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男の世界(前編) - (2008/06/12 (木) 22:13:24) のソース
**男の世界 ◆hqLsjDR84w 集められた五十の機械達による壊し合いプログラム、バトルロワイアル。 その開幕の火蓋が切って落とされてから、キッカリ六時間が経過する。 すると、参加者に配られたPDAより無機質な女性の声で放送が流れ出す。 知らせるのは、六時間の間に破壊された参加者の名。そして、そこに入れば仕掛けられた爆弾が爆発してしまうという禁止エリア。 それ以外は一切告げることなく、放送は終了。再び、PDAは物言わぬ機器へと戻る。 放送を行うのは、全てのPDA。放送行わぬPDAは存在しない。 たとえ、複数のPDAを一体の参加者が所持していようと。 たとえ、水中に投げ込まれていようと。 たとえ、熱や電気、重力などによる攻撃を受けていようと。 たとえ、他の機能を利用中だろうと。 たとえ、持ち主が逝去していようと。 PDAは、何ら状況を考慮せずに放送を行う。 それは、持ち主が現在離れた場所にいる風見志郎のPDAも変わらない。 風見志郎のPDAが現在あるのは、工業地区画と森林区画を結ぶ幹線道路から少し外れた、エリアF-3の路上。 そこで風見志郎のPDAは、問題なく放送を行った。 開始時、そこには誰もいなかった。 しかし、少しして――禁止エリアを告げた頃、そこに一人の男が現れた。 男は沈黙したPDAを一瞥すると、乗っていたKATANAという名のバイクから下りてPDAを拾い上げる。 男はポチポチと音を立てながらPDAを弄り、支給品の頁を表示させると、風見志郎に支給された三つ目の支給品を転送させた。 ――ハッキリ言えば、風見志郎の支給品は『大当たり』の部類に入るものであった。 制限されているとはいえ、最高速度五百キロを叩き出す特殊バイク、サイクロン号。 高度な運転技術を要するものの、風見志郎には容易に使いこなすことが可能。 移動手段として見れば、これ以上のものは滅多にないだろう。 次に、超高周波炸裂弾を撃ち出す拳銃型兵器、ハカイダーショット。 使用する際の反動が凄まじく、本来の使用者と同等のパワーがなければ腕が吹っ飛ぶだろうが、風見志郎ならば問題ない。 一度風見志郎が使用した際には、肘に大きいダメージを受けたが、変身しておくか足に力を込めておけば、そんなことはなかっただろう。 これもまた、武器という観点で見れば、これ以上のものは滅多にない。 この二つだけでも、移動手段と武器として最高級の物を支給されているのが分かる。 あと一点、ほんの一点だけ贅沢を言えるのならば、『防具』か『治療薬』の類が欲しいところである。 そこで、最後の支給品のお出ましだ。 風見志郎に支給された三つ目のアイテム、それは――――ミドルポーションという名の薬品二本セット。 これをクイッと喉に流し込めば、たちまち体力を回復することが出来る。 全快とまではいかないが、それでもこの殺し合いでは重宝されて然るべき物であろう。 風見志郎は、ディムズディル・ボイルドとの戦闘で受けた負傷と疲労をこれで癒すつもりであった。 サイクロン号の後部座席に乗っていて、しかも手を怪我した状態では、ミドルポーションを取り落とす可能性があまりに大きすぎた。 故に、ディムズディル・ボイルドから逃げ切るまで、風見志郎はミドルポーションを転送することが出来なかった。 そして、ミドルポーションを転送しないまま、PDAを取り落としてしまったのだ。 『移動手段』、『武器』、『治療薬』。 その三つの上々クラスを支給されていながら、現在その全てを所持していないのだから、現実とは予想のつかぬものである。 「ほう……」 風見志郎のPDAを拾い上げた男がミドルポーションを服し、その効果に思わず声を漏らす。 二度の戦闘で男の身体に刻まれた無数の裂傷は、深く抉りこまれたものを残して殆どが消えていた。 大きく消耗していたエネルギーは、少なくともバトルロワイアル開始後二度目の戦闘を行う寸前くらいまでには、回復していた。 一度、そして二度と男は空中に回し蹴りを放って、回復の度合いを確認。再び男は、驚きと感服の入り交ざった溜息を漏らす。 そして、もう一本のミドルポーションをPDAに戻すと、PDAをポケットに押し入れてKATANAを発進させた。 ほぼ限界速でKATANAを駆動させる男は、数秒と待たぬ内にその場から見えなくなってしまった。 風見志郎のPDAを拾った男。 黒ずくめにコーディネートされた服を着こなし、特徴的な黄色いマフラーをなびかせた男。 その男の名は、サブローと言った。 ■ 唐突にPDAから声が発せられたのには、さすがに少し驚いた。 破壊された者達を知らせる為の放送だと気付くには、数刻を要した。 告げられる名前に、ゼロや仮面ライダーが含まれていやしないかと心配したが、さすがというべきか。一人も呼ばれはしなかった。 ゼロは勿論だが、仮面ライダー達とも、いい勝負を出来るはずだ。そんな奴等が、簡単に死ぬものか。 仮面ライダーZXに聞いた限りでは、他の仮面ライダーはZX以上に強いらしい。 先輩らしいので謙遜しているのかもしれないが、それでも期待に胸が躍る。 次に、禁止エリアとやらが告げ始めた。そう言えば、シグマはそんなことも言っていたな。 そう考えた瞬間、KATANAのブレーキを握り締めて急停止させた。 理由――PDAより聞こえる女の声が、別方向から聞こえた為だ。 ということは、近くにPDAがもう一つあるということだ。つまり、参加者もいるはず。 そう判断し、KATANAの速度をある程度緩めて、声のする方へ向かう。 すぐに音源は見つかった。 しかし、その場には誰もおらず、PDAだけがその場に置いてあった。 持ち主が死んだのかとも思うが、それならば死体が転がっているはずだ。 ならば、単純に持ち主が紛失したのだろうか。 KATANAから降りてPDAを拾い上げ、支給品の頁を表示させる。 ● 支給品01:サイクロン号 ――転送済み―― 転送済み、か。 移動手段、それもバイクというのは素晴らしく魅力的だ。 しかし、元々は仮面ライダーZXの支給品であったKATANAを既に所持している。 支給品のIDはこのPDAに登録されたままなので、少し弄ればサイクロン号とやらを手に入れることも出来るが、バイクが二つあっても仕方がない。 別にあってもPDAに戻しておいたら、邪魔にはならんが……ほうっておくとしよう。 理由は、ただ一つ。 サイクロン号とやらの説明文だ。 やたら長々といらんことまで書いてあるが、それはどうでもいい。気になったのは、たった一つのある文だ。 『仮面ライダー一号のバイク』という一文。 仮面ライダーZXから、仮面ライダー一号=本郷猛のことは聞いている。 その本郷猛愛用のバイク。 なんでもZXの話では、仮面ライダー達――ZXを含めて、十人いるらしい――は、バイクの扱いに長けているらしい。 そして、かなりの馬力を持つバイクを愛用しているらしい。 そのようなバイクを転送させているのだ。転送させたということは、サイクロン号を乗り回すことが可能な輩だろう。 となれば、そいつは、かなりの実力者である可能性が高い。 この殺し合いに参加させられているという、四人の仮面ライダーかもしれん。 そんな強者が現在サイクロン号に乗っているとして、そのサイクロン号を転送したならば、どうなる? かなりの馬力を持つというバイクだ。いきなりそれが消失すれば、乗っているヤツは一たまりもないだろう。 たとえ俺でも、少なからずダメージをうける。 PDAを落とすなどというマヌケなことをしたのが悪い。 そうも思うが、それでもいきなりバイクを消すなど卑劣だ。そんなことはしたくはないし、出来るはずがない。 相手が強者であるのならば、尚更だ。正々堂々、正面から戦いたい。 故に、転送しなかった。 PDAを操作し、次の支給品を表示させる ● 支給品02:ハカイダーショット ――転送済み―― ハカイダーショットだと!? くッ、サイクロン号と同じく、これもまた転送済みか。 それにしてもハカイダーショット……無いと思えば、支給しているだと、シグマ……! シグマへの怒りが増していく。 PDAを少し弄れば、再び俺の手にハカイダーショットをが戻ることになるが、どうするか。 本来は俺の武器だ。いきなりに奪い返そうとも、何ら卑怯ではない。 だが……いいさ。 ああ、いいだろう。 そいつを探し出し、正面から取り返してやろうではないか。 誰かは知らんが、ハカイダーショットを転送させたのなら、少しくらいは使いこなせるのだろうな? ハカイダーショットを扱う相手との戦闘……少し興味がある。 そんなことを考えながら、最後の支給品を表示させた。 ● 支給品03:ミドルポーション二本セット ――未転送―― 説明文を読んでみれば、ある程度の負傷を治癒し、疲労を回復させる薬品らしい。 すぐさま転送させて、一気に飲み干してみる。 すると数秒と経たぬ内に、削られた装甲が元に戻った。そして、少しエネルギーが回復するのを感じた。 「ほう……」 勝手に溜息が漏れた。 説明の通り。確かに、素晴らしい薬品だ。 エネルギーの回復具合のチェックも兼ねて、跳躍しながら空を蹴ってみる。 うむ、とても万全とは言えないが、それでも素晴らしい薬品というのに変わりはない。 しかし、次の目的地に変更はない。 依然として、修理工場だ。 何故か。 ミドルポーションを飲んだことで、浅い傷は治癒したものの、深い傷には大して影響がないのだ。 それに、エネルギーも未だ全快とは言い難い。 何より、エアークラフトの制御回路はほんの少し繋がっただけで、少し使用しただけでまたさっきまでの状態に戻ってしまうだろう。 これでは、全力で戦えない。 日にちが変わる頃、ゼロと決着をつける予定だ。 別に俺はエアークラフトが使用できずとも戦闘可能だが、それではゼロに――戦場に赴く一人の戦士に対して、失礼だ。 全力で決闘が可出来る可能性があるのならば、全力で向かうべきだ。 本来の目的通り、修理工場へと向かって、次の戦闘に備えるとするか。 ――次の戦闘。 考えただけで、笑みが零れてしまう。 止めようとも思うのだが、おそらく止められないだろう。 キカイダー、お前もこの場に呼び出されていたなら、俺はさらに充実していただろう。 お前は、壊し合いに憤慨するだろう。しかし、ゼロや仮面ライダーのような同志達と出会うことで、お前も喜んだはずだ。 それなのに、何故だ。 何故、いない。 既に十体も破壊されたのだぞ! ゼロや仮面ライダーは、この壊し合いを止めようと必死に奮闘しているのだぞ!! こんな時に何故! 肝心のお前がこの場にいないのだ、キカイダー!!! ■ 放送から、数十分が経過している。 エリアG-3の修理工場内で、一人の男が握り締めた拳を床に叩きつけた。 銀色の鋼のボディに、胸部と背部そして両の肩を覆う金色のアーマー。そして、たてがみの様な橙色の長い髪が印象的な男。 いや、正確にはそれは髪ではない。髪の毛の形をした燃料電池、エネルギーアキュメーター。 その男の名は、GGG機動部隊の隊長、獅子王凱。 凱は怒っている。 放送で呼ばれた名前の数の多さに、言葉にならないほどの怒りを覚えている。 今すぐにでも、修理工場から飛び出して、参加者を見つけ出したい。 出会った相手が壊し合いを否定していたのなら、保護、そして協力したい。 出会った相手が壊し合いに肯定的ならば、説得。それでも言うことを聞かぬのなら、倒さねばならない。 その為にも、今にも修理工場から駆け出したい。 しかし、そんな気持ちをどうにか繋ぎ止める凱。 「落ち着くんだ……! もしも俺が軽率な行動を取ってしまえば、誰が無防備な風見さんを守るというのだ……ッ」 凱は、そのように自分に言い聞かせる。 そう、彼の今いる部屋には、無防備な状態の風見志郎がいるのだ。 一つだけ破壊を免れた回復ポッドの中で眠りながら、身体の治癒を待っているのだ。 こんな状態の風見を置いていくなど、見殺しにするのと同義である。 そんなことは凱にも分かっていた。 それでも、外に飛び出したい衝動に駆られたのは、先ほどPDAより告げられた脱落者の数。 五十人の参加者中、既に十人が破壊されていったのだ。 たとえどんなに衝撃的な事実を知ったとしても、正常な判断が出来ないなんてことは、一つの部隊の隊長としては失格かもしれない。 ――とはいえ、理不尽に壊し合いなどに参加させられて、理不尽に死に行く者に悲しまずして何が勇者か。 そうだ。 凱はGGG機動部隊の隊長である前に、一人の勇者。 鋼の体を持つサイボーグであり、誰よりも熱い勇気を持つ男。それが獅子王凱という男なのだ。 「何か聞こえるな、これは……バイクか?」 人間離れした凱の聴覚が、バイクのエンジン音を捉える。 少しの間それを聞き続け、凱はバイクが修理工場の前で止まり、押しながら修理工場内に入ってきたことを理解する。 バトルロワイアルに乗っているのかを尋ねる為、部屋から飛び出すと、バイクを押す黒い服を着た男――サブローと目が合った。 「俺の名前は、獅子王凱という! 勿論、この殺し合いには乗っていない! 君の名ま――」 「修理する道具は、どこにある」 「この部屋にあるが、今は――」 「そうか」 サブローは凱が言葉を続けようとしているのをことごとく無視して、凱が指差した部屋に入っていく。 部屋に入ったサブローを追いかけて駆け込んだ凱が、サブローの背中に激突する。 痛みはないが、これまでの二度に渡るシカトもあり、さすがの凱も少し抗議しようとしたその時、サブローが言葉を漏らした。 「あの姿、風見志郎……だな。仮面ライダーV3……!」 この一言に、凱が表情を変える。 抗議の意など、どこかに吹っ飛んでいってしまっている。 「風見さんを、仮面ライダーV3を知っているのか! まさか、あなたは仮面ライダーの一人なのか!?」 凱は、チンクから仮面ライダーのことを聞いていた。 それを聞いた凱は、自分と同じ正義を志している者達の存在に歓喜した。 今すぐにでも合流し、バトルロワイアルを破綻させるべく行動したかった。 だからこそ、凱はサブローに対して目を輝かせながら話しかけた。 しかし、サブローの口から零れたのは、凱の予想していたのとは百八十度異なる言葉だった。 「いいや、俺は仮面ライダーではない。仮面ライダーと闘うことを望むものだ」 サブローは仮面ライダーに出会えば、戦闘より先に村雨より預かった伝言を伝えるつもりだった。 闘うのは、その後のつもりだった。 しかしサブローは、凱にわざわざそんなことを言う意味はないと判断したのだ。 「何、だって……?」 勝手にサブローを仮面ライダーと勘違いしていたのもあり、凱が腑に落ちないといった表情を浮かべる。 が、すぐに凱の表情は、怒りに染まっていく。 「お前は、こんな壊し合いに乗っているのか!?」 凱が跳躍し、サブローと風見の入っているポッドの間に割り込む。 怒りを隠そうともせずに、サブローを見据えて言葉を投げつける。 その視線は刃物よりも鋭く、氷塊よりも冷たかった。 「そうだが、それならばどうする?」 「お前を止める!」 「お前に出来るのか?」 「やってみせるッ!!」 そんな凱の視線を受けても、何ともないかのように、サブローは言葉を続ける。 サブローが言い終えるよりも速く、拳を握り締めながら叫ぶ凱。 常人ならば軽く怯みそうな凱の気迫を受けても、凱はそれに気圧されない。 それどころか、軽く笑みを浮かべている。 数度言葉を交え、サブローはクルリと踵を返した。 「ならば、移動するとしよう。ここにいれば、仮面ライダーV3にまで危害が及ぶかもしれん」 「どういうつもりだ……?」 唐突なサブローの提案を、凱は訝る。 当然といえば、当然だろう。 バトルロワイアルに乗っているのならば、身動きの取れない参加者を攻撃できる状況など、思ってもない好機であろう。 しかし、サブローは凱に背を向けたままで、一言。 「全力の仮面ライダーと正々堂々闘いたい。それだけだ」 予想外の返答に、凱は言葉を詰まらせる。 正々堂々。そんな言葉をバトルロワイアルに乗った者から聞くことになろうとは、考えていなかったのだ。 しかし、好都合。 修理工場から出ようとした凱の目に、風見の入っているポッドが入り、足が止まってしまう。 無防備な風見を放置していいのだろうか――そんな考えが、凱の脳裏を掠める。 「何をチンタラしている。……仮面ライダーを放置するのが、気になるのか?」 「――ッ!」 図星。 凱がギリリと音を立てて、歯を軋ませる。 「もう外傷は殆ど見当たらん。じきに目を覚ますだろう。 紙ならば他の部屋にあるだろう。メモでも残しておけば、どうだ?」 はっと凱が、息を吐く。 確かに風見の傷は殆ど塞がっているし、顔色も良好だ。 「何故、お前はそんなに助言をしてくるんだ!」 凱がサブローに問いかける。 当然の疑問だろう。しかしサブローは、何を言っているんだという様子で呟いた。 「何か心残りがあり、戦闘に集中出来ぬ者と闘っても面白くはないからな」 サブローがメモを残すという提案をしてから、十分ほどが経過した頃であろうか。 KATANAに乗ったサブローが修理工場から飛び出し、それを追うように体を低くした凱も走り出した。 ある程度の時が経ち、エリアG-4に足を踏み入れた頃。 サブローが並走する凱に言葉を投げ、凱もそれに答える。 「この辺りで問題ないな」 「ああ」 KATANAから降り、KATANAをPDAに転送するサブロー。 グランドリオンを構え、サブローから十メートルほど離れた場所に立つ凱。 決闘までの時は、もう長くはない――! それは、周囲の雰囲気を見れば、誰にだって分かる。 たとえ、子供だろうと。 それだけ、異常な闘気を二人は放っていたのだ。 「ゆくぞ、凱。 そういえば、まだ名乗ってなかったな。教えてやろう」 そう言うと、サブローの身体に異変が現れる。 漆黒の機械に覆われたボディが、サブローを覆っていく。 そして、最後に首から上に、雷を描いた漆黒のマスクが被さる。 脳だけがむきだしで、それ以外全ての場所が漆黒の装甲に覆われた改造人間がそこに現れた。 今の彼の名は、サブローではない。 「俺の名は――――ハカイダーだ」 そう、今の名はハカイダー。 キカイダーを破壊するために作られた改造人間だ。 その姿をまじまじと見ると、凱は右手にグランドリオンを持ったまま、左腕を伸ばして前に突き出す。 「イィーークイィィーーーップ!!」 突き出した左の拳を握り、手の甲をハカイダーに見せ付けるように腕を胸の前で曲げる。 すると、左手を覆う金のアーマーが緑色に光りだす。 そして、凱の顔面より一層激しい金色の光を放つ。 一秒と経たぬ内に、光は集束。 顔面を守る金色のV字の角型アーマー『ホーンクラウン』、そして右目の前に緑色の多機能モニター『サイバースコープ』を展開させる。 そして、髪の毛状の燃料電池『エネルギーアキュメーター』が一部纏まり、両の肩にかかる。 「いくぞ、ハカイダー! 被害者を出ないためにも、この場でお前を倒す!!」 イークイップにより戦闘形態へと変化した凱が、グランドリオンを握り締めて、ハカイダーに言い放った。 ハカイダーは、凱の強さをその身にひしひしと感じ、これから始まるであろう闘争に大いに期待感を抱いた。 「来い! 倒せるものならば、倒してみせろ!」 ハカイダーがそう言い終えて一刻と経たぬ内に、金色の勇者と漆黒の破壊者が激突した。 ■ 未だ戦闘開始から五分ほどしか経過していないが……ハカイダーというサイボーグは強い! グランドリオンを振り下ろしても、ギリギリで回避するか、横腹を叩いて斬撃の軌道をずらしてくる。 力と身体能力、そして咄嗟の判断力。全てを両方を兼ね揃えていなければ、こうはいかないだろう。 そして、攻撃手段。 徒手空拳を使うらしい――武器が無いだけなのかもしれないが――のだが、その一撃一撃が速く、そして重い。 今はまだもろに受けてはいないが、食らってしまったなら……一気に技のラッシュを叩き込まれるかもしれない。 「まだ互いに一度も攻撃を受けていないぞ、倒すのではなかったのか?」 冷たく低い声。 挑発だ。乗ってはいけない。 この場所に来てから、体力の消費が普段より激しい。 イークイップをして戦闘形態になった後は、さらに激しさを増した。 こんな状態で攻め始めては、駄目だ。 運の良いことに、この場には普段と違って巻き込まれる民間の方々がいない。 だから、存分に時間をかけることが出来る。 まずは相手の力量を確かめてからだ…… 「来ないのならば、こちらからいくぞ!」 そう言うと、ハカイダーは――速い! 一気に距離を詰めてきた。 身長はこちらの方が高いし、グランドリオンもある。なので、リーチは遥かにこちらの方が長い。 それなのに、リーチの長さを気にしないで、間合いに入って来た。 そして放ったのは、中段蹴り。 咄嗟にグランドリオンの横腹で受ける。 押し返そうと力を込めるが、動かない。 暫し、グランドリオンを仲介にしての力比べ。 「下らん。もっと強いと思ったが、この程度か」 一気に力の均衡が崩れ、グランドリオンが押し戻される。 拙いとグランドリオンを握る手に力を込めるも、少しずつ押されていく。 このままでは、ジリ貧だ。ならば…… 「はああッ!」 一気に剣を引いて、ハカイダーの体勢を崩させる。 不安定な体勢のハカイダーに蹴りを放とうとして――――逆に蹴りを放たれた。 「くッ!」 あんな不安定な体勢から蹴りを放つのは、予想外。 それでも体を後ろに反らせて、何とか回避。 体勢を崩したのを好機と判断したのか、そのままハカイダーが一気に技のラッシュを仕掛けてくる。 前に進みながら、両の拳から何度も放たれるジャブ――回避、回避、回避、アーマーを掠る、回避、回避。 気付けば、後ろには壁。PDAに表示されたマップを思い出す。ここは地図の端か。 ハカイダーの方はそれを狙っていただろう。回避されることの無いと判断してか、それまでのジャブと異なる技を放ってくる。 ハカイダーの左のストレート――グランドリオンで受ける。 左足で蹴りを放つ。ハカイダーは横に飛んで、回避。しかしすぐに地面を蹴って、空いた距離を詰めてくる。 ――やっぱり、そう来ると思ったぜ! こちらも壁を蹴って、ハカイダーに向かっていく。 そして交叉する瞬間を狙いすまして、グランドリオンを横凪に振るう。 キィンと金属のぶつかる音が響き、ハカイダーが俺のいた所、俺がハカイダーのいた所で減速する。 ハカイダーの方を見れば、右腕の装甲に思いっきり深い傷痕が刻まれている。 腹を斬りつけて致命傷を与えるはずだったが、右腕で防いだのか。 やはり油断ならな―――― 「ガは……!?」 急に、視界がぐらりと歪んだ。 何が起こったのか。そう思った瞬間、後頭部に激しい痛みを感じた。 まさか交叉した瞬間にグランドリオンから身を守り、その後に後頭部に攻撃を放ったというのか……!? 暫くが経過して、やっと歪んでいた視界がもとに戻った。 足がふらつき一度倒れた俺を、ハカイダーはただ仁王立ちして眺めていただった。 歪む視界の中で俺がその理由を尋ねた時、ハカイダーは言った。 『倒れた敵に追い討ちをかけるなどという卑怯な真似は、好かん』と。 「覚悟はいいか?」 立ち上がった俺を見て、ハカイダーが尋ねる。 俺が構わないと言うと、それまで仁王立ちしていたハカイダーが、再び腰を低く落としてファイティングポーズを取る。 こちらも、グランドリオンを構える。 そして、 「ゆくぞ!」 その言葉を言うと同時に、ハカイダーが地を蹴った。 ハカイダーが放ってきたのは、右のフック。 横から迫る拳を会えて左腕で受け、グランドリオンを右腕だけで持つ。 ハカイダーの顔面めがけ上段蹴りを放つも、それはしゃがまれ回避される。 体勢を崩した俺を、ハカイダーが押し倒す。 俺は両手に力を込めることで立ち上がり、跳躍。ハカイダーの追撃から逃れる。 しかしそれで手を緩めるハカイダーではない。そのままの勢いで俺に迫る。 俺は体勢が整っておらず、まだ足元が不安定だ。 咄嗟に、ハカイダーの蹴りをグランドリオンで受ける。 グランドリオンに力を込めるが、またしてもハカイダーに押されていく。 先程と同じく一気にグランドリオンを引こうとした、その時。 「おおおおおおおぉぉおおお!!」 ハカイダーが一気に足に力を込め、グランドリオンが宙を舞う。 しまったなどと思う間もなく、阻む物の無くなったハカイダーの足が俺に迫る。 俺はやられるのか……? 壊し合いに乗ったものを倒せぬまま。 バトルロワイアルを止められぬまま。 ――力無きサイボーグを守れぬまま。 そう思った瞬間、パーマがかかった黒い髪にガッシリとした肉体の青年の姿が脳裏を過る。 チンクという少女の話では、彼は村雨良という名前で、風見さんと同じく『仮面ライダー』というものに変身するらしい。 風見さんはバトルロワイアルを破壊しようとしていて、村雨さんは彼の仲間。 おそらくは、同じ志を持っていたのだろう。 だがその村雨さんは、死んでいた。おそらくは戦闘で。 しかし、その満足そうな表情ははっきりと覚えている。 これは推測にすぎないが、全力で壊し合いに乗ったサイボーグと戦って死んでいったのだろう。 そうでなければ、あんな表情は出来ない。 ――俺は、どうなんだ。 普段より体力の消耗が激しいからと、ハカイダーの力量を見極めようとしていなかったか? ハカイダーは壊し合いに乗っているというのに。 民間の方々がいないから、存分に時間を費やしても問題ない。 そんなことを考えてはいなかったか? ――なんて……なんて馬鹿なんだ、俺はッ!! 既に十人ものサイボーグが、倒れていったというのに。 村雨さんは、闘って死んでいったというのに。 風見さんは、回復ポッドに入って体を治癒せねばならないほどのダメージを受けていたというのに。 風見さんの仲間の仮面ライダーも、闘っているだろうに。 チンクという少女が、妹を探しに単身飛び出したというのに。 チンクの妹のセインが、最初に殺されたのを見ていたのに。 そもそも、最初にバトルロワイアルを破壊すると誓ったのに。 村雨さんの墓の前で、全員守ると誓ったのに。 ――――何故、最初から全力を出さなかったんだッ!! そうだ。力を温存してどうする。 ハカイダーと戦っている間にも、力無きサイボーグが倒れているかもしれないのに! 体力の消耗が激しい? それがどうした!! 一年前に確信したはずだろう! 俺のこの体は、世界中の人々を守るために神様がくれたものだと! そうだ。消耗したから何だというんだ。 この身がどうなろうとも悪を倒し、人々を守ると決めたはずだ!! 「ウィル・ナイフ!!」 村雨さんから貰い受けたナイフを取り出し、ハカイダーの足が来るである場所に刃を向ける。 するとハカイダーはこのナイフの鋭さを理解したのか、蹴りを中断して距離を取った。 ここからは、限界まで力を搾り出し……全力全開だ! ■ ハカイダーはこれまでにないほどに、回路(こころ)を揺らしていた。 凱の取り出した電磁ナイフ。それにハカイダーは見覚えがあったからだ。 その電磁ナイフは、ハカイダーが自身の殺害した村雨良の墓に供えたもの。 何故、凱がそれを持っているのか。 ハカイダーは、その疑問を吐き出す。 「そのナイフは、俺が殺した仮面ライダーZXという男に供えたものだ。それを何故お前が持っている」 その言葉に凱は呆けるも、それも寸刻のこと。 すぐさま、決意の篭った瞳を向けて一言。 「仮面ライダー……村雨さんは、俺の同志! このナイフは、死んだ村雨さんから譲り受けたものだ!」 その言葉にハカイダーの回路は、さらに揺れ動く。 そんなことをまるで意に介さず、凱が言葉を続ける。 「これまで俺は体力を温存するとか、下らないことを考えていた。 だが、それも今で終わりだ! 全力でお前を倒させてもらうぜ、ハカイダー!」 言い終えると、凱が両手でイークイップにより一部纏まった側頭部のエネルギーアキュメーター――髪状電池――を握り締める。 「ハイパァーーー! モォォオオオオォーーーードッッ!!」 集束したエネルギーアキュメーターを一気に後ろに引くと、凱の身体から真っ赤な光が放出される。 その様子を見て、ハカイダーの脳裏を過るのは、仮面ライダーZXが最後に見せた力――シンクロ。 そしてハカイダーは、凱をZXと同種の改造人間なのだろうかと考える。 しかし、凱の身体の異変は終わらない。 凱が、上空に向かって声を張り上げる。その姿は、百獣の王であるライオンの雄叫びに酷似していた。 二秒ほど声を張り上げ続けたとき、凱の身体より放たれていた赤い光に、異変が訪れた。 光の色が変わったのだ。 凱が上半身に纏うアーマーと同じ金色へと。 全身から眩いほどの金色の光を放ちながら、上空への雄叫びを終えた凱がハカイダーに視線を投げる。 「それがお前の全力か、凱」 「そうだ。完全にハイパーモードに変化するまで待ってくれてたのは、感謝しよう。 だが、この力を出せるのは三分間だけだからな。一気に決めさせてもらうぞ……ッ!」 口を開くと同時に、凱は地面を蹴って移動を開始。同時進行的に、電磁ナイフを再び左腕のウィル・ナイフを収納する場所へ戻す。 凱は一瞬の内に落としたグランドリオンを回収、両の手で力強く握り締める。 初めてグランドリオンを手にした時と同じ高揚感を胸――に埋め込まれたGストーン――に感じながら、凱はその切っ先をハカイダーに向ける。 グランドリオンの刀身がすっかり昇りきった太陽の光を照り返し、ハカイダーの漆黒のボディを照らす。 緊迫した空気の流れる、現在のハカイダーと凱の区間、僅か十五メートル。 「三分か……それだけあれば、決着をつけるのには十分だな!!」 ハカイダーがそう言い放ち、腰を低く落として両の手を正拳突の構えを取る。 ハイパーモードとなった凱のスピードを目の当たりにし、迫る凱に確実にカウンターの一撃を叩き込もうと目論んでいるのだ。 それを確認した凱も腰を低く落とし、軸となる方の足に力を込める。 一瞬、しかし永遠に感じられる時の流れ。 確かにその時だけは、静寂が周囲を支配した。 ――風が、吹いた。 それをゴングとし、片方が一気に距離を詰めるべく地を蹴る。 もう片方は、それを迎え撃とうと拳に力を込める。 一気に静寂は、彼方へと吹き飛んだ。 「はあッ!」 轟という音を立てながら、距離を詰めた方――凱が、グランドリオンを振り下ろす。 それに対し、グランドリオンの横腹に右の拳で裏剣を叩き込むことで軌道をずらす、迎え撃たんとしていた方――ハカイダー。 軌道のずらされたグランドリオンは、ハカイダーのいる少し横の大気を切り裂くに終わる。 その隙を逃すまいと、ハカイダーは右足での中段蹴りを放つ。 しかし凱は咄嗟の判断で、両手で掴んでいたグランドリオンを右手だけに任せ、左の腕でハカイダーの蹴りを受ける。 (やるな……!) 渾身の力を込めた蹴りを止められたはずのハカイダーが、何故か微笑む。 微笑むといっても、ハカイダーに表情などない。それは単なる回路(こころ)の揺れにすぎない。 とはいえ、単なる回路の刺激といえど、ハカイダーはそれによってとてつもない高揚感に満たされる。 それまでハカイダーの回路を揺れ動かす存在は、キカイダーのみであった。 しかし、バトルロワイアルが始まってからは違う。 仮面ライダーZX、ゼロ、そして凱。既に三人目だ。 未知との遭遇に、ハカイダーの回路は衝撃を受け続けていたのだ。 それも、凱は最初に出会った仮面ライダーZXの同志という。 その話を聞いてから、ハカイダーの回路はより激しく揺れ動いた。 だが、微笑んでいる暇などない。 そんなことは、ハカイダーも理解している。ただ、感情を制御出来ないのだ。 ハカイダーの回路の揺れを凱は知らず、ハカイダー自身も素知らぬ顔をして、戦闘は続く。 ハカイダーが右足に力を込める。 それを受け止めている凱の左腕が、少しずつ押されていく。 凱自身もそれに気付きながら――――口元を吊り上げた。 瞬間、ハカイダーの聴覚器官制御装置が、何かが風を斬りながら迫って来る音を捉えた。 反射的に、ハカイダーは凱の左腕を攻めていた右足を戻し、左足で地面を蹴る。 右足を戻しながらの跳躍だったため、半ば横っ飛びに失敗したかのようにアスファルトの上を転がるハカイダー。 その直後、雷を描かれたハカイダーのマスクが一瞬前まであった場所を、グランドリオンの白刃がすり抜けた。 凱は左手でハカイダーの蹴りから身を守りつつ、右手で先ほど振り落としたグランドリオンを振り上げたのだ。 ハカイダーが己の聴覚器官に感謝しながら、本気を出すと公言した凱の腕前にひゅうと感服の息を吐く。 それと同時だった。 ハカイダーの聴覚器官制御装置が、凱の声を捉えたのは。 「フェイントだぜ!!」 問題は、その方向――ハカイダーの背後。 ハカイダーが首を捻ろうとする――遅い。 背後にいる凱をハカイダーの人口眼球が捉えるよりも速く、凱がハカイダーを抱えると思いっきり上空へと投げ飛ばした。 上空に投げ出されたハカイダー、必死に体勢を立て直そうとする――これまた遅い。 ハカイダーを追うように飛び上がった凱が、不安定な体勢のハカイダーにグランドリオンを振り下ろす。 グランドリオンの刃がハカイダーの装甲に斬撃を刻み付け、削り落とされた黒い破片がパラリと宙を舞う。 「ガあ……ッ」 苦悶の声をあげるハカイダー。 その間も、凱は攻撃の手を緩めない。 エリアの端を示す壁を蹴って、再びハカイダーに迫り来る凱。袈裟懸けにグランドリオンを振るうも、ハカイダーが腰を捻ったため、装甲を数ミリ削ぐに終わる。 電柱を掴むと、逆上がりの要領で身を翻して方向転換。グランドリオンでハカイダーを斬りつける。ハカイダーの胸部に、真一文字の傷痕が刻まれる。 またしてもエリアの端の壁を蹴って、凱はハカイダーに肉薄。突きを極めようとするも、ハカイダーの脳を保護するフードを掠るに終わる。 しかし、それでは終わらず。 凱はハカイダーを上に蹴り飛ばすことで、その反動で自らは地面に戻り、呼気を整える。 そして、またしてもハカイダーが体勢を立て直さぬうちに、改めて跳躍。ハカイダーが普段ナイフを収納している箇所を裁断した。 標識を蹴っ飛ばし、その勢いでまとしても凱はハカイダーに急迫。 ハカイダーもやられてばかりではない。反撃の踵落としを迫る凱に放つ。 凱の上昇してくる速度も合わさり、かなりの威力であろうハカイダーの踵落とし。しかし、それは横腹に受け止められる。 これまでとは違い、グランドリオンはハカイダーが力を込めてもピクリとも動かない。 数秒が経過しハカイダーが体勢を崩したところを狙い、空中でグランドリオンの横腹で右のわき腹を打ち据える。 ――ケタ外れ。 そう言っても言いすぎではないほどに、ハカイダーを寄せ付けない凱。 それもそのはずだ。 現在凱が開放しているのは、ハイパーモードという状態だ。 ハイパーモードとは、イークイップ後の戦闘形態よりもさらに十五パーセントのパワーアップを果たす状態のことだ。 機界四天王最速の男ピッツァをも、スピードという切り口で凌駕し翻弄することさえも可能となる、凱の最強形態なのだ。 しかし本来の戦闘形態をも上回る身体能力を手にし、目視できるほどの金色の余剰エネルギーを放ち続けるハイパーモードは、当然ながら凱の身体への負担も大きい。 それを考慮して凱の内部に設置されたリミッターにより、三分が経過すればハイパーモードは強制終了する。 既にハイパーモード開放から、一分半が経過している。 そのため凱は、一気に片を付けるべく、不退転の決意を固める――! 「はああああああッ!」 再び電柱の方へと辿りつくと、それを掴んで逆上がりの要領で、方向転換。ハカイダーに迫り、凱は三度ハカイダーの背中に肘鉄を叩き込む。 そして、そのまま悶えるハカイダーを踏み台にすると、さらに跳躍。 ハカイダーを一気に両断するべく、凱はグランドリオンを上にかざす。 これまでの攻防で、ハカイダーが空中でされるがままに攻撃を受けていることから、凱はハカイダーに飛行能力はないものと判断した。 つまり、どんなに大きいモーションの攻撃であろうと、確実に命中する。 そう考えた凱は攻撃力を重視し、背を思いっきり反らせてから、一気にグランドリオンを振り下ろした。 しかし、凱が繰り出した必殺の一撃は、ハカイダーを掠ることすらなかった。 「なに――――くッ!?」 「捕まえたぞ……!」 原因――ミドルポーションを飲んだ際、ほんの少しだけ繋がったエアークラフト制御回路を使用したのだ。 ハカイダーが飛行可能だと思ってもおらず、意表をつかれた凱が驚嘆の声をあげる。 その途端、凱は自らの背後から――上空から――ハカイダーの低い声を聞き取った。 それは――――ハカイダーの勝利宣言。 半壊していたエアークラフトを無理矢理に使用したため、ハカイダーの左太腿のエアークラフト制御回路が火花を散らした後、軽快な音を立てて爆ぜた。 再びエアークラフトは使用不可となったのだろう。 一度使ってしまえば、オシャカになってしまうことは、ハカイダーには分かっていた。 だから、凱が決め技を放つまで待ち続けたのだ。 だから、あえて攻撃を受け続けたのだ。 ハカイダーが両の足を広げ、そこに凱の頭部を挟み込む。 今からハカイダー放とうとしているのは、本来ならばエアークラフトを行使して上昇してから放つ技。しかし制御装置が爆破したので、それは不可能だ。 しかし、既に十分上昇している。凱が上昇させてくれている。 『凱自身』が上昇させたおかげで、ハカイダーは決め手となる一撃を『凱に』放つことが出来るのだ。 凱は力を込めてハカイダーの足を振り払おうとするも、それは叶わない。 必然だろう。幾度となく放ってきたハカイダーの必滅の奥の手を、力で圧倒するからといって払いのけることなど出来るものか。 「ギロチン落とし!!!」 確実に命を奪うことの出来るであろう技の名を叫びながら、ハカイダーは空中で宙返り。 そこで両足による拘束を解除し、凱を地面に投げ飛ばす。 落下の勢いと回転の勢いの相乗効果。 ミサイルがごとく加速しながら、凱は地面に叩きつけられた。 轟音が鳴り響く。 アスファルトを砕くだけに終わらず、さらに奥まで突っ込んで行ったのだろう、もうもうと砂煙が立ち込める。