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水銀燈は毎日ギターを抱えてめぐのところへ行った。
めぐも水銀燈を快く歓迎した。
病院は迷惑していたし、看護士達も困っていた。
しかし、一部の看護士はめぐが生きる希望を取り戻してるように思えて、心から喜んでいた。
患者達はめぐと水銀燈の演奏に酔いしれていた。

そんなある日…めぐは急に発作を起こした。

「めぐ!めぐ!」

慌てて水銀燈はナースコールに手を伸ばす。
しかし、その手はめぐに防がれた。

「…や…め……て…」
「めぐ!手を離しなさい!!あなた…死にたいの!?」

そう言った後、一瞬水銀燈は力を緩めた。
分かっていたことだ。めぐは死にたがっていた。
周りからは生きようとしていたように見えたかもしれないが、めぐは水銀燈にだけ毎日言っていた。

「美しい物は枯れて消えていく様子が美しいの…」

退廃的なめぐの美的センスは、水銀燈の演奏に合わせて歌う自分も「美しい物」に含んでいたらしい。

「(でも…)」

再び水銀燈は力を入れ、めぐの手をふりほどいた。そして、ナースコールを掴む。


「…あれ…?」

めぐは目を覚ました。辺りを見る。いつもの病室だった。

「…また、死に損ねちゃったな…」

ポツリと呟く。
ふと、自分の体に何かが乗っていることに気づく。
ベッドにもたれ掛かって眠る白銀の髪…水銀燈だった。

「…ふふ、まるで天使みたい…」

願わくば彼女が、自分の命をさらう死の天使で居て欲しいと、めぐは思った。

「…あなたが、柿崎めぐさんね?」

突然声をかけられ、めぐはそちらを見た。
そこには少女が立っていた。
学校の帰りに寄ったらしく、服は制服だった。

「あなたは…水銀燈のお友達?」

水銀燈の話に聞いていた金髪の少女、真紅であるとめぐは気づいた。

「そう、私は真紅。水銀燈とは友達というより…腐れ縁って感じなのだわ」

そう言って、真紅は水銀燈の隣に腰掛けた。

「水銀燈が貴方の話をよくしてたわ。バンドの仲間で、ライバルだって」
「そう…私も貴方の話はよく聞いてるのだわ…昔の自分にそっくりだって…」

そう言うと真紅は微笑み、水銀燈を見つめた。
水銀燈の頬には、透明で綺麗な雫の後が残っていた。

「…昔の、自分?」

めぐは首を傾げる。
めぐの中で水銀燈のイメージは、人を食ったような態度や時々見せる冷たい瞳。
そして、人並み外れた妖美さと才能…
そのどれもが、水銀燈を神聖視するものだった。
そんな彼女の何処が自分と似ていたのだろう?

「…水銀燈にはね、親が居ないの…」

話はそこから始まった。水銀燈の過去の話…

水銀燈がまだ小学生だった頃、両親と行った旅行の帰り道。
彼女たち一家を乗せた車は事故にあった。

水銀燈は重傷を負ったものの命に別状はなかった…しかし、彼女の両親の命は助からなかった。
この事故は水銀燈の腹部と、心に大きな傷跡を残した。

…親族が居なかった水銀燈はそのまま施設に預けられることになる。
ここで、水銀燈は随分辛い思いをしたらしい。
詳しくは真紅も聞いてないそうだが、その瞳の色と髪の色は他の子供から不気味がられた。
子供は純粋だが、時として残酷である。
純粋であるが故に、知識なく人を傷つける。

「そのときから、水銀燈は…」

ちらっと、真紅は水銀燈を見る。丁度それは見える位置にあった。

「…貴方も見てみると良いのだわ」

めぐはそう言われて、真紅の指差す部分を見る。

「…!?」

それは、手首に何重にもつけられた刃物による切り傷…
リストカットの後だった。

「今はしていないけど、私が彼女に会った頃はまだしていたわ…こうしないと自分を保てなくなるんだって言って…」

真紅は悲しそうな顔で、

「その時の私には、彼女をとめることが出来なかったのだわ」

と付け足した。それから、彼女が水銀燈と出会った頃の話を始める。

二人が初めてであったのは中学生の頃。
水銀燈は当時、大人しい女の子だったそうだ。
今からは全く想像できないが、今のような眼力はなく、気弱で、人付き合いがとことん苦手だった。
その性格も災いして、ここでも彼女はイジメにあうことになる。
真紅はそれでも水銀燈のことを気にかけ、振る舞っていたものの…
次第に追いつめられた水銀燈は…

「…校舎の屋上から…飛び降りたの」
「!!?…それで…」

めぐは身を乗り出した。今の水銀燈からはとても想像がつかない。
彼女が自分と同じ「死にたがり」な人間だったなんて…
無論、立場は全然違う。しかし、根本は同じだ。

自分に絶望し、周囲に絶望し、死を望むようになる。

めぐは初めて会った時、何故自分が彼女を追い出さなかったのか分かった気がした。
その冷たく気丈な瞳の奥に、自分と同じ色を見つけたからだ。

「自殺は勿論失敗だったわ。うちの中学が比較的低い建物だったことと、下に偶然大型のトラックがあって、そのコンテナがクッションになったらしいのだわ…」

「水銀燈はそのまま病院に入院して…退院する頃には私の前から姿を消してしまったの…他の施設に預けられて、転校することになったの…」

真紅の語り方は非常に悲しげで、心から水銀燈を心配していたことを感じさせた。

「…私は、後悔しながら中学生活を続けたわ。何故、水銀燈を止められなかったのか、何故、水銀燈を救ってあげられなかったのかって…」

そこで、真紅は一呼吸置く。水銀燈をチラリと見た。まだまだ起きる気配は無かった。

「…そんなある日…そう、それから1年半くらい後かしら?いきなり水銀燈と再会することになったの」
「?…いきなり?」
「そう、本当にいきなりで、偶然だったのだわ」

真紅はその日のことを思い出し、さっきまでの暗い顔から一転して苦笑気味の表情になった。

「この娘に再会したのは、御茶ノ水にあるレコード店だったの…ディスクユニオンって知ってる?」

真紅が聞くとめぐは首を横に振った。

「…まぁ、そこを説明すると長くなるから、今度水銀燈に聞いて」

真紅は再び本題を話し出す。

二人が偶然の再会を果たしたのは御茶ノ水にあるディスクユニオンのハードロック、ヘヴィメタル館だった。
真紅は好きなハードロックバンドのCDを探しに行った。

「あらぁ?真紅じゃなぁい」

そこでいきなり声をかけられた。その声に驚きふり返ると…

「…水銀燈?」

そこに、ずっと心に引っかかっていた少女…水銀燈が立っていた。





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最終更新:2008年03月22日 21:59