ロックスたち七人が見せられた夢はマキシムが見せた幻とは比べ物にならないほどリアルで、そして心の急所を狙うような素晴らしき世界が広がっていた。
ロックス、真道、九曜、ミエルには紛争や殺し合いの悲劇が起きず、この殺し合いで命を落とした香織に雅やアイリスフィアに学園長たちだけでなく、紛争で死んだラップスや事故で死んだリエルもいた。
立華には真由との貧乏だが幸せな探偵生活があり、未色は水本や司空が見守る中でカリンとのコラボライブが行われ、ヒューマンスレイヤーは人間に襲われなかったIFのエルフの里で恋人の
痴漢さんと蜜月の日々を送っていた。
何気なく思っていてのに、失われた瞬間に輝いていることに気づいた日常や親友。
それらが戻ってしまうと人は安寧に身を委ねてこう思ってしまう。
――悲劇は全部夢だったのだと。
それでも進化する肉体と精神を持つ真道は自力で脱出するが、仲間たちにこれが敵の罠だと知らせる前に夢の世界の真道は偽物と入れ替わり、伝わることはなかった。
ロックスは真道が何やら喧しいような気がしたが、弟のラップスに気のせいだと言われて無視した。
そのラップスは兄が見ていない瞬間に歪んだ笑顔をしていたことにロックスたちは気づかない……
真道が夢を打破して硬いスエボシの体内から腕を痛めつつ脱出すると、そこには生き残った敵ロボディたちと戦う夕露たちがいた。
脳髄を闇鴉系のロボディに移植させていたミルドレッドが高笑いを上げる。
ミルドレッドはずっと前から「Q」の進化のためにスエボシとマキシムの力を狙っており、最初から裏切りを企てていたのだという。
そして目論見通りに古の巫女の力を「Q」に取り込ませることができた。
マキシムは封印状態だが、時間をかければミルドレッドの頭脳で封印を破って「Q」に取り込ませることも可能だろう。
取り込ませたロックスたちをブレーメンズは助けようとするが、対主催最高の異能力を誇る真魔人の洸やレイですらスエボシ由来の異能無力化能力で弾かれてそれができない。
ならば力技で救助しようとするも、ミルドレッドが予備戦力として残しておいた大量のロボディ部隊が救助の邪魔をしてくる。
しかもロックスたち同様にミルドレッドの兵士たちが変異スエボシの体内で幸せな夢を見ながら土くれに戻ってしまったところを見る限り、夢に完全に心を奪われてしまうと体が土になって吸収されてしまうらしい。
立華たちが土になる前に早急を救い出さねばいけない……! 焦る真道。
だが変異スエボシとロボディ軍団を押さえ込めないほどの圧倒的な戦力差によって真道たちには打つ手がなかった。
ブレーメンズが変異スエボシに苦しめられていることを知ったディスメラとブッチャー。
このままではロックスたちがまずいと思ったディスメラだったが、そこでブッチャーがディスメラに「狂気はもうたくさんだ」「だから私の手で終わらせに行く」と言って、何か妙案でもある風に何者かに通信を飛ばす。
同時刻、ブッチャーの通信を受けたロボロンは夕露の命令を無視してある場所に向かう。
ロボロン「ボス、私はここでお別れデス。私はこの“人”たちの“魂”をレスキューします」
夕露「貴様何を言っている?! 命令違反だぞ、戻れ」
ロボロン「これは私の最初で最後の命令違反です。
ガンホー、皆さんの武運を祈っています。せめて私にも魂があることを祈ってください、アーメン」
ロボロンを追いかけようとする夕露だったが味方の指揮をしなければならず、この場を離れるわけにはいかない。
そこでレイは自分に任せて欲しいと言った。
夕露「あんた魔族なんでしょ!なんで私たちを助けるの?」
レイ「それは秘密です」
魔族は過去に人類を襲っていたこともあるのでやや信用できない部分もあったが、ヒューマンスレイヤーの異種族でも手を取り合うことができるという言葉を思い出し、他に割けられる戦力もなかったので夕露はレイを信じ、送り出すことにする……
446 |
鋼鉄の勇者 |
ロボロン、ブッチャー、ディスメラ・スイート、レイ=ラグナウッド |
レイがロボロンを追いかけた先に待っていたのはモリアーティ一派だったブッチャーとディスメラであった。
この時、仮に夕露がレイ以外の対主催を向かわせてしまっていたら、ブッチャーとディスメラを多くの対主催を殺めた敵とみなして、彼女らの話を聞く前に攻撃していた可能性があっただろう。
何はともあれ、一人と一機は戦う気はなく、対主催の状況を好転させるために協力したいと申し出た。
ブッチャーの計画はこうである。
人間をマテリアルにした有機デバイスロボディは全て「Q」によって操られている。
ブッチャーは劣化しているとはいえ「Q」の分身であり、ハッキングとクラウチングをかけて敵味方の認識を反転させ、オセロをひっくり返すように大量のロボディをこちらの戦力に加えることができるかもしれないと言った。
邪魔をしてきたロボディ部隊がまるごと味方になれば、ロックスたちの救助も不可能ではないだろう。
だが、ブッチャーのAI一つでは全てのロボディに接続するには出力が足りないのでどうしてもロボロンの高度なAIの力を繋ぐ必要があった。
ただし、二つのAIにかかる負荷は絶大なものであり、「Q」からの電子的・物理的問わぬ妨害も予想されるためにAIは確実に抹消されるだろう。
ブレーメンズの救済はAIたちの死と引き換えなのである。
ブッチャーとロボロンの死を看過できないディスメラは反対するが、ブッチャーは殺戮者として終わるより多くを救った勇者になりたいと言って反対を押しのけた。
その多くの中にはディスメラと彼女の子も入っており、約束を守るチャンスは今しかないと言いながら。
ロボロンもまた、己の消滅は恐れていなかった。
自分もまた、トロナのような勇者になりたいと。
ディスメラとレイに護衛されながら、二機のAIロボディは作戦のために互いを接続する。
ロボロンとブッチャーは自分たちが消える前に最後のやり取りを始める。
「次に出会う時はワタシ達、良いフレンドになれると思いマスヨ」
「次?回路の限界を超えて稼働させる私達に次などは存在しない」
「死んだ生き物は来世で別の生き物に生まれ変わるらしいデス、ワタシ達はどうデショウか?」
「AIは生き物ではないが……」
「……信じて、みませんか?」
「……悪くない」
戦いのために生まれた二機のロボディ。
その二機が誰かを守るために最後の戦いを始める。
447 |
勇者にラブソングを |
ロボロン、ブッチャー、ディスメラ・スイート、レイ=ラグナウッド、スエボシ(?) |
ロボロンとブッチャーが会場にある有機デバイスロボディへのハッキングを開始した。
それに気づいた「Q」がロボロンとブッチャーの電脳にハッキングして過負荷を仕掛け、更にはロボディ軍団を差し向けて物理的にも妨害を加える。
その中にはまだ生き残っていたリエルロボディもいたが、ディスメラ機とレイの奮戦によってロボロンたちへの攻撃を防ぐ。
AIに多大なダメージを受けながら強力な攻勢防壁を突破し、「Q」の有機デバイスロボディを操るプログラムに楔を打ち込み、作戦は成功する。
引き換えに二機のAIは「Q」によって回路をショートさせられて消滅することになるが、消えゆく自我の中で二人は天使を見た。
天使の顔はトロナによく似ていた。
対主催を襲っていた有機デバイス軍団は急停止し。そして再起動する。
その直後に触手がディスメラとレイを襲うが、敵だったロボディたちが二人を援護して触手を追い払った。
しかも二機が起こした奇跡はそれだけに留まらなかった。
「ここは……ミエルはどこ!?」
「ただいま、ディスメラさん。帰ってきたよ」
信じられないような出来事にディスメラとレイは驚く。
さらに二機の勇者が起こした奇跡はまだ続く。
447 |
幻想(ゆめ)に背を向けて |
回縞ロックス、御神薙立華、天城九曜、ミエル・リュシエール、時軸未色、ヒューマンスレイヤー |
ロボロンとブッチャーにハッキング攻撃を仕掛けられたことで、「Q」によって作られた夢世界にも変化が訪れた。
ヒューマンスレイヤーは目の前の痴漢さんの僅かな技量の違いで正気に戻り、急に襲いかかってきた偽痴漢さんを絶頂させて撃破する。
他のメンバーのところでも幻にバグが発生し、正体がバレるやいなやゾンビのように襲いかかってきた。
幸せな夢が一瞬にして悪夢へと変貌したが、その悪夢から彼らを守ってくれる存在が現れた。
ロックス、九曜、ミエルの前には本物の香織が。
立華には本物の真由が。
未色には本物の司空、水本、カリンが。
ヒューマンスレイヤーには本物の痴漢さんが現れ、それぞれが悪夢を払い、生前では語られなかった会話を交わす。
痴漢さんはヒューマンスレイヤーに告白する。
はるかを洗脳から解く件であったが、痴漢さんは絶頂はさせられても最後まで解けなかったのに対しヒューマンスレイヤーはそれができたのだという。
ヒューマンスレイヤーの痴漢技は師である痴漢さんを超えていたのだ。
永遠の別れになる前にその技で絶頂させて欲しいという痴漢さんの要望を叶えるためにヒューマンスレイヤーは痴漢さんに痴漢技を放ち、見事に絶頂させた。
愛し愛されるにはもはやセフレでは物足りない。生まれ変われたら互いに恋人になる約束とキスを交わして痴漢さんは消えていった。
マルチウェポンを振るう司空は想い人である未色を一瞬でも助けられたことに満足して消える。
ロボディに乗る水本はコクピットから手を振り、天国からも未色ちゃんを応援してるからと言って消えた。
サレオス本体が殺されたことで魂を食われなかったカリンは作詞中の未色の歌詞を褒め、これからもアイドルとしてキラキラ輝いてね、と微笑みながら消えていった。
真由と話を交わす直前に真道の声が聞こえた気がした。
「今のアンタの居場所はここじゃなくてあっちでしょ?」
「いきなさい、私なんかいなくても立華は立華でしょ?」
と、今まで自分に自信がなかった立華の背中を押していく真由。
「ただし私の墓に事務所前の中華料理屋の餃子10人前を毎日供える、分かった!?」
と思いきやこのセリフで台無しである。
最後まで締まらない人だなあと思いつつも、元気が出てきた立華は真道の声が聞こえてきた場所を目指す。
香織は言う。
誰だって幸せだった過去に戻りたいとする。
ロックスは実際にそうであったし、ミエルがリエルを名乗っていたのは姉妹で一緒にいたいと思うからだろう。
しかし死んだ者は二度と生き返ることはできない。
それでも絆はなくならない。愛情、友情は不滅なのだ。
過去の苦難に負けずに現在を精一杯生きることは、仲間になる誰かと紡ぐ明日のためであり、仲間と紡いだ昨日のためでもあるのだから、死ぬための夢に逃げずに生きるために目覚めて欲しいといった。
これからも辛い現実は待っているかもしれないけど、それを乗り越えられると「私たち」は信じていると香織は言って、消えた。
ここで夢に逃げれば散っていった仲間の信頼を裏切ることになる。
信頼は裏切らずに応えるべきものなのだから、六人は進むことにした。
一人は痴漢技で、一人はマルチウェポンで、一人は勇者の剣で、三人は皆無性能力と妖狐の力、そして想いを形にしたマシン・メルカバーで夢世界から脱出をする。
448 |
その時、不思議なことが起こりすぎた |
回縞ロックス、御神薙立華、天城九曜、ミエル・リュシエール、時軸未色、ヒューマンスレイヤー、ディスメラ・スイート、真道阿須賀、夕露美維兎、ヒグマーマン、九条由奈、ジョン・ウェイン・ゲイシー、雪風はるか、大魔導師ブレイン、ファックマン、真魔人・洸、魔人ウロボロス、ミーティア、郷里沙織、勅使峰碧、岬朔郎、織田信長(織田信長)、ロボロン、大海舞菜、レイ=ラグナウッド、スエボシ(?)、ミルドレッド・イズベルス |
ロックスが目覚めると、メルカバーごと何者かによって救助されていた。
ラップス「兄貴! 目を覚ませ!」
ロックス「ラップス……おまえは死んだハズじゃ」
ラップス「ああ、死んだよ、でもロボロンが兄貴を助けてくれと言ったから、俺は蘇ることができた。
もっとも……」
ラップス(ロボディ)「機械の体だけど……」
ロックス「ファッ!?」
ディスメラ「どうやらそうらしい、ロボロンとブッチャーが何かをしたんだろうな。
全ての敵機がロボディの体を持った『人間』として蘇ってる」
ロックス「ファ!!?」
ロックスが仰天するのも無理はない話であった。
ロボロンとブッチャーが存在を犠牲にして引き起こした奇跡は敵ロボディを味方にするだけではなく。有機デバイスとしてロボディの部品にされていた人間たちの自我を取り戻させたのだ。
夢から醒めた六人だったがスエボシの土の体自体が厚く、自力脱出は困難だったが、ロボディ軍団や仲間たちによって救助される。
その際にロボディでは入れない位置に取り込まれていた立華を真道が無理やり引き摺りだした。
「てめーの居場所はそっちじゃねえ!
夢ごときに飲まれんな!」
鈴木戦以来ボロボロになってしまった自分の両腕がダメになっても立華を救いだすことに成功する真道。
同時刻にミエルはロボディと化したリエルに救助され、姉妹は熱い抱擁を交わした。
一方、尻尾だけはみ出して九曜は悲劇に見舞われる。
九曜「ちょっと待て!尻尾はやめて!いくらつかみやすいからって…イダダダダダダ!!」
丁度真道や立華や夕露の3人に引っ張り出されるが、尻尾が掴み易かったゆえに起きた悲劇であった。
デカマラファックを除くと主催戦における数少ないギャグ展開である。
九曜「先生、物凄くお尻が痛いんですが」
ミーティア「ダメよん、私にも少しくらい活躍させないさいよ~ん(はぁと)
それにもっと活躍しないと、気になるあの子と釣り合わなくなっちゃうわん」
この後、九曜の尻はミーティアによって(非性的な意味で)しっかり治療された。
叛旗を翻したロボディ軍団に対主催の復活にぐぬぬと悔しがるミルドレッドだったが、スエボシの絶大な力はまだ手元にあることを思い出し、「Q」に再び、攻撃命令を出す。
ミルドレッド「スエボシの力を取り込んだ、後はマキシムの力をとりこめ…」
スエボシ「…触手プレイや吸収プレイもたまにはいいわね」
なんと「Q」に取り込まれたと思われたスエボシが、再びミルドレッドの前に姿を現した。
ミルドレッド「Qは?私のQは?」
スエボシ「逆に私が取り込んだわ」
ミルドレッド「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
スエボシは最初からマキシムと共にミルドレッドの野望には感づいており、備えていたのである。
無限に成長する「Q」の力をスエボシは逆に取り込み、ミルドレッドのシナリオ通りには事は運ばなかったのだ。
それでもスエボシは子供の悪戯を許すようにミルドレッドを責めはしなかった。
むしろ、子らの底力を試すに相応しい力を得られたがために、非常に喜んでいた。
449 |
SITYOUSEI――終末の母星 |
回縞ロックス、御神薙立華、天城九曜、ミエル・リュシエール、時軸未色、ヒューマンスレイヤー、ディスメラ・スイート、真道阿須賀、夕露美維兎、ヒグマーマン、九条由奈、ジョン・ウェイン・ゲイシー、雪風はるか、大魔導師ブレイン、ファックマン、真魔人・洸、魔人ウロボロス、ミーティア、郷里沙織、勅使峰碧、岬朔郎、織田信長(織田信長)、ロボロン、大海舞菜、レイ=ラグナウッド、マザーズ・ゼロ(スエボシ)、ミルドレッド・イズベルス |
立華を助け出すも両腕がボロボロになった真道。
真道の進化し続ける力と洸の時を操る力は相性が悪く、朔郎の時のように治療できない。
そんな彼らにミエルとリエルが駆け寄る。
ミエル「見せてください!…大丈夫、これくらいなら」
そう言って、持っていた刃物で自分の腕を傷つけだすミエル。
立華「リュシエールさん!?」
ミエル「大丈夫です、血が少し出る程度に薄く切ってますから。それより、これくらいでしょうか」
そう言いながら、自分の腕と真道の腕を見比べる。
ミエル「傷の深さは違いますが、真道さんの腕の傷と同じ個所を、私の腕は傷つけました」
同じ場所にある傷、という事は二つの傷は『同一』と言えますわ。だから…」
ミエルが手をかざすと、真道の腕の傷はみるみる塞がっていく。
ミエル「…私の『同一の皆無』で片方を、真道さんの傷を無くす事が可能です」
このミエルの自らの痛みを代償にする奇策により真道の腕は戦えるレベルまで回復。
ミエルの方は能力発動に手は関係ないので、この場では最適解と言えた。
ミエルはこれに早く気づけばもっと多くの人を救えたかもしれないと嘆いたが、リエルは彼女を慰め、真道は腕を治してくれたことのお礼を言う。
そんな対主催だったが、再びスエボシからの触手が襲い掛かってくるが消耗があって避けられない。
再び取り込まれようとしていたが、そこへ何者かが多くの対主催とロボディ軍団が一度安全圏へ転移させられる。
リエル「あいた!あれなんでこんなところに?」
立華「転移呪文!こんなにたくさんの人を一度に出来るなんて貴方?」
洸「いや俺でもいきなりは無理…お前は?」
レイ「いやすいませんね、皆さんをここまで運ぶので精一杯で……」
真道「お前が俺たちを?」
レイ「今あなた方を失うわけにはいきませんからね…あの裁定者気取りを倒すためにね。
スエボシ…僕達魔族でも不倶戴天の大敵でしてね、正直僕達魔族も神族も彼女の取り扱いに困っておりましてね」
真道「それであいつを倒すのに俺たちを利用すると?」
レイ「ええ、その通りですよ…あのQって言う兵器を取り込んだあいつがどれほどになるのか想像もつきませんからね。
私としても魔族としてもそんなもん放置しておくのは本意ではありませんですから…」
九曜「だからこそ私たちを助けると」
レイ「あの裁定者を滅ぼすのに私の魔の力、貴方たちの力も必要ですのでね」
レイの活躍により、崩れた体勢を元に戻すことができた対主催はスエボシに挑む。
スエボシ「魔族が何故邪魔をする!」
レイ「あいにく、私は今の世界のありようを気にって入るのでしてね…それに私は貴方が気に食わない、ただそれだけです」
レイは冷酷で残虐な魔族のマフィアだが、一方で気を抜くと社畜にされかねない社会環境以外はこの世界を気に入っていた。
そして受けた恩を返す義理の心を持っていた。
スエボシがいる限り人が手を取り合うのは夢のまた夢で、人間同士で争わせられ続け、魔族などの異種族は排除される。
確かに魔族が人間を襲うこともあり、それが人類を争わせて強くしなければならなかったのだろうが、魔族の全てが人間への破壊を好むわけではなく、種全体を見ても個を見ないスエボシの考えは時代齟齬すぎるのである。
人間が異種族に必要以上に排他的になればヒューマンスレイヤーのような犠牲者も増え、その犠牲者が人間を襲うという負の連鎖も発生するだろう。
今まで散々疑われてきたレイだが、これによって漸く対主催から真に味方として認められるようになった。
一方のスエボシは「Q」を取り込んだことで溢れんばかりの力を感じ、自分が強くなったことでより一層子らの本気を試したいという欲が出てきた。
子が成長するように母もまた成長するのである。
そしてミルドレッドは「Q」を取り込まれたショックで一時は半狂乱を起こしていたが、「これもまた『Q』の進化のはて!」と開き直ってご満悦の表情を浮かべる。
今のスエボシは全てを取り込み、全てを母なる原初へと還す終末の担い手。
無限進化する「Q」から楔(、)を抜いてゼロになった歪な存在。
ミルドレッドは彼女を【マザーズ・ゼロ】と呼称した。
そしてマザーズ・ゼロとして進化したスエボシはミルドレッドやマキシム、果ては対主催ですら予想だに出来なかった事態を引き起こす。
「わらわを倒さぬと世界が滅びるぞ」
なんと大地に張った根を通じて全世界のミサイル基地を「Q」の力でリンクし、対主催が全滅すれば全ての弾道ミサイルを世界中にバラまくと言い出したのだ。
より一層深まった子への愛に比例して世界的危機の度合いも上がり、対主催はさらに死力を尽くして戦わねばならなくなった。
ミサイルが放たれれば世界は滅ぶが、世界人口の1%でも生き残れば長い年月をかけて人類は再興するだろう。
生き残った人類は今以上の力を持った子らになるかもしれないので、今がダメなら数世代先の子供たちが自分を殺して親離れできるだろうとマザーズ・ゼロは言った。
そんなマクロすぎる愛は受けていられず、今ある世界と命を守るためにネオ・ブレーメンズは味方になったロボディ部隊と共に最後の総力戦を挑む。
450 |
鶯を鳴かすために |
織田信長、ミエル・リュシエール、勅使峰碧、大海舞菜、ジョン・ウェイン・ゲイシー、回縞ロックス、御神薙立華、天城九曜、時軸未色、ヒューマンスレイヤー、ディスメラ・スイート、真道阿須賀、夕露美維兎、ヒグマーマン、九条由奈、雪風はるか、大魔導師ブレイン、ファックマン、真魔人・洸、魔人ウロボロス、ミーティア、郷里沙織、岬朔郎、レイ=ラグナウッド、マザーズ・ゼロ(スエボシ)、ミルドレッド・イズベルス |
ディスメラとラップス、リエルとロボディ軍団を加えたネオ・ブレーメンズの戦力はマザーズ・ゼロと拮抗していた。
マザーズ・ゼロに向けてあらゆる力がぶつかっていく。
これはいけるのではないかと思った対主催たちであったが、信長はマザーズ・ゼロの力を誰よりも強く警戒していた。
事実、どんなに強力な異能もはじかれ、超巨体ゆえに物理攻撃もあまり効果がない。
それだけでなく真道やブッチャーすら超えた進化の力によって、攻撃がどんどん効かなくなっているのだ。
体力も弾薬も魔力もロボディも無尽蔵ではないのでこのままでは消耗して敗れてしまう……マザーズ・ゼロを倒すには必殺の策が必要であった。
「待てよ・・・・・・ロボディのバリアの源は全部あの妖怪女の肉片。
もし異物を交えたエネルギーを逆流させることができれば・・・・・・あるいは?」
そこで信長は夕露に先ほど聞いた話から、ロボディの対異能バリアに使われる鉱物の正体がスエボシの細胞であることを思い出す。
エネルギーを逆流させるなどして内側から暴発させられないかと考える。
そしてミエルから追田がスエボシ絡みで調べてことで雷の直撃で千年以上の眠りについたことが伝承にあると聞き、雷もとい電気エネルギーが弱点であると知る。
しかし雷をどうやって起こすのか、雷を起こすエネルギーなんてどこから手に入れればいいのかとミエルは言うが、信長はないなら作ったり外から集めればいいと言った。
信長は味方がマザーズ・ゼロの目を引きつけている間に博識な勅使峰と機械に強い舞菜、ワープ能力と世界魔女協会とのパイプを持つゲイシー、もしもの護衛にブレインを連れて基地内部に潜入。
勅使峰にはマザーズ・ゼロを倒すのに適切なエネルギー波の算出と、舞菜は即席のエネルギーの砲の作成。
ゲイシーには魔女協会と連絡と取ってもらい、信長は奪った基地の通信装置を使って世界に発信した。
「そうか……儂はこのためにこの時代にやってきたのか」
自身の身に起きたタイムスリップは、時代が自分を必要としたために起きたものなんだろうか。
信長は一人で納得しつつ、高揚感のようなものを覚えていた。
451 |
幻想皇帝・第六天魔王 |
織田信長、勅使峰碧、大海舞菜、ジョン・ウェイン・ゲイシー |
各国のミサイル基地が何者かに乗っ取られていたことに困り果てたどころではない各国に謎の通信が届く。
モニターには信長が映っていた。
信長はサイコの大暴虐事件・浄化杜・江洲衛府島紛争がスエボシとひと握りの人間によって引き起こされた真実を世界に伝え、ミサイル基地がジャックされたのはスエボシの仕業であると教えるのだった。
その際におまえは何者かと各首脳から言われたが、信長は自身を偽らずに織田信長であると答えた。
戦国時代の人物が現代に生きているハズがないと最初は笑われもしたが、そこへ信長が現代に所属していた退魔師組織が重い腰を上げて彼が本物の織田信長であることが首脳に説明され、実際に人口衛星で調査すると、ある島に信長の言ったスエボシらしき怪獣を発見し、信長の言葉に嘘がないことがわかった。
そして信用されたと同時に信長は送れるだけのエネルギーを要求する。
増援は間に合わないだろうからすぐに送れる電池などのエネルギーを要求し、次にゲイシーが世界魔女協会の魔女のコネを生かして開いたワープトンネル(即席で作ったので人は通れない)から輸送するように頼み込む。
最後に本来は光秀が自分を討つために部下に言った台詞を吐いて、作業を急がせた。
「敵はスエボシにあり!」
それは今こそ手を取り合って共通の敵を倒そうという言葉であった。
エネルギーを送ることに難儀を示した者もいたが、世界が終焉を迎えるぐらいならとワープトンネルを通してエネルギーが続々と基地に集まっていった。
勅使峰による算出も終わり、後は舞菜の作るエネルギー砲の完成と送られてくるエネルギー量がスエボシを殺すに至ることを祈るのみ。
451 |
エロフェンリート |
ヒューマンスレイヤー、ファックマン、雪風はるか、織田信長、勅使峰碧、大海舞菜、ジョン・ウェイン・ゲイシー、回縞ロックス、御神薙立華、天城九曜、時軸未色、ヒューマンスレイヤー、ディスメラ・スイート、真道阿須賀、夕露美維兎、ヒグマーマン、九条由奈、大魔導師ブレイン、真魔人・洸、魔人ウロボロス、ミーティア、郷里沙織、岬朔郎、レイ=ラグナウッド、ミエル・リュシエール、マザーズ・ゼロ(スエボシ)、ミルドレッド・イズベルス |
今まではマザーズ・ゼロと拮抗していた対主催戦力だったが、信長の読み通りに全ての攻撃が効かなくなっていった。
異能攻撃は元より効かず牽制にしか使えない上に、ロボディ軍団による攻撃、メルカバーの攻撃、由奈の狙撃、ウロボロスの野球、真道の拳、ヒューマンスレイヤーの痴漢技、九曜の爪、ヒグマーマンの怪力、ファックマンとはるかの合わせ技に至るまで異能に頼らない物理攻撃すら徐々に対応され、満足なダメージを与えられなくなっていった。
更にファックマンとはるかがデカマラファックをしかけるが、もはやデカイだけでは満足できないと言わんばかりにダメージを与えられずに捕まってしまい、マザーズ・ゼロを援護するミルドレッドの闇鴉によって撃たれそうになる。
二人を銃撃から庇ったのはヒューマンスレイヤーであった。
銃撃で受けた彼女は致命傷であり、死は免れない。
人間を憎み、人間殺戮者(ヒューマンスレイヤー)と謳われた者が、最期は憎んでたはずの人間を庇ったことに自分で驚くも、その顔は聖母のような笑顔があった。
これも全て自分を愛してくれたあの人のおかげだろうと。
惜しむらくは敬愛する人の技を後世に伝えられないことだが、仲間を見捨てる情の欠片もないことは愛したあの人が許さないだろう。
そしてマザーズ・ゼロから放たれる熱線で蒸発する前に最後のフルパワー痴漢技でマザーズ・ゼロを絶頂させ、ファックマンとはるかの拘束を解くことに成功する。
己の身を呈してまで仲間を救ったエルフに、もはやヒューマンスレイヤーの名は相応しくない。
異種族を嫌うマザーズ・ゼロも、エルフの勇敢な行動を褒め讃えた。
仲間のエルフを殺されて、怒るはるかとファックマンは渾身のデカマラファックでミルドレッド機を撃墜する。
ミルドレッド自身の技量が大したこともないことも相まって闇鴉は地上へと墜ちた。
だがミルドレッド機一機撃墜したところで状況は好転しない。
味方につけたロボディ軍団も既に残り半分を切っており、敵の進化のスピードも相まって絶望的な敗北まですぐそこまで迫りつつあった。
そこへ信長がロボディに乗ってロックスのメルカバー宛に通信を飛ばす。
すぐに所定のポイントへ来いと。
452 |
凶星を討つ者 |
回縞ロックス、織田信長、勅使峰碧、大海舞菜、ジョン・ウェイン・ゲイシー、大魔導師ブレイン、夕露美維兎、ファックマン、雪風はるか、御神薙立華、天城九曜、時軸未色、ディスメラ・スイート、真道阿須賀、ヒグマーマン、九条由奈、真魔人・洸、魔人ウロボロス、ミーティア、郷里沙織、岬朔郎、レイ=ラグナウッド、ミエル・リュシエール、マザーズ・ゼロ(スエボシ) |
メルカバーが所定のポイント――基地に降り立つと、そこには舞菜と勅使峰によって作られたロボディ用のエネルギーキャノンが用意されていた。
このエネルギーキャノンはマザーズ・ゼロの体内にあるクリスタル細胞に過剰のエネルギーを与えて暴発させるための切り札である。
なお、エネルギーの運搬手段こそ異能(魔術)が使われたが、放たれるエネルギー自体は単なる電気なので異能無力化能力では防がれないというのが信長の見通しである。
ただし、このエネルギーキャノンは限られた時間と部品で作った即興品なので補助装置などがつけられず、一般のロボディのコンピュータでは当てることも制御することもできないので、セラフィム譲りの高速演算能力を持つメルカバーにしか装備できない代物であった。
しかも発射までその場から動けないときている。
あとの作戦は他の対主催がマザーズ・ゼロの気を引いている隙にエネルギーのチャージを終えたキャノン砲をメルカバーに乗るロックスがマザーズ・ゼロに向けて放つのである。
作戦自体は単純明快な陽動と不意打ちだったが、重要度は世界の命運を左右するレベルであり、失敗は許されない。
トンでもない大役が自分に巡ってきてしまったことにロックスは驚くも、これまで散っていった人々の犠牲を無駄にしないためにも作戦を受けることにした。
こうしてメルカバーは基地でチャージ途中のエネルギーキャノンでマザーズ・ゼロの首を虎視眈々と狙い、陽動を確実にするために信長機と舞菜機は最前線へ向かう。
勅使峰はロックスのサポーターとして、ゲイシーは引き続きワープトンネルでエネルギーを集め、ゲイシーのサポートとしてブレインがあ基地に残った。
黒い絶望を打ち砕く、希望の一撃は呪われし母に届くのだろうか?
453 |
ラストシューティング |
回縞ロックス、勅使峰碧、ジョン・ウェイン・ゲイシー、大魔導師ブレイン、織田信長、大海舞菜、夕露美維兎、ファックマン、雪風はるか、御神薙立華、天城九曜、時軸未色、ディスメラ・スイート、真道阿須賀、ヒグマーマン、九条由奈、真魔人・洸、魔人ウロボロス、ミーティア、郷里沙織、岬朔郎、レイ=ラグナウッド、ミエル・リュシエール、マザーズ・ゼロ(スエボシ) |
既に残存有機デバイスロボディ部隊は大半が大破させられ、1/4を切っていた。
エネルギー充填70%……
対主催全体が疲弊していき、あと10分も戦い続ければ全滅するであろう。
エネルギー充填80%……
だが、それでも対主催が、ネオ・ブレーメンズが戦いと希望を捨てることは一切なかった。
エネルギー充填90%……
あともう少しだと息を巻くロックス。
この一撃が放たれれば、全てが終わる……ロックスはそう思っていた。
突如、グルリとマザーズ・ゼロの首がメルカバーが隠れている基地に向いた。
――作戦が読まれていたのだ。
すぐに基地にいる味方に退避するように呼びかけ、スフィアの力を全開に使って防御するロックス機。
そしてマザーズ・ゼロの口から放たれた熱線はメルカバーのいる基地どころか、会場の大半を焼くほどであった。
特に射線上にいて魔力の壁でメルカバーを守ろうとしたレイは防壁を破られた挙句に半身を吹き飛ばされてしまう。
メルカバーはスフィアのパワーを全開にして防御し、近くにいた勅使峰とエネルギーキャノンを守ろうとするが……
ゲイシーもまた熱線に巻き込まれかけるが、ワープを使って逃げようとはせず、メルカバーに少しでも多くエネルギーを注ぐために死を覚悟で最期まで残ろうとする。
それは先に散った戦友のエルフのように戦おうとしたゲイシーなりの友情であった。
そして眼前に迫る熱線であったが、近くにいたブレインがイチかバチか、意を決してゲイシーを庇う形でワープトンネルに飛び込んだ。
このワープトンネルは通常は人が通れないように作られており、常人なら魔力でバラバラになるが、真理に到達した自分の肉体ならばゲイシーを守りつつ突破できるかもしれないと思い、熱線を避ける方法もこれしかなかったので飛び込むしかなかった。
これ以降、ゲイシーとブレインは登場しない。
決死の判断も虚しく二人ともども魔素に分解されたのか、真理を会得した肉体がトンネルの先を抜けてどこかにたどり着けたのかは神のみぞ知る――
熱線が晴れると、跡形もなく吹き飛ばされた基地の中に勅使峰は大火傷で重傷なれど生きていた。
だが、自分を庇ったメルカバーの状態を見て彼女は驚愕する。
スフィアはひとつ残らず消滅、更に不運なことに中破したメルカバーは頭部が半壊しており、それに伴いカメラと照準システムがダウンしていた。
エネルギーキャノンと演算装置こそ無事だが、キャノンを支える腕部がエラーで震えており、これでは狙いがつけられず撃てないと嘆くロックス。
彼の戦いの末路は絶望なのか――?
454 |
ビリーバーズ・ハイ |
回縞ロックス、ミエル・リュシエール、真道阿須賀、ヒグマーマン、魔人ウロボロス、九条由奈、ファックマン、雪風はるか、織田信長、天城九曜、真魔人・洸、御神薙立華、岬朔郎、夕露美維兎、ミーティア、郷里沙織、レイ=ラグナウッド、ディスメラ・スイート、時軸未色、勅使峰碧、大海舞菜、マザーズ・ゼロ(スエボシ) |
最後の切り札、エネルギーキャノンとメルカバーを失いかねない致命的な一撃を受けたネオ・ブレーメンズ。
万事休す。絶対的絶望。
そんな彼らにトドメを刺すべく、マザーズ・ゼロはもう一度熱線を発射しようとする。
一度は耐えきった熱線であったが、次に同じ攻撃が来れば確実にやられるだろう。
母もそれを分かっているのか、次なる熱戦を発射しようとして…
……何時まで経っても、熱戦は発射される気配はない。
母も、何故熱線を吐けないのか混乱する。
「…『同一の皆無』」
ミエル「先ほどと『同一の動作』を封じましたわ。私の前で、同じ攻撃は二度出来ません」
その理由はミエルの皆無性能力にあった。
強力な神通力であり、おそらく全ての異能者の大元であるスエボシそのものには異能攻撃は効かないが、彼女の撃った攻撃自体は消すことができるのだ。
これまで確証はなかったがミエルは見事に賭けに勝ち、同時にこれまで制御できているとは言い難かった皆無性能力を己の心の傷を逃げずにしっかりと受け止めることで我が物にしたことを証明した。
ならば自己進化することによって違う攻撃をしようとするが、そうはさせるかと真道の拳が顔面を殴りつけ、ヒグマーマンが足にヒグマブリーカーで締め上げ、ウロボロスが千本ならぬ万本ノックを放ち、由奈を目を狙撃し、ファックマンとはるかが挿し、信長が指揮するロボディ軍団の集中砲火を浴びせた。
それらの攻撃も急速に進化した母相手には足止めと時間稼ぎにしかならなかったが、希望を掴むためにコンマ一秒でも時間を稼ぐ必要があった。
それでも防ぎきれなかった攻撃がメルカバーに向かうが、ミエルとリエルの皆無性能力、立華による護符の防壁、洸の時を操る力、九曜が妖狐の力で召喚した怨霊の壁を作り、朔郎の幻影殺しの魔眼の支援であらゆる攻撃を防いだ。
その端では通信で戦士たちの指揮をする夕露、レイの治療を行うミーティア、非力なれど味方を鼓舞し応援する沙織の姿があった。
最後の切り札であるメルカバーは砲身をマザーズ・ゼロに向けられないほどの損傷を負っていたが、ガタガタと揺れる腕部をラップスとディスメラのロボディが支え、続くように未色機も支えに入った。
勅使峰も己の負傷も構わずにキャノンの方角の調整を担う。
舞菜はこの時、現れたディスメラに妹を殺された怨みから背後から殺そうという邪念が生まれたが、今ここでディスメラを殺せば作戦が台無しになることと、私怨で誰かを殺すクズにはなりたくなかったこと……何よりそんなことをしてもミリアは戻ってくることも喜ぶこともないだろうと思い、復讐心を振り払って自分もマハトマでエネルギーキャノンの砲身を支えた。
味方たちの希望を捨てずに戦い続ける勇気に、ロックスは己も勇気づけられた。
全ての仲間が俺に期待をし、俺を守るために死力を尽くして戦っている――負けちゃいけねえし、負ける気がしねえ。
だが、巨体なれど俊敏に動ける母を仕留めるのは難しく、マザーズ・ゼロを撃つにはひと押しだけ足りなかった。
――そう、たったひと押しだけが必要であった。そこで最後の役者が登場する。
455 |
いくつもの愛 重ね合わせて |
回縞ロックス、ミエル・リュシエール、真道阿須賀、ヒグマーマン、魔人ウロボロス、九条由奈、ファックマン、雪風はるか、織田信長、天城九曜、真魔人・洸、御神薙立華、岬朔郎、夕露美維兎、ミーティア、郷里沙織、レイ=ラグナウッド、ディスメラ・スイート、時軸未色、勅使峰碧、大海舞菜、マザーズ・ゼロ(スエボシ) |
有機デバイスにされたクライヴもロボロンとブッチャーの力で正気を取り戻していた。
彼の目には、絶対的な者相手に足掻き続ける対主催と、己と縁のあった者たちが写っていた。
自らを悪としながらも人間と世界を愛していたヒュナス、真実に向う意志を持った追田、己の因果に巻き込まれたことで命を失った愛すべきミリア。
様々な要素により思いがけない人生のロスタイムライフを得たクライヴであったが、このまま戦いが終わるまで静かにしていることなど彼にはできなかった。
スエボシは今ある世界を破滅させようとしており、そうなれば三人の生きていた世界も失われる。
それが許せなかった彼は、ロボディと化した体で戦おうとしていた。
その体は大破しており、まともに動くことなどできなかったが、それでも飛行能力だけは失われていなかった。
――ミサイルの代わりぐらいならできる。そして彼は羽ばたいた。
奮戦虚しくマザーズ・ゼロに突破されるネオ・ブレーメンズ。
皆無性能力でも消せない進化した熱線をメルカバーに吐きつけようとするが、その寸前にクライヴがカミカゼアタックを仕掛ける。
クライヴは自身が木っ端微塵になることと引き換えに母の眼前で自爆特攻することによってメルカバーに向けられた熱線を逸らし、同時に動きを止めることに成功する。
彼は口約通りに世界のために派手で綺麗な死に華を咲かせたのだった。
それによって生まれたマザーズ・ゼロの隙を逃すまいと夕露はロックスに発射命令を下す。
ロックスの最後の仕事はメルカバーのコクピットの中で引き金を引くことだけであった。
だが、その引き金は様々な想いと愛を載せていたために非常に重かった。
ロックス「ちくしょう、俺はこうやって皆に助けられてばっかだ。
自分一人じゃ立てない情けない奴だよ。
・・・・・・だからこそ、この土壇場で皆の真心に報いなきゃ男として立つ瀬が無いよなあ!」
――差別、狂気、戦争、それに伴う別離……
この世界では逃げ出したくなるほどの悲しいこともあった。
COM『エネルギー充填・収束完了、砲撃準備良し。撃てます』
――それでも愛するに値する世界でなのだ。
忘れたくない素晴らしい人との思い出があって。
無くしてしまうには惜しいぐらい愛すべき人たちがいっぱいいる。
だから守るに値する。
ロックス「香織! ダチ公ども! みんなみんな愛してるぜええええええええ!」
向けられた愛と友情に報いるために、ロックスは引き金を引いた。
キャノンから母に向けて放たれたのは会場に吹き荒れる嵐を巻き起こすほどの激しい神雷。
そして雷が止むとそこにはマザーズ・ゼロが立っていた。
ネオ・ブレーメンズの戦いにより、砲撃はしっかりと直撃した。
あとは世界から送られたエネルギーの量……少しでも足りないようならば彼女には効かず、余計に進化を促してしまい、今度こそ世界は破滅の道へ向かう。
もし世界の人々がネオ・ブレーメンズを信じず、この世界を平和にしようとする意思が母の愛より足りなければ、親離れできない世界は滅ぶのだ。
目には目を、歯に歯を、愛には愛を。
最後の決め手は、母と子、どちらの愛の力が勝るかだった。
果たして一瞬の沈黙の後に待つ戦いの結末は――
スエボシ「……見事だ」
母は子供たちに喜びの笑顔を向ける。
その直後にマザーズ・ゼロの体内にある、大量のクリスタル細胞が許容できない多大なエネルギーを浴びたがために暴発を起こし、巨体が大爆発を起こして四散した。
456 |
VERDICT DAY |
回縞ロックス、ミエル・リュシエール、真道阿須賀、ヒグマーマン、魔人ウロボロス、九条由奈、ファックマン、雪風はるか、織田信長、天城九曜、真魔人・洸、御神薙立華、岬朔郎、夕露美維兎、ミーティア、郷里沙織、レイ=ラグナウッド、ディスメラ・スイート、時軸未色、勅使峰碧、大海舞菜、スエボシ、ミルドレッド・イズベルス |
Q「コレガ…ハイボク…ウケイレヨウ…」
多くの犠牲を出しつつ、マザーズ・ゼロことスエボシは倒れた。
スエボシ本体は再生不可能なほどの致命的なダメージを受け、彼女と融合しているために「Q」もまた直に機能を停止するだろう。
マザーズ・ゼロ消滅に伴い、世界中のミサイル基地とのリンクもなくなり、弾道ミサイルが世界中に降り注ぐ最悪の事態は回避された。
五日間という長い戦いも終わり、誰もが後は帰るだけだ……そう思っていた時だった。
ミルドレッド「そ…んな馬鹿な!! 『Q』が! 私の子がそんなことを!! あり得ないッ! あり得ないわ、絶対にッ!! 絶対にィィィィッ!!」
先刻撃墜されて死んだと思われたミルドレッドは、まだ生きていた。
この女は自身の人生を注いで作り出した狂気の産物である「Q」が敗北の上に消滅寸前でところを見て発狂。
そして「こうなった時」の奥の手として、基地の地下から地場を発生させる装置を使い、衛生軌道上の巨大隕石が地球を会場へと落下させんとする。
ダメ押しに基地に隠されていた大量の弾道ミサイルを発射する。
世界中から弾道ミサイルが発射されるよりはマシとはいえ、基地にある量だけでも数億人の人類を殺せる破壊力を持っていた。
巨大隕石は対主催の総力を結集しても破壊することはできず、隕石直撃によって会場にいる者は全員確実に皆殺しにできる。
逃げるにしてもワープ能力を持ったゲイシーは蒸発し、レイは重傷によって隕石の衝撃が届かない場所まで対主催を転移させられない。
放たれたミサイルについてもミサイル基地の制御を取り戻したばかりの混乱で、大半の国が迎撃する準備が整っていないのだ。
非常に計算されたミルドレッドの最後の悪足掻きにして多くの人命を巻き込んだ無理心中であった。
ミルドレッド自体は暴挙に怒る夕露が八重歯ミサイルをぶち込んでミルドレッドに致命的な打撃を与えるが、隕石とミサイルを止める方法はなかった。
隕石とミサイルのまさかのダブルピンチ。
生存の望みを絶たれた対主催。
止められない悲劇。
最後に笑う(嗤う)のは狂気のマッドサイエンティスト一人だったのか?
457 |
試される大地の力 |
ヒグマーマン、郷里沙織、回縞ロックス、ミエル・リュシエール、真道阿須賀、魔人ウロボロス、九条由奈、ファックマン、雪風はるか、織田信長、天城九曜、真魔人・洸、御神薙立華、岬朔郎、夕露美維兎、ミーティア、レイ=ラグナウッド、ディスメラ・スイート、時軸未色、勅使峰碧、大海舞菜、スエボシ、ミルドレッド・イズベルス |
一人高笑いを上げていたミルドレッドであったが、そんな彼女にスエボシは言った。「我が子らなら大丈夫だ」と。
嗤っていたミルドレッドが周りを見ると、絶望して立ち尽くす対主催は誰一人いなかった。一番幼い沙織ですらもだ。
隕石はどうやっても防げないので自分たちの生存こそ諦めていたが、ミサイルを一発でも落とす度に数十万人の命が助かると気づき、多くのミサイルを落とすことで多くの人命を救う方法をそれぞれが模索していた。
参加者たちは殺し合いの中で皆、精神的に成長しており、ただ絶望に恐怖するよりも希望を紡ぐために戦い続けることが大事なのである。
できれば今まで自分たちのために散っていった者のためにも全員で生還することが望ましかったが、それができないなら会場の外にいる誰かのために命を無駄にしない道を選択する。
されど対主催は誰もが疲弊しており、飛行型ロボディによる追撃や長距離狙撃は今からでは到底間に合わない。
そうこうしている内に迫る隕石と、離れていく弾道ミサイル郡。打つ手はないのかと焦る対主催。
その時であった。
対主催たちのいる場所に突如、吹雪が吹き荒れたのだ。
だが寒くない。むしろ暖かさすら感じるぐらいの粉雪が舞う。
吹雪の正体は莫大なオーラであり、そのオーラはヒグマーマン・極モードから発せられていた。
ヒグマーマンは異能技を殺してしまうスエボシ戦では使えなかった最終奥義を発動するつもりなのだ。
さらに奥義による成功率を上げるために対主催たちに少しでも多くのエネルギーを自分に注ぐように訴えるヒグマーマン。
対主催は熊語はわからずとも、仲間である彼が何を求めているのかすぐにわかり、自分たちの最後の力をヒグマーマンに結集させる対主催たち。
そして対主催たちの力と想いを受けた器となったヒグマーマンはオーラを増大させ、巨大な北海道型の超冷凍ビーム「デッカイドウ・アタック」を弾道ミサイル郡に向けて放つ!
そのデッカイドウ・アタックは――
――ミサイルを一発も落とすことなく、すぐ近くを通り過ぎて行った……
全ての希望を込めたハズのヒグマーマンの奥義が不発に終わったと思って大爆笑し、嘲笑うミルドレッド。
思わず膝を地面につきそうになる対主催たち。
沙織「違うよ、ヒグマーマンの本当の狙いは――」
しかし、ヒグマーマンを最も信頼している少女である沙織はヒグマーマンの真の狙いがわかっていた。
実際にデッカイドウ・アタックが隣を通り過ぎた後にミサイルは方向転換を開始する。
そう、ヒグマーマンの真の狙いはミサイル郡の撃墜ではなく、ミサイル内の回路を凍りつけて誘導性を無くし、さらに周辺の空気が急激に冷やされたことによって生じる気流の変化を利用して真っ直ぐ進むだけになったミサイル郡を一定のルートに変更させる。
そのルートの先には巨大隕石があった。
ミサイルを撃ち落として世界の人々は救えても、隕石衝突によって対主催は全滅する。
巨大隕石にデッカイドウアタックを向けても出力が足りずに破壊できず、対主催は全滅して世界には数億人の死者が出る。
……ならば、数億人を殺せる弾道ミサイル全てを巨大隕石に当てるように仕向けさせたらどうなるか?
上空で目もくらむような大爆発が起こった後に、隕石は爆散した。
多くの人命を奪う弾道ミサイルの殲滅と巨大隕石消滅によって自分たちの命が助かったことに対主催から歓声が湧き、ミルドレッドは絶句する。
仲間たちは世界と対主催を同時に救った最高のヒーロー・ヒグマーマンに感謝しようとするが……沙織の手が届く前にヒグマーマンは倒れた。
458 |
夢の終わり |
ヒグマーマン、郷里沙織、夕露美維兎、回縞ロックス、ミエル・リュシエール、真道阿須賀、魔人ウロボロス、九条由奈、ファックマン、雪風はるか、織田信長、天城九曜、真魔人・洸、御神薙立華、岬朔郎、ミーティア、レイ=ラグナウッド、ディスメラ・スイート、時軸未色、勅使峰碧、大海舞菜、スエボシ、ミルドレッド・イズベルス |
仲間には隠していたがデッカイドウ・アタックは強大な威力を誇ると同時に使用者を消耗死させる、まさに最終手段だったのだ。
だがヒグマーマンに禁断の奥義使用に躊躇も後悔もなかった。
全ては世界平和と仲間の命と沙織を守るため……それを成し遂げられたことはヒグマーマンにとって本望であった。
沙織「うわ
ああああん、ヒグマーマン…」
ヒグマーマン(瀕死)「ヴォー…(大丈夫だよ、君は生きるんだ、まっすぐ強く)」
沙織「でもぉ、でもぉ…」
ヒグマーマン「ヴォー…(なにかあったら駆けつけるから、必ず)」
世界を救った偉大なる羆ヒーローはその
モフモフした腕で少女の涙を拭いながら、優しい笑顔を向けて静かに息を引き取った。
願わくば少女が自分の勇気を受け継いで幸せに人生を生きていけるようにと願いながら。
一方、スエボシは死にゆく自分の目の前で世界を救った子孫たちを見て満足気な笑顔を見せていた。
もう世界は親離れをする時代になり、強くなるためだけの殺し合いは必要ないと確信する。
安心して後の世界を任せられるほど成長した子供に母親は必要ない。
自分も子離れする必要があると思い、巣立つ子供を見送る母親のように対主催を祝福し、消滅して土へと還った
スエボシ「ふむ…ついに母を超える…か…悔いはない…
私の敷いた道もここまで、後はお前たちの手で切り開け
さらばだ!我が愛しき子たちに祝福を!」
スエボシがいなくなったことで「Q」を回収できると思ったミルドレッドだったが、彼女に追い打ちをかける事態が発生する。
自分の夢ばかりを見て、プライドもなく勝者の道を汚したおまえを親と認めないと「Q」は言い、かつてジョージを見限ったブッチャーのように親であるミルドレッドに服従するプロトコルを削除した後に自ら自爆したのであった。
自分の夢であったハズの「Q」に見捨てられたミルドレッドは放心状態に陥る。
そこへネオ・ブレーメンズの隊長である夕露が彼女の脳髄が詰まったポットを鷲掴みにして逃げられないようにした。
少なくともミルドレッドが浄化杜を乗っ取って江洲衛府島に攻め込ませなければ、いくつかの悲劇は回避できたであろう。
それをしなかった彼女の我欲のツケが、多くの仲間と母のようであったアイリスフィアを奪われた夕露という取立て人によって支払われることになる。
人類全ての白い怒りを結集させたような夕露の瞳と表情に、ミルドレッドは死神に睨まれたかのような恐怖を覚える。
夕露は曲がりなりにも世界を守ろうとしたスエボシと違い、欲望を満たすためだけに多くの人命を奪った最悪のテロリストとして否定し、処刑を決める。
脳髄入りポットを宙に放り投げられ、夕露が放った八重歯ドリルミサイルでグチャグチャにシェイクされるミルドレッド。
もはや言葉にならない絶望全開な叫びながら、狂気の外道は肉のスープになって辺りに四散した。
459 |
流星の祝福 |
ディスメラ・スイート、郷里沙織、夕露美維兎、回縞ロックス、ミエル・リュシエール、真道阿須賀、魔人ウロボロス、九条由奈、ファックマン、雪風はるか、織田信長、天城九曜、真魔人・洸、御神薙立華、岬朔郎、ミーティア、時軸未色、勅使峰碧、大海舞菜、レイ=ラグナウッド |
主催が倒れたと同時にミルドレッドに有機デバイスにされたロボディもとい人間たちが次々と機能を停止していった。
元々、ロボロンとブッチャーによってもたらされたロスタイムには制限時間があったのだ。
しかし皆が死に行くことを嘆くより最後に世界のために貢献できたことを、浄化杜であった者すら喜んで全機が眠りにつくことを選ぶ・・・・・・
リエルもまた、ミエルに最後の抱擁を交わし、そして心の傷に負けずに強く生きて欲しいと願った。
ラップスは兄、ディスメラ、級友たちに「良かった、今度はちゃんとお別れを言えるね」と、生前はできなかった言葉を伝える。
そして恋人のディスメラは二度目の別れの前にラップスとの子供を懐胎したことを告げる。
ラップスは自分のいない人生でディスメラと子供が幸せに生きていけるように祈りを込めて口づけを交わした。
最後にロボディたちとネオ・ブレーメンズは、世界のために共に戦えたことを誇りに思いつつ互いに敬礼を交わし、ラップスとリエルを含むロボディたちは機能を停止した。
ラップスらとの別れの後に会場の外には生き残りを救助するための船が迫っていることを確認し、そこへ向かおうとする一行。
ところが今までの激しすぎる戦いに会場の島が沈みだしており、脱出は急を要した。
その途中で一番遅れていた舞菜の乗るマハトマが地割れに飲み込まれてかけてしまう。
そこをレイが飛び出し、自分の身と引き換えに最後の魔力で舞菜機を安全地帯まで転移させた。
最後にレイはこれで詐欺の件はチャラにして欲しいとウィンクをしながら地割れの中に飲み込まれていった。
もうこれでは魔族を恨むことなんてできないじゃないと言いつつ、彼を助けられなかったことを悔い、恩を感じながら舞菜と仲間たちの待つ救助船へと走った。
沈没する島。全ての悲しみが海の底へと消えていった。
多くの命を犠牲にし、死を踏み台にして生き延びた先に何が待っているか何もわからない。
ふと、見上げるとヒグマーマンが破壊した隕石の破片が数多の流星となって空を彩っていた。
その駆け抜けるきらめきは生き残った19人の悲しみを洗い流し、新たな望みを生んでくれるようだった……
【
千太郎 戦死】
【ロボロン AI消失】
【ブッチャー AI消失】
【ヒューマンスレイヤー 戦死】
【ヒグマーマン 戦死】
【魔神マキシム 封印】
【
須原毅 戦死】
【スエボシ 戦死】
【「Q」 AI消失】
【ミルドレッド・イズベルス 処刑】
【大魔導師ブレイン 行方不明】
【ジョン・ウェイン・ゲイシー 行方不明】
【レイ=ラグナウッド 行方不明】
【郷里沙織 生還】
【時軸未色 生還】
【回縞ロックス 生還】
【
岬朔朗 生還】
【大海舞菜 生還】
【ミエル・リュシエール 生還】
【九条由奈 生還】
【真魔人(
真崎洸) 生還】
【真道阿須賀 生還】
【天城九曜 生還】
【雪風はるか 生還】
【夕露美維兎 生還】
【ディスメラ・スイート 生還】
【御神薙立華 生還】
【ミーティア 生還】
【勅使峰碧 生還】
【織田信長(織田信長) 生還】
【ファックマン 生還】
【‘魔人'ウロボロス 生還】
――報告者 江洲衛府島防衛軍通信軍曹 夕露美維兎
最終更新:2017年07月29日 09:08