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その後、ラプラスのレコーディングに戻ったメグはいつものようにギターを
手にし、オディール達に向かって笑顔で言う。
「さぁ、薔薇乙女に負けないように私達もガンバリましょ~。ねっ、巴」
「そうね、彼女達の曲に負けないようにねッ」
薔薇乙女のアルバム曲に興味津々のミチコはソワソワしながらメグに質問する。
「ねぇ、ねぇ、前に約束した薔薇乙女とのコラボ曲ってもう出来てるの?」
「もうね、凄くイイ感じで出来てるわよ。もうすぐお呼びが掛かると思うわ」
その話にノリは興奮した表情で入ってくる。
「そうなの、もうすぐ出来るのね。もう真紅ちゃん達ってカワイイから
早く会いたいわ」
そんなノリの浮かれた笑顔に巴は冷静な声を出す。
「でも私達のアルバム発売のすぐ後に薔薇乙女のアルバムが出るってことは
アルバム対決になりそうね」
「そうデスネ。さぁ、ワタシ達もレコーディングを始めましょう」
オディールの声で各ポジションにつくラプラス達。楽器を前にすると彼女達の
目付きは変わり先程の笑みは消えプロの表情になっている。
イヤホン越しにメロディーがそれぞれに伝わる。オディールが感情を込めて
唄い、そこにギターソロに入る。

メグ得意の細く突き刺さるようなトーンが滑るように展開していくが、突然
そのメロディーが途切れた。
「えッ?」
普段から極端にミスの少ないメグのギターが途切れたのを信じられない顔付で
見るオディール達。
メグは手首を握りかすかに震える左手を見つめる。
(な、何? これは何?)
震える手首に視線を落とすメグに巴が近寄る。
「どうしたの、メグ? ケガでもしてるの?」
「う、うん。昨日ね、ちょっと部屋の片付けしてて手首をヒネッたの。
ゴメンねェ~。ちょっと休憩いいかなぁ?」
作り笑いを浮かべたメグはそのままドアを開け出て行くと、小走りでトイレ
に駆け込む。
震える左手首から指先にかけて水をかけながらカガミに映るメグの顔には
不安の色が濃く浮かんでいた。

                    *

その頃、薔薇乙女は真紅がラジオ放送中に勝手に決めたアルバム発売日に
向けて急ピッチの作業が続いていた。
「ここで・・・メグさんのギターが・・・入ってきたらイイと思う」
「そうねェ、イイ感じになって来たじゃないィ~」
水銀燈と薔薇水晶が作るラプラスとのコラボ曲は完成されつつあり、
翠星石と蒼星石も普段から暖めていたアイデアをメロディーにし、それを
雛苺が鼻歌雑じりで曲のイメージを広げていく。
「フンフンフン~♪~ラッララッラァ~♪~。こんな感じなの~?」
「チビ苺にしては察しがイイですぅ。その調子で完成させるですぅ」
真紅はほぼ出来上がっている金糸雀が作った曲に歌詞を付けるため
イヤホンで繰り返しメロディーを聴き、自分の中にある世界観を探っていく。
そんな薔薇乙女のアルバム製作作業は明け方まで続いた。
「できたわぁ~。これで後はメグ達を呼んで音入れよォ~」
水銀燈の嬉しそうな声にイスに座り居眠りしていた金糸雀は目を
覚まし、水銀燈を見る
「いま何時かしらぁ~?」
「あ~ら、眠っていたのぉ? 今ちょうど曲ができたトコなのよ~。
ホラ、聴いてみてぇ」
水銀燈はそう言って寝ぼけ眼でイスに座る金糸雀にイヤホンを投げて渡す。
緩やかな放物線を描いたイヤホンはキャッチしそこねた金糸雀の
オデコに当たる。
「痛いかしら~。もう、ちゃんと渡すかしらッ」
そう言いながらイヤホンを耳にあてると、薔薇水晶が曲を流す。
静かに流れるアルペジオ、そこに教会の鐘の音色に似た単音が印象的に
響く。風が草花を揺らし彼方から吹き付ける。見上げる夜空から降り注ぐ
月明かり。そんな風景がスローモーションのように金糸雀の脳裏を流れて
埋め尽くしていく。
そこに水銀燈のギターがいつもと違うトーンで入ってくると曲の持つ雰囲気
は、まるで無くした時間を嘆く人々の涙声のように切なく展開されていく。
言葉を無くし曲の持つ世界に入り込む金糸雀はいつしかまばたきすら忘れて
いた。
曲が終わってもしばらく曲の世界の中に居る金糸雀に水銀燈が声をかける。
「ねぇ、どうだったァ~? ちょっと金糸雀、聞いてるのォ?」
水銀燈の声で我に返る金糸雀は唖然とした表情で水銀燈と薔薇水晶を交互に
見返す。
「貴女達って、なんて曲を作ったのかしらァァ!!」
その金糸雀の反応に顔を見合わせニコリと笑う水銀燈と薔薇水晶。
「フフフ、その曲は夢見るようにって感じで作ったわァ~」
「そう・・・曲名は・・・トロイメントって言うわ」
ここに薔薇乙女とラプラス、2つのバンドが参加する最初で最後の
曲が誕生した。

                    *

ラプラスのスケジュールになかなか空きがなく薔薇乙女のレコーディング
に参加したのはラプラスのアルバムが店頭に並びミリオンを難なく
達成した、そんな時であった。
「ゴメンねぇ、けっこう前から曲は出来てたんでしょ~」
「それよりも流石にラプラスね。いきなりのミリオンでビックリ
したのだわ」
「まぁね、これが私達の実力よ~」
メグはニコッと笑いながらギターを取り出し、手首にリストバンドを巻く。
「あれぇ~、メグいつからリストバンドなんてしてるの~?」
「えっ、あぁ、これはね。そう、トレードマークにしようかなってね」
「そおぅ~。それよりもォ、この曲は自分でもイイ曲ってェ~感じぃ?」
そう言いながら水銀燈はボタンを押し、曲を流す。
スピーカーから流れる曲に吸い込まれるラプラス達。
「凄いですネ、イイ感じの曲です。早く歌ってみたいです」
「そうね、早く音を入れちゃいましょう。ねぇ水銀燈、私のパートを
説明して」
真紅、水銀燈、薔薇水晶がラプラスからメインゲストで参加するオディール
とメグに曲のイメージと入るパートを説明する。
主にコーラスで入る巴、ノリ、ミチコは雛苺と一緒に曲が持つ世界観に
沿いながら声を合わせる練習をしている。

                    *

金糸雀、翠星石、蒼星石は薔薇乙女のファーストアルバムの取材に来た
記者の質問に答えている。
「薔薇乙女にとって初のアルバムですが、コンセプトとか聞かせてもらえ
ないでしょうか?」
テーブルの向こうに座る金糸雀は得意気に答える。
「コンセプトはアルバムのタイトルどおりトロイメント、日本語で言えば
夢見るように、かしらッ」
「トロイメントとは夢見るようにって意味なんですか。それじゃ、このアル
バムに込められたメッセージは夢を追いかける人達への応援って感じですか?」
その記者の言葉に蒼星石はコーヒーを口に運びながら答える。
「そう、僕たちがバンドを組んでからデビューするまでに色んな事があった。
でも諦めずにここまで来れたのは、夢を見続けていたからなんだ」
そこまで言うと蒼星石は目を閉じ思い出すように語る。
「悲しいことや辛いことがあっても夢を見るのを忘れたら全てはそこで途切れ
てしまうと思うんだ。だからどんな小さな夢でもいいから望んでいたら
きっとチャンスはやってくる。そんな想いをアルバムに込めたつもりだよ」
「そうですか。所で今回はそのアルバムタイトルになっている曲はラプラス
が参加するそうですが?」
その質問には翠星石が答える。
「今、となりの部屋でラプラスと真紅達が曲とパートの確認をしてるですよッ。
この後すぐにレコーディングですぅ~」
「そうなんですか!それじゃぁ、取材のシメとして最後に薔薇乙女とラプラス
の写真を撮りたいのですが、イイでしょうか?」
「イイかしら~!!」
カメラのレンズ越しに見ると薔薇乙女とラプラスは笑顔でメンバーが入り
混じっている。
オディールと真紅は並び、人差し指を立てている。
水銀燈とメグは肩を抱き合い笑顔で拳を前に突き出している。
巴と雛苺は頬が付くくらい寄り添いカメラに向かってピースサインをしている。
ミチコは後ろから金糸雀の肩に腕を回している。
真ん中にノリを置き、その左右に翠星石と蒼星石、その前に薔薇水晶が笑っている。
眩しいフラッシュの中で薔薇乙女とラプラスはフイルムの中に
終わらない一瞬を焼き付けた。

                    *

3週間ほど1位をキープしていたラプラスのアルバムが2位に下がり、
変わってトップの座には発売されたばかりのトロイメントが入った。
「さぁて、これで来月からカナ達もツアーが始まるかしら~」
「ツアーが決まったですかッ、まずはどこからですぅ~?」
「ここ、東京から始まって16ヶ所かしらッ」
「私の故郷、大阪は入ってるのね、楽しみなのだわ」
「大阪と言えばたこ焼きですぅ、楽しみですぅ~」
「ヒナの神戸もあるの~」
「神戸と言えば神戸牛ですぅ、楽しみですぅ~」
「食べ物ばかりじゃないィ、だからァ翠星石はすぐに体重が増えるのよォ~。
そのうちドラムセットからハミ出すわよぉ~」
最近また体重が気になりだした翠星石は顔を真っ赤になる。
「なッ、何を言いやがるですかァ~!」
水銀燈と翠星石とのやり取りを聞き微笑する真紅達。
その時、ツアー中のラプラスのマネージャーから金糸雀に
連絡が入る。
金糸雀は電話の内容を聞きながらチラッと水銀燈の顔を見る。
そして電話を終えた金糸雀はポツリと小さく言う。
「メグが倒れたかしら・・・」
つい先ほどの軽い会話が途切れる。


最終更新:2006年06月10日 18:30