アットウィキロゴ
メグが小声でマイクを持つ女性に囁く。
「いいオディール?いくわよ」
オディールがニコッと笑いメグの言葉に小さくうなづく。
メグはギターから今にも折れそうな細く繊細なトーンを出した。
それは静かにステージから霧が生まれるような感覚で観客を包んでいく。
スゥーっと静かに息を胸に貯めるオディール。
「Are you going to Scarborough Fair?」
オディールの声は透きとおった繊細なガラス細工を指で弾いたときに生まれる響きのようなゆらめきを伴いメグのギターのトーンに乗りホール内を広がっていく。
今まで吹奏楽が演奏した重厚な交響曲などを聴いていた観客はラプラスが生み出した静かな音と声の細波に身をゆだね飲み込まれていく。
(なぁに、この感覚ぅ?あの子のギターのトーンなのぉ?)
(なんて唄なの、こんな繊細な声を出すなんて。私とは質が違うのだわ)
水銀燈をはじめ真紅も翠星石達も今やラプラスが生み出す音の細波に身をゆだね聴き入っていた。

オディールが歌うサラヴライトマンのScarborough Fairが終わると静かに時を刻むような巴のベースとノリのドラムが今まで観客を包んでいた幻想という名の霧を払うように入る。
その合図にすぐさまメグのギターがトーンを変えて入り、オディールは小刻みに体を揺らしながらリズムを取る。
「I hitched ride with a vending machine repair man」
曲事体は普段、真紅達がヤッている曲のように激しさはないがそれでも知らないうちに真紅は足でオディールと同じようにリズムを取っていた。
(イイ感じのテンポですぅ、でもああいう曲のつなぎ方は今の翠星石達には無理かもしれないのですぅ~)
嫉妬を感じながらも翠星石はノリのドラムに合わせて腕が動いていた。
シェリルクロウのEveryday is a Winding Roadが終わるとすぐさまメグのギタートーンがさらに変わりストラトらしさを前面に出すとベース、ドラムも一気に曲風をロックに持っていく。
ホール内の観客はいまやイスから立ち同じ世代の吹奏楽部の高校生だけではなく、その親達もイスから立ち上がり手拍子を取ったり体を揺らす。
オディールは客席に手を振り歌う。
「So long cowboy(So long cowboy) So long cowboy~♪♪」
メグがワウペダルを踏みソロに入ると観客から歓声が上がる。
(なかなかヤルわねぇ~。でもぉ、私だってあれくらい簡単よぉ)
ニヤリと笑う水銀燈はギターケースを持つ手に力が入る。
ウエストワールドのSo long cowboyが終わり礼をすると観客から大きな拍手が沸き起こった。

「聖コリンヌ学園、軽音楽部のラプラスでした。続きましては15分後に私立薔薇女子高校の、これもロックバンドですね。軽音楽部、薔薇乙女の演奏です」
ラプラスの演奏にニコニコした司会者が真紅達の出番を告げる。
「ん、薔薇乙女?なんだいそれ?」
蒼星石が金糸雀に向かって質問する。
「提出用紙に出場部名を書くときにカナが考えて書いたのかしらッ」
金糸雀は用紙の控えを今や知らない間にバンド名が薔薇乙女という名前になったメンバーに見せた。
「ふぅ~ん、まぁイイんじゃないィ~。私は気に入ったわァ」
「そうね、それよりもうすぐ私達の出番なのだわ」
「そうですぅ、さっきのラプラスとかいうヤツより凄い音を出してやるですよッ、絶対に負けないのですぅ」
「そのイキなの~。ヒナもガンバルの~!」
司会者がコンクール最後の出場組を紹介するのをステージ脇から見る真紅達。
そのステージは広く頭上には眩しいライトの光、観客席からの人々の息づかい、高鳴る胸の鼓動、真剣な面持ちのメンバー達、あの日にみんなで見た夢、水銀燈と夜の公園で、粉雪が舞うブランコで、お互いが感じたステージが真紅の目の前に広がっていた。
「さぁ私達のショータイムなのだわ。いい? 行くのだわ!!」
ライトに光るステージに薔薇乙女達は飛び込んでいった。

真紅達、薔薇乙女メンバーがステージに現れると拍手の中に異様なザワメキも感じられた。ラプラスのメンバーと比べて明らかに年配の人がもつ不良のイメージに当てはまる容姿のためであろう。

「ちょっと、あの子、髪の毛が銀色よ。緑色の子もいるわ」
「まぁ、なんて大きなリボン。恥ずかしくないのかしらねぇ~」

そんなザワメキに混じり男性観客からは違った視線と言葉が出ていた。

「薔薇女の子かぁ~。オレあの金髪の子タイプだよ、お前は?」
「ドラムの子カワイイ~。おいおいギターの子スカート短ェよ」

否定と好奇な声と視線の中で真紅、水銀燈、金糸雀の3人はステージ中央で小さく客席に向かい頭を下げる。小さな拍手が起こると真紅は振り向き雛苺、翠星石、蒼星石にウインクし開始の合図を送る。
真紅のギターと金糸雀のバイオリンが寸分の狂いもなくマーチ独特のメロディーをステージから客席に投げかける。翠星石のドラムと蒼星石のベースが真紅達の演奏を支える。そこに水銀燈のギターが濃厚なトーンで行進曲エルガーの威風堂々のサビになる部分をソロで見事に弾き出し、曲の終わりでは雛苺のキーボードと水銀燈のタッピングがシンクロしていく。
圧倒的なテクニックに今は客席に戻ったラプラスのメグは言葉を無くす。
先ほどまでの好奇な視線や否定の声を真紅達は開始3分たらずで過去のものにし、大きな拍手がホールにコダマする。
創立記念祭で見せた素早いメンバーチェンジの後、真紅はマイクを持ちステージの前ぎりぎりまで進み目を閉じる。
フゥ~、真紅が息を吸う音をマイクがひらうと左腕を大きく広げやや前かがみになり真紅は叫ぶ。
「さぁ、私達の音に酔いしれるのだわ!!」
真紅の掛け声と同時に水銀燈と雛苺はまるでキスをするかのように互いの顔を近づけ雛苺のマイクに向かい声を出す。
「Hold on tight you know she’s a little bit dangerous~♪」
雛苺と水銀燈のコーラスに翠星石のドラムが素早く入り水銀燈のギターと金糸雀のキーボードがイントロを弾く。
真紅は軽くステップを踏みながら踊り歌う。
薔薇乙女が出す軽快なリズムに一人一人とイスから立ち上がる。

「凄い。あの子達ってこの1月くらいに停学になった子達だよね?」
「うん、あのボーカルとギターの子だよ。凄いよね、なんだかカッコイイね」
真紅達の圧倒的なパフォーマンスに同じ薔薇女子高から出ていた吹奏楽部の連中も息を呑む。その中で一人無言のまま真紅達を見つめる少女がいた。
真剣な目つきで真紅達のステージを見る少女に声をかける同じ吹奏楽部員。
「どうしたの薔薇水晶?知ってる子でもいるの?」
「ううん、そんなんじゃない」
そう短く答えた薔薇水晶はそのままステージから届く音の波を体全体で感じていた。

ROXETTEのDangerousが終わると真紅はサッと横に移動する。
するとその後ろから水銀燈が現れ前に出るとギターを叩くようにし次から次へと音と独特のトーンが小刻みな弾丸のように客席に向かい飛び出す。
「凄いわね、メグもあんなスラッピングやタッピングできる?」
水銀燈の完成度の高いトリッキーなプレイに真顔で聞く巴。
「あそこまでの完成度は私にはムリね・・・」
突然ギター主体のロックが始まる、観客は一気に水銀燈に注目する。
真紅は控えめに歌い水銀燈のギターを前面に押し出す。
(さぁ、水銀燈、この曲は貴女のモノよ)
真紅のメッセージを受け止めた水銀燈は笑顔で小さくうなずくきソロに入ると水銀燈のギターから撃たれるトーンの弾丸はホール全てに撃ちつくされる。
水銀燈主体のVAN HALENのMean streetが終わるとそのまま水銀燈のギター以外の音が止まり数十秒ほど水銀燈のソロが続くと唐突に翠星石の太くホールを内から揺らすようなドラムが加わりそのまま次の曲に入り雛苺のコーラスが絶妙のタイミングではいる。
「アイ、ワナタッチ ユウ~♪♪」
軽快なリズムに乗せて真紅と雛苺は互いに楽しむ子猫のようにステージを走り、ステップを踏み、笑顔で唄う。
その姿にホール内の観客全てが飲み込まれていく。
体をリズムに支配されロックの波に体全身を揺らす者、腕を高く振り上げる者まで現れた。それをステージから見る真紅達の脳裏に大きく鮮明に「DREAM  BELIEVE PASSION」という文字が浮かび上がった。
(これですぅ、この一体感が音楽、ロックの力なのですぅ)
翠星石はドラムを叩きながら目頭が熱くなりだしていた。
いつしか水銀燈、蒼星石も真紅、雛苺と共にステージの上で自分達が作り出している音の波に体を預けてステップを踏みながらギター、ベースを弾く。
DEF LEPPARDのI WANNA TOUCH Uが終わると同時に翠星石のスティックが振り下ろされると水銀燈のギターが先程とは違いやや押さえ気味のメロディーを出す。
真紅達、薔薇乙女最後の曲MAGNUMのSTART TALKING LOVEが始まった。
真紅の声が今までよりも大きく広がりを見せ始めると真紅達、薔薇乙女の作り出す音の波のうねりは観客席はもちろんのことホール内全てを駆け抜けていく。
いつしかラプラスのメンバーも薔薇水晶も言葉を無くし今や薔薇乙女の音に支配された空間の虜になっていた。
曲も終盤に近づくとホール内全ての人が立ち上がり身体を大きくゆらしている。
音 トーン メロディー 声 唄 それら全てが混じり大きなうねりとなりホール内を支配していた。
そして曲のエンディングに差し掛かると真紅はマイクに向かい声を出し大きく手を客席に向かい振る。
「薔薇乙女でした・・・サンキュウゥゥゥゥ!!」
「ウオォォォォ~」 「オオオォォォ~!」
客席から大きな歓声と拍手、口笛が真紅達に向けて贈られた。
真紅、水銀燈、雛苺、翠星石、蒼星石、金糸雀は互いをこれ以上ない笑顔で見つめあう。そしてゆっくりとではあるが全員そろい大きく、そして高く腕を天上から降り注ぐ眩しいライトの光にめがけて突き上げた。
それは近い未来に彼女達の音がこの国の全てを包みこむ、そんな未来を予測したかのような1シーンであった。


~Legend of Rozen Maiden 薔薇乙女編~ 完


最終更新:2006年12月01日 16:29