時空を超えた絆


未来を、救いたかった。
いかな犠牲を払おうとも、この身が絶望を撒き散らす側に成り果てようとも。
あの破滅の未来から、ただ、世界を救いたかった。
――なのに。
私は、何をやっているのだろうな。
切り捨てることが、できなかった。
その手を振りほどくことが、できなかった。
光太郎とアリスを、犠牲にすることが、できなかった。
最後の最後で、庇ってしまった。
全てを託したはずの友との誓いに背いてまで。
私は、新たな友を、庇ってしまった。
ああ、それはなんてパラドックス。
友を護るために、友を裏切らねばならぬという二律背反。
……皮肉な、ものだ。
まさかこの私が、世界に矛盾を問い続けたこの私が、かような矛盾に陥るなどと。
クック、ふっふ、ははははは……。
なあ、これでよかったのか。
悩みに悩んだ果てに、正しいと信じなしたこの裏切りは、大きな間違いじゃなかったのか。
誰よりも苦しみ、絶望に囚われ続けた友を、今再び、独りにし。
あまつさえ、

「だめだパラドックス、死ぬな、死ぬんじゃない!」
「パラドックスさん! パラドックスさん!」

命を賭けて救った新たな友さえ、泣かせてしまうなどと。
ああ。全く、まったく――

「まったく、問題、ない……」

まったく、問題ない。
アリス、お前の言ってきた通りだ。
問題なんてありはしない。
ありはしなかった。
矛盾なんてありはしなかったのだ。
私は世界と同じく、友もまた救いたいとずっと願い続けてきたのだ。

光太郎、アリス。
お前達が、お前達が私に教えてくれたのだ。
私は未来を、救いたかった。
それは紛れも無く私の願いだ。
人としての私の願いだ。
だが、マシンとして蘇り、絶望に支配され、希望というものを頑なに否定するようになってしまったゾーンを目にした時。
私は、否、恐らくはアポリアも、アンチノミーも、強く思ってしまったのだ。
救いたいと。
ゾーンを、我々が置いて逝ってしまい、独りにしてしまった我らが友を、救いたいと。
それが私の機械としての願い。
今、新たな友を護ることでようやく気付けたもう一つの願いだ。

「俺が、俺が、躊躇って刃を止めさえしなければ……!」

だからだ、だからなのだ、光太郎。
かつて友を救えなかったことを悔やみ、今も私の友であるゾーンを殺すことを躊躇ってくれたお前だからこそ。
私は、ゾーンを救うという願いを託して逝けるのだ。

「光太郎……、いや、仮面ライダーBRACK RX……。迷うな……。
 お前のしようとしていることは間違っていない……。ゾーンを、友を救って、くれ……」
「――っ! ああ……、約束だ、約束する、パラドックス。俺は、ゾーンの心に希望の光を取り戻してみせる!」
「私も、私も全力でお手伝いします! だから、だから!」

そうか。
ならば、安心だ。
世界を救うヒーローと、人の心を癒すことを使命とし誇りとする少女。
これ以上なく、友を任せるのに心強い存在はいまい。
私は、ゆっくりと眼を閉じていく。
今際の際に眼に焼き付けた友たちの姿を忘れないようにと胸に刻みながら、二度目の死を迎える。
そこに、一度目のような無念も絶望もなかった。
ただ光太郎とアリスならゾーンを救ってくれるという希望と、彼らとの絆に抱かれた安らかな死だった。

「さらばだ……我が、永遠の友たち、よ」

【逆刹のパラドックス@遊戯王5D's 死亡確認】

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最終更新:2012年01月14日 16:38