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彼女達のデビューがほぼ決まっている事に学校側が理解をしめし
卒業の役1ヶ月前に翠星石達は仮卒業という形をとり上京していた。
その日はラプラスもオフだったこともありホーリエで薔薇乙女を歓迎する
簡単なパーティーが関係者だけでホーリエで行われた。
それは古い友人達が再会した同窓会のような感じがするアットホームな
パーティーであった。
「うぅ~、もうヒナ食べれないの~」
無理やり雛苺の口に特大ピザを笑いながら押し込む翠星石。
「うん、カナは卵焼きとかオムレツが大好きかしらッ」
ミチコと楽しく好きな食べ物の話で盛り上がる金糸雀。
軽い笑い声と音楽の話が混じる中、真紅はカウンターでマスターに礼を言う。
「突然のパーティーで申し訳ないのだわ」
「いやいや、何を言ってるんだい。真紅ちゃんのおかげで売り上げホラ、
これだよ」
電卓を叩き真紅み見せると真紅も笑顔になる。その時ホーリエのドアが開き
ノリが遅れて到着する。
「ゴメンねぇ、ジュン君を待ってたら遅れちゃった~」
ノリの後ろからジュンが遠慮がちに入ってくる。
ノリと巴がジュンに薔薇乙女のメンバーを紹介しだす。そんな説明も耳に
入らない表情のジュンに心配したノリはジュンの顔を覗き込む。
「どうしたの?気分でも悪いの?」
「いいや、何でもないんだ。ちょっと疲れてるから飲み物が欲しい」
そう言うと近くのテーブルにつく。真紅はカウンターからオレンジジュース
をジュンのテーブルに置きイスに腰を下ろす。
「顔色が悪いのだわ。カゼでもひいたのジュン?」
「いや、別に何でもないよ」
そう言いジュンはオレンジジュースを口に運ぶ。そんなジュンは少し上目使い
でホーリエで陽気に話す薔薇乙女とラプラス達、それと数人のN’sレーベルの
関係者を目で追いかける。
「悪い、帰るよ」
短い言葉のあとジュンはホーリエから出て行く。
そんなジュンに気付いたのは同じテーブルにいた真紅だけであった。
「ちょっと待ってジュン。どうしたの?」
真冬の夜、人通りが引いた街路樹の枯れた枝を薄っすらと街灯が照らしている
所で真紅はジュンを捕まえる。
「どうしたの?いきなり飛び出して、ノリも心配するから店に帰るのだわ」
「店?あそこは僕の居る所じゃないよ」
「どうして?みんな居るのだわ」
「あそこは、夢を掴んだ奴だけが居る場所だよ、僕は・・・」
あれからジュンは毎日のように駅の同じ場所で唄っていた。
だが人の足を止めることはジュンにはできなかった。
時々、気付くと真紅だけが足を止めて
聴いてくれていたことがあるだけ。
その後いつものように歌い方や唄に感情が入っていないと怒られたり
イヤミを言われたりしたがジュンにとって真紅だけが唄を聴いてくれる人で
あった。そんな真紅もノリ達と同じように手の届かない場所にいってしまった。
そんな今のジュンにはただの挫折感しか感じられていなかった。
「お前まで、行ってしまったよ。サヨウナラ・・・」
そう言い残すとジュンは走り去って行った。

                    *

まだ正式にデビューしていない薔薇乙女にはN’sレーベルから大した金も
出ず、金糸雀は真紅と水銀燈の部屋に住み、翠星石、蒼星石、雛苺が
真紅達の隣の部屋に住むことになっていた。
薔薇水晶はラプラス達と同じ有栖川に合格し、そこの学生寮に入っていた。
真紅、水銀燈、金糸雀がデビューに向けた曲を作っている時、となりの部屋で
は翠星石が雛苺をイジメている声に混じり蒼星石が止める声がはっきりと
壁を伝い耳に入ってくる。
「もう、いやになるかしらッ、このマンションの壁はどうなってるかしら~」
「そうねぇ、翠星石がどうやって雛苺を泣かしてるかァ、手に取るように
解るわねェ~ねぇ真紅ぅ。どうしたのぉ?考え込んじゃってェ~」
「ううん、何でもないのだわ。それにしてもこの曲は薔薇水晶の意見も
必要ね。かなりの打ち込みで作っていかないと・・・」
真紅は先ほど走り去ったジュンの事が気になってはいたが今はそんな事より
曲を作ることにした。

その頃、メグはラプラスの作曲を数多く手がけ印税収入も入り、真紅達とは
違い東京の夜景が一望できるマンションで暮らしていた。
(今日は楽しかったわぁ、これで私と水銀燈は同じラインに立ったのね)
これから始まるであろう薔薇乙女とのチャート争いを楽しみにするかの
ようにメグは無邪気に笑いながらリビングから寝室へと移動する。
(あれ?ん?何、何なの?私そんなにお酒飲んだかしら?)
突然メグの体が方向感覚を失い床と天上が入れ替わるような目眩が数秒ほど
メグを襲い、耳の奥から金属音に近いような雑音が聞こえる。
軽く吐き気を覚えたメグは目眩が治まるとバスルームに駆け込む。
トイレの流す音を聞きながらもかすかに耳の奥からは雑音が聞こえている。
鏡に映った自分の顔を覗き込むメグ。
(疲れてるのね、目もこんなに充血しちゃって。早く眠ろう)
目眩は無くなっていたが寝室までが遠く感じられる。
ベッドに腰かけ額に手を当ててみる。
(うん、大丈夫ね。熱はないわ。そう疲れてるだけ)
ベッドに入ったメグはすぐに深い眠りに誘われる。
静かに目を閉じていくメグの耳にはまだ微かに雑音が残っていた。

                    *

冬の夜明けは凍える空気の中で静かに、そして遅く明けていく。
メグのベッド際にある目覚まし時計がその静寂を破り1日の始まりを告げる。
「んん~。ふわァァァ~」
ベッドに横になったまま背伸びをし、大きなアクビで目覚める。
昨夜の目眩も雑音もすっかり取れたメグはゆっくりとベッドから起き上がる
と鏡を見る。かすかに残る目の充血に目薬を差しカーテンを開けて
もう一度大きく背伸びをした。
(うん、大丈夫。さぁて、今日もガンバルか!)
昨夜の不快感もすっかり無くなったメグはお気に入りのシャツに着替え
ながら今日の予定を思い出そうとするがなかなか思い出せない。
マネージャーの山本に連絡を取ろうにも携帯をどこに置いたのかがすぐに
出てこない。
(あれ、バックの中かな?それとも、この中かな?)
コートのポケットに手を入れるが入っているのはハンカチだけ。
(もうッ!!)
携帯をどこに置いたのかなかなか思い出せないメグは苛立ちを覚え手にして
いるコートをベッドに投げ捨てる。その時、リビングから携帯の着信音が
聞こえてくる。それは充電器に差し込んでいる携帯からであった。
(あれ、いつの間に充電したんだろ?)
「あっ、ゴメンね~忘れてたわ。今すぐスタジオに行くから~」
バレンタインデイに出すCDのレコーディングに急いで出かけるメグの
脳裏に一瞬、言葉に言い表せない不安がよぎるがそれもマンション前で
待機しているタクシーに乗り込みレコーディングのことを考えると、そんな
不安もいつの間にかどこかに消えていた。
そしてメグが出て行った部屋からまた携帯の着信音が鳴り出した。
「あっ、メグぅ。私ぃ水銀燈ォ~。私達の曲が出来そうなのよォ~。
また連絡するわァ~。じゃぁねェ~バイバイ」
水銀燈は留守番電話にメッセージを入れると薔薇水晶が打ち込みで形に
したスピード感のあるメロディーにニコリと笑った。
真紅と雛苺はそのリズムに合わせて詞のイメージを膨らませている。
隣の部屋では蒼星石と金糸雀がカップリング曲にあたるバラードを
作っている。
「なんだかぁ~、私達ってほんとうにミュージシャンになったみたいねぇ」
「なったみたいじゃなくて、翠星石達は本当になったのですぅ~」
口を尖らせながら言う翠星石に水銀燈はフフっと小さく声に出して笑う。
「フフフっ、そうねェ、翠星石の言うとおりだわァ~。これで薔薇乙女は
一気に羽ばたくわよォ~」
「もちろんですぅ、あっちゅう間にブッ飛んで行くですよッ」
水銀燈と翠星石が笑い合っているとドアが開き同じような笑顔の金糸雀と
蒼星石が入ってくる。
「バラードは大体できたかしら~。後はこの曲の詞を考えるのは水銀燈の
役目かしらッ」
「えぇ~作詞なんてぇ、やぁ~よ。恥ずかしいわぁ」
「だってこの曲の元を作ったのは水銀燈だよ。その時の気持ちをとりあえず
ノートに書いてみたらイイと思うよ」
「気持ちなんてぇ~。パチンコ帰りにいきなり浮かんだ曲よぉ~」
「そうなのかい?でもこんな切ない中にも強い意志の感じられるメロディーは
そう簡単には生まれないよ。きっとその時の水銀燈の気持ちが働いて出来た
はずだよ。よくその時を思い出してみたら?」
「そのとおりかしらッ、その頃を思い出すかしら~」
「そうねぇ~、あの頃ってェ~?」
水銀燈は壁にもたれ、窓から見える鉛色の空に浮かぶ雲が冬の北風に吹かれ
飛ばされていくのを見ながら記憶を辿っていく・・・。
仲間達と別れ真紅とアテもなく夢だけを胸に東京に出てきた。
日々の暮らしに不安と希望が常に交差していく毎日。
苛立ちと喜びの狭間で生まれては消えていく時間の流れ。
眠らない街に飲み込まれそうになる夜。
見知らぬ人込みに背中を押されて歩く東京。
バイトなど2日で辞めてしまう自分にムカつきつつも笑ってしまう。
結局はあの街にいた頃と変わらない自分、あるのは自由な時間だけ。
気付くとその自由な時間に縛られそうになる。

「何か思いついたかい?」
「まぁ、あの頃は真紅にぃ、バカみたいに金を使われてムカついたって
感じィ~?ウフフフ。とにかく何か書いてみるわァ~。貴女達の部屋を
借りるわよぉ~。ここはウルサくて集中できないわぁ」
少しテレ笑いとも取れる笑みを残し水銀燈は翠星石達が借りている隣の
部屋に向かった。
この大都会、東京の片隅に乱雑と立ち並ぶ雑居ビルに囲まれお世辞にも
綺麗とは言えないマンションの302号室と303号室。
その2部屋から後に伝説とまで言われるモンスターバンドの
デビュー曲が生まれようとしていた。


最終更新:2006年05月31日 23:35