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薔薇乙女、彼女達の目の前を幾つかの時間と季節が
足早に通り過ぎて行き、何度目かの春が訪れる。
伸びた大木に淡い色をした桜が咲き乱れ、ゆるやかな春風に
揺れる花弁は、音もなく優雅に舞う。

「こんんちは、メグ」

柿崎めぐ、と書かれた墓石に水を優しく流すノリは、大きくなった
お腹を気にしながら墓石の前に座る。
春の柔らかい風が花弁を乗せて、ノリの髪を撫でていく。
右手で髪を直しながら墓石に置かれている花束を見ながら
メグに話しかける。

「真紅ちゃん達が来てくれたのね、良かったね、メグ」

そこには生前、メグが好きだと言っていた薔薇の花束が置かれていた。
それを見ながらノリは微笑み、お腹に手を置く。

「ゴメンね、なかなか来れなくて、私の赤ちゃん、もう8ヶ月目に
 なったのよぅ」

メグがこの世を去った、その1年後にノリはラプラスのマネジャー
であった山本と結婚していた。

「そうそう、今日はメグに報告があるの、巴のハリウッドデビュー
 が決まったのよぅ、それとミッちゃんの写真展がニューヨークで開け
 そうなの、そしてオディールはね・・・」

                    *

ドイツ、ベルリンにある高級ホテルのロイヤルスイートでオディール
はインタビューに答えていた。

「グラミーを取ったオディールさんが最も尊敬し、またライバルと
 思われるミュージシャンを教えていただけますか?」
「フフッ、私が最も尊敬するミュージシャンは薔薇乙女よ」
「バラオトメ? 聞いたことがない人ですね?」
「人じゃなくてバンドよ、この国の言葉ではRozen Maidenになるわ」
「ローゼンメイデン?」

クスッと笑うオディールは壁にかけられている大きな
時計をチラッと見る。

「そう、ローゼンメイデン、薔薇乙女よ。もうすぐ彼女達のライブが
 始まる時間ね」

アジアでは絶大な人気を誇る薔薇乙女だが、ここアメリカを始め、
欧米諸国での認知度は低い。
そんな薔薇乙女は今回、アメリカで開かれるワールドミュージック
フェスティバルにアジアを代表するバンドとして出場する事になっていた。

アメリカ、ワシントン州シアトル。
レイニア・アベニューからバスで約25分、グリーンレイクから
さほど離れていないショッピングモールは大勢の人で賑わっている。
そのショッピングモールから、さらに数マイルはなれた広大な敷地に
巨大なコンサート会場が建設されていた。

「もう出番なの~、ドキドキするの~」
「緊張することないわぁ、いつもどおりヤレばいいのよォ」
「そうね、じゃ、行くわよ!」

真紅達がステージに現れると口笛と歓声に混じり挑発するかのような
奇声とブーイングが所々で起こる。
それは薔薇乙女が他の出演者と比べて、余りにも幼い顔立ちと認知度に
よるものであった。

「おい、おい、あんな子供が何をヤルんだ?」
「さぁ、ディズニーじゃないかい? ハハハハ~」

そんな声が混じる中、水銀燈は後ろを向き、翠星石と蒼星石に
合図を送る。

「あのバカどもを黙らせるわよぉ」
「がってんですぅ!」

翠星石のスティックが大きく振り下ろされる。
蒼星石のベースは太いリズムを生み出す。
薔薇水晶の指が鍵盤の上で軽やかに踊り出す。
水銀燈のチョーキングが大気を切り裂く。
雛苺と金糸雀は声を合わせていく。
走り出す音に真紅の美しくもハリがあり、力強い
歌声が乗ると、メロディーは音速のスピードとなり
埋め尽くす人波の中へ飛び込んでいく。

「凄ぇ、クールだよ」
「あぁ、見ろよコレ、鳥肌立ってきたよ」

アジアの国々を今や薔薇色に染め上げている真紅達のメロディーが
今、このアメリカで音の爆弾として炸裂する。
その破片は薔薇の形を作りながら数万人の胸に深く突き刺さる。
ステージを走り、時には腰を揺らし男を誘う仕草をし、時には雛苺と
可愛くおどけながら歌う真紅のパフォーマンスに全ての人々は心を
魅了されていく。

(真紅ばかりにイイ格好させないわよォ~)

歪ませた音を大観衆の中に投げかけながら、水銀燈はステージ中央に
躍り出ると、そのまま真紅と雛苺の間に割りこむように入る。
かき鳴らされ、つむぎ出される音の鋭い刃は閃光となり、水銀燈の
指先から振りかざされる。
ステージで圧倒的な演奏を見せる薔薇乙女を捕らえるテレビカメラ。
その映像は遥か成層圏に浮かぶ人工衛星を中継し、全世界に流れている。
朝のコーヒーを片手に、お昼のランチを広げながら、眠れない深夜に、
60億の人々が暮らすこの星をデジタルの波に乗り薔薇乙女の音と歌は
多くの目と耳に届いた。
薔薇乙女の音と歌は、ここ成田空港のロビーに備え付けられている
画面からも流れていた。
迫力ある映像と歌に多くの足が止る。

「おっ、薔薇乙女だよ、これドコでヤッてるライブ?」
「外国だよな? やっぱり薔薇乙女はイイよなぁ」
「うおッ、水銀燈のソロだよ、カッコイイな」
「真紅、カワイイなぁ」

その人だかりの中に帽子を深くかぶり、少ない荷物をもった
ジュンの姿が見えた。

あの日、真紅の腕を振りほどいたジュンは一人まとまらない
考えの中にいた。

芽生え始めた真紅に対する淡い気持ち。
目の前で見た薔薇乙女の成功。
その成功に嫉妬し、同時に何も成せない自分自身に対する苛立ち。

ジュンは何気にテレビをつけてみる。
時代遅れの深夜映画、ドラマ、スポーツ、どれも在り来たりの映像。
だが、その時、不意に飛び込んできた場面。
飢餓、天災、戦乱に苦しみ、天を仰ぐ悲しみに顔。
そのバックに流れるジョン・レノンの切なく語りかける歌が
ジュンの苛立つ心に染み込んでいった・・・・・。

「真紅、僕もがんばってみるよ、ようやくヤリたいこと
 が見つけられそうなんだ」

アップに映し出された真紅の顔につぶやいたジュンはパスポート
を片手に出国ゲートに向かって歩き出した。
その、ジュンの背中を画面の中の真紅はニコリと優しく微笑み、
見送っているような表情を見せていた。

真紅の笑顔をアップで撮ったカメラは、そのまま熱狂の中で埋め尽くす
大観衆に向けられる。
そこには腕をステージに伸ばし、大きくうねる様は、まるで大海に沸き立つ
波のようであった。

「す、凄い。 あんなキュートな娘がヤッてるとは思えない!」
「あぁ、オレも信じられない」
「時代が変わっていく瞬間ってこんな感じだろうな」

薔薇乙女の演奏とパフォーマンスを目の当たりにした現地のスタッフ、
この映像を見るまでは、薔薇乙女の存在を知らなかった多くの人々は
そう囁き合い、新たな時代の誕生を感じ取っていた。
翠星石の迫力あるドラムから・・・
蒼星石の太く響くベースから・・・
薔薇水晶の幻想的なキーボードから・・・
金糸雀のギターとコーラスから・・・
雛苺の愛らしい声から・・・
そして悲しみを乗り切った水銀燈のギターから・・・
薔薇乙女が歩んできた全ての想いを詰め込んだ音が走り出す。
ステージを駆け巡る真紅は、設置されている大きなアンプの
上に飛び乗る。
そして瞳を閉じて腕をゆっくりと広げていく。
数万の視線が真紅を追いかけ、映像を見る数億の目が真紅を見つめる。
膨大な数の瞳から寄せられる熱い感情と鼓動は瞳を閉じた真紅の心の中に
大きな扉として現れた。
その扉がゆっくりと開き始める。

「ハァ~」

大きく息を吸い込んだ真紅は、その扉の向こうに見えている
夢へと続く世界に向かっていつものセリフを叫ぶ。

「さぁ、私達の音に酔いしれるのだわ!!」


憧れから夢へ
その夢をいつまでも見つづけ、追いかけ、走り続けてきた
彼女達、薔薇乙女の伝説は今、この瞬間から始まった。


~Legend of Rozen Maiden 夢への扉編 完~


最終更新:2006年06月27日 23:31