【名前】日番谷冬獅郎
【元ロワ】
銀髪・白髪ロワ
【物語】絆の物語
【セリフ】
「世界が違おうが、手に取る刀が違おうが……『魂』は、繋がってる。だから、離れたやつにも俺たちは、『魂』を託していくことができるんだ」
「――卍解」
【本ロワでの動向】
白銀ロワにて、主催戦の傍ら、長きに渡る因縁を連ねた錆白兵と相向かって斬り結び、会場の崩壊の向こうに呑まれた後からの参戦。
何の因果か、支給品の一つとして元ロワでは手に取ることのなかった自らの斬魄刀たる氷輪丸@BLEACHが配されており、暫し黙して見つめたあと、背に収めて歩き出した。
なお、かつて氷輪丸に代わって用いた絶刀・鉋@刀語は、宿命の相手である白兵の不在を示すかのように、このロワイアルには姿を現さないままであった。
(日番谷自身も、「あの刀を俺が手に取って向かう相手は一人だけだ」と述べており、蒼天の下の果たし合いの決着にも、最後まで言及せずに通している)
奇しくも手にした氷輪丸であったが、白銀ロワでの経験もあり、出力と消費の大きさを理由に、得物としては用いなかった。同行することとなった渋谷凛に「今の俺には必要ないもの」と告げて護身代わりに渡し、自身は業物の対人形刀である雷迅・虚空@からくりサーカスの二振りのうち、雷迅を主武器とした。
また、氷輪丸こそ使わなかったものの、ブリザドの本@ファイナルファンタジーシリーズを支給されていたため、冷気魔法のブリザドを習得。死神としての氷雪技の経験を生かし、剣技の補助として用いている。
凛とは、比較的序盤に出くわし、ロワの道行きを共にすることとなった。
「ふーん…アンタが"死神"…?」
疑わしげなファーストコンタクトに始まり、初めのうちは「○○なの?」「ああ」「ふーん、じゃあ△△か」「そうだ」「…へえ」などといった素っ気ないやり取りが多く、読み手からは無愛想コンビなどと称されていた。
やがて打ち解けてきたものの、今度は見た目や背丈のせいか、シロくんと呼称し弟に対するような年下扱いをしてくる凛に悩まされる。冷静な剣士として立ち回りながらも、たまに出る意地っ張りな部分なども見透かされて指摘され、部下である松本蘭菊を思い出しつつ、「あいつみたく不真面目とサボり癖が服着て歩いてるのよりはよっぽどいいが…なんだこの扱いは」とぼやいている。
道中では、気まぐれに小さな氷の彫像を作ってみせ「職場の雑誌でやらされた余技」と言った日番谷に、「死神の世界にも雑誌があるんだね」と凛が感心するなどの一幕もあった。
一方で、戦いの中では凛を教え導く立場に回る。
アイドルとは言え元々身体能力的には一般人のはずの凛だったが、
音楽ロワを経て、蒼穹の異世界「グランブルーファンタジー」への客演の記憶から、剣と冷気の使い手としての秘めた資質を開花させており、はからずもその道の先達として、彼女にレクチャーを行うことにもなった。
日番谷のやり方は、戦いながらということもありシビアだったが、「生き抜く」ためのレッスンと解した凛は苦心しつつも必死に応え、にわか仕込みながら、踊りを組み入れた我流を使いこなすに至る。
日番谷本人の戦闘面では、出身ロワの特色を象徴するかのような剣での戦いが非常に多く、凛と出会うよりも前、最序盤にて志々雄真実と遭遇。幕末の悪鬼の紅蓮腕・焔の剣に、隙の少ないブリザドを用いて熱気を捌き、対抗する。互いに退かぬ斬り合いののち、遠大な野望を抱く志々雄は、「死神」の日番谷との遭遇を「俺にとって吉と出るか凶と出るか」面白がりながらも撤退した。
凛との合流後には、磨耗し、死に場所を求める剣鬼と化した孔濤羅と交戦。
内家戴天流の免許皆伝者である濤羅の、戦車すら断ち割る豪刃を前に押されるが、力負け・技量負けした分を鬼道で補い、霊力消費の少ない「衝」や「這縄」で隙を作ったり、「斥」で防御力を高めるなどしながら戦う。その中で濤羅の剣に迷いのあることに気づき、最終的には対話で以て濤羅を退かせた。
また、後述のゴジラ戦の前には、好敵手を求めて会場を彷徨する異世界の幽鬼・さまようよろいとも刃を交えたが、声もなく剣を振るう鎧に対し、こちらは凛と協力して強行突破の形を取っている。
このように、白銀ロワで研磨したシンプルな剣技と各種鬼道、冷気魔法、瞬歩などの補助技を組み合わせて戦う堅実で対応力の高いスタイルを見せた。
白銀ロワ出身者としては、フェイスレスが会場にいることを知り、かつて共闘したジャン・ピエール・ポルナレフより伝え聞いていた自動人形・顔無し警戒を広めることに尽力する。
凛「ピエール…ポルナレフ。外国人?」
日番谷「ああ。凄腕の西洋剣士だ。……口も回る奴だったがな」
その道中で、遠目に怪獣王ゴジラのことも目撃し、
オールジャンルロワ出身の参加者から話を聞いて、「大虚(メノス・グランデ)」と似たものを感じるなどと考察していた(実際、ゴジラはシリーズによっては"怨念の集合体"というように表されることもあり間違いではない)。
さらに、弱音ハクとも行き遭い、情報交換をする。白銀ロワで言葉を交わした時と違い、
スティーブ・ロッケンフィールドの傀儡を連れたハクの眼に、日番谷は戦士の火を見た。
しかし、合流し歩き出そうとしたところで、己の情報を持つ参加者の撹乱に動いていたフェイスレスの自動人形軍団より襲撃を受け、分断されてしまう。
凛とともに人形どもを払い、何とか切り抜けてハクの後を追ったが、追い付いた時にはすでに遅く、ハクは命を落とし、誰かの手によって埋葬されていた。少なからぬショックを受ける凛に対し、日番谷は、埋葬者の心尽くしか、白梅香のかすかに薫る土饅頭へ小さく魂葬の所作をしたのち、刀に手をかけて歩き出す。
歩きながら、凛がぽつりと呟く。知り合いだったんでしょ、悲しくないの。日番谷は振り返らず、死んだ奴にしてやれることは少ない、先へ進むことだと返す。
その背へ向けて、シロくんは強い、私は弱い、私にはそんなに割り切れない。やっぱり違うんだね、と呟く凛に、
「――俺は死神だ。お前たちとは、別の理に生きている」
日番谷は、改めて確かめるように告げる。
「その溝を埋めるなんてのは、言うのは楽だが、そうそうできるもんじゃねえ」
そうだよね、と寂しげに言う凛。
私たち、お互いに別の世界から来たんだから。私は歌を歌うし、シロくんは剣で戦う。そうだ、と日番谷は肯定する。俺と違い、お前が取るべき刀は「歌」で、上がるべき戦いの場は舞台だ。
「けどな、渋谷」
「え?」
「一つだけ、俺にも……いや、死神の俺だからこそ、わかることがある」
ハクの墓を顧みながら、言う。
「世界が違おうが、手に取る刀が違おうが……『魂』は、繋がってる。だから、離れたやつにも俺たちは、『魂』を託していくことができるんだ」
少し黙った後、よくわからないよと小さく返した凛に、日番谷は、いつかお前にもわかる、と言う。――それは、日番谷自身が、数多の者と戦い、関わってゆく中で気づいたことでもあった。
その後も、凛と日番谷は、協力しながらマーダーの襲撃を切り抜けて行った。
そして、ロワイアルも中盤に差し掛かった頃。
二人は、怪獣王ゴジラと、G細胞を取り込んだ蝗の化した「イナゴジラ」による凄まじい激闘、さらには、戦いを終えたゴジラによる"メルトダウン"の始まりを、離れた場所から目の当たりにする。
唖然とする凛の傍らで、日番谷は、広範囲の大気・霊圧の異常からメルトダウンの兆しにいち早く気づき、それが引き起こすであろう壊滅的規模の災害を瞬時に見通した。
煙に覆われながら燃え盛るビル群、その中心で咆哮しながら、少しずつ赤熱していく怪獣王。
――あんなものでは済まない。留まらぬ憤怒は周りにいる者たちごと広範囲を地獄の業火に巻き込み、この会場に癒えぬ大穴を空けるだろう。
決断は早かった。
「俺が奴を抑える。渋谷、後を頼む」
「え……!?」
冗談だよね、あんなの、一人の手で何とかできるようなものじゃない…と困惑する凛を制し、預けていた氷輪丸を受け取ると、
「俺と、こいつなら――」
そして、まっすぐに凛を見つめて告げる。苦しくても前を向いて戦い抜け。またお前自身の刀を取るために。
お前になら、それができる。
凛はその目から、その言葉から、日番谷が何をしようとしているのかを感じ取った。そして、止めようとした。日番谷にも、待っている人がいる筈だと。それに。
「まだ……まだ私、教えてもらってばっかりじゃない」
「今度は、ステージの上の私の歌を聴かせたいんだ。プロデューサーや皆にだって会わせたい。だから……」
引き留めるため、必死に伸ばされたその手を、日番谷は、揺らぐ大気を頬に受けながら、振り切る。
そうして、飛び上がる刹那、振り返って、少し微笑んだ。
「ありがとな、渋谷」
――待っている人、という言葉に、胸をよぎった顔がないではない。
胸中で小さく詫びを告げ、それでも、今、足を止める理由にはならなかった。
風を切り、低く飛びながら、行く手で灼熱を噴き上げる街と、その中心に立つものに、己が目を見据える。
死を賭して戦い抜いた紅蓮の怪獣王。その姿は、どこか荘厳ですらあった。
ゆえに。
「相応の全霊で、応じねえとな」
手にした刀を抜き放ち――日番谷は、その名を、己が力の真名を、口にする。
「――――卍解」
「"大紅蓮氷輪丸"!!」
メルトダウンに歪む大気が、白く切り裂かれた。
周囲の気温が急速に下がってゆき、掲げた腕より巨大な氷の翼が広がり、その身に寄り添うように「龍」の形が形成されて、蒼い花弁が背に開き――紅蓮の怪獣王に相向かうごとく、卍解・大紅蓮氷輪丸が顕現する。
日番谷冬獅郎と氷輪丸が、再び一つとなった。
同時に日番谷は、中心地へ肉薄していきながら、縛道で以て、メルトダウンのエリアの四方を区切り、四方への侵食を留める光の結界で遮断・縛り付ける。
長くはもたない。光の内側、ゴジラの放つ放射能と瘴気、空間をすら歪ませるメルトダウンの熱が、死神の日番谷の体をすら容赦なく蝕んでいく。
それでも、結界が崩れぬように霊力を放出しながら、剣技と冷気の合わせ技で危険地点を次々と凍結し、倒壊する建物を斬り崩して爆発と飛散を抑える。凍てつく霊圧を、波状に展開させてゆく。
メルトダウンの灼熱の赤と、氷輪丸の白。
二つがせめぎあい、ぶつかりあい、ついにその狭間で、閧の声が如く、ゴジラの最期の咆哮が放たれた。
極大の熱が押し寄せて来る。全てを呑み込む破壊の息吹が。
ただ一人、その前の空に立ち、砕けかけた氷の花を背負った日番谷もまた、最期の一刀に全ての力を込める。
「――付き合わせてもらうぜ『怪獣王』。死神なりにな」
轟音と光が、錘状の結界を、包み込んだ。
それが頂点に達した後、嘘のように音が消え、光が薄れ―――。
消えた結界の中には、静寂そのもののごとくに霜が下りていた。
白い世界、誰もいない建物群の真ん中に、憤怒の赤を失って立ったまま果てたゴジラが物言わぬ塔となり、そして、それを送るような、鎮魂の蒼い雪だけが降り注ぐ。
――自らの命も、体も、その全てを霊力に変換した日番谷は、何一つ残らなかった。
ただ一人、凛だけが、頬を伝い落ちるものを拭いもしようとしないまま、静寂を取り戻した遠景を眺めていた。……
白銀ロワでは、ネタ扱いと負け続きから少しずつ成長していくキャラとして語られた日番谷だが、今ロワにおいてはむしろその経験と成長を元に、「導く側」として、一人の誇り高き熟練の剣士として描かれた。
凛を初めとする他の参加者を守るために中盤にてその命を散らしたが、日番谷の遺した言葉と思いは、凛の中に確かに受け継がれ、最終盤において、迷った彼女を救うこととなる。
「絆の物語」の名を、彼のもとへ捧げるには充分な理由だろう。
最終更新:2024年03月04日 23:22