天号@究極超人あ~る】 ブリヂストンサイクルのロードマンがベースのスポーツ型自転車。 R・田中一郎はこれに乗り、新幹線とほぼ同じ速度で東京―京都間を走破したが、轟天号はこの強行軍に耐えうる耐久性を持つ。 *時系列順で読む Back:[[善意と悪意の行方]] Next:[[ ]] *投下順で読む Back:[[善意と悪意の行方]] Next:[[ ]] |022:[[赤い戦士と銀髪隻眼少女の邂逅]]|風見志郎| | |022:[[赤い戦士と銀髪隻眼少女の邂逅]]|チンク| | |029:[[充実した人生を]]|ディムズデイル・ボイルド| |