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蒼星石はベッドの中で雷鳴と窓を叩く雨音を聞きながら急速に芽生えつつある自分の気持ち、そこからくる楽しい想像をしていた。

今頃ジュン君は眠っているのかな?早くジュン君のカゼが直ったらいいのにな…。
直ったらまたギターのコードを教えてあげたいな、あっ、僕がコードを教えていたら水銀燈が何か言ってきそうだよ。
ギターに関したら水銀燈は凄いから、僕の出番がなくなりそうだ…ジュン君はベースには興味あるのかな?
あったら教えてあげれるのに、それだとまた2人きりで……

2人きり、そんな考えに部室での微妙な距離感、そしてジュンの家での出来事。
とりわけ蒼星石の脳裏には事故とはいえベッドの上で眠るジュンを感じた今日の午後、そんなひと時を思い出すと蒼星石の胸と体が熱を帯びたように火照りだす。目を閉じてシーツの端をギュッと握り締めてみる。

「好き」

そんなありふれた感情から多くの想いと言葉が蒼星石の胸を駆け巡る。
不安と期待が複雑に絡み合った形容しがたい心境。
浮かんでは消えていく言葉、その中でも消えずに何度も表れる言葉のリフレイン。
蒼星石はベッドの横においてある携帯電話の灯りを灯すと思い浮かんでは消えていこうとする言葉をノートに書き綴った。

同じ頃、となりの部屋にいる翠星石も停電で真っ暗になった中で終わらない自問自答を繰り返していた。
それは自身に対するより妹である蒼星石のことが大部分を占めている。

もしも蒼星石がジュンのことを好きになっていたら翠星石はどーすればいいのですぅ?
翠星石はジュンと一緒にいたら楽しいのですぅ、なんだか他の男とは違って妙に気をはらなくてもいいのですぅ、それにジュンは翠星石たちの言うことをイヤだイヤだと言いながらも聞いてくれるイイ奴ですぅ。
だから翠星石はジュンのことを…蒼星石も翠星石と同じ気持ちなのですかぁ?
もしそうなら翠星石は………。

時間の経過と共に翠星石の考えは同じところを行ったり来たりの繰り返し。
そんな時、ふいに蒼星石と過ごしてきた時間を思い出す。
姉妹の双子とはいえ性格はほぼ正反対、活動的な翠星石はいつも先のことなど考えずに走り回っていた。
時には周りに迷惑をかけたときもあったし、幼い頃などはオモチャの取り合いで蒼星石とケンカをしたこともあった。
でもいつも最後は決まって蒼星石はニコニコ笑いながら翠星石の後ろを付いてきてくれた。
いつも姉である翠星石を慕ってくれていた。
いつも1歩下がって姉である翠星石を見ていてくれた。
でも今は同じ異性を意識し始めている蒼星石のことを考えると胸の辺りが苦しい。
しかし翠星石は勢いよくベッドから起き上がるとある決断をする。

ちょっとクヤシイですけどぉ…ちょっとイヤですけどぉ…ここは姉として蒼星石を、蒼星石を応援するですぅ…ちょっと胸が苦しいですけどぉ、ちょっと悲しいですけどぉ…翠星石は蒼星石を応援するですよッ!!

応援すると言うこと、それは翠星石にとって意識している異性を諦めるだけではなく蒼星石とジュンが楽しそうに会話をしていても後ろからただ見守るにとどめるということ。
そう決断した翠星石は手のひらをギュッと握り締め強い眼差しを見せていた。
ただ、その瞳には窓を濡らす激しい雨にも似た大粒の涙が滲んでいる。
そしてベッドに倒れこむように横になると翠星石は声を殺しながら泣き出していた。

同じ頃、遠くで鳴っている雷の音に少し怯えながらもジュンに背中に回していた腕をほどくと自分の肩にあるジュンの手にそっと添えるように指を乗せてジュンの瞳に自分の瞳を近づけた。
手と手が重なったとき、カメラのフラッシュのような閃光が2人のシルエットを映し出す。
眩しい稲光が作り出す光は瞬きにもみたない一瞬。
その一瞬が2人の唇を1つに、そして………。


「ふわぁ~っ……よく眠ったわぁ~」

昨夜の台風並みに荒れた天気がウソのように感じられるほどの清々しい朝に水銀燈はベッドの上で大きく背伸びをした。
その水銀燈のとなりでは、まだ寝息をたてている金糸雀がゴロリと寝返りをうつ。
あの天気で帰れなくなった水銀燈は結局、金糸雀の家に泊まり、一緒のベッドで眠りにつくまで自分達の曲について話し合っていた。
そのかいあってか、作曲担当の水銀燈には以前よりも曲についてのイメージがはっきりしてきていた。

「後は真紅にこの曲のイメージを伝えてぇ…あれぇ?そうか、ジュンの家に置いてきたままだったわぁ~。
 まぁ、泊まったーって事はないわね。タクシーでも呼べばイイんだしぃ~~フフッ」
「うぅ…おはようかしらぁ~」

水銀燈の独り言に目を覚ました金糸雀は、まだ眠そうな目を擦りながら起き上がった。

そんな頃、翠星石はいつもより少し早く目覚めると昨夜の涙でやや充血気味の目に目薬を差し、となりの部屋から聞える蒼星石の着替えの音を耳にしながら玄関を出た。

もう決めたですぅ、翠星石は大切な妹である蒼星石を見守ると…
だからせめて今日だけは、ジュンと一緒に登校するですぅ、これで最後にするですぅ…。

そんな思いを胸に秘めながら翠星石は通いなれた登校通路を少し外れてジュンの家のほうに足を向けていた。

「あれ?翠星石はもう出かけたの?」

玄関に翠星石の靴がないのを見た蒼星石はそう呟くと、姉の後を追いかけるかたちで歩き出した。

きのう書けた歌詞、これは一番にジュン君に見てもらいたいな~。
どんな意見が出るかな?ちょっと恥ずかしくて怖いけど、でもジュン君の意見がどうしても聞きたいよ…。

セーラー服のポケットに仕舞い込んだ1枚のメモ用紙を指先で確かめるように触れると蒼星石は足取りも軽く嵐が去ったばかりの冬の朝を感じながら歩いていた。

「おはよ……」

真紅は消え入りそうな小声を出すと、そっとシーツから抜け出すようにベッドに上半身を起こす。
小さなテーブルの上には水銀燈が飲み残したティーカップ、そして真紅が口を付けていたカップも見えた。
昨夜ジュンと2人きりになる前の喧騒がかろうじてテーブルの上に見受けられる。
そのテーブルの向こう側ではマンガを枕代わりにして眠っているジュンの背中が見えた。

―――雰囲気

真紅はテーブル越しに見えるジュンの背中を視線の端に留めながらボンヤリと波打つシーツのシワを眺めながらそんな言葉しか出てこなかった。

何故?私は…

ほんの僅かな時間、時計の秒針が動くかどうか、それほど短い時間。
瞬きと煌きが通り過ぎるほどの瞬間。
一瞬の出来事、そんな時間にできないほどの刹那の間だけれど真紅とジュンの唇は引かれあい1つになった。
重なった時間はほんの一瞬だが、そこには確かな意識が働いていた。
それを思い出した真紅は頬を染めながらベッドから降りると床で眠っているジュンを起こさないようにそっと部屋から出て行った。

カチャッ――――――――――バタンッ…。

あれ? あぁ、朝か…。

僕はドアが閉まる音で目を覚ました。
カーテンが開けられた窓から入り込む冬の太陽が薄い粒子の帯を部屋に作っている。
どうやら昨夜の嵐はいつの間にか収まったみたいだ。
いつも見慣れた自分の部屋なのに目覚めた位置がちがうだけで他人の部屋のように思える。
普段、無意識の内に目につく机や本棚の位置が微妙に違うからだ。
違和感、それを感じながら起き上がってみるとキチンとベッドの上で畳まれた毛布にシーツ、そして枕には長い金髪が落ちている。

あっ、真紅――――――――――――思い出す昨夜の場面、あの一瞬。

暗闇と雷に怯えた真紅は僕にすがってきた。
かすかに震える小さく細い肩と真紅の息遣いが感じられた。
そして何度目かの稲光が部屋を照らした時、僕は真紅を感じた。
小さくて、柔らかい。そして濡れた唇はどこか温かい、そんな感じがした。

「真紅…」

玄関のほうで音がする。さきほど部屋から出て行った真紅だろう。
僕は寝癖のついた髪のままで玄関に向かう。

「お…おはよう真紅」
「ジュン…」

靴を履き終えた真紅はちょうど玄関をあけて外に出ようとしている。
ジュンの声を聞いた真紅はドアが半分開いたまま視線をジュンの顔に向けた。
いつもなら逸らさずに目を見据えることができる真紅だが今は、いや今朝はチラッとジュンの顔を見ただけで、すぐに真紅の目に映っているのは玄関に並べられた靴に変わっていた。

「おはようジュン…」
「あ、あぁ。 しかし昨日はカミナリ凄かったな…」
「そ、そうね…」
「停電とかあったしな…ハ、ハハハッ…」
「ジ、ジュンには…恥ずかしいところを見られたのだわ…」

2人の間には昨夜の感触が残っている。そのために普段の会話とは違い、どこかぎこちなくてヨソヨソしい。
まともに相手の顔が見れない2人はムリに作った笑顔でジュンの家の前で立っていた。




最終更新:2006年12月11日 01:13