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一、乙女たるもの人に恥じぬよう生きるべし

 『Rosen's story【Ⅳ.出会い】』 

 何だろう。
 校内の雰囲気が変だ。
 いつも元気に挨拶してくれる後輩達がこちらをちらりと見るとこそこそ話しだす。
「みんな、おかしいですぅ」
「何だというの…」
「まさかっ…!」
 八人は駆け出した。
「やっぱり…」
 予想通り、校舎入り口に写真が貼られていた。
 水銀燈はそれを破るように剥がした。
「皆さん」
 凛とした声は聞き間違えるはずがない。
 くるりと振り返ると予想通りの人物――生活指導のA先生がいた。

「どういうつもりですか」
 八人全員がここ、生活指導室に集められている。
「何のつもりだったのかと聞いているでしょう」
 表面上には決して表れてはいない、けれど深い怒りが目の前の先生から感じ取られた。
 もうどうにも言い逃れできなくて口を開いた。
「私達は孤児でした…それはご存じですよね?」
 聞いても先生は目を閉じたまま答えない。
「住んでいた孤児院が経済悪化で潰れ、私達は今で言う、ストリートチルドレンになったんです」
「お願いです、お金をめぐんでくださいです」
「少しでもいいんです」
 空き缶を両手で持ち、いろんな人々に差し出す二人の少女。
「………見えた!」
 目を閉じ、いきなり見開くと自信満々に自販機を指差す少女。
「10円落ちてたのー!」
 自販機の中を覗いて飛び跳ねる少女。
「後、20秒で扉が開くかしら」
 ドアを見ながら勝者の笑みを浮かべる少女。
「来たっ行ってくるわぁ……あのぉ、この辺でぇ――」
 ドアが開くと同時に出てきた男に誘うような口調で話し掛ける少女。
「今の内ね、行くわよ!」
「合点承知の助」
 開けっ放しのドアにこそ、と入り込み、数分後に食料を持ち出してきた二人の少女。
 この八人は元孤児院『RozaMisteca』の子達である。
 この不景気の波に飲まれ、孤児院は潰れてしまった。
 八人は行く先もなくただ路頭に迷うばかり。
 頭にあるのはその日その日の食料だけ。
 そんなある日の夜。
「眠れないわ…」
 真紅が起きだした。
 寒いわけでもなく暑いわけでもない。
 至って普通の日なのに寝苦しかった。
 隣を見ると安らかに眠る仲間達。
 一体いつまでこんな生活が続くのだろう――終わりの見えない日常は考えるだけでじわりと涙が滲む。
 袖口で涙を拭き、頭を横に振る。
 泣いてはいけない、他の七人だって辛いはずだ。
 散歩でもしよう。
 膝で寝ている金糸雀に、心の中で謝って、そっと頭を地面に置いた。
 真夜中の、何時くらいだろうか。
 月明かりなのにとても明るい。
 ぽっかり浮かんだ月を見ているとまた泣きそうになって慌てて涙を拭いた。
♪ 何を恐がっているの 何が君をそうさせてるの
  こんな楽しげな月の夜に 君は一人寂しそう ♪
 突然、聞こえた歌声に真紅は驚きの声を上げながら振り向いた。
「…誰?」
「驚かせてしまったらごめんなさい。今の歌詞に貴女、ぴったりだったから」
「……」
 長い黒髪の女――否、自分より少し年上だがあどけない笑顔はまさしく少女のものだ。
「今の、貴女が作ったの?」
 聞く義理なんてなかったし、普段なら聞きもしないような言葉が自然と口から零れた。
「えぇ、歌が好きなの」
「そう…何をしてたの?」
「家にいたくなかったの」
「…そう」
 家が欲しい真紅にとって、なんて贅沢な悩みだろう。
 でも何となく怒る気がしなかった。
 地面を見ながら何をするわけでもなくただ座っている。
 不思議な少女だ。
 こちらのことは一切聞こうとしない。
「歌って頂戴」
「え…」
 いきなりの真紅の申し出に少女は目を見開く。
「今の歌……歌って頂戴」
 照れながら目線を外した真紅に微笑んで少女は言葉を繋ぎはじめた。

Illust ID:V/6n8WElO 氏(52th take)

                    *

 その次の夜、金糸雀が眠れずに悩んでいる表情だった。
「金糸雀、どうしたの?」「いつまで続くのかしら、こんな生活」

Illust ID:V/6n8WElO 氏(52th take)

 金糸雀には悪いが笑みが零れてしまった。
 昨日の自分とまるで同じ悩みを抱えている。
「いい子ね、金糸雀。貴女はとてもいい子」
 膝で寝ている金糸雀の髪をそっと梳いた。
「大丈夫よ…」
 ――何を恐がっているの 何が君をそうさせてるの
   こんな楽しげな月の夜に 君は一人寂しそう
   世界のどこかで……
 完全に横になっていた金糸雀がきらきらした目で真紅を見つめる。
「何?」
「いい歌かしらー…」
「え?」
「いい歌かしらー!どこで知ったかしら!教えるかしらー!」
 さっきまでぐずっていた姿はどこへやら。
 真紅の肩を揺らして迫る金糸雀。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!みんなが起きて…」
「うー、カナ?真紅?どうしたの?」
「全くぅ、雛苺が起きちゃったじゃなぁい」
「みんなみんな!凄いかしら!いいから聞くかしら!」
 続々と起きてきた仲間に金糸雀が熱弁を奮ってしまうがために真紅はこの後、皆の前で熱唱する羽目になった。
 これがきっかけに八人は少女――めぐと知り合いになり音楽の楽しさを知った。
 水銀燈のギター、蒼星石のベース、楽器類は全てめぐから貰ったものだ。
 作詞の仕方を金糸雀は教わり、ミシンの仕事を雪華綺晶は教わった。
 初めてのライブは公園で。
 たどたどしい手つきと歌声、それでもお客様たちは喜んでくれた。
 後に今の父親、ローゼン氏に拾われるまでそのライブは定期的に行なわれた。
「私達の気持ちが――先生には理解できるんですか!?」
 風の便りでめぐは入院してると聞いた。
 ――不安定な生活、終わりのない恐怖。
 それを救ってくれたのがめぐだった。
 噛み付くような目線で真紅は先生に言った。
 先生もたじろぐばかり。
「でも、校則を破ったのは真実。いかなる処分も受けますわぁ」
 ぎゅ、と真紅の肩を抱きながら水銀燈が言った。
「停学処分とします」
 先生はため息を吐きながら言った。

つづく


最終更新:2006年08月01日 16:05
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