【 絶望の序幕 】
「滅却師の皇帝よ、己の未来を『視』誤ったか」
全知全能のユーハバッハが敗北して間もなく、彼が座していた王座の前に絶望を形容する黒い人型が佇んでいた。
いつの間に、全く気配もなく、ソレは死闘を終えた空間に出現していた。
当然、皇帝と対峙していた全員が不意を突かれた。即座に違和感と、底知れぬ不気味さを抱き、誰もが身構えただろう。
そしてその内の何名かは、その正体を理解していた―――その名は、アンチスパイラル。
「反螺旋族の集合意識体、何をしに来た」
「特異点を集めしタイタン星人よ、ここは我々の領域、我々が創造せし宇宙だ」
「ゆえに、我々の知覚はこの宙域を捉えている」
「さすがに、蟻のように細かき人間共を全て識別することはないが」
「我らが同盟、ユーハバッハの死とあらば話は別だ。かの超越者を倒した、それがどのような者達なのか見に来たに過ぎん」
語り終えたアンチスパイラルは、その場にいる全員を一瞥するような仕草をする。
弱肉強食の理から外れた反逆者達、全てを無に還さんとする愚考者達、無限の可能性を求めし異端者達。
その面々を、ただ一つの情を表さずに見ていた。
「おい、そんなこと言って、俺たちを潰しに来たんじゃないのか」
「否。終末を望む天司よ、我々は戦いに来たのではない」
「ここに居る我らはただの影法師、我らの中核は螺旋に目覚めし者共を注視している」
突如、アンチスパイラルのそばに映像が映し出された。
画面は星々の海に満たされ、その中にはアンバース頂点の城塞や元資源衛星の機神も映し出されていた。
そしてそれらと比較できる程に異常に巨大な機械人形が2体、モニターに映し出せない程に逸脱した攻防を演じていた。
その光景はまさに巨大な絶望と希望の激突。
その規格外、次元の違いを見せつけられれば、広間にいた面々から一時的に言葉を失わせるには充分だった。
「スケールが違い過ぎる…論外同士のバトルとしか言いようがないわ」
「そういうことだ、幻想郷の巫女。ゆえに、我々にお前達を相手する暇はない」
「だがそうだな、これだけは言っておこう」
「よくぞ、ユーハバッハを倒してくれた」
「!? それは一体、どういうつもりで言っているんだ!」
「かの皇帝は強力な同盟者であり、同時に我々の足枷でもあった」
「参加者の大半が反乱して攻め入る事態になっても、お前達と戯れる事を選ぶ程にユーハバッハは盲目であった」
「だが、皇帝が消えたことで、奴に与えられた拒否権もなくなり」
「ようやく、原初返還による幕引きを始められるようになった」
「!? なん……だと……!」
「さぁ、原初神カオスよ、目覚めの時だ」
「我々が時空断層の狭間を創ろう、その瞼を開かせよう」
「そして、盟友ユーハバッハを倒した者共に、祝福を与える時だ」
「奴らの増長、スパイラルの増加を阻むために、地表全てを資源に還るがよい」
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【 終焉のソラ 】
空間が割れる。
ソラが割れる。
そして、あり得ざる光景が顕われる。
歪み、撓み、ねじ曲げられながら引き裂かれた―――
間隙の向こうに何かが在る。
あれは。
何だ。
歪みの宙の間隙からこちらを覗く、あれは―――
――――――あれは、瞳だ。
ソラの瞳が、地球を覗き込んでいる。
虚空の瞳が顕われた瞬間、世界は、時は、止まってしまった。
なぜなら、誰しもがその瞳に心を奪われたからだ。
見られている、偉容な存在に。
そこから放たれる熱量は、どれだけ離れていても肌身に感じる。
『―――原初たるカオスの再起動を確認。』
『―――あらゆる要素は、不要物として判断されます。』
『―――緊急警告。緊急警告。』
『―――カオス神、顕現。』
『―――資源の強制回収が開始されます。』
『―――惑星表層資源の、原初返還が実行されます。』
どこからか機械的で無責任なアナウンスが流れる。
カオス神。原初返還。その言葉の意味を、誰しもが知っている。
儀式の前に始まった光景を思い出すだけでよい。
惑星を抉り取る所業が、頭上にて待ち構えている。
ゆえに、誰しもがこの結論に思い至る。
―――ついに、超常の神による審判の時がきてしまった、と。
地上も、宇宙も、各種拠点も、それぞれの戦の勢いは止まらない。
ゆえに、誰しもが虚空の瞳に対応するには手遅れだった。
そして誰もが、絶望を抱いていただろう。
その巨大な瞳に向かって、地上から光の筋が突き進むまでは。
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【 黙示録の獣 】
怪獣を統べし怪獣の王。
地球を守護する星の巨獣。
太古より存命する核熱の申し子。
破壊の権化にして、環境の調和をもたらす抑止力。
その名は≪GODZILLA/ゴジラ≫。
ゴジラは、外来からの侵略者を拒む性質を持つ。地球に仇なす宇宙生物を徹底的に排除する。
このバトルロワイアル会場においても、『レギオン』や『キングギドラ』に対して明確な敵対心を持って攻撃していた。
―――然るに、外宇宙より星間来訪し、大権能でもって地球環境を死滅させる、生物ならざる機械神が相手だろうと。
―――ゴジラは一歩も引かず、最大の脅威として破壊するだけであった。
だが、ゴジラとて本能で理解していた。
敵対神は超大であり、通常状態のままでは返り討ちに遭うのが目に見えていた。
ゆえに、最も新しい王とリュウソウ族と邂逅し、リュウソウルとライダーウォッチの力で傷を癒やし。
さらに、星の生存本能が生み出した真祖の姫君が持ってきた放射能の塊を喰らい、大幅な自己強化を図った。
―――その行為は諸刃の剣でもあった。
過剰な核エネルギーを制御するには至らず、いつ自滅してもおかしくない暴走状態に陥っていた。
そのような代償を負ってでも、天空の狭間から俯瞰する巨瞳を打ち落とすとあらば。
―――既に、ゴジラの覚悟は完了していた。
三つ首の黄金龍を倒した後、ゴジラは赤熱する身体を抑え、神を打ち落とす力を蓄えるために、氷塊漂う海中にて神の顕現を待ち構えていた。
他の参加者が宇宙に上り、主催陣営に反旗を翻しても、すぐに動くことはなかった。
ただ一度、同じく地球を守護する怪獣・ガメラが散った時、力の一部をを受け取ったゴジラは宙に向かって一撃を放ったのみだった。
その後も上昇する熱を蓄積し、灼熱の海に鎮座し続けたゴジラは。
―――ついに、ソラに開いた虚空を目測した。
間髪入れず、ゴジラの背鰭が青く輝く。
尾鰭から始まり、徐々に頭頂に向かって発光が進む。
それまで体内に蓄積した放射能エネルギーを射出する準備が整い。
全力を込めた蒼き光の帯が、ゴジラの口から放たれた。
それは、遊星を落とす程の熱量。
さすがに太陽を落とす事は不可能だが、それを包囲する構造物に打撃を与える事はできる。
ダイソン球こそがカオスの本体。
であれば、天球の構造を崩せばよい。たった一つの穴で全体へと連鎖自壊を始め、やがて内包する恒星に飲まれるだろう。
とにかく、その一撃が機神カオスに届けば、たとえ原初の父であろとも終焉を迎えるのは自明であった。
光の柱は一瞬にして星々の海を貫いた。
ソラを割りし巨瞳に畏怖を抱いた者達も、その一条の輝きに期待を抱いた。
誰しも全てが無為に終わるのだと諦観する中で、超常事象に手を伸ばさんとする明確な意思に胸を膨らませた。
―――殆どの者が、意識無意識に関わらず、その一撃が届く事を望んでいた瞬間であった。
そして、光は。
ソラに開いた虚空にて、拡散されてしまった。
最終更新:2020年05月21日 19:28