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小さな独り言のような言葉は金糸雀のギターに邪魔され翠星石の耳には届かない。
「えっ。今なに言ったですぅ、蒼星石?」
翠星石の声とベースの音が途絶えキーボードから手を離す薔薇水晶は
首をかしげながら蒼星石と翠星石に目をむける。
「・・・どうしたの・・・かな?」
「うん、ちょっとね・・・」
「なんですぅ、蒼星石らしくないですぅ。はっきり言いやがれですぅ~」
翠星石の言葉に重い口を開き、蒼星石にしては歯切れの悪い話し方をする。
「僕。最近になって思うんだけど・・・解散ってどうかな?」
「えっ?解散って何なのかしら~!」
「かいさんなの?ヒナそんなのイヤなの~」
「うん、でもみんなが思ってる解散とは少し違うんだ。僕の話を聞いて、
そしてみんな、この薔薇乙女のメンバーとして意見を出して欲しい」
蒼星石はいつもの冷静な口調に戻り自分自身の考えを話し出した。
真紅と水銀燈がいなくなり1ヶ月あまりが過ぎても薔薇乙女の音楽はどこか
真紅と水銀燈の影を追いかけている。
2人が停学中の薔薇乙女と2人が確実にいなくなった今の薔薇乙女とは
根本的に違う雰囲気が出ていた。
このままでは本来の薔薇乙女としての音楽を見失う。
そんな不安感が蒼星石の中にあった。
その考えを口に出し、あの日の真紅を思い出しながら蒼星石は言葉を続けた。
「あの日、真紅は言っていたよ。戦うことは生きることだって」
翠星石、雛苺、薔薇水晶も真紅と水銀燈が決意を打ち明けた日を思い出す。
「確かに言っていたですぅ・・・」
「そう、僕はあの後によく考えたんだ。その戦うって言葉の意味を」
「そ、それで蒼星石には解ったのかしら?」
「なんとなくだけどね。真紅と水銀燈は本当に夢を追いかけているんだ。
僕達よりもリアルに追いかけているんだ。だから僕達も今の現状に
満足していたらダメなんじゃないかと思うんだ」
「確かにそうかしら、でも解散はなぜかしら?」
「うん、解散といってもライブに出ないだけで練習は今以上にやるんだ。
そして来年、東京で新生薔薇乙女を復活ってどう?」
実際、今の薔薇乙女に対しての満足感が薄れているのはそれぞれ思っていた。
「別に、それでもイイですけどぉ、週末のライブはどうするですぅ?」
「それが・・・この街で・・・高校最後のライブ・・・」
「それもカッコイイかしらッ、それに東京に行くならコレが必要かしら」
金糸雀はそう言うと水銀燈から来たばかりのメールを見せる。

~カナは元気にしてる?こちらは真紅がいろんなのを買うから
マジで金がヤバくなってきた。金がもう少ない宇宙ヤバっ~

「真紅は何を買ってるのかしら~?」
「たぶん食器や家具ですぅ。あの子はそういうのヤバイのですぅ」
「そ、そうだね音楽も大切だけどお金も必要になるね・・・」

真紅と水銀燈が激しく言い争いを演じていると呼び鈴が鳴り注文していた
ピザが来たのを知らせる。真紅とノリが玄関に行く隙に水銀燈は金糸雀に
メールを打ち出す。
(この悲惨な状況をみんなに知らせてやるわぁ~)
ドアノブに手をかける真紅を見るノリは心配そうな目付きになる。
「真紅ちゃん本当にお金は大丈夫なの?ピザ代は私が出そうかな?」
「結構よ、こう見えても私も働いてるのだわ」
「まいどありがとうございます、ジャニスピザで・・・あっ!」
帽子を深くかぶりクロぶちメガネをかけた若い男は真紅の後ろに立つ
ノリを見て声を上げた。
「あれぇ、ジュン君~。何、何、ピザ屋でバイトしてたのぉ?」
真紅はジュンと呼ばれた男にピザ代を払いながらノリに聞く。
「ノリの知ってる人?」
「えぇ、親戚になるの。私と同じ年よ、真紅ちゃんより1歳上ね」
真紅が払った代金を確かめるジュンは少し怪訝な顔をする。
「あのぉ、お金が全然足りないんだけど・・・」
それを聞いた真紅は奥の部屋に向かって声をかける。
「ちょっと、水銀燈、お金が足りないわ、貴女のを出して頂戴!」
「ねぇ、メグぅ、今の聞いたぁ?私そのうち真紅に取り殺されるわぁ~」
そう言いながら水銀燈はジーンズのポケットからパチンコで稼いだ金を
出すと玄関に向かって歩き出した。

ピザを食べながら真紅は週末のジャズライブの件を水銀燈に言う。
「いいわよぉ~。ライブのォ後の打ち上げも楽しみねぇ~」
指に付いたピザソースをペロッとなめながらノリは目を輝かせる。
「えぇ~真紅ちゃんと水銀燈ちゃんってジャズもできるの~?」
「ついていくのがヤッとよォ~。アドリブでどう変化するのか解らない
からァ、たぁ~いへんよぉ」
「面白そうデス、私達もオジャマしてもいいデスカ~?」
「いいと思うのだわ。きっとマスターも喜んでくれるのだわ」
「うわぁ、これで久々に水銀燈とギターが弾けるわね」
「ロックじゃないからァ、そんなにギターはカキ鳴らせないわよぉ~」
その後、音楽の話、バイトの話、メグ達の大学生活の話は終わることなく
始発の電車が動く頃まで続いた。
その2時間後まだ睡眠を欲しがる体を目覚めさすため真紅はシャワーを浴びる。
少し温度の高いお湯が金髪を濡らしていく。
しばらく目を閉じ降り注ぐ滴を受け止めると細い肩から手のひらに収まる
小ぶりでキュートなバストを回り込むように滑るシャワーの滴はやや小さな
ヒップからスリムに伸びる足を伝わり床に落ちていく。
ボディーソープで昨夜の疲れを洗い流した後は濡れて細い体にまとわり付く
髪をお気に入りのシャンプーで洗った。
その後、キッチンでクロワッサンとスクランブルエッグ、ソーセージの
ボイルを食べ紅茶をゆっくりと時間をかけて飲み終わるとバイトに出かけた。

                    *

有栖川大学のキャンパスを眠そうな目で歩くメグは軽い目眩を覚えて
立ち止まる。
耳の奥から何やら金属音にも似た高い音がかすかに聞こえる。
「どうしたのメグ、貧血?」
巴の心配そうな声に笑顔で答えるメグ。
「ううん、大丈夫。朝まで真紅ちゃんと水銀燈のマンションで喋っていた
から、ただの寝不足よ」
「そう、それならイイんだけど。それより今夜は音合わせよ、キーボードの
ミッちゃんも参加するんだからね」
「そうね、ミッちゃんが入って始めてのメンバー全員での音合わせだもんね、
スタジオはいつもの所だよね」
「そうよ、夜7時よ。じゃぁ私これから講義があるから、また後でね」
巴が足早に去っていく後ろ姿を見るメグにはいつもの笑顔が戻っていた。
(ふぅ、やっぱり寝ないで来るとキツイわね)
2006年、メグは夏が近づく6月終わりの眩しい太陽を手で遮りながら
空を見上げていた。

週末の夜、ホーリエの店内は昼間とは雰囲気が一変しオレンジジュースから
ジャックダニエルへ、アイスコーヒーからシーバスリーガルへと、昼間の恋人
達から髪に白いものが混ざり出した大人達へと客層が変わっていた。
その頃、薔薇乙女の登場を待つ人々が手拍子と足を床に踏みおろす音が
ライブハウスの中で響き渡る。
東京と薔薇乙女達が住む街で同じ時刻、同じタイミングで2つのライブが
始まろうとしていた。

優しく暖かい笑顔のマスターが真紅達に声をかける。
「やぁ、真紅ちゃん、水銀燈ちゃん、それとオディールさんにノリさん
だったかな?今夜は楽しんでいってよ、私もみんなとのセッションを楽しみ
にしてるからね」

そのころライブハウスではナチスの服を着た翠星石がスティックを振り
回しながらメンバーに喝を入れる。
「薔薇乙女最後のライブですぅ!気合で今夜のライブを最高のものにする
ですよッ」
Illust ID:YmE+5svc0 氏(28th take)


最終更新:2006年05月23日 03:46
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