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―――――目覚めたら、朝だった。
いつのまにかホテルに戻っていたらしい。素晴らしき我が帰巣本能。
店を出てからの記憶があまりない。
帰るためにタクシーに乗り込んだとこまでは憶えているのだが……ムゥ。
そのままベットでボォっとしていたら、横でけたたましく携帯電話が鳴り出した。
低血圧の私にとってそれはかなりイライラとさせた。
素早く電話を取り話しかける。

「はぁい…も『なにしてるかしらー!!』」

イキナリ耳に飛び込んだ大声で背筋が伸びた。
まだわめいているそれを遠くに離しながら相手は誰かと考える。
その聞き覚えのある高音は―――――金糸雀!?
「……もしもし金糸雀?」
『もしもしじゃないかしらー!今何時だと思ってるかしらー!!』
今何時と言われ、時計を見ると―――――
「……午後三時まであと五分ってとこかしらぁ」
『今日のリハーサルの時間は?』
リハーサルの時間……?確か――――
「――――ッッ!……三時半」
『そのホテルから会場までは?』
「どれだけ飛ばしても三十分以上かかる…」
「わかったら早くくるかしら!音チェックが終ってないのは水銀燈だけなのかしらー!!」
「わかったわぁ!じゃ切るね」
返事を聞く前に通話を切る。
携帯電話から無機質な電子音がループし始める。
まだ電話を耳に当てている私は、それを聞きながら起きたばかりの頭をフルスロットルさせた。
「ヤバい…ヤバいわぁ」

とりあえず急いでフロントに電話して一番足の速いタクシーを呼んでもらった。
そして目を完全に覚ますためにシャワーを浴び、手早く身支度と荷物の整理をした。
「よし…!こんなものでしょ」
一応の準備も整い、チェックアウトを済ませようとドアノブに手を掛けた瞬間―――――大切なものを忘れていることに気がついた。
「いっけなぁい…」
急いでそれを取りに行く。
それはベットの横で雑に転がっていた。
「アチャ…やっちゃったなぁ…ごめんね…」
それを拾い上げ、ほこりを払い、左肩に提げた。
「これでオッケー…っと」
ようやく部屋を出た時、時間を確認すると――――残り十五分!!
「あ、あと半分しかないじゃない!」
言いながらもダッシュで一階のフロントを目指した。

――――フロントに着いた時はもう息も絶え絶え。突けば倒れそうな状態で私は
「――――ハァハァハァハァ…あ、あの…頼んでい…た、タクシー…は?」
と言った――――ちゃんと伝わっただろうか。
「はい。すでに出入り口の方でお待ちでございます」
と言って右手を出入り口の方へ差し出した。
さすが接客のプロというべきだろうか。全く顔色一つ変えずに完璧な対応をしてくる。
それが今にも死にそうなうら若き女性であったとしても。
「そ、そう……ありがとうね……」
フラフラと危ない足取りで出入り口の方向かうと、後ろから「ありがとうございました。またのお越しを」
と聞こえたので、後ろ手で手を振った。

タクシーに乗り込み、運転手に目的地の地図を見せながら開口一番。
「あと十分以内にここに行ってちょうだい!」
「お客さん…そら無理だって。どんなに急いだって三十分はかかるじゃない…そこ」
「無理を承知で頼んでるのぉ――――お願い!」
真剣な眼差しを運転手に向ける。
運転手は少し濁った瞳でそれを受け止めた、そして――――
「わかりましたよ…ったく久しぶりに大口のお客さんが来たと思ったら…これだもんなぁ…」
ブチブチと言いながらも横に付いている何かのスイッチをパチパチと下ろしている。

「ありがとう…」
「礼を言うなら、到着するまでにお嬢さんが生きてたら改めて聞きたいねぇ」
「え…それってどういう―――――――」

言葉が途中で切れたのは突然の加速によるGで身体がシートに張り付いてしまい、息が吐き出せなかったからだ。
「―――な―――に―――これ」

「うん?ああ、お客さん初めてだったの?うちの車乗るの」
「―――コレ―――って―――」
「うん。この車、かなーりイリーガルな改造してるのね。バレたら…ただ事じゃないね。だから、お巡りさんには内緒だよ?」
言えるか!ていうか、何でアンタは平気で話ができるのよ?コレ今時速何キロでてるのよぉ!?
「よぉーし…ノッてきた!お嬢さんもう少し加速するよ、イイね?」
「――――え――――ちょ―――」
「飛ばすぜハイウェイ!!」

――――――ヒュ―……………………―ンッッッッ!ギュラギュラギュラギュラ……キキキキキキッッッッッ………バビュ―――ン!!!

マンガかアニメみたいな音が外から聞こえてくるが、窓の方は絶対に見なかった。

――――早く会場に着きますように…早く会場に着きますように…

目をつぶって、それ以外考えられなかった。
あとは――――生きてますように…と祈りながら。

「――――はい。着いたよ」
ハッ…!と顔を上げると会場は目の前だった。
良かった…ちゃんと生きてる…私…と安心したのも束の間。
時間のことを思い出し、時計を見ると――――なんとジャスト三分前。
「う、嘘…」
「嘘って言われてもなぁ。こうやって着いた訳だし…じゃあ、はい」
と言って右手を出してきたので、迷わずに感謝の握手をした。
運転手は握手されながらすごく微妙な顔をしている―――何故?
「あのねぇお嬢さん…代金ですよ、代金」
「…あっ!そ、そうよねぇ…これで足りるぅ?」
「…ヒノ…フノ…ミ…いいですよ、ありがとうございました~」
そう言うとタクシーは、瞬く間に私の前から消えていった。
「――――スゴカッタワァ…アッ…リハ…行カナクチャ…」
結局足取りは変わらずに会場に入ることになった。

――――リハーサルには間に合ったが、遅れた私のサウンドチェックをしながらの作業なので少し押す進行になってしまった。

控え室に戻る途中メンバーに謝ったら、二度とこういうことがないようにと誓約書を書かされた。
まぁ、今回は仕方ない。
けれどこれでもう大丈夫だ。
あとは――――今夜のステージを今まで以上に完璧にこなす――――それだけだ。
とにかく今は少し休もう……。
そう思うと身体は正直なもので、横になるとすぐにまぶたが重たくなりスッ…と眠ることができた。

                    *

軽く眠ったつもりが二~三時間経ってたってこと―――――よくあるわよねぇ?
今の私も正にそう。気がつけば、開園三十分前だったりする。
「何か…今日は踏んだり蹴ったりねぇ・・・」
マネージャーにメイクとセットをしてもらいながらぼやいてしまう。
「それはこっちのセリフかしら~!どうして今日に限って……ぅぅぅ……」

―――――ヤバイ……

鬱モードに入られたらそれこそ間に合うものも間に合わなくなってしまう!
「ねぇ…本当に今日は…ごめんなさい…」
「もう慣れたかしら…」
嘘だ。声のトーンが明らかに落ち込んでいるじゃないか。
仕方がない、こうなったら――――――

「私…もうダメかな…」
「えぇ!?イキナリ何を言い出すかしら!」

――――――よし、ノッテキタ…!

「だって今日はこんなに皆に迷惑かけて…特にマネージャーに…」
「き、気にしてないかしら!元気出すかしら」
「私ね…口には出さないけど…マネージャーにはいつも感謝してるのよぉ?」
「す、水銀燈……」
「だから今日のステージでその思いを伝えたいの…だから…」
「―――だから?」
「私をステージで最高に輝くようにして!お願いマネージャー…これはあなたしか出来ないことなの!!」
「――――ッッ!……わかったかしら。あなたを最高に輝かせてあげるかしらーーー!!」

―――――誰の見る目にもそのスピードは神速と呼ぶに相応しかった。
それほどまでにマネージャーの手が速かったということだ。

十分もかからないでセットにメイク、そして衣装合わせが終った。
黒と白で構成された衣装を身にまとい、細やかな薔薇をあしらい衣装に合わせた色使いのヘッドセットを着けて完成だ。
「どう、マネージャー…私…キレイかな…?」
「き、キレイかしら…もう完璧すぎてた…おれ―――」

―――――ばたんきゅ~……

マネージャーが倒れた。
まぁ、あれだけ人間の限界に挑戦したら当然の成り行きだろう。
粉骨砕身の心持ちで急いでくれたマネージャーに感謝の合掌。

――――南無~…成仏してねぇ…(まだ死んでないかしら!!)


最終更新:2006年05月12日 23:47