「…う~ん…なかなか見つからないなぁ…」
蒼星石はあこがれのロックスターの墓を探し続けていた。
「もうあまり時間もないし、早くしないと!!」
と、そんなとき。彼女にとっては懐かしい歌が聞こえてくる。
…歩いても 歩いても…
…果てどなく 果てどなく…
蒼星石は驚いて、歌声が聞こえてきたほうを見る。
ボサボサの長髪で、目の奥に鋭い光を持つ男だった。
パッと見た感じ、危険な男だった。
しかし、蒼星石は何故か男に危険なものを感じなかった。
「チャー坊…?」
男は振り返り、笑って見せた。
「久しぶりだな…嬢ちゃん」
蒼星石は男、チャー坊に近づく。村八分時代のチャー坊にそっくりな男。
あの頃と…何も変わっていない…
蒼星石は思わず訊ねた。
「…あなたは…あなたは誰なんですか?」
チャー坊は黙って聞く。
「中学生の僕にロックを教えてくれたチャー坊なんですか?」
「ロックとは何か悩む僕にロックを教えてくれたチャー坊なんですか?」
「それとも…本物のチャー坊の亡霊なんですか?」
蒼星石は真剣な表情でチャー坊に訊ねる。チャー坊も真剣な表情を浮かべた。
「…付いてきな」
チャー坊は背を向け、歩き出す。蒼星石は言われたとおり、後に続いた。
しばらく歩くと、そこには墓石があった。
チャー坊の本名と、村八分の曲「くたびれて」の詩が書かれた墓石が…
「これが…」
「…「俺」の墓だ…」
蒼星石はチャー坊の方を見る。暮れかけの太陽によって、その表情は見えなかった。
「…あなたはやっぱり…チャー坊なんですね?」
蒼星石は初めて出会ったときから感じていた。
自分がロックについて悩んだ時に現れる「チャー坊」の現実のものと思えぬ雰囲気。
自分が出会ったチャー坊こそ、死んだロックスターの亡霊なのではないかと…
「…少し、違うな…」
「え…?」
チャー坊の表情は見えないが、笑っているように見えた。
「俺たちは、お前らが悩んだ時、苦しい時に…何もかも壊したくなったり、ぶっ壊れたくなったりした時に、それを実現してみせるものだ…」
チャー坊が言う意味が、蒼星石にはよくわからなかった。
蒼星石は首をかしげる。
どういう意味なのか?
それではまるでロックそのものじゃないか…
…ロックそのもの?
蒼星石は何かを悟ったように目を見開く。
「なんとなく分ったか?」
チャー坊が言うと、蒼石星はこくりと頷いた。
目の前の彼は、いうなればロックの化身なのだと蒼石星は感じ取った。
「お前たちが苦しんだ時、辛くなったとき、俺たちはお前たちを見守り、力を与えてきた」
「…それが僕にとっては、チャー坊だったんですね?」
チャー坊は頷く。そして、笑顔を浮かべた。今度ははっきりと表情が見えた。
「しかし、お前みたいなやつは珍しいぞ?初めはどうであれ、ロック聞いてればカート・コバーンやらシド・ヴィシャスやらに心変りしてくのに、お前はずっと俺一筋だ」
「…チャー坊がいなければ、今の僕は…ううん、僕たちは在りませんから」
蒼石星は言うと、チャー坊は嬉しそうな笑顔を見せた。
「…今日はな、お前にお別れを言いに来たんだ」
「…お別れ?」
チャー坊は蒼石星に背を向ける。
「お前たちは、もう俺達と同等のロックスターなんだ…もう、俺たちの支えは必要ないだろう?」
「そ、そんな!僕なんてまだまだ…」
「いいや、お前たちならもう、大丈夫さ…なぁ!」
チャー坊が蒼石星の方へ振り向き、声をかけた。
その時、蒼石星は自分の背後の気配に気付き、振り返る。
ニッと笑った男達が立っていた。その男達は蒼石星もよく知る人物であった。
蒼石星は唖然とする。
シド・ヴァレット、フランク・ザッパ、ジミ・ヘンドリクス、エリック・カー、シド・ヴィシャス、そしてブラックメタルバンドMEYHEMのVo.デッドが並んでいた。
全員が(デッドだけは無表情)頷く。彼らもまた、チャー坊と同意見のようだ。
「…僕は…僕たちは、もう彼らと同等…」
「そうだ…俺が君にロックを与えたように…今度は、お前が誰かにロックを与えてやってくれ」
「…はい」
蒼石星が頷く。
「…じゃぁな…」
……せき
…うせき
蒼星石
「蒼星石!」
「うわ!!?」
耳元で名前を呼ばれ、蒼星石が目を覚ました。場所はチャー坊の墓前で、周りにはローゼンメイデンのメンバーがみんな集まっていた。
「えっ?みんなどうしてここに?」
「あなたがあんまり遅いからぁ、探しに来たのよぉ」
「こんなところで寝てはいけませんわ。風邪をひきますよ…お姉さま」
「全く、ローゼンメイデンのベーシストともあろうものが…」
「…無事で…よかった」
「うゆ~、ライブまであと少しなのよ~」
「やれやれですぅ~」
翠石星が手を差し伸べる。
「早く行くですよぉ?蒼石星」
そう言ってほほ笑む翠石星。
「うん!!」
蒼石星はその手をとり、メンバーたちと駈け出した。ライブハウスへ向かって。
「(今までありがとう…チャー坊…これからも、僕らを見守っていてね)」
最終更新:2008年10月04日 21:17