「月下の思索」




夜神月は考える。



「全く…馬鹿げている…」



薄暗い遊園地のメリーゴーランドの前のベンチに座る青年、夜神月。
彼は先ほどまで立っていたオープニング会場の事を思い出す。
男女が二人殺された姿。
月も一瞬ははったりだと考えたが、臭いや血から実際に人間が死んだにしかありえないと察する。
なら、何故?何の為に?
ボクは昨日、Lと共にキラを捜索していたはずだ。
確か怪しい売上表からヨツバグループにキラが居る可能性を考え、その後仮眠した筈。
Lの造ったビルはそこらの要塞よりはるかに頑丈でセキュリティも強力だ。ましてやLの前で仮眠していたのだ。
それなのに、ボクは、夜神月は何故ここに連れて来られている。どうやって?
ましてやオープニングが終わった直後軽いめまいをし、気付いたらここに連れて来られている。
オープニングが終わった瞬間のあの時、ボクは気絶していない。これだけは確実だ。
ならばどうやって一瞬にして運んで来たのか?ボク以外の全員がグルしてボクを騙そうとしているのか?
しかしあの死んだ人間は?あれは確かに死んでいた。それに鏡とかいう男も黒いコートを着た男に殺されている。

「…考えれば考えるほど、わからない…」

夜神月はそう言うと立ちあがる。
とにかくこのゲームは殺し合いのゲームなのだ。
もしこうやって無防備にベンチに座って思考にふけて居るとこのゲームに乗った人に発見されると殺されてしまう。
鏡を殺した男や自殺した和服の女性を思い出す。
あの黒いコートの男は明らかに人間の運動神経ではなかった。もう人間を越えた、物理的にありえない跳力だ。
自殺した女性も、あのときボクはあの女の真後ろにいた。
黒い鎧の人が自殺を止めたが、あの直前、女の頭は少し歪んでいてそこから脳みそと血が出かかっていた。
黒い鎧の人が止めたから死ななかったが、あの女は本当に自殺するつもりだったのだ。
しかし問題はそこではない。
あの女は銃など持っていなかったのだ。ただ手をピストルにみせて「ばあん」と言っただけだ。
そんな非人間的な奴らに発見されたら…


「なんだよこれは、漫画か映画か何かか…?」

夜神月はこの世にあってはならない不条理で非科学的な現象に戸惑っていた。
だいいち殺し合いそのものが、見てて楽しいだけの、非生産的で無駄の骨頂だ。
このゲームを開催した人はどこか頭がおかしいだろう、と彼は推理するがそれは無駄である。
その推測に至ったところで彼が殺し合いしなくてはならないのに変わりは無いからだ。

「とにかく人目のない所に移動しなくては…」

夜神月は歩き出す。
彼の歩く、ここ遊園地は相当な規模のものである。彼の地元のスペースランドの三倍はある。
雰囲気や造り、文字から察するにここは日本のどこかである。
しかし日本でこれほどの規模の遊園地はそれ程の数はないはずだ。
だがここはテレビでも雑誌でも見たことがない。もしかしたら建築中でまだ未公開の遊園地かもしれない。
それでもそれにしては人が少なすぎるし、建築中よりはもう完成してるようにしか見えない。

しばらく歩くとジェットコースターの設備が目に入る。彼はその設備の中に入った。
動かないジェットコースターのそばまで辿り着くと、業務室の中に入った。鍵はかかっていなかった。
電源ボタンを押したが、電気はつかなかった。
遊園地一帯すべても停電だったからゲーム中は電気は使えないのだろう。
彼は窓に歩き寄り、カーテンを開けた。
月の光が漏れ、事務室はほのかに明るくなった。

「ここなら先ほどよりは安全だろう」

月はそう言うと肩にかけた鞄を窓際の机に置く。

「たしかあの男は一人つき支給武器が二つあると言っていた…」

彼は鞄の中を探りだした。中にはパンや水などの食料、懐中電灯やコンパスなどの必需品。

「確にこれは支給品一式…」

そう呟くと鞄の底にある箱を発見し、それを取り出す。
白いダンボールの箱を開けるとそこには機械が入っていた。
情報媒体でボタンの無い機械だった。通称、スマートフォンだ。

「…スマートフォン?」

説明書によれば、もう一人スマートフォンを持っている人物と通信する事ができるものらしい。
早速彼は電源を入れて通信を試みるが、相手方のスマートフォンの電源が切られているのか失敗してしまった。

「しかしこれはかなり重要だ…大事にするにこしたことはない」

そしてそのままスマートフォンをポケットの中に入れた。
そしてもう一つの支給武器を探し、それを発見すると彼の顔は青くなった。
ずっしりとした黒い、銃であった。
説明書には毒素とかいうパワーを込めて使用すると書いてあったが、そんな少年漫画じみた能力はボクにはなかった。
幸い奥に薬莢箱があったためボクにも使えるようで一安心した。

だが日本でこの銃が鞄から出て来るという意味を彼は考えた。
日本の銃刀法は厳しくボクのような一般人に銃を渡して得するものは無い。
むしろ警察に通報されたりしたら渡した人物が不利になってしまうだけだ。

警察、と考えて彼は思い出した。
夜神月ははっと周りを見渡し、事務机の上にある電話機を見つける。
彼は受話器を手に取り110とボタンを押す。
しかし、無様にベルの音が空しく延々と鳴るだけで繋がらなかった。

「電波ジャックか、コードが切られているか…」

彼はここ、ゲームの舞台が封鎖された地だと瞬時に理解する。
左手に持ちっぱなしだった銃を内ポケットに入れ、支給品一式を鞄にしまい込んだ。

「とにかく夜のうちは見にくい。懐中電灯を使う訳にもいかない…」

彼は朝になり日が昇る時を待つために、仮眠をする。
事務室の鍵をし、カーテンを閉め、扉の前にはロッカーと大量のダンボールで塞ぐ。
念の為に彼はソファーの下に入り込み毛布で身体をくるんだ。

「こんな馬鹿げた、命を無駄にするゲームなんて…許せない」

「正義の名にかけて、ボクはこのゲームを止めて見せるッ!」


夜神月はそう誓うと、これからに備えて仮眠をした。
ソファーの下に一人、事務室で夜がふけて行く。
だがその男の意思は夜という闇を打ち破らんばかりであった。



【H-5 遊園地・1日目 深夜】
【夜神月@DEATH NOTE】
[状態]:健康 一人でいることに少し不安
[装備]:スマートフォン@現実、ブラックバレル・レプリカ@MELTY BLOOD
[道具]:食料三日分 万能ナイフ コンパス 地図 名簿 筆記用具 時計 ランタン
[思考・状況]1、対主催者
      2、あの非人間的なものは一体…?

※現在の夜神月はキラとしての記憶がありません。

夜神月 44:喪った者、取り戻した者

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最終更新:2014年02月06日 22:49