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真紅は心底から楽しそうに雪華綺晶の手を引っ張りながら、バンドの仲間達のところへ彼女を連れて行った。

「すごい人材を見つけてしまったのだわ……この子は間違いなくボーカルとして天才よ」

真紅の怪しい独り言は、行き先も分からないところへ連れて行かれる雪華綺晶を不安にさせた。

「着いたわ」

真紅は雪華綺晶に言った。

「私達のバンド仲間がよく待ち合わせにしているところ。みんないるわ」

「あらぁ真紅ぅ、おかえりなさぁい。あら…?その子は誰…?」

「おかえりですぅ。一体さっきまでどこいってたです…?真紅?」

「紹介するわ」

真紅はバンド仲間達に雪華綺晶という白い少女を出した。

「この子は…。あら?」

そこで真紅はある事実に気づいたらしい。

「私としたことが、まだ名前も聞いていなかったわ。貴女の名前はなんだったかしら?」

「私は雪華綺晶。ここではないところの創造に興味を持って、UCLAの映画科に通っています」

「そう…名前まで素敵だわ」

真紅はベタ褒めする。

「雪華綺晶というそうよ。そしてみんな聞いて。とうとう見つけたのだわ…」

「まさか、真紅?」

バンド仲間たちの密やかな期待が高まる。

「そう。私たちのバンドのボーカルが見つかったのよ」

その場の者達が沸きあがったようにみんな立ち上がった。

「ほんとです?真紅?」「ほんとなの?」

「ええ。しかも間違いなく彼女は本物よ。」

自信たっぷりに真紅はいう。

「さっきこの子と出くわしたばかりなのだけれどね。
詩を作ってるらしいの。それを聞かせてもらったのだわ。そしたら……」

真紅の目が輝きだす。

「とにかく、これで私たちが本当のバンドとして活動できる日がついにやって来たのよ!」

「ちょっと待って。真紅。あなた随分と興奮してるようだけどぉ」

その場の者たちのうち、雪華綺晶とは対照的な色の、黒いドレスを纏った少女が乗り出てきた。

「私はまだその白い子がどうボーカルに向いているか分からないわぁ。」

そして彼女は雪華綺晶に迫っていく。

「あなた、詩を作っているそうだけど、私とてこのバンドの中では歌詞を作る担当の者なの。主にポップな、おばかさん向けの分かりやすい歌詞だけれどね。
あなたのほうはどうなのかしら?今ここであなたの詩とやらをここで作って、私にきかせてちょうだい。それまではあなたをボーカリストとして迎えるわけにはいかないわ」

雪華綺晶はその黒いドレスの少女の提案を聞くことよりも、姿そのものに釘付けになっていた。
美しい銀髪、妖麗な振る舞い、声、そしてスカート。その伸びたオーバーのスカートの部分には逆十字が刻まれている。
"逆十字"は本来聖ペテロの象徴だったが、ロックバンドやブラックメタルバンドの世界では"悪魔崇拝""反逆的"の意味合いが強い。

雪華綺晶は心の中で思った。私はこの人に一目ぼれした、と。

彼女がその黒いドレスの人に惹かれたのはその反逆的でサディスティックな美しい容姿と態度だけではない。
まるで本来の自分を押し殺して苦しみの荒野をもがいているような、そんな裏面が感じられたからだ。
それに加え、雪華綺晶は"反体制"、"反逆"、"転覆"といったものが好きだった。

「どぉしたの?私の顔がそんなにおかしい?」

高圧的な口調で言いながら、黒いドレスの少女は一気に雪華綺晶に顔をちかづけ、下から覗き込むようにして問い掛けた。

「詩、作れないのかしら?」

急に接近してきた黒いドレスの少女の顔に雪華綺晶の意識がそこに戻った。胸を高鳴らせる。

本来詩とはこういう胸が躍っているときなどにも作るものだ。さっそく彼女は黒いドレスの少女にむかって、頭の中で作られた即興の詩を読み上げた。


pitful , lovely sister
"可哀相なお姉さま"

That bounding you in love is vine
"愛といういばらがあなたを縛り付けている"

lovely sister
"愛しいお姉さま"

No use acrossing love line
"愛の境界を見つけても救われないのに"

Your bounds still remain
"貴女の呪縛は消えない"

"That coursing , coursing in gall is vine"
"ぐるぐると巡る、それは憎しみの縛り"

詩をきいていた黒いドレスの少女は、その反応として顔をしかめながら最後まで聞いていた。そして雪華綺晶が詩を読み終えると、

「なぁに…この子?頭大丈夫なのぉ…?」

黒い少女はただそういって、気味悪いものをさけるような動作をした。

「この私が縛られてるですって?ってか、お姉さまぁ…?」

「ま、まあいいじゃないの…。それよりも声、素敵だと思わない?私ったらまた彼女の声に夢中になったわ……」

訝しげに、黒いドレスの子は雪華綺晶の顔を見据え続けていた。

「…ふぅん…。ま、いいけどぉ。ボーカルが足りなくて困っていたところだしねぇ。真紅がそこまでいうなら…。さっきは悪かったわねぇ、まるで脅すようなことをして。
ま、悪くはないんじゃなぁい?私は水銀燈。このバンドのギタリストとポエムをやってるわ。ああそれと…。私のほうの詩をあなたにまだ見せてなかったわね。」

水銀燈という名の黒いドレスの少女は、小さなノートをバッグより取り出した。そのノートにいろいろ自分なりの歌詞を考えつつっているらしい。

「バンド活動としていま作りたい曲は、この歌詞の曲なんだけれど……」

水銀燈はそのうちのあるページを開くと、それを差し出して雪華綺晶に向かって見せた。雪華綺晶もそれを受けとり、ページに書かれた歌詞のメモを心で読み上げた。


You know that it won't be true
"心配などいらない"

You know that go away is fool
"逃げるなんておばかなことはしないこと"

if I was say to you
"あなたに言うとするなら"

come on , we'll couldn't get much heet
"私たち、もっと熱くなれるんじゃなかったの?"

come on baby , Light my fire x 2
"さあ私の気持ちに応えて"

Try to set night on fire
"この夜を熱く過ごしましょう"

雪華綺晶はまず反射的にその歌詞内容に嫌悪感を覚えた。

この歌詞を作った彼女自身も言ってはいたが、こういう分かりやすいポップなラブソングは雪華綺晶は好きでない。
そもそも男というような存在が汚らわしく映り、触れたいとも話したいとも全く思わないからだ。
ところがこの歌詞の内容ときたら、要するに歌いながら性行為を誘うような、そういうありきたりすぎるものだ。
続きの詩も大体それにのっとった内容になっている…。


The time to hesistate is though
"ためらう時間は終わり"

Do not go back on window mine
"窓越しに私に背くんじゃないの"

Try now we can only lose
"いますることさえすれば"

And our love are bearing fine
"私たちの愛はうまくいくの"


come on baby , Light my fire x 2
"さあ私の気持ちに応えて"

Try to set night on fire
"この夜を熱く過ごしましょう"

雪華綺晶はノートの歌詞を読みおえ、ゆっくりと顔を上げると水銀燈を覗いた。

「私がボーカルをするとなると、これを歌わなければならないのですか」

「なぁにそれ?どういう意味?」

その雪華綺晶の反応に水銀燈は不機嫌さを露骨に示した。

「私の歌詞が気に入らないとでも言いたいの?」

「いえ……」

確かにこの歌詞は、歌の為の詩としての歌いやすさ、韻、響きとノリは秀逸だろう。しかしこのラブソングを、水銀燈という人を前にして自分は見ず知らずの者たちに歌わなければならないのか。

けれど…。ここで自分がボーカルになることをここで断れば、二度と水銀燈とはあえないだろう。この美しい人に。

雪華綺晶は、最初誘ってきた真紅という紅のドレスの少女に顔の向きをかえ、こう質問した。

「私のつくった詩も歌えるのでしょうか」

にこっと、真紅は微笑むといった。

「当然じゃない!あなたの詩のイメージに私達が音を加えて、音楽を作って
いくのよ。」

「そうですか。私はたったいまこれが悪い話だと表現するための方法を見失ったみたいです」

自分の詩を多くの人に聞いてもらえるいい機会ともいえるのかもしれない。それに自分の詩を元に音楽を作ってくれるらしい。

「迷子のボーカル、私をそんなふうに見てくれてもよいでしょう。なぜならきっとこれからこのバンドが、あるべき道を無視した人たちの、運命の紡ぐ糸車となるからです」




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最終更新:2008年06月06日 15:53