【名前】 イリュージョンNo.17
【出典】 ウィザーズ・ブレイン
【性別】 男
【年齢】 17(実年齢3歳)
【名ゼリフ】
【人物】
モスクワ軍所属の魔法士。モスクワ訛りの英語を話すが、文中では何故か関西弁として表記されている。
一切の攻撃能力を持たない異色の魔法士であるが、その代わり人間としての強さを徹底的に極めており、武術の腕は十数倍まで加速された騎士を真っ向から瞬殺するレベル。
かつてはその生い立ち故に全ての人類を憎悪していたが、とある体験から考えを改め自分の身を犠牲にしてでもシティの住人を守ろうと誓っている。
基本的には熱血漢かつ人情家であり気さくな性格をしているが、多数のために少数を犠牲にする非情さを兼ね備えている。
魔法士能力は存在確率の改変による透過、及び座標期待値の変換による短距離転移。ありとあらゆる攻撃をすり抜け、理論上彼を傷つける手段は存在しない。
しかしとある特殊な戦い方のため、彼の体には大小あらゆる傷が残っている。
【本ロワの動向】
参戦時期は少なくとも5巻終了以降と思われる。
ロワ開始直後に葉隠散、及びその毒牙にかかろうとしていた渋谷凛と、それを庇おうとしていたカイくんの三人に遭遇する。
星義のために人類抹殺を謳う現人鬼、葉隠散。かつては彼(彼女)と同じく人類への憎悪を滾らせていたイルであったが、しかし今は違っていた。
イルの武技を褒め称え、仲間へと誘う散に対し、イルは真っ向から拒絶の言葉を浴びせる。
散「僅か三年の人生でそこまでの業を練り上げた意気やよし!故に問おう、この散と共に来ぬか?」
イル「お前みたいな外道に下げる頭なんぞ持っとらんわボケェッ!」
そしてここに純粋な武術を極めた者同士の熾烈な戦いが繰り広げられる。
零式防衛術を駆使する散に純粋な徒手空拳による格闘で追い縋るも、あくまで人類の極限に行き着いたイルでは更にその上を行く散に決定打を与えることはできなかった。
しかし善戦の末に活路を見出すと、凛とカイくんの二人(一人と一匹)を抱えて転移により離脱することに成功する。
その後は一人で無謀な戦いを挑んだことを二人に叱られつつも感謝されたり、三人で和気藹々とした時間を過ごすも凛の同僚である本田未央が殺し合いに乗ったという情報が入ってしまう。
そのことに絶望した凛が感情のあまりに駆け出し、それを追おうとするもイルとカイくんの前にマーダーが出現、この始末に時間を取られてしまう。
なんとかマーダーを振り切り凛の元へと駆けつけるも、そこにあったのは絞殺された凛の死体と下手人と思しき汚物であった。
慌てて弁解を始める顔面ステロイドであったが聞く耳持たず、イルは人間の屑を辛うじて生きているだけの状態まで痛めつける。
そして支給されていた有機コードによってゴミクズ不細工ステハゲレイパーの記憶等を洗いざらい吐かせようとするも、そこに突然ベノスネーカーを引き連れた浅倉が来襲する。
一瞬のうちにウンコの擬人化が飲み込まれるのと同時に戦闘開始、否応なくイルは浅倉に対峙することとなった。
しかし仮面ライダーである浅倉とそのミラー
モンスターであるベノスネーカーの二者を同時に相手取るのは、カイくんという足手まといを背負った状況では至難の業だった。
結局はベノクラッシュの余波によりカイくんが吹き飛ばされ、なんとかベノスネーカーを撃退するも浅倉とは痛み分けに終わってしまった。
一気に二人も仲間を失ってしまったイルだったが、このまま呆けているわけにはいかないと凛の死体を抱き上げ、近くの丘へと登っていった。
そこで出会ったのは葉隠覚悟とジョルノ・ジョバァーナの二人組。死体を背負って何をしていると問う二人に、イルは「曲りなりにもアイドルだったのだから、せめて綺麗な場所に葬ってやりたいだけだ」と答えた。
その後は二人にも墓作りを手伝ってもらい、少しした後に二人へ同行することが決まる。覚悟組誕生の瞬間であった。
散が覚悟の実の兄であるということを聞いて驚愕したり、散と互角に渡り合ったことを伝えて覚悟に驚かれたりしながらも三人が歩いていると、そこにはまさしく散の手によって人ではいられなくなってしまった伊藤野枝の姿があった。
致命傷を負いながらも彼女を止めようと必死に足掻いていた家康の口から、この惨状が散によるものだと聞くと、覚悟とイルは「これは散を始末し損ねた自分達が片付けなければならない」として野枝の前に立ちはだかるのだった。
野枝の異能は解法の透の一点特化。存在の密度を零にする幻影の能力故に、暴走した彼女を止めることができるのは唯一イルだけであった。
覚悟のサポートにより位置を割り出し、イルの能力によって虚空から叩き出すも、そこに野枝の恋人である大杉栄光とその仲間たちが出くわしてしまう。
野枝の胸に突き刺さる手刀、響き渡る悲鳴。結局一人の勝者も出さないまま、この戦いの幕は降りた。
曲りなりにも人を殺した故に、イルと覚悟はどんな罵倒や報復であっても受け入れるつもりだった。
しかし野枝の遺体を抱いた栄光は一切の糾弾をせず、それは二人に代わって弁明しようとしていたジョルノでさえ困惑するものだった。
ともあれメンバーの代表をしていた覇吐に曰く、近隣に集っている非戦闘員集団を襲撃しようとしているマーダーが複数存在するから協力してほしいとのこと。
三人はその要請に快諾すると、グレミィ討伐へと向かったスケベトリオと別れ襲撃ポイントへと赴く。
そこで待ち構えていたのは八虐無道の逆十字―――
柊聖十郎であった。
人を人とも思わぬ悪鬼外道。それに義憤を抱かぬ者などこの場にはいなかった故に、聖十郎の逆サ磔に抗うすべもまた存在しなかった。
輝きを簒奪され、死病により意識を保つことすら危うい中、しかし彼らは決して戦うことを止めはしなかった。
愚直とも言うべき近接特攻、ジョルノのスタンド能力で無理やり体を繋ぎ合わせて食いかかるも、しかし聖十郎には一切の痛打を浴びせることができない。
何を狙っている、何を待っている。訝しむ聖十郎を前に泥臭い消耗戦を続ける三人だったが、そこに司狼が乱入したことで一気に戦況は覆る。
司狼の創造『悪性腫瘍・自滅因子』は異能の否定。あらゆる異能を自壊させる業病を叩き込む神殺しの技。
広域に展開されたそれは当然聖十郎の逆サ磔をも自壊させ、そのフィードバックにより聖十郎の肉体は崩壊を始める。
しかし創造はあくまで創造、地力で拮抗すれば抗うことは可能故に、聖十郎は渾身の力で以って一時的に自滅因子を弾き飛ばし遁走を開始する。
そこに立ちはだかったのはイルだった。聖十郎からしてみればにわか仕込みの透しか使えない塵という認識しか持ち合わせていなかったがために、戟法の剛で強化した腕でイルの胸を貫くが―――
イル「……やっと、この距離まで来たな」
穏やかな声が、耳元に届いた。
イルの体を貫通しているはずの右手には、なんの感触もなかった。
少年には、人を救う力がなかった。
量子力学的制御、幻影、絶対防御。そう揶揄される少年の力は、しかし戦場において何の役にも立たなかった。
そも、これは自分ひとりだけを守ることに特化した能力。効率よく敵を倒せるわけでもなく、味方を守ることさえできない。しかも少年の移動能力が短距離の転移に限定される以上、敵側には必然的に「無視」するという選択が成立する。
放っておいても害はなく、高速で移動すれば簡単に振り切れる以上、少年に対する最も有効な戦術は「相手にしない」こと。
誰よりも「無敵」であるはずの少年は、戦場において誰よりも「無力」であった。災厄はいつも少年の体をすり抜け、少年の大切な物の上に降り注いだ。
―――けれど、それでも少年は何かを守りたかった。
ある時、ふと少年は一つの考えを閃いた。
何をやっても攻撃が当たらなければ、敵の目標は自分以外に向く。だが、仮に自分が一度でも傷を負い血を流せば、敵の注意は自分に向く。
攻撃が当たらない相手と、攻撃が当たっているのに死なない相手は違う。
―――必要なのはただ一つ。恐れぬ心、鋼の意志。
死ぬことは怖くなかった。自分の命に価値などないと諦めていたその日、そんなことはないと頬を撫でてくれた彼女のためならば、どんな傷だって耐えてみせる。
誰にも理解されず、愚かと言われても構わない。
彼女の言葉の一つ一つは、確かにこの胸にある。
だから、彼は―――
聖十郎「避けられないのではなく、防げないのでもなく……わざと俺の攻撃を食らってみせたと……言うのか」
切れ切れに言葉を搾り出す。
イルに掴まれた手を解くことすらできず、聖十郎はただ、虚を突かれたような呆然とした表情を浮かべていた。
イルの能力は単なる透過に留まらない。存在確率の改変により完全にこの世から消失する以上、同じ解法でキャンセルすることすら叶わない。
つまり、本来なら彼は聖十郎の攻撃など全てすり抜けることができていたはずなのに。
聖十郎「自分の能力を隠すために……戦えば勝てると俺に思い込ませるために……ただそれだけのために傷を負い血を流したと、そういうのか貴様は……」
イル「まー、そういうこっちゃな」
驚愕は徐々に染み込む水のように聖十郎を襲った。言うまでもなく聖十郎の攻撃は逆サ磔を含めその全てが致命の一撃。到底耐えられるものではない。
敵の攻撃をわざと喰らい、能力を誤認させる。それは言葉で言うほど簡単なものでは断じてないのは誰もが理解できるはずだ。
ただ、自分に傷を負わせるためだけに。
ただ、「攻撃は当たる」と敵に信じ込ませるためだけに。
攻撃を回避するよりも遥かにリスクの高い行動を、イルは取り続けていたのだ。
聖十郎「気でも違ったか、貴様……!」
イル「失礼なヤツやな。現にお前はこうやって、俺と無駄な時間を過ごしてくれたやないか」
柊聖十郎をここで逃がすわけにはいかなかった。
聖十郎の目指していた先には、大量の非戦闘員が匿われていた施設が存在した。それを差し引いても、この下劣畜生を逃せば甚大な被害が出ることは想像に難くない。
故にイルの取った選択は、必勝の時が訪れるまで聖十郎をこの場に留めておくというもの。
そして再び、司狼の自滅因子が展開される。
瞬間、聖十郎を支えていた治癒や強化の邯鄲法は全て解除され、ただの哀れな重病人へと成り下がった。そして同時にイルの透過も同じように解除され、重なっていた聖十郎の腕はイルの胸に突き刺さったまま完全に同化していた。
これでよかったのだと思う。
イルは命を功利的にしか見れない。100を救うためならば、1の命を切り捨てることを躊躇わない。誰かが殺さなくてはいけないのならば自分が殺す。ならば少なくとも、自分以外の誰かが人殺しにならなくて済むのだから。
そして自分がその切り捨てるべき1になったとしても決して文句は言わないと決めていた。
伊藤野枝を殺したことへの、これが報いや償いだとは思わない。けれど、自分の命が誰かを奪うだけではなく誰かを救うことができたのならば、それはとても誇らしいことだから。
かつて自分を助けてくれたあの少女の背中に、ようやく追いつけたような気がして。
イル「……ああ、やっと―――」
そう呟くイルの表情は、数多の致命傷を負った半死人には似つかない穏やかなもので。
聖十郎を打ち砕く覚悟の雄姿を目に焼き付けながら、その激動の人生に終わりを告げたのだった。
最終更新:2014年11月29日 16:08