アットウィキロゴ
はぁ、はぁ……良かったー、なんとか1回目のチャイムに間に合ったよ。
蒼星石と話をしながら来たから回り道したんだよなぁ~ってアブナイ!!

遅刻しそうになったジュンは階段を走り、そのまま勢いよく廊下に飛び出る。
そこに水銀燈のクラスからフラリと出てきた翠星石とぶつかった。

「うぅ~、いったいですぅ~。気ぃつけやがれですぅ!!」
「ゴ、ゴメンなさい…って翠星石かッ!」
「ジュ…ジュン!?」

偶然とはいえ目の前にジュンがいる。
翠星石にとって今日1日はジュンと目を合わせたくなかった。
しかし今、こうして手をほんの少し伸ばせば触れられる位置にジュンがいる。
それもいつもの笑顔で尻餅をついている翠星石に手を差し伸べている。
一瞬、差し伸べられている手を取りそうになる翠星石だが、すぐに澄ました表情でジュンの顔を見ずに立ち上がると無言のまま教室に戻った。

あれぇ~? どうしたんだろ翠星石…いつもなら怒ってくるのに…
まさか、マジで怒ってるのかな?でも廊下でぶつかったくらいであんなに怒るはずないよなぁ~?

ジュンはヤリ場の無くなった手を引くと、不思議そうに頭をかきながら教室に入っていった。

まだ授業が始まっていないため生徒達の話し声が教室の中を行きかう。
その会話に混じってジュンに挨拶をする真紅の声が聞えた。

「おはよう…ジュン…」
「あ、あぁ、おはよう」

今朝すでに2人は、おはようと言い合ったはずなのに今こうして改めて声を掛け合っているのに気付き、互いに少しうつむく。
しかし、その不自然さに真紅がクスッと笑うとジュンも顔を上げて笑い出す。
そんなジュンと真紅の軽い笑い声に言葉はいらなかった。
そして授業が始まり、教室の雑音が極端に少なくなってもとなりどうしのジュンと真紅は小さな声で何やら話し、時折クスッと笑っている。
いつもなら、そんな時は決まって後ろの席に座る翠星石がチョッカイをかけてくるのだが、今日は何もしてこない。
それどころか意図的に2人の方を見ないようにしている。
それに気付いた真紅はジュンとの会話の中で翠星石のことについて質問する。

「ねぇ、ジュン。今日の翠星石はどうしたの?」
「あぁ、僕もオカシイと思っているんだよ、なんだか怒ってるみたいで」
「なにか心当たりってあるかしら?」
「さぁ、さっき廊下でぶつかった事くらいしか思いつかないよ…」

いくら2人と席が離れているとはいえ翠星石の耳には微かにジュンと真紅の話し声が聞える。
いや、聞えると言うよりも顔は違う方向を見ながら、意識して2人の会話を聞いていたといったほうがいいだろう。
しかし席がやや離れているため詳しい会話の内容までは聞き取れない。
だが、時折2人の会話の中に自分の名前が含まれているのは聞き取れる。

なんですぅ! 翠星石の何を話してるですかぁ~!!

普段の翠星石ならこんな感情など持たないだろう。
しかし今の翠星石はジュンと真紅に対して怒りを感じ始めていた。
それは明らかに嫉妬から怒りへと心境が変化した瞬間であった。
そのため翠星石は授業が終わり、教室に騒がしさが戻るとすぐに教室から姿を消し、次の授業が始まる直後に戻ってくるといった行動を取り始めた。
その間、ジュンと真紅は何度か翠星石に話しかけたが、帰ってくる言葉は短く素っ気無いものばかりであった。
そしてそのまま午前の授業は終わり昼休みに入った。

「もしもし…あぁ、水銀燈? えぇ、どうしたの?」
「どうしたの?じゃないでしょぉ~。曲ができたのよぉ~って翠星石から聞いてなかったのぉ~?」
「えっ、な、何も聞いてないのだわ」
「そぉ?翠星石もそこにいるんでしょぉ~?早くみんなで部室に集合よぉ」
「解ったわ、でも翠星石はここにはいないわ…」
「ふぅ~ん、部室に向かってる途中ぅ?まぁいいわ、すぐに私が翠星石に電話するからぁ、真紅もすぐに来てねぇ~」

もう、真紅もジュンも知らねぇですぅ…蒼星石も水銀燈も金糸雀も、みんなみんな大っ嫌いですぅ!!

昼休み時の楽しそうな声が聞えてくる中で翠星石は一人、だれもいないテニスコートのベンチに腰をかけて両膝を抱いていた。

「おかしいわねぇ~、翠星石ったら電話が通じないわぁ」
「どういう事かしら、この学校で圏外になる所ってあるかしらぁ?」
「圏外ぃ? あぁ、あの場所ねぇ~」

水銀燈は金糸雀のいった圏外に心当たりがあった。
以前、ローゼンメイデンの母体である軽音楽部の部室がまだ無かった頃、水銀燈はよくテニス部の部室で授業をサボっていたのだ。
そこは校舎と他の建物や山などの位置関係なのか極端に電波が届かなかったことを思い出した。

「まったく、テニスなんかヤッてる場合じゃないのに~、ちょっと翠星石を連れてくわぁ~、真紅が来たら曲のイメージだけでも言っておいてぇ」
「解ったかしらぁ~」

水銀燈は部室を出るとまっすぐテニスコートに向かった。
それから数分後、真紅とジュンが部室に姿を見せる。

あらぁ、なぁに? あの子ったら一人で何をヤッてるのぉ~?

水銀燈がテニスコートで見たのは抱えた膝に顔を埋めて泣いている翠星石の姿であった。
それは建物の影で体を丸め、弱々しく泣きじゃくる子猫のようにも見えた。

す、翠星石ぃ……?

思いもしない場面にでくわした水銀燈はそっと翠星石に近寄る。
冷たい北風が泣きじゃくる栗毛色の髪を乱す。
そんな髪を直すことなく声を殺して、ただ今は細い肩を揺らして泣いているだけ。
水銀燈はそっと翠星石のとなりに座ると無言で乱れた髪を撫でた。

「うぅ、グスッ…さ、触るな…ですぅ…グスッ」
「フフッ、泣くか怒るどっちか、どっちかにしなさい」
「な、泣いてなんかねぇですぅ…グスッ」

翠星石は膝に顔を埋めたままで髪を撫でる水銀燈の腕を振り払おうとするが、反対にその手をつかまれてしまう。
それでも始めは、つかまれた手をどうにかしようと弱々しくも抵抗を試みる。
しかし水銀燈はそんな翠星石の手を握ったまま自分のほうへグイッと引き寄せて嗚咽に震える細い肩を抱いた。

「何があったか知らないけどぉ、強がるのはヤメなさぁい、子猫ちゃん」
「す、翠星石は…グスッ、な、泣いてなんかねぇですぅ…うぅ、うぅ…」

Illust ID:VrCrFKAKO 氏(112th take)

「はいはい、泣いてないわねぇ~、翠星石は強い子よねぇ~」
「そ、そーですぅ、翠星石は強い…強い子なので…うぅ、うぇぇぇ~~ん」

抱かれた肩が鳴き声と共に大きく揺れる。
水銀燈はそんな翠星石の肩をより強く抱きしめた。
それは優しくてとても温かみと安心感があったのか、いつしか翠星石は埋めていた顔を膝から水銀燈の胸に変えて声を出しながら泣いていた。

そうなのぉ…まさか真紅があのままジュンの家に泊まったとはねぇ…

一通り泣いた翠星石から今回の訳を聞いた水銀燈は、あの時ムリをしてでも雨の中を走って真紅を迎えに行けば良かったと感じた。
しかし同時にあの真紅が簡単に男女の境界線を越えるとは思えなかった。

確かに今回のは私にも原因があるわぁ……それにこのままだとバンドは解散になっちゃうわねぇ~。

ようやく泣き止みつつある翠星石の背中をさすりながら考える。
そして水銀燈はベンチから立つと冷たい北風の中で泣いていた翠星石に暖かい飲み物を買ってくると言い残して自販機のほうに向かって歩き出す。
コクッと言葉なく頷いた翠星石は、ようやく涙を拭う。

「もしもし、あぁ水銀燈? 今どこにいるの?」
「ねぇ、真紅ぅ、ちょっと聞きたいんだけどぉ~」

水銀燈は自販機でホットカルピスのボタンを押しながら携帯電話で真紅と話しはじめた。

「ねぇ、昨日の夜ぅ、貴女どこにいたのぉ~?」
「えっ……そ、それは…」

突然の質問に答えが出てこない真紅は言葉を詰まらせたまま何も言い出せなかった。

「ふぅ~~ん、やっぱりそぉ~なの? 泊まっちゃったんだぁ~」
「………」
「で、もしかしてぇ~~何かあった訳ぇ?」
「な、何を言ってるの、私は何も…そんなことないのだわ!」

水銀燈の言葉に真紅はジュンの唇を感じた一瞬を思い出すと、「何も無かった。」とは言い切れない真紅がいる。

「私は真紅とジュンを信じてるけどぉ、本当に何も無かったのぉ?」
「…な、何も……そんな…」
「まぁ、いいわ信じてあげるぅ、でも話があるから昼休みが終わったら
 そのまま部室に残っていてほしいわぁ」
「部室?」
「そうよ、詳しい話はその時にするからぁ、あっ、話は私と真紅2人っきりよぉ~、イイ?」
「わかったわ」
「じゃ、また後でねぇ~」

そういい終わると真紅と水銀燈は同時に電話を切る。
しばらく携帯のモニターを見つめる真紅の後姿をジュンと金糸雀は心配な顔付きで眺めていた。

「なぁ真紅。今の電話は?」
「水銀燈かしら?それとも翠星石かしらぁ?」
「い、家の用事よ…」

携帯を制服のポケットに仕舞い込む真紅を見てジュンは、今言った言葉がウソだと直感的に解った。
おそらく金糸雀もそう感じただろう。
そのため部室にはどこか重い空気が漂い始めた。
その頃、水銀燈に貰ったホットカルピスを頬にあてて温もりを感じながら翠星石はベンチに座って北風に流される雲をただぼんやりと見ていた。
そしてチャイムが鳴った後、ジュンと金糸雀には家に電話をするから授業は遅刻すると言い残し、部室に残った真紅。
そこに少し遅れてやってきた水銀燈は音を立てないようにドアを閉めた。

「おまたせぇ~」
「話ってなんなの?水銀燈」
「フフッ、いろいろ聞いてみてもイイ~?」
「聞く? 私に何を聞きたいというの?」
「もちろんバンドの事よぉ、TV出演の期限が近付いていることだしぃ~~」

水銀燈はそう言いながらロッカーの中に隠している灰皿とタバコを出すとジョーカーに火をつけ、フゥ~っと煙を漂わす。
そして言葉を続けた。

「ねぇ真紅ぅ、今のままで私達のバンド、うまくヤッていけると思う~?」
「バンド…?」
「そぉ、バンドよぉ~」

真紅はいまいち質問の意味が解らなかった。
有栖川神社で行われたライブでも圧倒的に観客をひきつけたのは間違いなくローゼンメイデンである。
しかもそのライブ映像が24時間テレビで全国に流れるとTV局、ならびに数社のレーベルからコンタクトが入りだした。
そのことで真紅達はローゼンメイデンというバンドに大きな自信を感じていたのは確かである。

「どういう意味なの?水銀燈、質問がよく理解できないわ」
「ねぇ、真紅ぅ……演奏中に音程がズレたら、音がかみ合わなくなったらどうするぅ~?」
「修正していくわ、当然でしょ」
「じゃ、修正してもぉ、ぜんぜんダメな時はどうするのぉ?」
「どうするって…ねぇ水銀燈、貴女なにが言いたいの?はっきり言って頂戴」

どうも的を得ない質問に真紅は少し苛立ちを感じながら言った。
それに対し水銀燈はジョーカーの煙を天井に向かってフゥとはきながら静かに言葉をだす。

「今朝ジュンの家から帰るところを…翠星石に見られていたのに気付いてたのぉ~?」
「…えっ!!」

突然のセリフに真紅は驚き何も言えない。それどころか思考そのものが止まった感覚すら覚えた。

「貴女もぉ、翠星石の気持ちって気付いていたんでしょぉ~? 
 まぁ貴女もジュンの事を意識しているのは解ってたけどぉ、正直どうなのぉ?」

まさか今朝のことを翠星石に見られていたとは思いもしなかった真紅は水銀燈の質問に言葉が出ない。

「…わ、私は………」
「まぁ、それは貴女と翠星石、そしてジュンの個人的な問題だから私はあまり口を挟むつもりはないけどぉ~、
 ねぇ真紅ぅ、翠星石、泣いていたわよぉ~、
 たぶんこのままじゃバンドは解散ねぇ……」
「そ、そんな……私は…」

水銀燈の言葉に真紅はただ言葉を無くし、うつむいた視線は足元に落ちているピックを見つめるだけ。

「最悪、バンドか男かを選ぶのは貴女と翠星石だからぁ~、
 でもねぇ、その 両方を取るなんて多分できなわよぉ~、
 これと同じことは翠星石にも言ってあるしぃ~、後は貴女達で決めなさい」

そう言うと水銀燈は短くなったジョーカーをもみ消し、出口に向かって歩き出した。
ドアに手をかけて部室から出て行こうとする水銀燈は最後に振り向きながら俯く真紅に向かって声をかける。

「あっ、そうそう、もし解散なら声をかけてねぇ~私の知らない間に解散だったなんてバッカみたいだからぁ~
 フフッ、それと午後の授業はサボるから金糸雀に言っておいてねぇ~~、じゃぁねぇ~」

それだけ言うと水銀燈は部室を出て行く。
そして独り残された真紅はピックを見つめながら寒い北風が窓を叩く音を聞いていた。

(以下執筆継続中)



最終更新:2006年12月11日 01:17
添付ファイル