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…あれ?耳が遠くなっちゃったのかな…?ねぇ、白崎さん…今…何て言ったの…?

「何で―――が、ど―――」
「――つけ!白――――ここで―――」

二人が何か話してる。私はそれを見ているだけ。

だんだん、話し声が、遠くなっていった。
全然何を話しているのか、分からなくなった、自分の立っている所さえ。
足が、膝が、下半身が溶けていく。
もう―――立ってなんかいられない。

あれ……座り込んだ私が下に、いる。

―――――――――バタッ!!

「―――銀ちゃん!!」
「―――水銀燈さん!!」

二人が駆け寄って来る。
―――――あはっ…二人とも…そんなに急いだら転んじゃうよ…?

白崎さんが私を抱きかかえて外に飛び出した。
―――――どこに連れてってくれるのぉ……めぐも一緒だと…いいなぁ。

「しっかり!自分を確かに!!」
―――――何を言ってるの…白崎さん?私は…大丈夫よ。

……そう、私は――わたし、は――ワタ、シハ―――ワ タ シ ハ――――


そして私の意識は、突然舞い降りた闇のカーテンによって光を遮られ―――ブラック・アウト


気がついて、目に飛び込んできたのは―――見知らぬ天井。

「―――――……ッ!」

何か喋ろうとした。
声が、出ない。

―――ノドガ、カラカラダ。

脇にあるサイドテーブルから水差しを取った。が、

ガシャァー―ン……

手を滑らせてしまい、あっけなくガラスの水差しは引力の餌食となった。
床一面は水浸しだ。はねっ返りがシーツにも染み込んで―――気持ち悪い。

―――もういい。

私は再び横になって知らない天井を見つめた。

ガチャ…

ドアが開く音がしたので、そっちへ振りむくと現れたのは、槐さんと白崎さんだった。

「やぁ銀ちゃん…顔色良くなったね…ああ、ここは駅前の病院だよ。銀ちゃんが急に気絶した時は、僕ら二人ともビックリしちゃったよ。
 一応ご両親にも連絡入れといたから。夜に迎えに来るって言ってたから、今はゆっくり休んだらいいよ……ところで気分は、どうかな?」

ここは病院なのか…たしかに必要以上に白で埋め尽くされた部屋に、消せない消毒液の匂い。これらから該当するのは病院が妥当だろう。
しかし…恐る恐る探りを入れながら話す白崎さんに私は―――苛立ちを隠せなかった。

「―――気分?そうねぇ…今すぐそこの窓から飛び降りたいぐらいには最高だわぁ…」
すぐ近くにある窓を指さして言ってやった。

「…あまり笑える冗談じゃないね」
「当たり前よぉ…笑わせる気なんてコレッぽっちもないんだから…もう、帰って」

私は窓の方へ寝返りを打った。これは拒絶だ。

「でも…銀ちゃん、僕たちはまだ君に―――――「帰れっっっ!!」

なにもききたくない。
頭にシーツを被せると出入口の方へ向かっていく二人の足音が聞こえた。
けど、一人だけ立ち止まった。

「銀ちゃん…すまない。あんなに君がショックを受けるなんて思わなかった。
 それほど君の中ではめぐちゃんの存在が大きいってことなんだろうね……君に渡したい物があるんだ。
 気が向いたら、また店に来てほしい…それじゃお大事に」

それだけ言うと足音は遠ざかっていった。

 ……勝手なことばかり―――言うなッ!!

―――バフッ!

出ていったと同時に私は正面の壁に向かって枕を投げた。
壁に当たって情けない音が部屋に響く。
そして―――白崎さんの言ったことを思い出した。

『めぐちゃんが―――――死んだ』

―――嘘だ。嘘に決まってる。めぐが死んだ?そんなこと私は信じない。

―――そうだ、めぐが死ぬわけない。めぐは私を助けてくれる―――天使なんだ。

―――天使が死ぬわけない……あいつらが嘘をついたんだ。

―――そうだ!きっとそうだ!!

―――私は、騙されない……私は、騙されない……騙されるものか!!


真綿に水を染み込ませるように心が―――闇色のクレヨンで塗り潰されていく。
次に、私の目から光が―――失われた。
例えるなら、それはまるでガラス球。
全てを写すけれど、何も見えていないし、何も―――もう感じない。

そして私はまた、戻ってしまったのだ。
胸の真ん中が何もない、大切なものが零れ落ちたガランドウの人形に。

その夜、急いでやって来た両親に手を引かれながら家に戻った。
私は両親が心配する声に生返事をしながら、自分の部屋に戻ってベットに潜り込んだ。


最終更新:2006年05月03日 03:14