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N’sレーベルから曲を出す。その言葉が意味する夢への第一歩、そして
その先に見えるもの。
バイトで食いつなぎながら自己満足に近い曲作り、充実された機材と
スタッフに囲まれたラプラス達。同じ位置から始まったレースで大きく
差を開けられ立ちはだかる壁の向こうにいるラプラスと薔薇乙女。
その壁の向こうから手を差し伸べられた今この瞬間。
真紅と水銀燈、そして山本の周りにはいつしか翠星石、金糸雀、そして
ラプラス達とレコーディングスタッフが取り囲んでいた。
急な話の展開に真紅達がいる部屋は期待と緊迫の空気が充満しだす。
翠星石と金糸雀はソワソワし真紅、水銀燈の顔を交互に見つめる。ラプラス達も
同じように真紅と水銀燈の答えを待っている。
これに先ほど真紅の唄と水銀燈のトーンを聴きこれはイケると思った
スタッフの中には笑顔を見せる
者も混じっている。その中で水銀燈はクスッと小さく笑い口を開く。
「N’sレーベルから曲を出すぅ、素敵ねぇ。でも今はちょっと、ねぇ真紅ぅ」
「とても有難い話だけど今の私達には聞き入れられない話なのだわ」

2人の言葉に動揺を隠し切れない山本。
「そ、それはどうしてですか?」
山本の言葉にラプラスのメグとオディールも加わる。
「ねぇ、水銀燈。これは凄いチャンスだと思うわよ。どうしてなの?」
「私は真紅さんの唄は凄いと思いマス。私の良きライバルだと思って
マス。断るのは何故デスカ?」
山元とラプラス達の言葉に真紅と水銀燈はお互い顔を見つめて笑いながら同じ
セリフを言う。
「日の当たる場所に出るときは薔薇乙女全員で出るのだわ!」
「私と真紅だけじゃぁダメよぉ~。みんな一緒じゃなきゃダァ~メ!」
真紅と水銀燈は東京に行く時、心に強く決めていたことがあった。
それは何があろうとも後から来る翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀、薔薇水晶
を待ち、7人で一つのバンド薔薇乙女として自分達を取り巻く運命を
切り開き戦って行くと決めていたのであった。
涙ぐむ翠星石と金糸雀。それを見たメグは無邪気に笑いながら言う。
「そうね、水銀燈ならそう言うわよね。急がしちゃってゴメンね」
まだ諦めきれない山本は困惑しながらも話を続ける。
「しかし、私としましては。是非とも真紅さん、水銀燈さんに・・・」
その山本の話を打ち消すように真紅がやや大きめの声を出す。
「私と水銀燈は薔薇乙女いがいの何者でもないわ。私は薔薇乙女のボーカル
真紅よ」
「私もぉ薔薇乙女のギターの水銀燈よぉ。この意味、解るぅ?」

真紅と水銀燈の強い言葉に少し落胆の色えを見せる山本。だがしばし考えた
山本の表情は落胆の色は薄れていく。
「そうですか・・・残念です。しかし私も薔薇乙女というバンドに
興味が出てきましたよ。一度見て聴いてみたいですね。その薔薇乙女と
言うバンドが作り出す音を」
「解ったわ。じゃぁ後6ヶ月、あと半6ヶ月待って頂戴」
「半年ですか?」
真紅と水銀燈の思いに涙ぐむ翠星石の肩を抱きながら答える水銀燈。
「そうよ、この子達が卒業するまでよぉ~。そうしたらここにいる
ラプラスよりもォ、最高の音楽を届けてあげるわァ」
真紅と水銀燈の強い思いに折れる山本は次のような提案を出す。
「そ、それでは一度、その薔薇乙女の曲をテープなりに録ってN’sレーベル
に届けてほしい。それと真紅さんと水銀燈さんは引き続きラプラスの
サポートメンバーとしてレコーディングに参加はどうでしょう?」
「それならイイわよぉ~、ねぇ真紅ぅ」
「サポートメンバーならいつでも引き受けるのだわ。でも私達が曲を出すのは
薔薇乙女としてからなのだわ」
その後、真紅と水銀燈はラプラスのレコーディングに参加。
翠星石と金糸雀は4日後に帰っていった。
季節は夏から秋へ、そして街を吹く風の匂いの中に冬の気配が感じられる頃、
ラプラスがデビューシングルを出すと低迷する日本のロックシーンを塗り替え
るほどの大ヒットを記録し、次の戦略であるファーストアルバムの製作に
取り掛かろうとしていたとき、N’sフィールドに薔薇乙女のデモテープが届いた。

ラプラス達を乗せ移動中の車で山本はメグに薔薇乙女のテープが届いた事を
告げる。
「えぇ、来たの?今そのテープあるの?あるなら掛けてよぉ~」
「私も聴きたいデス、薔薇乙女が作った曲は聴きたいデス」
ラプラスを乗せTV局に向かう車の中で薔薇乙女の曲がスピーカーから
弾け出した。爆発しそうな水銀燈のギターと翠星石のドラムがハンドルを
握る山本の足を知らないうちにアクセルを踏み込ませる。
「私は今、初めて聴いたのですが、これが薔薇乙女ですか?」
興奮した口調でスピードが増しハンドルを握る手にも力が入った山本の
質問に巴は静かに答える。
「えぇ、そうよ。これが私達ラプラスにとって最大のライバル、薔薇乙女
の曲よ」
真紅と水銀燈の存在感はすでにラプラスのレコーディング時のサポートで
把握はしていたがバンドとなるとこれ程の爆発力を持った曲を作り出すもの
なのか?と思い薄っすらと額に汗すら浮かぶ山本。
同じロック主体のバンドだがラプラスと薔薇乙女の音楽性は違う。
万人ウケし解りやすいメロディーに透明感のあるオディールの歌とメグの
繊細で流れるようなギターに対し薔薇乙女はどこかミステリアスであり、
真紅の伸びていくような声に水銀燈の他を威圧するようなギターが特徴、
一般ウケはラプラスだろう、だがこの薔薇乙女というバンドは恐ろしく
大きな可能性をもっている。他のレーベルには取られたくない。
「メグさん今、真紅さんか水銀燈さんと連絡が取れますか?」
「取れると思うけど今2人は田舎に帰ってるわよ。3日目だったかな?
ん?2日前?んん、昨日かな?とにかく水銀燈から電話があったよ」

N’sレーベルに送る曲を録るために3日ほど慣れ親しんだ街にいた真紅と
水銀燈だがテープを送るとすぐに東京に帰ってきていた。
そこにメグからの電話がかかってくる。
「もしもし、水銀燈?今ね、車の中で薔薇の曲を聴いたよ、いつこっち
に帰ってくるの?」
「もう帰ってきてるわよぉ、昨日帰るって電話したじゃないィ」
「ん?そうだっけ?とにかく山本さんが話したいから変わるね」
山本は今すぐにでも薔薇乙女と契約したいとの申し出を切り出す。
ただのマネージャーである山本だが彼の中には断固とした決意と自信が
薔薇乙女に対してあった。低迷する日本のロックシーンに現れた2つの
巨大なバンド、ラプラスとまだ知る人の少ない薔薇乙女。
この2つを是非とも持ちたい。
レーベル上層部もこのデモテープを聴けば契約も納得してくれるに違いない。
山本と水銀燈との電話のやり取りを耳を澄まして聞くラプラス達。
メグとオディールは契約が進みそうな進展に笑顔になるが巴は少し不安
そうに隣りに座るミチコに小声で話しかける。
「薔薇乙女がデビューしたら、本当の意味でライバルになるわ」
「そうね、今聴いたテープだけでも凄いよね」
その日のうちに契約の話は水銀燈から真紅へ、そして薔薇乙女メンバーに
行きわたった。N’sレーベル上層部も山本の読みどうりの反応で薔薇乙女
との契約にGOサインを出す。

その話を聞くと翠星石と雛苺がプロになるなら高校を中退すると言い出し
たり、それを止める金糸雀と雛苺が大ゲンカになったりと契約の話は伸びて
いったが本格的な活動はメンバーの卒業後ということで話が付く。
その頃、ラプラスはファーストアルバムを出すと、これも記録的なヒットに
なる。そのアルバムの中から「クリスマスはゲレンデで」というキャッチ
フレーズがついた鉄道会社のCMに使われた少しポップな曲がTVで流れ出すと
ラプラス人気はもはやロックに興味がない人々にまで行きわたっていた。
「もう街中ラプラスの曲だらけよォ~、凄いじゃないィ~」
「まぁね、これがラプラスの実力よ~。早く水銀燈も契約しなさいよ」
「金糸雀と雛苺がモメてたからねェ~。でもぉ、契約は明日にでもでき
そうよぉ~。そうなったら私達のォ、薔薇乙女がすぐにメグ達を追い抜くわァ」
「えぇ~っと、金糸雀ちゃんってドラムの子だよね。そうモメてたの?」
「違うわよぉ、ドラムは翠星石。あの髪が長い子よぉ~。どうしたのメグぅ?」
「ゴメンねぇ、最近よく物忘れしちゃうんだ、フフフフ」
「疲れてるんじゃないィ?休みも必要よォ~」
「そうね、明日は大学の講義の後で雑誌のインタビューに写真撮影が3件よぉ
、疲れるわね。じゃぁそろそろ眠るわ。オヤスミ水銀燈」
水銀燈とメグの何気ない会話が終わり何気なくTVを付ける水銀燈。
今風の男女がゲレンデで抱き合いキスをする場面が出る。その映像のバック
でラプラスの曲が流れている。小さく笑う水銀燈。
(ウフフ、もうすぐよ、もうすぐしたら見えるわぁ、メグと同じ景色が)
その次の日、真紅が代表でN’sレーベルの契約書にサインをした。
そして季節はクリスマスを通り過ぎ年が新しくなると翠星石、蒼星石、雛苺
、金糸雀、薔薇水晶が上京する。
全てが揃った薔薇乙女の第2章がここ東京を舞台に大きく広がろうとしていた。


最終更新:2006年05月28日 03:24