【名前】灰色の服の男(グレイ)
【性別】男性   
【出典】黒博物館 ゴーストアンドレディ
【スタンス】対主催

『よって我らの名誉の章典に従い 君に私を殺害する機会を与えよう』

【人物】
英国ロンドンのドルーリー・レーン王立劇場にて出現が噂される実在の幽霊。彼がその定位置(アッパー・サークルD列端の席)に現れるとその芝居は必ず成功するという。
漫画本編においては、決闘代理人としての過去が明かされ、フローことフロレンス・ナイチンゲールとの「絶望した時に取り殺す」という奇妙な契約の元に、別れの時まで彼女とともに戦った。

【ロワでの動向】 
本編最終回後より参戦。
亡霊の自分をも縛り付ける主催の力、そして天命を全うした筈の『彼女』──フローもまた参加者に名を連ねていることに驚きつつ、対主催として行動を開始した。

開始早々、外印に襲われている夜凪景を助け、決闘代理の口上と共に機巧芸術家の鋼線を捌き切って退散させる。
その時点では行きがかり程度にしか思っていなかったが、続く緋村剣心(クズver)の襲撃において、凄まじいまでの演技力で絶技の剣客を怯ませた姿と、彼女の背後に憑いた、形の定まらない異様な「生霊」を目の当たりにしたことで、「役者」としての夜凪に興味を抱き、行動を共にすることとなる。

夜凪「本物の幽霊って初めて見たわ! しかもお芝居好きだなんて…ルイやレイや阿良也君にも教えてあげたい…!」

グレイ「……その目。やりにくいったらねえなァ…俺はこれでも人殺しの亡霊だぜ。
ま、劇場の奴らには縁起ものなんて言われてるがな…」

劇場に住まう永遠の観客として、十代で天才女優と取りざたされる「怪物」である夜凪とは、舞台や役者にまつわる様々な会話をかわし、時に数百年の経験を生かしてアドバイスや皮肉を与える一方、そのマイペースさ、屈託のなさから来る遠慮のない一言に呆れたり、凄まじいまでの成長性と貪欲さを見せる夜凪の才に、唖然とさせられることも多かった。

「ねぇ 灰色の服の男さん」

「言ったろ ただの灰色(グレイ)でいい」

「グレイ……私のその…"生霊"って、そんなにヘンなの?」

「ヘンっていやぁヘンだな……お前くらい変な生霊持ちはアイツくらいなもんだ」

「それって、この会場にいるって言う、『天使』さん?」

「くくく、その呼び方、アイツは嫌ってたけどな。そうさ、アイツの生霊も飛びっきり変で、誰よりおっかないんだぜ。もう二度と会いたくねえ」

「……でも、何だかグレイ、その人のこと話す時、すごく嬉しそうに見えるわ」

「……鋭いんだか鈍いんだかわかんねえな、お前……。
……俺たちの芝居はもう終わった。それに……アイツは主演女優で、俺は元々観客だ」

「でも、叶うなら……いつかまた、一緒にお芝居をやりたいんでしょう。そう顔に書いてあるもの」

「……イイ女だったよ。とびきり…俺なんかにゃ勿体ないくらいにな。さぁもう話は終わりだ。お前もお前を待ってるやつらと……お前の『天使』のところへ帰りてえんだろ」

「……千世子ちゃんなら、こんな時、どうするかしら……」

「さっきからのお前の早口を聞いてると、その『天使』とやらもとんでもねえ役者らしいな」

序盤のマーダーとの連戦に留まらず、組んで動き始めた直後にも暴走したスネ吉の駆るギーガーに追われるものの、機転を効かせて何とか逃げおおせる。

「ロボットまでいるなんて…これが映画じゃないのが本当に信じられなくなるわね…」

「『神の手にある人間は、腕白どもの手にある虫と同じだ。気まぐれゆえに殺されるのだ』──「リア王」ってか。冗談じゃねえ」

その後も、五頭応尽の放った鬼神を協力して打破するなど、しばらく二人組で広い会場をさ迷っていたが、アライさんマンションから焼け出されてきた悪霊・いかれ庭師(マッドプランター)との戦いをきっかけに、もう一人の「怪物」──大女優月影千草の虎の子である北島マヤと、正義と怪人の狭間で苦悩する「ヒーロー」、イケメン仮面アマイマスクと出会い、のちに「劇場組」「顔組」と呼ばれることになるグループを結成。

年上ながら夜凪以上の破天荒さ、天然さ、猪突猛進ぶりを誇るマヤにはアマイマスクともども振り回され、さらには互いに目を輝かせながら意気投合した夜凪とマヤが、周囲を巻き込んで演技と役の世界に没入していくのを目の当たりにし、『ガラスの仮面』の画風に染まって「こいつら……恐ろしい子!」などと溢す場面まであった。

無論、天に愛された生まれながらの女優であるマヤの輝きには、影たる観客として抑えられぬ胸の高鳴りと、一種の憧憬すら覚えており、彼女と演技を食らい合うことで高めあってゆく夜凪を頼もしげに見守ってもいた。

アマイマスクとは、最初こそ互いにいけ好かないと衝突し合い小競り合うことも多かったものの、共に修羅場をくぐり抜け、また彼の被る「仮面」と彼の憧れるヒーローについてを知るうちに、信頼し合う仲となってゆく。

「グレイ……僕の『生霊』は、どんな姿に見える?」

「お前の?そーだな……随分とおっかない、化け物みてーなツラしてるぜ」

「やっぱり、そうか……うん、それでいいんだ。僕はもう、ヒーローではいられないから」

「……どういう意味だ?」

「醜い顔だけじゃなく、僕はいつの間にか、心も怪人になりつつある。だから、理想のヒーローである『彼』や、他のヒーローたちのために、倒されるべき醜い怪物を演じることが、次の……僕の役柄だ」

「……こないだ話した、オレが魅せられた主演女優(ヒーロー)だけどな」

「…?フロレンス・ナイチンゲールだろう?近代統計医学と看護の改革者として多くの人を救った……」

「そいつの生霊、お前と似てたぜ」

「…え?」

「バカでかくて、とびきりおっかなくて……そして、そんな自分自身をずたずたに傷つけながら……それでも、泣いてる他の奴らを助けようとしてやがった」

「…………!!」

「アイツは言ってたよ。『他者からどう見られようと、醜く見えようと、進み続けることで、助けられるモンがある』んだと……ったくよ、オレみたいな人殺しの影法師からしたら、眩しくていけすかねえよ、アイツも……お前もな」

「……『彼』も……『彼』も、そんなことを、言ってた……
はは、全く……難しいことを、簡単に言ってくれるよ…」


でろでろの名物スポット、シネマ累ヶ淵に立ち寄った際にも、思い思いの反応を見せる仲間たちと楽しそうに過ごす。

マヤ「わぁ見て、すごく可愛い!」(カントクのぬいぐるみを持ってきて)
アマイ「あ…ああそうだね…(ば……バカな……醜い……絶妙にブサイクだ……だがそんなことは言えない…)」
グレイ「『口数少なきが最上の人なり』……『ヘンリー五世』。ノーコメントってことで頼む」
夜凪(ガチャ○ン……?)

そのようにして、仲間たちと共に様々な戦いを協力して勝ち抜いて行き、ロワ中盤においては、会場の一角に顕現した、グレイの縛られていた『舞台』──ドルーリー・レーン王立劇場へと辿り着く。

感慨に耽る間もなく、時同じくして現れた悪のエンターテイナー・ワイズルーとの邂逅は、すわ一触即発かと思われたが、なんとマヤの主導により、その場の全てを巻き込んだグレイテストエンタメショーが勃発。

ワイズルー自身の思惑もあり、ノリノリの彼を交え、オペラ風に丁々発止のやり取りを繰り広げるオールジャンルロワ3屈指の異色回となり、グレイもまた、役者の一人になりきって一座の一角を勤めた。

しかし、ワイズルーの去った直後に、息つく暇もなく、五頭応尽率いる連合が劇場を強襲する。

アマイマスクとともにマヤと夜凪を守って迎え撃つも、応尽は伏兵として、グレイの宿敵であるシュヴァリエ・デオンを潜ませていた。

グレイ「デオォォォォン!!」

応尽「……ははははは!!伏兵がいねえって誰が言ったよ!!」

その奇襲から夜凪を守るため、マヤがその命を散らす。
誰も見たことのない『カルメン』を演じることで矛先を己へ向けるという、彼女でしか成し得ない方法で命を、舞台を全うしたマヤ。その遺志を受けて、夜凪が覚醒する。

「……グレイ。私……負けたくないわ。
私たちのお芝居を、マヤさんの最後の舞台を、こんな人たちに汚されたくない……!」

「わかってるさ、ケイ。
口上は──知ってるよな?」

「ええ」

その言葉と共に、立ち上がった夜凪の生き霊がグレイと同じ姿となり、重なりあって、剣を構える。

夜凪とともに、グレイはデオンを討ち果たした。

一方で、悪と正義の狭間に生まれ苦悩し狂乱した悲劇の超人・ヒカルドとの戦いの中、アマイマスクもまた、その身を犠牲にしてヒカルドを闇から救い出し、「ヒーロー」として散っていく。

「僕は、僕は──人間(ヒーロー)で、いられた、だろうか?」
「自分の、信じる舞台を、やりきれた、だろうか──」

呟きながら目を閉じるアマイマスクへと、夜凪と共に、グレイは言葉をかけた。

「ありがとう……私たちのヒーロー」
「かっこよかったぜ」

アマイマスクの奮戦で応尽をも退けた劇場組であったが、グレイと夜凪は、この場で得た大切な友人を二人とも失う結果となった。

それでも、アマイマスクの言葉で自分自身を取り戻したヒカルドが新たに加入し、グレイもまた、この殺し合いの打破のため決意を新たにする。

夜凪「それがあなたの"仮面"?」

ヒカルド「ああ。正義超人としての俺は……この姿で生きてきたんだ」

グレイ「吹っ切れた、ってツラだな。いい目してるぜ」

ヒカルド「……自分自身に負け、この手を血に染めてしまった俺の罪は消えない。だが、それでも……奪ってしまった二人の命……本当の強さを教えてくれたアマイマスクに、本当の勇気を教えてくれたカレーパンマンに、報いたい。
お前たちと共に戦うことを、束の間でもいい。許してくれないだろうか」

夜凪「……え? 許す、って…………よくわからないわ」

ヒカルド「……アマイマスクを殺した男を信じられないのはわかる。だが……」

夜凪「もう、仲間だと思ってた」

ヒカルド「!!」

夜凪「この舞台の上で、全力でぶつかりあえたから。……ごめんなさい、私ちょっと、人との距離感がおかしいって言われるの。でも、私はもう、そのつもりだから」

グレイ「……やぁれやれ、ケイのおっかない眼が出やがったな。おいヒカルドさんよ、こいつは元の世界だと"ぶるどうざあ"とか呼ばれてたんだとさ。こうなったら聞かねえし、巻き込まれるのも覚悟しとけよ。──何より、いつまでも悩んでたらアマイマスクのやつに笑われちまうだろ?」

ヒカルド「……ああ。よろしく、頼む……!」

そこから、新たなる力を手に入れた外印が「実験台」として、一人の侍の死の傷も癒えぬままのモンキー・レンチ組──トダーとウィンリィ・ロックベルを攻撃する場面をいち早く発見し、ヒカルドとともに助勢に入った。

「『おお、切れ切れに祈りの歌を歌いつつ、死の迫るのも知らぬが如くに』──『ハムレット』。大人しく寝てな」

破壊されながらも、侍の魂そして灘の技を駆使してウィンリィを守ったトダーの、そしてイトイトの実による支配を、カレーパンマンとアマイマスク、二人のヒーローの言葉で己の闇とともに絶ち切ったヒカルドの奮戦で外印を撃破。
ヒカルドVS外印の試合では、夜凪とともに、グレイもまたプロレスの観客の一人となって見守った。

その後は、加速してゆくロワイアルの中で、夜凪の影として、仲間たちの剣として、シェイクスピアの戯曲の台詞を引用しながら活躍した。

ロワイアル終盤で、主催の本拠地へと乗り込む参加者たちとの通信を経て、主催がこの会場へと顕現させた三つの拠点、計画の楔の一角──『精神の門』を破壊・封印するために、「地上組」の一派として再びあのドルーリー・レーン劇場へと向かうこととなるのだが、そこでグレイはとうとう『彼女』と再会する。

グレイ『うわっぶ!!ふ、フロー!!いきなり抱きつくんじゃねえ!!』

フロー「グレイ……ああ、グレイ!!私、もう二度と会えないと思っていました…!」

グレイ『わかった、わかったから離せよ、はしたねえ!お前仮にも"お嬢様"だろうが!!』

フロー「嫌です、離しません!絶対に!」

ジャイロ「おいおいおいおい、こいつは驚きだぜ……あんだけぶっ飛んでておっかねえナイチンゲール殿が、よりによってユーレイにお熱とはよォ〜〜」

ウィンリィ「だ、大胆……!(わ、私だって本当は、エドの奴と…ゴニョゴニョ)」

夜凪「なるほど……この人がグレイの言ってた『天使』なのね」ウンウン

ヒカルド「天使?ケケケ…こりゃあ…アイツもなかなか隅に置けねえじゃねーか〜!」

この会場において、今の今まで顔を合わせることはなかったが、「医師組」の噂は、グレイも密かに伝え聞いていた。
彼女がどこまでも彼女らしく、ドクター・キリコと、ジャイロ・ツェペリと共に、どれだけの命を救い、あの恐ろしい程の前向きさと苛烈さで、どれだけの絶望をねじ伏せて来たか。
離れていても、確かに彼女がそこにいるということが、その存在が、どれだけ自分の中で大きな光になっていたか。

フローの眼を見て、彼女もまた同じだったのだと悟ったグレイは、目をきらきらさせながら何か言いたそうに見つめてくる夜凪やニヤニヤ笑いで冷やかすヒカルドにそっぽを向きながらも、鍔で隠した口許に、そっと微笑みを浮かべる。

この場で戦う全ての者達が、グレイには眩しく見えていた。

そして──灰色の服の男は、この場における、自分の『役割』を改めて胸に刻む。

夜凪「でも、門を壊すって……こんなの、どうするんだろう」

グレイ「なあに。心配いらねえさ。いつもと同じコトをすりゃいいんだよ。要するにコイツをぶっ壊すぐらいの精神の『パワー』がありゃあいいんだろう?」

ジャイロ「……あ〜〜〜〜〜っとォ。ハイハイハイハイそーいうコトね」

フロー「ジャイロ……?あの、何故そこで私を」

ジャイロ「なんでもねえよ。あんたと最初に会った時言ってたろ?"ぶちのめす"ってな!」

ヒカルド「ケケケ、ぶちのめす、か。どうやら話が早くて助かるぜ~っ!!」


兵士から守る『騎士』、舞台の上に立つ『女優』。
声を合わせ、口上を述べる。

『『君達は私たちの演ずる舞台に土足で足を踏み入れ』』
『『この喜劇の喜びを台無しにしてくれた』』
『『よって我らの名誉の章典に従い』』
『『君に私を殺害する機会を与えよう』』

──『『今ここで 君に 決闘を申し込む』』


そして迎えた『精神の門』での舞台。
王立劇場に結実する、「心の戦い」の総決算。

それぞれの敵を抑えに行くジャイロと、ヒカルドと、視線をかわしあい、無言の誓いをかわす。

凄まじいまでの圧と、「自分自身」を演じるという命題に、今までの一つ一つを思い出しながら挑んでいく夜凪とフロー、二人の「女優」。

けれど、必死で舞台を踏む彼女らの元へ、無数の「表舞台から追いやられた」影の群れが──舞台の輝きを妬む、どす黒い心の澱が、どこからともなく沸いてくる。
それを見て、迷いなくグレイの体は動いていた。

──『影』なんぞが、今さら、この舞台を汚すんじゃねえ。

灰色に霞む一陣の風となり、影を斬り払い、打ち払う。
凍える魂を乗せて研ぎ澄まされた刃が、銃弾が、二人へと届く前に、それら『無粋な野次』を刈り取って行く。

──一匹でも多く。一撃でも多く。こいつらを斬り、討ち果たしてやろう。厄介者どもとの一人きりの決闘こそ、俺は、大の得意なんだから。

けれど、同時に、影の攻撃の全てを引き付けたグレイの体は、心ごと存在そのものを削り取る刃に晒され、牙に穿たれ、ボロボロに崩れ始めていた。

「「グレイ!!」」

二人の悲痛な叫びが重なって、それぞれの生き霊がぐにゃりと歪みかけるのを見て、檄を飛ばす。

『まだ、舞台は……終わってねえ!』
『……お前らは…〈灰色の服の男〉の贔屓の女優なんだ……
最後まで、演りきってくれよ』

彼の、〈灰色の服の男〉の役割は。
その独演、それが、この物語における、最後になるはずだった。

けれど──そのまま消えていこうとする幽霊を、消え入る寸前の彼を、いつの間にか舞台を降りた主演女優が、抱き締めていた。

『てめえ、フロー……お前は、舞台を、やりきらねえと……』

唖然とし、押し返そうとするグレイに、フローはそっと頬寄せた。

「わたくしの舞台は……グレイ、貴方と共に」

そうして、自らも影の刃に削られて行きながら、残る全ての闇と影を、彼女の巨大な生霊が、根源から凪ぎ払い、夜凪を救う。そしてそのまま、夜凪へと生霊の剣を投げ渡す。

「……フロレンスさん!!」

「ケイ──共に舞台に立って、わかりました。
貴女は、貴女こそは、私に無いものを持っている。
貴女は……生き霊になど頼らなくても、この舞台に立ち、幕を下ろすことができる……フロレンス・ナイチンゲールが、信じています!
花束《ブーケ》ではなく、そんな武骨な剣をしか託せないことを、許してくださいね。
──ありがとう、私と、グレイと……《ゴースト&レディ》と一緒に戦ってくれて。
私たちを再び、出会わせてくれて」

勇気づけ、背中を押し、感謝を告げるフローの言葉に、夜凪が、主演を託された彼女が、前を向くのを、グレイは見る。
押し潰されそうな舞台の重圧に負けず立つ、誇るべきもう一人の『贔屓の女優』を。

(………ずっとあの客席に座って、何度も何度も、繰り返し繰り返し、芝居に見飽きちまったはずだった──フローを見送って、もう二度と戻るまいと思っていた。
それなのに、ケイ、お前と来たら、そんなこともおかまいなしに、俺の手を思いっきり引いて、舞台の上へ引っ張り出しちまった。
それだけじゃねえ。二度と会うつもりのなかったフローに……俺の『天使サマ』に会えと、強引に背を押したのも、お前だったな……)

フローがジャイロと言葉を交わす中、夜凪と、グレイの視線も、ほんの一瞬、交差する。
言葉はなかったけれど、もうわかっていた。

(……ケイ。
お前の観客で居られて、良かった)

涙が溢れそうになる、その表情すらも演じる顔の中に呑み込んでいきながら、きっぱりと前を向いて演じ続ける夜凪に、グレイは呟く。


──〈灰色の服の男〉の名の下に贈ろう。
──お前と、お前の大切な者たちの紡ぐ物語に、幸あれ。


そして、「舞台に残り、戦う者達」を見送る二人は、消滅の中で最後の言葉を交わす。

「もう、離しませんよ…グレイ」

『バカ野郎、まったくよ……昔から、言い出したら聞かねえんだな』

「だって……
"サムシング・フォー"を、くださったじゃありませんか」

サムシング・フォー。それは、幸せな結婚のための、四つの贈り物。
かつてグレイが取り零し、そして召されゆくフローへと贈ったもの──互いを『天使』と呼んだ二人の、冒険と絆のあかし。

その輝きを胸に、舞台を守り抜いた灰色の男と灯し火の女傑は……ゴースト&レディは、此度の物語から、退場した。


◇◇◇

夜凪景のエピローグ『影法師の見た夢』は、見事に舞台を演じ切り日常へと帰還した彼女の、かけがえのない世界での友との切磋琢磨、数々の試練を超えて数多の役を務めあげ大女優となっていく、その後の物語である。

その回想の最後に、老いたる彼女の引退舞台が描かれたが、寄り添う百城千世子の隣で、花束を手に役者として最後の挨拶を終えた夜凪の眼に、割れんばかりの喝采の中、観客席の『アッパーサークルD列の端』にあたる場所で静かに拍手する灰色の男の影が一瞬よぎり、微笑むくだりで、SSは幕を閉じている。

───我ら役者は影法師、皆様方のお目がもし、お気に召さずばただ夢を、見たと思って、お許しを。

劇場に祝福をもたらす亡霊のジンクスは、この世界線においては確かに、一人の女優の大団円を助け、見守ったのかもしれない。
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最終更新:2024年01月19日 11:22