創立記念祭での真紅達の演奏はどの出場者よりも大きな拍手と喝采で幕を閉じた。
それからは真紅達のバンドを色物あつかいする人は学校内ではいなくなった。
そして冬休みが終わり家で食べてばかりいた翠星石の体重が4キロほど増え、かなり落ちこみながら登校した日に思いもかけない話しが舞い込んだ。勢いよく金糸雀が真紅と翠星石のいる教室に飛び込む。
「一大事かしら~、ねぇねぇカナの話を聞くかしらッ」
翠星石の机の前で悲痛な面持ちで立つ真紅。
「そう落ち込むことはないのだわ翠星石、この真紅も2キロ増えたのだわ・・」
「でも・・・す、翠星石はもうダメですぅ。このままブクブクと太って最後にはギネスに乗ってしまうのですぅ・・ウウウウ」
<湯上り計量中>
Illust ID:1QbSvl+L0 氏(20th take)
机に顔を隠すようにして落ち込む翠星石を不思議そうに見る金糸雀。
「ねぇ真紅、翠星石はどうしたのかしら?」
金糸雀の耳元に近づいて囁く真紅。
「翠星石の体重が4キロも増えたのだわ。乙女にとって体重が増える。しかも4キロも・・それは辛くて悲しい事なのだわ」
「ふぅ~ん、ランディなんか2キロ減ったって言ってたかしら?それより・・」
金糸雀の話が終わらないうちに翠星石はイスから立ち上がる。
「2キロ減ったですぅぅぅ?ランディのヤツは許せんですぅ」
そういい残すと水銀燈がいるとなりのクラスに向けて走っていく翠星石の後ろを追いかける真紅。
「まって翠星石。貴女では勝ち目はないわ。ヤルならこの私も一緒に・・」
「あぁ~ん、ちょっと2人とも待つかしらァ~。凄い話が・・・」
一人残された金糸雀の手には封筒が握られていた。
水銀燈を探しに出て行った真紅と翠星石を追いかけ教室を出ると廊下で蒼星石とぶつかる。
「あっ、蒼星石。ちょうど良かったかしら。2人を止めるかしら~」
金糸雀は事の成り行きを手短に説明すると蒼星石はニコリと笑う。
「大丈夫だよ金糸雀、こんなのは僕達にはよくある事だよ。だいたい翠星石は水銀燈にデコピン2~3発もらって泣きべそかきながら帰ってくるよ」
「じゃぁ真紅は?」
「ん~、真紅と水銀燈は最終的にモップかホウキで叩きあいかな?まぁ真紅も水銀燈も楽しんでヤッてるからチャンバラ遊びみたいなものだよ」
説明をしながら最後に蒼星石の顔が少し険しくなる。
「ただ、その遊びに巻き込まれたらケガするよ・・・。」
「け、ケガかしら?」
金糸雀がケガの意味を考えているとオデコを押えながら泣きべそをかいた翠星石が教室に帰ってきた。
「えェェ~ん・・ランディーに5発もカマされたですぅ~」
蒼星石の読みどおりの展開に唖然とする金糸雀。
その時、渡り廊下からガラスの割れる音が響いた。
現場に直行する金糸雀、そこで目にしたのはおそらく演劇部の小道具であろうステッキと剣を持ち身構える真紅と水銀燈の姿であった。
大きく振り下ろされた水銀燈の剣が真紅の頭部を狙う。
真紅は素早く右にステップをふむように紙一重でかわすとブンッと剣が空気を切り裂きながら真紅の目の前を通過していった。
「体重が増えたくせに良く動けるわねぇ~真紅ぅ~」
「うるさいわ ランディー!」
真紅は水銀燈の剣をかわした体勢のまま上体を捻るようにステッキを水銀燈の眉間めがけて突きを放つ。水銀燈は上半身を反らすように突きをかわすと真紅のステッキは水銀燈の後ろにあるガラス窓のアルミサッシに当たり深くめり込み、乾いた音と共にガラス窓にはヒビが入った。
肩で息をしながらお互い見つめ合いニヤリと笑う真紅と水銀燈。
(こ、これがチャンバラ遊びなのかしら~?)
顔が青くなっていく金糸雀の背後で騒ぎを見に来た生徒あいてに翠星石はどちらが勝つか賭けを持ちかけている。
すると廊下の端から教師の怒鳴り声が響いた。
「こらぁ~、またお前らかぁ~!!」
(チッ、邪魔が入りやがったですぅ。賭けはナシになったですぅ~)
放課後、職員室で説教されている真紅と水銀燈を待つ金糸雀に話しかける翠星石。
「ところでさっき言ってた凄い話って何ですぅ?」
その言葉に思い出した金糸雀はポケットから封筒を出してみんなに見せる。
「これ、これなのかしらぁ~」
封筒から1枚の用紙を取り出しとなりにいる蒼星石に見せる金糸雀。
「第24回学生音楽コンクール?そんなの僕達には縁のない話なんじゃないの?」
「そうでもないかしらッ。この特別推薦組って書いてあるところにカナ達は選ばれたのかしらァァ~!」
12月に行われた創立記念祭を見に来ていたコンクールの関係者から高い評価をうけた真紅達のバンドは学校側から出る吹奏楽部とは別組みで推薦されたのである。
「出るのはイイですけどォ、またクラッシックなんぞをヤルですかァ?」
うんざりした顔付きで質問する翠星石にニコリと笑う金糸雀。
「大丈夫よ、この金糸雀に考えがあるかしらッ。それに場所は私立文化ホールよ、あんな大きなホールで音を出せるチャンスなんてなかなか無いかしら」
「私立文化ホールかぁ、イイね。僕もああいう大きな所でヤッてみたいよ」
「ヒナもホールで唄ってみたいの~!」
話が盛り上がりを見せたとき職員室から真紅と水銀燈がでてくる。
「明日から停学1週間決定なのだわ・・・」
「ヒナはねイチゴソーダフロート」
「翠星石はチョコパ・・・お、お水だけでイイですぅ・・」
行き着けの喫茶店アンセムでテーブルをかこむ真紅達は浮かれない顔をしていた。
それは真紅と水銀燈が停学を言われたと同時にコンクール推薦枠も無くなり、ジャズや映画音楽を専門に演奏している第3演奏部がかわりに出ることとなった。
「そんなの私達にはァ出来すぎた話よねェ~。まぁ今までどおりロックをヤリましょォ~。ねぇ真紅ゥ」
「そうね、ラン・・水銀燈の言うとおりなのだわ」
「ちょっと真紅ゥ~、今なにか言いかけなかったァ?」
「いいえ、貴女の聞き間違いよ、水銀燈!それより金糸雀が入って私達の音楽にも幅がでてきたのだわ。それに無くなったとは言えコンクールの推薦は紛れも無い事実・・・そして・・」
真紅は言葉を途中で止め、ゆっくりとみんなの顔を見渡すと話しを続ける。
「そして・・これは私の計画だけど、今年からライブハウスに出たりストリートライブをやったり、本格的にヤリたいのだわ。そして、何かこう・・・・みんなに、何んて言うか、こう、私達のロックを聴いてもらいたいのだわ。
そして・・できれば私達はずっと、この先もずっと一緒に、みんなと一緒に音を出していきたいのだわ・・。」
真紅の詰まりながら言った言葉はテーブルをかこむ水銀燈、翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀、それぞれの胸に届いた。
特に水銀燈の脳裏にはあの日の真紅のセリフが甦る。
(私の夢は・・みんなと同じステージで・・それが私の夢なのだわ・・)
最終更新:2006年12月01日 16:23