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4月も終わりに差し掛かり桜も散り始めてきた。
しぶとく枝にぶらさがっている桜の花を落とそうとしているが如く軽音楽部部室では爆音が鳴っていた。

「ストーップ!!!」

雛苺「翠星石~」
カズキ「さっきから走りすぎなんだよ!!ちょっとは合わせろ!!」
翠星石「そっ、そっちがズレてるですぅ!!翠星石に合わせるですぅ!!ほら、蒼星石も何か言ってやれですぅ!!」
蒼星石「・・・・翠星石。」
翠星石「ほら、あいつらにガツンと!」
蒼星石「これからはちゃんとメトロノーム使おうね。」
翠星石「そっ、蒼星石まで!!」
カズキ「強いだけのドラムじゃダメなんだよ。だから腕太くなるんだ。」
雛苺「それは禁句なのー」
翠星石「太いって・・・・調子に乗るなですぅ!!」
蒼星石「・・・早く練習再開しようね。」

                    *

蒼星石「翠星石~夕飯できたよ~・・・・・あれ?」

いつもなら部屋のドアを壊すが如く勢いで駆け下りてくるはずなのに返事の一つも無い。

蒼星石「寝てるのかな?」

とりあえず翠星石を起こすために蒼星石は階段を昇った。

蒼星石「?」

翠星石の部屋微かに音が聞こえるのに気付き足を止めた。

蒼星石「・・・なーんだそういうことか」

それは規則的なリズムを刻む音、そしてそれに合わせて何かを叩いている音だった。

蒼星石「邪魔しちゃ悪いよね。」

蒼星石は部屋の前に立って言った。

蒼星石「ガンバレ」

蒼星石は階段を静かに下りていった。

                    *

翠星石(いてて・・・昨日はあんな練習したから手が痛いですぅ~。んっ?)

翠星石は職員室の前で立ち止まった。

翠星石(カズキですぅ~。なにやってるですぅ?チビ苺ならまだしもあいつは呼び出しくらうような奴じゃないはずですぅ。)
「・・・・でいつになるんだ?」
「はい。一学期が終わったら向こうへ。」
「そうか、お前がいなくなると少し寂しくなるな。向こうの学校でもがんばれよ。この事はいずれお前のほうからみんなに言うんだぞ。」

翠星石(・・・・向こう・・・?いなくなる?転校?)

「はい、わかりました。失礼しました。」

翠星石「!!」

カズキに見つからないように翠星石は身を隠した。

翠星石(カズキが・・・転校・・・・?)

翠星石はいまだ事の次第を受け止められないでいた。

                    *

そして放課後

カズキ(蒼星石・・・。なんかあったのかあいつ?)
蒼星石(わからないよ。朝見たときは元気だったけど・・・。)

その日の翠星石はいつもと違っていた。持ち味の強いドラミングが出来ていないし、テンポがズレて文句を言っても一言も発しなかった。

カズキ(雛苺お前同じクラスだろ。なんか知らないか?)
雛苺(カズキきっと翠星石はね・・・・・・・)

雛苺がカズキに耳打ちをする。

カズキ「あ・・・・あぁ~そっそういうことか~はははあははははは・・・・。」
翠星石「帰るですぅ・・・。」
カズキ「じゃ、じゃあな。お大事に。」

                    *

蒼星石「ん?誰だろ・・・・。」

蒼星石は自分の携帯の音に気付いた。

蒼星石「なになに・・・『今すぐ部屋に来るですぅ。』って、別に口で言えばいいのに。」

蒼星石は読んでいた雑誌を放り投げ二階にある翠星石の部屋へと向かった。

蒼星石「翠星石?入るよ?」
翠星石「・・・・・。」

返事がない。しかしあっちから来いと言ったのだから入っても問題無いだろう。

蒼星石「どうしたの?夕飯ならまだ・・・。」

蒼星石がドアを開けると目を真っ赤にした翠星石がそこにいた。

雛苺「また休んでるの~。」
カズキ「しょうがねぇなぁ・・・。そんなにあいつの風邪酷いのか?」
蒼星石「・・・・。」
カズキ「蒼星石?」

カズキが何回か蒼星石の名前を呼ぶが全く返事がない。

カズキ(どうしたんだあいつ?)
雛苺(最近ずっとあんな感じなの~。こういうときはコレを使うしかないの~。)

雛苺は視線をカズキから蒼星石に向けるとそのまま蒼星石へと近づき蒼星石の耳元へと口を近づけた。

雛苺「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
蒼星石「うわああああああ!!!!!」

マライア・キャリーびっくりのハイトーンボイスを蒼星石の耳元で放つと、蒼星石は悲鳴をあげて尻餅をついてしまった。

蒼星石「ひっ、雛苺?!どっ、どうしたの?!」
雛苺「どうしたの、じゃないの~。最近の蒼星石は変なの~。」

雛苺が少し頬を膨らまして言う。それを見た蒼星石は少し申し訳なさそうな顔をする。

カズキ「何か悩みでもあんのか?」
蒼星石「そそそそんなことないよ!!ちょっと疲れてるだけだよ!!」
カズキ「うわっ急に大声出すなよ。まぁ、無理はするなよ。」
蒼星石「・・・・うん、僕は大丈夫だよ。」
カズキ・雛苺「?」

消えそうな声で呟く蒼星石を見て、カズキと雛苺は顔を見合わせた。

蒼星石「翠星石~話があるからちょっといいかい?」

翠星石からの返事は無い、だがこういう時は大抵入っても大丈夫なので蒼星石は構わず入ることにした。

翠星石「何ですぅ?」

翠星石はベッドに抜け殻みたいに横たわっていた。メトロノームやスティックは寂しそうに部屋の隅に置かれてあった。

蒼星石「今日の放課後に雛苺にカズキ君の転校のことを言ったんだ。」
翠星石「・・・・・。」
蒼星石「そしたら雛苺泣き出しちゃってさ・・・。やっぱりカズキ君と離れたくないみたいなんだ。それでさ・・・・」
翠星石「さっさと用件を言うですぅ。」

蒼星石のふらついた雑談は翠星石によって断ち切られてしまった。一瞬怯んだ蒼星石は深呼吸をして精神状態を整えた。

蒼星石「じゃあ単刀直入に言うよ。カズキ君を僕たちの演奏で送りだそう。」
翠星石「・・・嫌ですぅ。」
蒼星石「え?」

思いがけない答えに蒼星石は思わず抜けた声を出してしまった。

蒼星石「なっ、なんで?」
翠星石「もう全然スティックを握ってないですぅ。ドラムの叩き方も忘れたですぅ。」
蒼星石「でもそれが僕たちメンバーにしか出来ないことだよ?」
翠星石「なんでそのメンバーに転校のことを言わないんですぅ?結局翠星石はその程度のもんだったんですぅ。」
蒼星石「そっ、そんな言い方・・・・。」
翠星石「そんなやつのために曲を演る気にはなれんですぅ。」
蒼星石「翠星石!!」

いつもの蒼星石からは考えられないような大声が部屋中に響くと翠星石はベッドから引きずり出された。
翠星石の言葉にキレた蒼星石は翠星石をベッドから引きずり出すと胸ぐらを掴んだ。

蒼星石「翠星石!!」
翠星石「離しやがれですぅ・・・・。」

蒼星石は鬼のような形相で翠星石を睨みつける。それを見た翠星石は必死に抵抗はしてみるが蒼星石は意外と力が強いのか全く振りほどけなかった。

翠星石「あっ謝るからこの手を離すですぅ!!苦しいですぅ!!」
蒼星石「君がこんな人間だとは思わなかった!!僕はもう君を姉として見ない!!」

そう言い残すと翠星石をベッドへ放り投げそのまま部屋を出て行ってしまった。

翠星石「うっ・・・グスッ・・・蒼星石ぃ・・・・。」

しばらく放心状態だった翠星石は我を取り戻すと、そのまま泣き出してしまった。

                    *

雛苺「うにゅ~がいっぱい~うれしいの~♪」

大量の苺大福が入ったコンビニ袋も持った雛苺軽やかな足取りで大きな川を跨いでいる橋を歩いていた。

雛苺「あっ蒼星石なの~蒼星石ぃ~・・・・・?」

蒼星石は何かブツブツ呟きながら虚ろな目で川を眺めていた。

雛苺「・・・・蒼星石?」

雛苺が近くまで駆け寄ると蒼星石は橋の手すりに足をかけた。

雛苺「!!」
蒼星石「翠星石・・・ごめんよ・・・。」

蒼星石の胸の中は翠星石への罪悪感で溢れていた。いくらあっちにも非があると言ってもあんな酷い言葉を吐き捨てたのだ、ただでさえ傷心中の翠星石には大きな傷となっただろう。

蒼星石「さよなら・・・。」

蒼星石は手すりに足を乗せた。

雛苺「ダメなの~~~!!!!」
蒼星石「えっ?」

蒼星石の身体を必死に誰かが押さえていた。

蒼星石「雛苺?」

そこには大好きな苺大福の入った袋を放り投げてまで走ってきた雛苺の姿があった。

                    *

「別にカズキのためでねぇです・・・。」

締め切っていたカーテンの隙間から夕陽が差し込みかすかに照らす。

「蒼星石に怒られたからでもねぇです・・・。」

鏡に映る自分の赤い目を見つめる。

「自分が叩きたいから叩く、それだけです・・・。」

鏡の中の自分に言い聞かせるように言葉を搾り出していた。
翠星石はドラムスティックを握り締めた。

                    *

雛苺「はいなの~」
蒼星石「あぁ・・・ありがとう・・・。」

雛苺から苺大福を一つ受け取った蒼星石は芯の無い声で感謝を述べる。

雛苺「どうしてあんな事したの~?」
蒼星石「・・・・。」

蒼星石は少しずつ口を動かした。一部始終を話した頃には蒼星石は涙を流していた。

蒼星石「ううっ・・・僕は・・・僕は・・・・。」

今まで黙って蒼星石の話を聞いていた雛苺はゆっくりと口を動かした。

雛苺「あなたが死んで喜ぶ人間は誰もいない。」
蒼星石「え?」

いつもの雛苺とは違う口調に蒼星石は驚いてしまった。

雛苺「ヒナがずっと前にある人に言われたことなの・・・。その時ヒナ頭がおかしくなっちゃったのよ。」
蒼星石「雛苺・・・。」
雛苺「でもその時にさっきの言葉を言ってくれたの・・・。ヒナが死んだら泣いてくれるって言ったの・・・。」

いつもの雛苺のような元気な笑顔はそこには無い。あるのは悲しげな目で遠くを見つめる雛苺の顔だった。

雛苺「その時気付いたの・・・。自分を大事に思ってくれる人がいるって幸せなんだなぁ・・・・。って。」
蒼星石「でもその大事な人に僕は・・・・。」
雛苺「・・・きっと蒼星石の大事な人は蒼星石のことが嫌いになんてなれないのよ。」
蒼星石「ダメだよ・・・。あんなに酷いことしたんだもの。」

蒼星石は俯いたままただただ自分を責め続ける。雛苺はすくっと立ち上がった。

雛苺「きっと・・・きっと翠星石は蒼星石がいなくなったら世界で一番涙を流して悲しんでくれるのよ。」

蒼星石は顔を上げた。瞳には夕陽に照らされた雛苺のとびっきりの笑顔が映っていた。

雛苺「そのうにゅ~蒼星石にあげるの~バイバイなの~!!」

川原には少女と苺大福の入った袋があるだけだった。

                    *

蒼星石「ただいま・・・・。」

返事はない。蒼星石は翠星石の部屋のドアの前に立つ。

蒼星石「翠星石・・・・。話があるんだ。」
翠星石「・・・翠星石は忙しいからそこで話すですぅ・・・。」
蒼星石「あの・・・さっきのことは・・・・。」
翠星石「・・・・何のことですぅ?」
蒼星石「えっ・・・いやだからさっきの・・・・。」
翠星石「・・・・知らんですぅ。」
蒼星石「そんな・・・ごめんよ翠星石・・・。」

蒼星石はドアの前から離れようとした。

翠星石「記憶に無いですぅ。」
蒼星石「・・・?」
翠星石「朝から今まで翠星石は具合が悪くてずっと寝てたですぅ。蒼星石は今学校から帰ってきたんですぅ。何のことだかさっぱりですぅ。」

ガチャ

言葉が終わると部屋のドアが開いた。

翠星石「おかえりですぅ・・・。」
蒼星石「翠星石・・・・・・ただいま。」

翠星石の右腕には2本のドラムスティックがしっかりと握られていた。

                    *

「カズキ!!あっちに行っても頑張れよ!!」
「クラスが寂しくなっちゃうな・・・。」
カズキ「みんなありがとう・・・。嬉しいよ。」

今日は終業式。カズキの最後の登校日である。
終業式の後の時間を使ってクラスで送別会をしていた。

巴「カズキ君・・・。今すぐ体育館へ来て。」
カズキ「どうしたんだ?今じゃないとダメなのか?」

すこしやりづらそうな顔で巴に話す。

巴「今じゃないとダメ・・・。ついて来て。」

カズキと巴はクラスから離れ人気の無い廊下を歩き体育館へと向かった。

体育館にはパイプいすが一つだけ置いてあった。

カズキ「どうしたんだ?からかってるのか?」
巴「座ってちょっと待ってて。」

少し不機嫌な様子でカズキは腰を下ろした。
数秒後、ステージの幕が開いた。

カズキ「お前ら・・・・。」
蒼星石「これは僕たちの送別会だよ!!」
翠星石「感謝するですぅ!!」

翠星石がそう叫ぶとスティックでカウントを取り始める。

カズキ「・・・・。」

カズキは無言のまま静かに耳を傾ける。

翠星石「・・・どうだったですぅ?」
カズキ「・・・・プッ、クックック。」

感想を聞かれカズキは笑い声をあげる。

翠星石「何がおかしいんですぅ!!」
カズキ「参ったなぁ。しばらく練習しない間にこんなに上手くなってたなんてな。」

カズキがそう言うとステージにいる4人は顔を見合わせて微笑んだ。

雛苺「でもこれだけじゃないのよ~カズキのために作った曲があるの~」
カズキ「えっ俺のためにか?」
蒼星石「聞いてくれるかい?」

蒼星石の言葉にカズキは首を大きく縦に振った。

翠星石「じゃあいくですぅ!!『I don't say good bye』!!」

カズキ(雛苺ってこんなに声量あったのか・・・。蒼星石もスラップなんて今までできなかったのに。巴もキーボードなんて弾けたんだな。でもそれより・・・。)

カズキはステージの奥へと視線を向ける。

カズキ(上手くなったな、あいつ。)

カズキは翠星石を見て微笑む。
メンバーの中で一番成長したのは翠星石だろう。
2ヶ月前のドラミングは影も形も無くなっていた。
持ち味の力強さに加えて正確なリズム感がついていた。

カズキ(俺がいなくなっても大丈夫だな・・・。

                    *

次の日、4人は駅のホームにいた。
蒼星石「もうこれでお別れなんだね・・・。」
雛苺「行っちゃ嫌なの~。」
巴「元気でね・・・。」
カズキ「おい、翠星石はどうした?」
蒼星石「昨日からずっといないんだ・・・。」
カズキ「そっか・・・・。」

カズキは少し寂しげな顔をして電車に乗り込んだ。

カズキ(もうここともお別れなんだな・・・。)

カズキは今までのこと思い出していた。その多くはバンドでのことだった。

カズキ(じゃあな・・・。)

カズキは窓の外を見た。ちょうどこの辺りからは母校を上から見下ろすことができるからだ。

カズキ「!!・・・・ウソだろ・・・。」

カズキは自分の目を疑った。母校の校庭には確かにこう書かれてあった。

また会うですぅ!! 翠星石

カズキ「あいつ・・・・。」

校庭にはラインを引き終わった翠星石が疲れてへたれこんでいた。

翠星石「カズキ・・・大好きですよ・・・。」

蒼星石・翠星石編 終




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最終更新:2007年03月27日 22:35