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こうして彼女達4人は、本格的にバンド活動を開始し出した。
ボーカル:雪華綺晶、キーボード:真紅、ギター:水銀燈、ドラム:翠星石 というように組まれ、少し彼女等で特殊だったのは、そこにベーシストがいないということだった。
四人は"THE MAIDENS"(姉妹たち)とバンドに名前をつけ、ウィスキー・ア・ゴーゴーのバーにてライブを演奏した。

ウイスキー・ア・ゴーゴーはカリフォルニア州ウエストハリウッドにあるナイトクラブで、アメリカで最初の本格的なディスコであると言われている。

このクラブには伝統的に"ゴーゴーダンサー"と呼ばれる演出のコンセプトがある。
それはステージの右側に大きな檻を天井から吊るして、その中で女性DJたちが踊ってバンド演奏の観客達をより楽しませるというものである。
この檻の演出の源はジョニー・リバーズの率いるバンドにさかのぼり、このバンドがそもそも初めて演出として、演奏の合間に女性DJを檻の中で踊らせるというパフォーマンスを展開したのだが、それが人気となったのか、あるいはウィスキー・ア・ゴーゴーの象徴的な演出と考えられたのか、いまでも伝統化して続き、真紅達のバンドMAIDNESが曲を演奏するときも、右側では檻のなかでミニスカートの女性たちが踊っていた。


Before you slip into unconsciousness
"あなたが無意識の海に滑り落ちてしまう前に"

I'd like to have another kiss
"もう一度だけキスを"

Another flashing chance at bliss
"あのときめくようなようなキスを"

Another kiss, another kiss
"もう一度だけキスを"

ステージの中心でマイクを握り、片方しかない左目も瞑って雪華綺晶は自ら作詞したその曲を静かに歌い続ける。
クラブの多くの客が、その新しいバンドに注目していた。メンバーのほとんどが若々しすぎるほどの乙女たちで、しかもそのメンバーそれぞれが、まるでヨーロッパのアンティークドールのような凝りに凝ったドレスを纏っていることも、客の目を引いていた。


The days are bright and filled with pain
"日々は煌き 痛みで満たされる"

Enclose me in your gentle rain
"私はあなたの優しい雨に包まれて"

The time you ran was too insane
"逃げていく時にはあまりに残酷でしょう"

We'll meet again, we'll meet again
"私たちはきっと、きっとまた会える"

ここで間奏が入り、真紅のピアノが鳴り渡る。
真紅は左手でローズ・ピアノベースを弾き、右手でVOXコンチネンタル・オルガンを演奏するスタイルをとっており、それが彼女達の音楽の音も印象的にさせている。


Oh tell me where your freedom lies
"聞かせてください…あなたの自由がどこにあるのか"

The streets are fields that never die
"その道は決して死ぬことのない世界のもの"

Deliver me from reasons why
"私に理由を届けてください"

Youd rather cry, Id rather fly
"あなたは泣くでしょう、私が飛んでゆくのだから"

雪華綺晶の歌う歌詞の意味に頭を傾げる観客は多かった。意味は難解で、その真意を掴みづらい。
しかしその異世界へトリップしていくような歌詞も、魅力的に響き渡る透き通った声も、そして彼女自身の白い薔薇を象ったルックスなどが、まるで幻想の世界からやってきた異様の少女のようだと、ほとんどの客を魅せつつあった。

全てを映していながら何も見てはいないかのような、虚ろな金色の瞳をしながら歌い続ける、白薔薇の少女。
そんなふうに観客からは受け取られ始めていた。


The crystal ship is being filled
"水晶の舟は満たされている"

A thousand girls, a thousand thrills
"千の乙女たちが、千の楽しみを積んでいる"

million ways to spend your time
"あなたの時間の過ごし方は百万通りあるの"

When we get back, Ill drop a line
"私たちが戻ったときは、手紙を送るでしょう"

この歌の詩のラストの部分は特に難解だった。
雪華綺晶自身はこれをケルト神話の水晶の船からとって、作詞していた。
神話の主人公コンラが、海と豊穣の神マナナン・マクリルより与えられた水晶の船を使って、不老不死の世界へ旅だっていくという部分を引用している。
水晶の船を使ったコンラは二度と故郷に帰れることがなかった。それは帰りのない旅だったのである。
それを、「帰りのない旅に出る」 = 別れの歌 というように発想し、作ったのがこの曲"The crystal ship" といえる。
それは切ない別れのラブソングのように見えるが、雪華綺晶にとっては、これは自分の好めない「人間という男」という存在に対しての「別れ」と、水銀燈という人への密やかな想いという意味あいを持っていた。

"The crystal ship(水晶の舟)" の演奏が終わったバンドは、次に演奏する曲として"Light my fire(ハートに火をつけて)" にさしかかった。
あのとき水銀燈から紹介され、あからさまなポップな内容に雪華綺晶が生理的に嫌悪を抱いたあの曲だ。

その内容がどうにか雪華綺晶に受け入れられ、いまこうして演奏されようとしているまでには、ちょっとしたエピソードがある。

ウィスキー・ア・ゴーゴーでバンド活動ができることが決まり、メンバーが意気揚々としていた時のことだった。

「私の"Light my fire"の歌詞を書き換えたいですって?」水銀燈は驚いたように雪華綺晶の提案を聞き返した。

「…そう。私はどうしてもこのLight my fire を、このように歌いたい」

そういうと雪華綺晶は相手の反応もみずに、一方的に自分の書き換えた自分版 Light my fire のメモを、水銀燈に差し出した。

元々の水銀燈の考えた歌詞はこうである:


You know that it won't be true
"心配などいらない"

You know that go away is fool
"逃げるなんておばかなことはしないこと"

if I was say to you
"あなたに何か言うとするなら"

come on , we'll couldn't get much heet
"私たち、もっと熱くなれるんじゃなかったの?"

come on baby , Light my fire x 2
"さあ私の気持ちに応えて"

Try to set night on fire
"この夜を熱く過ごしましょう"

雪華綺晶はこの曲を、このような歌詞に書き換えて提示した:


You know that it would be untrue
"あなたは知っている これは偽りだと"

You know that I would be a liar
"あなたは知っている 私が嘘つきだとも"

If I was to say to you
"私が貴女に何か言うとするなら…"

Girl, we couldn't get much higher
"私たち、このままではハイになれない"

Come on baby, light my fire x2
"さあ私のハートに火をつけて"

Try to set the night on fire
"この夜を熱く過ごしましょう"

さらに続きの部分まで書き換えれていた。
元々の水銀燈の作った歌詞は:


The time to hesistate is though
"ためらう時間は終わり"

Do not go back on window mine
"窓越しに私に背くんじゃないの"

Try now we can only lose
"いますることさえすれば"

And our love are bearing fine
"私たちの愛はうまくいくの"

come on baby , Light my fire x 2
"さあ私の気持ちに応えて"

Try to set night on fire
"この夜を熱く過ごしましょう"

雪華綺晶はこう書き換えた:


The time to hesitate is through
"ためらう時間は終わり"

No time to wallow in the mire
"沼で溺れている時も"

Try now we can only lose
"いますることさえすれば"

And our love become a funeral pyre
"私たちの愛は燃え上がって火葬となるの"

Come on baby, light my fire x2
"さあ私のハートに火をつけて"

Try to set the night on fire
"この夜を熱く過ごしましょう"

「なにこれ…?偽り?嘘つきぃ…?」

水銀燈は唖然とした顔で、生まれ変わった自分の歌詞を凝視していた。

「しかも"私たちの愛は燃え上がって火葬となるの"ってどうみても死んじゃってるし…。しかも最初で"私が嘘つき"なんていっちゃったら、恋愛の元も子もないじゃなぁい…。てか、あなた女の癖してなんで"girl,we coudn't get much higher"なのよ?」


しかし雪華綺晶はこうでもない限りは"Light my fire"は歌わないと言い切った。

水銀燈はえらく不満だったが、真紅がまたそれを"恋愛の燃えるようなハートに破滅的誘惑が織り交ぜって絶妙な歌詞に仕上がった"と絶賛し、結局"Light my fire"は、このようにして完成版としてバンドで演奏されることとなった。

雪華綺晶がこう歌詞を書き換えたのもまた人間の男への拒絶があったからだった。
"火葬となって燃え上がる"には私に近づくなという意味があるし、girlと歌詞を書き換えて誘い相手を女性に限定してしまった理由もそこにある。

"ハートに火をつけて"の演奏が、ウィスキー・ア・ゴーゴーで始まった。
初演奏ではあったが、ボーカルが見つかるまでの間、バンドはずっと以前より曲作りと練習に励んでいたので、もう慣れた様子でイントロが始まった。

真紅のオルガンが鳴る。印象的な導入部だ。


そして雪華綺晶が音楽にあわせ歌い始める。


You know that it would be untrue ,

You know that I would be a liar ,

If I was to say to you

Girl, we couldn't get much higher..

Come on baby, light my fire

Come on baby, light my fire

Try to set the night on fire

さっそく歌詞の歌い初めから、耳を疑うというような客の反応がところどころに見えた。
「偽りで、相手が嘘をついていると知っている」のに、「私のハートに火をつけて」くれというのか。
それこそ詐欺恋愛だ。それを誘う歌ともなれば、自ら破滅にすすんでいくことを誘発する危険な曲ともなりかねない。
最も、作詞した雪華綺晶の狙いがまさにそこにあったのだとしても。

雪華綺晶は歌を続ける。


The time to hesitate is through,

No time to wallow in the mire

Try now we can only lose

And our love become a funeral pyre

Come on baby, light my fire

Come on baby, light my fire ..

曲が、真紅曰く「燃えるような恋心と織り交ざった破滅への衝動」にむけて盛り上がっていく。
この歌詞の部分を歌うのは二回目で、曲自体もクライマックスを迎えつつあるため、より盛り上げるようにここではボーカルの雪華綺晶と同時にキーボードの真紅も同時に歌うようになっていた。
2人の声が重なって、曲はその名の通り聞く者のハートに火をつける。


You know that it would be untrue ,

You know that I would be a liar ,

If I was to say to you ....

Try to set night on ,fire !
雪華綺晶が歌詞の最後の部分を歌い終える頃には、クラブ中が彼女に奇怪な視線を向けていた。世界の一体どこに"一緒に火葬の蒔きとなって燃え上がりましょう"などと誘うラブソングかあるのかと。


Light my fire を歌い終わった雪華綺晶は思いつめたように顔を落とし、マイクを持った右手も垂れ落として、その金色の瞳でじっと地面を見つめていた。
ポップなソングのはずだったのに、それを歌い終えた彼女にはまるで死すら見出せるほどの重たいオーラを漂っている。

何故そこまで彼女がLight my fireを歌ったあとに苦悩するような姿を見せるのか理解できる者は、まだその場にはゼロといっていいほどいなかった。

そしてそんな重たい空気のまま、次の曲へとバンドの演奏が移った。
今日の演奏の最後をしめくくる曲 - その名の通りの、"The End"という曲だ。




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最終更新:2008年06月06日 16:04