アットウィキロゴ
午後の照りつける太陽の熱がアスファルトに蓄積され、背中に
リュックと両肩にギターとベースをぶら下げたジュンの体力を容赦なく
奪っていく。
額からにじみ出る汗を拭いながら重い足取りで駅へと向かうジュンの
視界には涼し気な服装でアイスを食べながら先を歩く真紅と翠星石の
姿が見える。

おかしいと思ったんだ、男の僕を女ばかりの合宿に参加なんて・・・。
真紅達の荷物をほとんど一人で運ぶジュンは暑さと疲れのため、少しづつ
真紅達との距離が離れていく。

~Singin’ in The Rain ・ Summer Time~ 

「ジュン君、大丈夫? 僕のベースは自分でもつよ」
「いや、大丈夫だよ。 駅もすぐソコだし、それにケガしてる人に
 荷物は渡せないよ」

さすが双子の妹だけあり髪の長さと性格以外はよく似ている蒼星石は
体育の授業中に足首を痛めたらしく、白い包帯が巻かれていた。
少し歩きにくそうに隣を歩く蒼星石は、申し訳なさそうにジュンに
ペコリと頭を下げる。

「早く来やがれですぅ、男のクセに軟弱ですぅ」
「ジュン、急ぎなさい。 グズグズしてたら夕方のフェリーに
間に合わないわ」
「うるさーい、お前らも自分の荷物くらいもてよー」

電車を降り、バスに乗り、夕方近くの埠頭に着き乗船手続きを済ませた
ジュン達はすぐに船室に駆け込む。

「あれ、僕の部屋は?」
「ジュンと私たちが一緒の部屋な訳ないでしょ、ジュンはソコよ」

真紅が指差す場所は広いスペースに多くの旅行客が荷物を広げてゴロ寝し
ている場所であった。
そういう展開になるだろうと予測していたジュンは、貴重品などを蒼星石に
預け、簡単な荷物を自分のスペース確保のために置き、すぐに船内の浴槽で
シャワーを浴び、汗を落とす。

フゥ~、参ったな。合宿って近くかと思ったら高知県だったなんて、
まぁせっかくの夏休みだし、これはこれで楽しいかも・・・。
シャワー後のジュースを飲み干すと簡単な枕と毛布を用意し、横になると
疲れのためかすぐにウトウトしながら3日前の会話を思い出していた。

                    *

「えぇ、金糸雀の田舎って高知県かよ! 四国に住んでいたのか?」
「5歳のときまで住んでたかしら、今は誰も居なくて空き家状態かしら~」
「そんなの、お邪魔してイイのか?」
「大丈夫かしら~」

四国、高知県の太平洋に面した小さな漁師町にある金糸雀の実家は、数年前
までは祖母が住んでいたが、来る歳には勝てずに足腰の弱った祖母は近くの
老人ホームに入居したため、現在の実家の様子は空き家状態になっていた。
そこで金糸雀は高校で真紅達とローゼンメイデンを結成すると、夏休みには
金糸雀の実家を利用し合宿を行っていた。

「そんな民家でバンドの練習とかできるのか?」
「その問題もクリアーかしら~!」

腰に手をあてた金糸雀は得意気な顔でジュンに説明する。
それは過疎化に伴い、金糸雀の実家から近い小学校が廃校になり、今は
近所の寄り合い所のような使われ方をしている。
しかもそこの音楽室の設備はまだ使えるため、それを利用する手はずに
なっていたし、廃校のため音楽室である必要もなかった。
楽器と機材さえ運べればどこでも大丈夫なのだ。
ジュンは金糸雀の考えに感心しつつも、1つ気になる質問をぶつける。

「あの~食事は?」

その言葉に4人は顔を見合わせてニヤリと笑いながら言う。

「親戚のミッちゃんがペンションをヤッてるから、ご飯はそこで
 食べれるかしら~」
「四万十のアユですぅ、ウナギですぅ、土佐鰹ですぅ」
「サーフボードも借りれるわよぉ~」
「雄大な太平洋、清流四万十川で泳ぐのだわ」
「という訳でぇ、私と金糸雀は1日早くツーリングもかねてバイクで行く
 からぁ、私のギターもってきてねぇ」
「そうですぅ、蒼星石のベースも持つですよッ」
「やっぱり僕は荷物運びかよ」
「グタグタ言うな・・・ですぅ、だいたい・・・合宿は・・・」

                    *

「・・・ん?・・・あれ、寝てたのか。 いま何時だろう?」

ジュンは夢から覚めると、他の旅行客も同じように起きて荷物をまとめて
いる姿もチラホラ見られた。
慣れない船室の硬い床で眠っていたジュンは深い眠りに入れなかったのか、
まだ少し眠り足りない表情でゆっくりと洗面所に向かい、念入りに冷たい
水で顔を洗い、タオルで拭きながらフェリーのデッキに出ると、
真紅達も同じようにデッキに出て、海を見ている。

「おはようジュン君」
「今まで寝てたの、ジュン。 もうすぐ着くわよ」
「これで翠星石達を撮ってですぅ」

翠星石は先ほどフェリー内の売店で買ったカメラをジュンに渡すと
真紅と蒼星石の間に入る。
フェリー後部のデッキの上で3人は肩を組み、目を細めて笑う。

「真紅と蒼星石はもっと翠星石に寄ってよ」

ジュンの言葉に真紅、翠星石、蒼星石は互いの頬がつくほど顔を寄せ合う。
ファインダー越しに見る彼女達の後ろには、青く澄んだ太平洋にフェリーの
航跡が白く波打ち左右に広がっていく。
すでに高い位置にある太陽の光が落とす海面は細かな星が輝くような
乱反射で埋め尽くされて、その波光の中から飛び出し、滑空する
トビウオの群れが見られた。

「じゃ、撮るよ。 はいチーズ!」

ジュンは笑顔でカメラのボタンを押す。
カシャッ・・・これから始まる真夏の一瞬を今、フイルムに焼き付けた。


最終更新:2006年07月17日 00:30