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ねぇ、めぐ憶えてる?私と初めて出逢った時のこと・・・
貴女は私を天使と呼んだけど、私にとって貴女が私の天使だった
光も通らないような暗闇で
小さく膝を抱えていた子供に手を差し伸べてくれたのは
―――貴女だけだった
ねぇ、めぐ。今でも歌ってる?
変わらないあの笑顔と一緒に・・・
私たちが再びどこかで出逢えるのなら
二人で見たどこまでも青い―――この空の下で
*
めぐに会えなかった最初の三日間は、両親との間に出来てしまった溝を埋めることにした。
まず最初に朝、昼、晩と一緒にごはんを食べ、とにかく喋った。
よくお箸が止まってしまい、注意された。が、そんなのは気にしないで喋り続けてやった。
最終的には二人とも呆れ顔になったが、笑って受け入れてくれた。
三日目の夜、これで関係はいい方向に向いたと確信した。
だからお風呂の中で小さくガッツポーズ。
「ヤッタ・・・!」
その日もよく眠れた。お日さまの匂いのするシーツに包まれて。
―――次の日、残り四日間をどう過ごそうか、と悩んでいたらママが「とりあえず外に出たら。はい、コレ。無駄遣いしちゃダメよ」
とお小遣いと背中を押してくれたので、外に出ることにした。
久しぶりの外に身体をさらすと、太陽はまだジリジリと熱視線をぶつけてくる。
「さぁて・・・行きますかぁ」
テキトーに歩いていたら、足はいつもの公園の方へと向かっていた。
「・・・めぐがいないのに行っても意味がないわぁ」
私は街の方へ進行を変更した。
街の中心地に着いた時には丁度お昼頃だったので、久しぶりにハンバーガーでお手軽に済ませた。
その後はウィンドゥショッピングやめぐが教えてくれたミュージシャンのCDを探したりなどで時間を潰した。
途中、二人組の男達が話かけてきた。しかしことごとく無視してやった。
そんな私の態度に腹を立てたのか、そのうちの一人が私に掴みかかってきたので、その手を払いのけると同時に右ストレートを放った。
―――バギッ!
擬音で表現するならこんな音――――殴った相手が鼻を押さえて地面を転げ回っている。指のスキマからは血が流れている。
無傷な一人はビックリして石像みたいにフリーズしている。
いや、あまりにキレイに入ったので私もビックリしているのだが。
「ごめんなさぁいね。でもぉ、話しかけるなら五年は後にしてちょうだぁい。お兄さんたち、まだ法律は犯したくないでしょ?」
私の言葉が耳に届いたのか、石像Aがビクッとした。
そのまま急いで鼻血男に肩を貸してそそくさと逃げていった。
逃げていく途中、鼻血男が口の中でボソボソと何か言っていたが興味はなかった。
どうせ―――仕返ししてやるとかふざけやがってとか口じゃ言えないことをいつかお前の身体にしてやる―――などの下衆で陳腐なセリフを吐いていたのだろう。
―――来るなら来ればいい。泣き寝入りという言葉は今の私の辞書には存在しない。
目には目を、歯には歯を。やられたらやり返す。サーチアンドデストロイ。
もしも歯向かって来るのなら、自分みたいなザザ虫がこの世に生まれてきてごめんなさいと心の底から思わせて地獄に落としてやる。
そんなことを考えていると少し頭がクリアになってきた。
少し曇りがちだった気分も晴れたので、今日はここら辺で帰ることにした。
「まだ四時かぁ・・・ま、いっか」
早く帰ってきたらママは少しビックリしてた。
「あら、意外と早かったわね。で、楽しかった?」
「まぁまぁかしら」
「それじゃ楽しかったってことね」
「そういうことになるかな」
「暑かったでしょ、夕飯の前にシャワー浴びてきなさい」
「はぁい」
手早くシャワーを済まし、夕飯を食べた。今日も会話はかかさない。
昼にあったことをママに話したら「あらあら」と驚いた。しかもそれだけじゃなかった。
「コブシで殴るのは指を骨折するかもしれないから、今度は手の平で殴りなさい。そっちの方が強力だから」とアドバイスもくれた。
少しの沈黙の後、私は「・・・・・・わかったわぁ」と答えた。
これが一般的な母と娘の会話なのかな・・・まだわからないなぁ。
今日は久しぶりに外に出たから早めに寝た。
いつもは枕元に置いてある等身大くんくん探偵を抱きながら、五分後には眠りの世界に誘われ―――クゥクゥ・・・
次の日は昨日が昨日だったので、あまり遠くには行かずに近所の図書館に行くことにした。
閉館時間ギリギリまで久しぶりに沢山本を読んだ。
定番の江戸川乱歩から始まり三島、谷崎、夢野久作はもちろんのこと、当然のように講談社ノベルズも忘れてはいけない。
高田崇史のQEDシリーズがお気に入りなのだが、最近は舞城王太郎も捨てがたいと思っている。
今度借りてみよう、図書館を立ち去る時そう思った。
この日も平穏に時は過ぎていった。
今日もくんくんは―――私の隣りで一緒に寝ている。
「早く・・・めぐに会いたいなぁ・・・」
口からこんな言葉がこぼれた時
―――まるで恋する乙女みたい
と思った。
「・・・バカバカしい・・・寝よ」
シーツを頭まで被ると世界は暗闇になって、私のまぶ――たが、少しづつ―――
その日、私は―――夢を見た。
めぐと二人で夕暮れの河川敷を散歩している夢。
いつもみたいに手を繋いで、お気に入りの歌を一緒に歌いながら歩いている二人はとても―――幸せそうに、見えた。
私たちはいつしか足を止めていた。するとめぐがゆっくりと口を開けると―――
―――そこで目が覚めた。
めぐは何か言おうとしていた―――何を私に伝えようとしたのだろう。
起きたばかりの頭で考えてもムダだと思った私は顔を洗おうと思い、一階に下りた。
冷たい水で顔を洗うと少しは頭がスッキリとしてきたので、いつもどおり朝食を皆で食べ、今日はまた図書館に行って、閉館時間が迫るまで本を読み耽ることにしよう。
今日は舞城王太郎の「好き好き大好き超愛してる」という本を借りた。
タイトルのインパクトだけで借りてしまったが―――まぁ楽しめるだろうと思い、帰路についた。
帰り道、気まぐれにあの公園に寄ってみた。
夕闇は少しづつ芝生を暗緑色に、噴水を茜色に染め、昼の公園とは違う別の顔を見せている。
もう少し行けばめぐのアパートだ。でもいないだろうなぁ、確信めいだ何かがそう囁いた。
「・・・もう遅いから良い子はお家に帰りましょう、っと・・・」
私は引き返し、そして――きっとギターを受け取りに行く日には会えるわ、と当てのない希望をつぶやいた。
その夜は早々にベッドに入った。
夢は―――――見なかった
明日が約束の日だ。今日は借りた本でも読みながらのんびり過ごすことに決定。
外は相変わらずの紫外線日和。私の部屋の中には光がかなり差し込んでくる。
私はたまらず一階のリビングに避難することにした。
・・・・・・いつもいるはずのママがいない。よく探すとテーブルの上に書き置きと昼食があった。
書き置きを読むと
『パパと二人でちょっと出かけて来ます。ご飯はちゃんと食べるように。出かける時は戸締りをしっかりとね~』
と書いてあった。
「丁度いいわぁ。のぉんびりしましょ」
ここは適度に陰があり、冷蔵庫も近くにあるのでノドが乾いた時はとても便利だからだ。
昼食を食べたら、そのままリビングのソファに寝そべってのんべんだらりと本を読み続けた。
―――――気がついて目を開けると、外は夜になっていた。
どうやら本を読んでいる途中で寝てしまったらしい。
後ろから何やら音がするので振り返ると、ママが夕飯の支度をしていたので、私も手伝うことにした。
手伝いをしながら私はママに聞いた。
「ねぇ・・・いつ帰って来たの」
「ついさっき。ほんの10分前よ、それにしても可愛い顔で寝てたわよぉ。口の端からヨダレがたら~りとかしたり」
「ちょ、ちょっとぉママぁ!」
「冗談冗談。あっ、そこのボウル取って」
「んと・・・これ?はぁい」
私の頭上にあったボウルを取り、ママに手渡す。
「はい、ありがとう」
「ねぇママ、明日私ちょっと出かけるから。だからお昼はいいわぁ」
「あらあら。そう・・・もしかしてこの前話してくれたお友達関係?」
「うん・・・会えるかわかんないけどぉ。約束なの、だから―――」
「いいわよ、行って来なさいな。水銀燈が変わったのはその人のおかげだものね。あっそうだそうだ。
今度その・・・めぐさん、だっけ?家に連れてきなさいよ。たっぷりお礼をごちそうを振舞わなきゃ」
「―――うん!絶対連れてくる、首輪つけてもゼッタイ!」
「あらあら、まあまあ」
やっぱりママはすごいかもしれない。
たった一言で私を天にも昇るような気分になったのだから。
この後の手伝いにも気合が入った。
出来たごはんだって苦労もひとしお、特別おいしく感じられた・・・・・いや、毎日おいしんだけどね。
もう後はいつもどおりだ。片付けを手伝って、その後お風呂に入って、部屋に戻ってくんくんを抱きしめて眠る。それだけ。
「あしたぁ・・・めぐに会えるといいなぁ・・・」
一言つぶやいて、私は今日に別れを告げた。
*
私は―――歩いていた。一人で歩いていた。
今歩いている場所は地面なのか空中なのかはっきりとしないフワフワとした所。
私は気づいた―――ああこれは夢なんだ、と。
夢だとわかったなら楽しむことにした。
そのままフワフワユラユラと歩いていると、私の上から白いものが下りてきた。
それを手の平で受け止めると、溶けて無くなった。
「・・・雪?不思議ねぇ・・・でもキレイ・・・」
私の進む方向にドンドン積もっていく雪はだんだんと巨大な壁になってこれ以上進めなくなってしまった。
白い壁の前で佇んだ。雪はまだ降っている―――腰の高さまで積もってきた。
そろそろ動けないなぁと思った時にはもう遅かった。
私の下半身は氷に包まれ、指先一本も動かせなくなってしまった。
これじゃ残り半分も時間の問題かしらぁ・・・と思った時、後ろから何かが私を包み込んだ。
人間の腕のようなものが私の胸辺りで交差している。傍から見ればショールを羽織ったみたいな感じではないだろうか。
「なんだかわからないけど・・・あったかぁい・・・」
感じたことのある温もりが私を優しく包み込んでくれた・・・・・・感じたことがある?
これは私が知っている誰かなのだろうか、確認してみようと後ろを振り返ろうとしたが首が―――動かない。
――――ごめんね、水銀燈
後ろの誰かが私の名前を呼んだ。
「あなたは・・・誰・・・?」
――――ごめんなさい・・・約束、守れなくて・・・・・・
声がだんだんと小さくなっていく。
「―――約束?ちょっと待ってぇ!あなた、だれなのぉ!?待って、待ってったらぁ・・・・・・!!」
温もりが離れていく。何時の間にか氷も溶けていた。
すると身体が浮かんだ。さっきまで無かった天上に大きな穴が出来て、眩しすぎる光を放っている。
身体はそこへと導かれ、急スピードで光の中へ飛び込んだ。
そこで意識は――――途切れた。
最終更新:2006年05月01日 23:10