神の名を汚す者


“悪”とは“絶対”である。
“死”とは“絶対”である。


男、シックスは名簿を見ていた。
地下バーでコルクを抜き、グラスに注ぐ。
薄暗い光に当たり、輝く赤と紫に揺れる色をしたそのワインはまるで悪を象徴する色だった。
シックスはそれを一口飲む。

ことり、とテーブルに置くとシックスは立ちあがる。
丸テーブルが回り、からからと部屋に乾いた音が響いた。
壁につるされたダーツの矢を取り出し彼は名簿に向かって投げる。

ぐさり。

名簿のある名前に矢が刺さった。
その名は『イエス・キリスト』。神の名であった。

「…気に入らないねぇ……」

シックスは呟いた。
立ちながら再びグラスに手をかけ、飲む。
シックスの黒いスーツは薄暗いバーの保護色のように彼を佇ませる。
ごくりごくり。
グラスに注がれたワインを飲み干すと、グラスをテーブルに置く。

「神は、二人もいらない」

シックスは絶対悪の神であった。
テラに、葛西に、ウィジャヤに、DRに。そして数多の信者に。
慕われ、崇められ、感謝され、シックスは神であった。
悪の教典を綴り、世界の闇を塗り替え、人々を虫食い、皆から恐れられ。
彼なきに世界はまわらぬと言う者もいた。

「イエス…キリスト……数千年前に逝ったはずだが…」

シックスは考える。
世界の神であるイエスキリストも所詮我が同等の人間である。
所詮、悟りをひらいただけの人間にすぎない。
彼にとってはその男すら自分より下だと考える。

ジュークボックスからワルツの音楽が流れる。
天井につるされたネオンの看板はちかちかと華やかに点滅する。
棚にならぶワインは然としてただそこに並び続ける。

そのバーのなかをただひとり、シックスは考える。

「気に入らない…」

彼はソード・カトラスを取り出し名簿に向けて狙いを定めた。
ワルツの音を一瞬遮り、薄暗いバーに煙が立ちこめる。
古い板の床にはひとつの薬莢が転がる。

名簿に書かれたイエスキリストという文字は消えていた。

「私が…」

シックスはそう呟き、ワインを手にする。
それを鞄に入れ、鞄を持つ。

シックスは入口の階段を上り外へ出て行った。

神は神を殺すのか。
教典にも載らない教えを我に。

月の光はシックスを祝うように彼を照らした。

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最終更新:2014年03月26日 00:00