(あーぁ、暇ねぇ)
そんな事を思いながら、水銀燈は銜え煙草で街をかっ歩していた。条例違反だとか関係ない。
(どっかにいいボーカルでも落ちてないかしらぁ…。バンドも解散しちゃったしぃ…まさかオディールのVISAが切れるなんて予想GUYよぉ…)
呟きながら、数か月前の事に思いを巡らす。
当時水銀燈が所属していたバンド、STORM BRINGERはいいバンドだった。
私をネオクラシカルに目覚めさせてくれたし、地元ではそこそこ人気もあった。
が、中心人物であったボーカルのオディール・フォッセーは留学生だったため、卒業と同時にVISAが切れ帰国。
オディールを中心に集まったメンバーも空中分解の様な形になった。
(また一からメンバー集めなんて…めんどくさぁい。STORM BRINGERがレベル高かったから今更変なバンド組めないわよねぇ…)
などと考えながら特にアテもなく散歩している。
いや、あてならある。
タバコのストックを切らしてしまったので買いに行こうとして、急にハバネロが食べたくなって今日は隣り街のスーパーが特売日だからついでに飲み物も買いに行く途中なのだ。
だから暇ではないのだが、ここ数か月の生活をみてみると、やはり暇を持て余している。
道半ばの歩道橋の上、金髪の少女がアコースティックギター片手に路上ライブに励んでいた。
(…あの娘、なかなかいいセンスしてるじゃなぁい…)
ゆっくりと歩道橋を上る。
聞こえてきた曲はエリック・クラプトンのCHANGE THE WORLD。
水銀燈がその金髪の少女の前に着く頃には一曲歌い終え、次の曲を歌っていた。
「It's beautiful lady~♪」
そして、魅せられた。
金髪の少女の、人形の様な風貌と、
それ以上に魅力的な声に。
「♪and she asks me,do I look all right?♪
♪and I say "Yes,you look WONDERFULL TONIGHT"♪」
しばらく、呆然と少女の唄に耳を傾けていた。
その声は、力強く、繊細で、どこか儚い。
今はまだ荒削りだが、磨けばどんな宝石よりも輝く。
目の前にいるのは、そんな歌声の持ち主。
水銀燈は思った。
いや、願いに近かったかもしれない。
―この金髪の少女と、バンドを組んでみたい―
やがて少女は歌い終わり、水銀燈を含めたギャラリーに一礼してから片付けはじめた。
「あなた、私とバンド組んでみなぁい?」
金髪の少女は声をかけられ、水銀燈を振り向いた。
「…私と?」
私とバンドを組むんなら、生半可なセンスと技術では許されないわよ。
そんな心の声が、水銀燈には聞こえた気がした。
望むところよぉ。
「あなた以外誰がいるのよぉ。私は水銀燈。元STORM BRINGERのギタリストよ」
水銀燈が言ったバンドの名を、少女は聞き覚えがあった。
となりの街に、時代遅れなハードロックを演るバンドがあって、結構人気があると。
「そう。あなたがあの時代遅れなハードロックバンドのギタリストだったの。
いいわ。私は真紅。一度音を合わせてみましょう」
そして伝説は、静かに幕をあけた。
*
翌週、真紅と水銀燈の二人はスタジオに来ていた。真紅はアコースティックギターを、水銀燈はエレキギターを手に。
「それじゃあ、はじめましょう」
歩道橋の上で出会ってから、二人は互いの携帯のアドレスと番号を交換し、合わせる曲も決めていた。
真紅の希望で「layla-unplaged-」
水銀燈からは「Catch the Rainbow」
ハードロックを時代遅れと言っておきながら、真紅もなかなか、時代を追うような趣味ではないらしい。
「準備オッケェよぉ。」
真紅のアコギを構え、数個コードを鳴らし、チューニングに狂いがない事を確認した水銀燈が言った。
「じゃ、まずはlaylaからやりましょうか」
アコギ特有の、サスティンのない暖かな音色が響き渡り、真紅の歌声がそれに重なる
「what do you do~♪」
驚いた。真紅の歌ったメロディーラインは、本家のそれとは大きく違っていた。
透き通る歌声は、原曲のもつ雰囲気を崩さず、なお存在を主張する。
自然と、水銀燈のギタープレイにも熱がこもる。
「なかなかいい感じじゃなぁい。すぐに次の曲、イケる?」
laylaを演り終え、水銀燈が真紅に言う。
「Catch the Rainbowね。いけるわよ」
水銀燈が再びアコギからメロディーを紡ぐ。
「We beleave~♪
we catch the rainbow~♪」
憂いを帯びた真紅の歌声。
冴え渡る水銀燈のギタープレイ。
この曲は、二人に確信をもたらした。
―私たちは、きっと虹をつかめる―。
「エレキ持って来たのに、結局使わなかったわねぇ~」
スタジオからの帰り、二人は喫茶店でティータイムと洒落こんでいた。
「そうね。まぁいいじゃない。それより今は、他のメンバーをどうするかの方が問題だわ」
真紅の言う通り。バンドを編成するには、最低でもあと二人、ベーシストとドラマーが必要だ。
「そうねぇ。知り合いに何人か当たってみるわぁ。それでもダメならメン募かしらねぇ」
「私も何人か当たってみるわ。じゃぁ、今日はこれで解散ね。いいベーシストかドラマーがいたら連絡頂戴」
そう言い真紅は席を立ち、水銀燈もそれに続く。
帰り道、別々の道を歩きながら、二人は同じ事を考えていた。
最高に楽しめそうだ、と。
*
「ねぇねぇ聞いた?水銀燈のバンド。まぁバンドって言っても、メンバーはまだ水銀燈とボーカルだけなんだけどぉ。まだベーシストとドラマーが決まらないらしいわよ」
最近、蒼星石はよくこの噂を耳にする。
元STORM BRINGERの実力派ギタリスト・水銀燈が、無名のボーカリストと一緒にメンバーを探している、と。
STORM BRINGERは、蒼星石がバイトするスタジオの常連だったし、ライヴにも何度か足を運んだことがある。
メロコア、パンク勢がシーンを占領する中、ブルースを基盤としながらも、ネオクラシカルなどの様式美を取り入れたハードロックバンド。
良く言えば時代に惑わされない音楽性。
悪く言えば時代遅れなスタイル。
だがその時代遅れな音楽も、蒼星石は決して嫌いではなかった。
ボーカルであるオディール・フォッセーの帰国にともなって空中分解したと聞いたが、そのハードロックバンドのリードギタリストだった水銀燈が、新たなメンバーを探していると言うのだ。
それも、なかなか難航しているらしい。
地元で有名なベーシストやドラマーとセッションしたという話をいくつか聞いたが、どれも決定打には至らなかったようだ。
「ねぇちょっと君」
蒼星石は、スタジオでのバイト中にも関わらず、客の女の子に話しかけた。
「水銀燈のとこのバンド、まだベーシストとドラマーがいないんだって?」
話しかけられた女の子はワンテンポ遅れて、
「え…?あ、はい。たしかまだ募集してたハズですよ」
と答えた。
「そう。ありがと」
笑顔でお礼を言うと、蒼星石はカウンターに戻り、女の子達は帰っていった。
(運が良ければ、水銀燈はまたこのスタジオに来る…。いや、待つ必要はないか)
蒼星石は店のパソコンを少しいじった。
するとあら不思議。
スタジオ会員の名前と連絡先が一人の漏れなく表示される。
その中にはもちろん、水銀燈の名前もある。
(こーゆーのが個人情報流出って言うんだろうなー…)
思いながら、店の電話をプッシュする。
コールするのは、もちろん未来のリードギタリスト。
『もしもぉし』
「あ、もしもし~いつもお世話になってます、スタジオらぷらすです~。水銀燈さんの携帯電話でよろしいですか?」
『そうよぉ。で、何か用事ぃ?』
「えぇ…いやなに。大した事じゃないんですよ。ただ、腕の立つベーシストとドラマーが必要なんじゃないかなー…と思いまして、ね」
数分後、セッションの約束を取り付けた蒼星石は静かに電話を置いた。
日時は来週。
来週までに四曲。
久しぶりだね、こんなに胸が高鳴るのは。
*
その日の夜、双子の姉であり、ドラマーでもある翠星石に水銀燈とのセッションの事を話す。
「マジですか!?こいつは久々に腕がなるですぅ。で、何を合わせるです?」
「うん。向こうの希望でlaylaとCatch the Rainbow、こっちからはsunshine of your loveと正しい街を言っておいたよ」
運命があるとすれば、多分今回のような事を言うのだろう。
蒼星石と翠星石のいたバンド、STONE
FREEが解散し、出来過ぎなぐらいバッチリなタイミングでの水銀燈のメンバー集め。
蒼星石は、何かを確信せざるにはいられなかった。
~次回予告~
真紅「次回『コスモスター』、君は宇宙を体験するッ!」
翠「絶対見るですぅ!」
最終更新:2007年01月21日 00:04