『ロックンロールは生きている』
(キャラ)遠藤カンナ、後藤ひとり
ロックなんて嫌いだった、っていうのはまだ小さい頃の話。
だって、ただうるさいだけだし。なんか怖いし。
テレビに出てくる連中は髪を逆立てて、怒鳴って、暴れてて、どう見ても友達にはなりたくないタイプだった。
大人たちは「自由だ」「魂だ」とか言うけどよく分からない。
『ロック』なんて関係ない世界の話。
あの頃の私は、そうやって勝手に全部を分かった気になって、世界を閉じていた。
だから。
あの夜の、シャッター街。
懐かしい蕎麦の匂い。閉店看板。誰もいない静かな大晦日。
冷たい空気。
──それら全てを一瞬でぶち破った、ケンヂおじちゃんのギターが、────『ロック』だってことを。
あの音が、もう二度と鳴らなくなって。
深夜、どれだけ私がギターを弾き鳴らしても、
観客どころか、うるさいって壁を蹴ってくる人さえいなくなった、この世界で。
もう何もかも取り戻せなくなってから、私は初めて知る。
“特別扱い……? ……そりゃあ遠藤さん、当たり前ですよ”
“なにせあなたのお父様は、”
“あの『ともだち』の──”
ガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
────……ッツン
………
……
…
☨
"Rock 'n' Roll Is Alive"
『ロックンロールは生きている』
☨
◆
……拝啓、ふたりへ。
このメッセージが、奇跡的にそっちに届いたら、えっと。
とりあえず、私の動画広告収入とか口座のお金とか、ギターとか、……全部好きにしちゃってください。
売ってもいいし、捨ててもいいし。燃やさなければなにしても大丈夫です。
ギター燃やされて『いい音させてんじゃんww』って伝説のロッカーに煽られる夢、だいぶトラウマになったことあるから、それだけはNG。
それ以外ならいくらでもメルカリしちゃって構わないよ。
……お姉ちゃん、もうさ、お金とか通貨とか通用しない次元にいるから。
それとご報告があります。
この度、お姉ちゃん、……なんとっ!
長年の人見知りが……ついに完治しちゃいました~~~~。いえ~い……パチパチパチ……。
あ、うん、急だよね。急。自分でも引いてる。
tab譜眺めてたら唐突にプログレばりのBPM300に転調したくらい急だよ。
でもね、ふたり。
人生はさ、文化祭のライブ本番中に、目の前でアンプの電源コード抜かれるみたいに、なにもかもが理不尽で急なわけ。
だから、……だからこそ、こんな世界じゃロックが流行るんだと思う。
私はギターヒーローだから、少なくとも、そう信じていきたいな。
……これからも、ずっと。
──というわけでお姉ちゃん。バトル・ロワイヤルを経て。
死にました。
──南無。
チ~~~ン……。
「……あぁ、帰りた~~い♪ 帰りたい~~♪ ゴー・ホームはご褒美だ~~~~♪──」
「──……はァ~~」
ブロロン……。
……一応、補足。
今の“はァ~~”は、ネガティブなアレじゃないです。逆。真逆。
むしろ富士山の空気ってくらいにきれいで、人生で一番大自然な呼気だった可能性すらあるよ。
肺からマイナスイオン出たの、初めてってくらいにね。
「……こたつにみかんに丸いネコ~~♪ 私と言えば、こたつが熱すぎてオンオフ切り替えるだけ~~~~♪ 風情ゼロ~~~~♪──」
「──はァ………………」
……うん、嘘。ごめんなさい調子に乗りました嘘です。
リアルすぎるため息漏れたから、言い訳の余地がないぃ……。
それでもって、もうどうしようもできないから。なんだろな、この感じ。
夜にプール入ってたら急に100%厳選かけ流し温度になって、誰にも気づかれずブクブクって気持ち、かな……。
暗闇の中、承認欲求っていうボロボロのビート板だけを探してさ。……とほほ。
「♪承認欲求承認欲求承認欲求~~ぶくぶくぶく……」
我ながら嫌な歌。……もうやめよ。
改めて状況整理。私は今、──あの世にいる。
正直、何が起きてどうしてこうなったのかは1ミリも分からない。
でも、周りライブハウスの楽屋の隅っこより真っ暗だし、あと頭なんかチカチカするし。
そしてなにより、一番の思い出の品(ギター)がお供えされてるんだから、……じゃあこれ、死んじゃったことで確定だよね? ……たぶん。
そうなるともう、一周回って自由っていうか。
祝.晴れて死人デビュー。地獄の面接官に「長所は?」って聞かれても「すみません帰ります」で終わるつもり。
人の目もなにも関係なくなった私は今、宇宙空間みたいなこの場所でギターをギュインギュイン弾き続けている。
つまり、ある意味では、お坊さんのお経ロックと同じってことになる。
……あ、まずい……。今のたとえ、もし地獄のWi-Fiでエゴサされて見つかったら……。
…………最悪だ、火葬前にネットの海で大炎上だよ私はぁ~~~……!!
押し入れの住民から炎上系ギタリストへのクラスチェンジなんて求めてないぃぃぃ~~~……!!
「……まぁ、私のお葬式は、予算数万円の密葬として…………」
ぷにぷにした指先で、ギターをボロロン♪。
目の前にはギタ男と一緒に、なんかこう、よくわからないレコードも浮いてるけど、一まとめにボロロン。
自分の走馬灯睨むみたいに延々と、ただ延々とさ。
私は今、
「……はぁ~~、お葬式は~~日通~~~♪」
「んんっ……………ん、」
────ボロロンッ♪
隣で寝てる女の子に向けて、ギターを弾いていた。
──……その子に初めて気付いた時、生き返ったってレベルで私の心臓跳ねたのは、遺書だけの秘密ね。
「…………んん、……おじ、ちゃ………………」
あ、また寝言。……そう、だよね。そりゃ疲れるよ、こんなとこじゃ……。
直感的に、だけど……たぶん、私と同い年くらい、かな……?
白い帽子に、ボーイッシュな青いジャケット、ちょっと泥とかで汚れたスニーカー。リョウさんが見たら、即私の財布を空にしそうなオシャレ古着コーデって感じ。
そしてその子は、少し古い音楽プレイヤーを握りしめたまま眠っていた。
離さないように、なくさないように。
……うん、初対面の人をこんなジロジロ見てさ、こんな勝手な妄想膨らませるのは気持ち悪いのかもしれないけど、
──まるで、その子の世界には、もうそれだけしか残ってないみたいにさ。
「…………ゎたし……はっ、…………おじちゃん」
「…………。……~~♪」
詳しい事情は私みたいな陰キャには一生分からないけれど、彼女は、そういう……そんな寝顔だった。
……分かるよ。
いや、分かんないけど。
どっちだそれ。
でも、とにかく私も、……なんか、同じって言えば同じだったから。
友達もいなくて、趣味も特技もなくて、学校の『普通』っていう高いハードルを1ミリも飛び越えることができなくて……。
そんな私がギターだけを毎日、毎夜、毎秒、数何十万時間してさ。
ネットの海の、色んなプロの人の音楽を必死に耳コピして、
その型に自分を必死にはめては、たまに『殻を破る勇気!』みたいに悦に浸ってみたりして。
押し入れの中で、ただひたすらに壁に向かって弾き続けるだけで、
……音がなかった、モノクロだった私に、ようやく一枚の拙い楽譜ができていたから。
だから……さ、
『おいコラ!! 隣にいただけの死人を勝手に自分と重ねるな!! そういうとこだぞ!! ぼっちちゃん~~~!!』
「あぁぁぁ!! 私のなけなしのシリアス・ポエムタイムを邪魔しないでよギタ男!!! …………はぁあ~~……」
──♪
ギタ男が親戚引き連れて、「うおw」って笑ってても関係ない。
この真っ暗闇の中、宙をふわふわ漂ってる謎のレコードに、どんな近未来の電子情報が刻まれていようが、私には関係ない。
……ははは、支離滅裂だと笑いたきゃ笑えばいい。
今だけは。
少しだけ。
この子の為に、私は弾きたかった────。
……そりゃまあ。
今は、まだ眠ってるから、完全に子守歌(ちょっとディストーション強め)みたいになってるけどもさ、
~~♪
~~♪
「ギターギタギタギターー~~~……♪ 眠っても起きても、現世でもあの世でも、私は結局ひとり──」
「…………上手いね、ギター」
「ピギィッ!!?!?」
…………お、……起きてた……──けども。
……うんもう、関係ないんだし。
死んじゃったんだし、私。
羞恥心なし。無敵モード、継続中。
「続けて。最後まで聴きたいから」
「あっ……あ、う……は、はい……! ♪あぁあの世~~~、酸素が吸えるあの世~~~、あの世でも私はひとりぼっち~~~~~♪」
「ハハ、なにそれ」
「……わ、私もそう思うけども。……でも!! ♪君も一人じゃない~~~♪ 1+0でも2になる、それがギタリストの生き様だから~~っっっ♪」
「…………、……」
「だから元気だして~~~~~っっ♪ 地獄の鬼も、天国の天使も、みんなまとめてロックンロールフィーバ~~~~~♪」
「いいね。……やっぱり、ロックは」
「というか、お願いだから私を一人にしないでロックンロール~~~~~~~~~~~~~~!!!!♪」
嘲笑じゃない──と、一応は信じたい。
暗いあの世の中で、静かに、優しく光った彼女の笑顔。
……言葉は相変わらず苦手だったからさ。
その代わりみたいに、しばらく二人で、音だけを流れさせていった。
………
……
…
◆
【──第四中学校に初めてロックが鳴り響いた、一九七三年のあの日────】
【──俺は、何かが変わると思った────】
【──あの曲が昼休みの学校に鳴り響いていた三分とちょっとの間────】
【──俺は無敵だった────】
【♪20TH CENTURY BOY】
◆
“自分の命が危ないと思ったら、一目散に逃げろ”
“……みんな、死なないでくれ”
──ケンヂおじちゃんは、その言葉と共に消えた。
二十七歳。十字路で悪魔に会ってもいないというのに、ただ世界を救うため、永遠に。
私はもう二度と、おじちゃんと話すことはできない。
新しい歌声を楽しむことは、もう奪われた。
それでも……このボロボロのウォークマンには、あの歪んだギターの歌がまだ生きてる。
聴ける。叫べる。──止められないっ。
音楽だけは、──誰にも殺せない。
──バサッ
「……………………うぇ…………?」
「ありがと。おかげで、ちょっと目が覚めたよ」
「うぇ。うぇ……。うぇへ?????」
「ほら、いつまでもこんなとこにいないでさ。行くよ……っ!」
「べえ???」
「私、遠藤カンナ。……ちなみにあなたの曲、録音してたりする。ハハ、傑作だね!」
「W e . c o m ? ? ?」
あとで聞いたところの──あだ名:『ぼっちちゃん』。
そのダルダルしたピンクジャージの袖を無理やり引っ掴んで、私は彼女と『マンゴー段ボール』って殻の中から飛び出した。
眩しかった。……いや、全然眩しくないか。
寂れた工場。
鼻を突く排気ガス。不法投棄された、腕のもげた人形。まるで神様に見捨てられた、終わった世界みたいな景色。
……正直、最悪のロケーションだった。
でも、どれだけ泥にまみれた最悪な景色の中だろうと、私は今、『光』だけは信じようと思う。
ロックンロールは、──まだ死んでない。
◆
"When the power of love overcomes the love of power, the world will know peace."
(愛の力が権力への愛に打ち勝った時、世界は平和を知るだろう)
──ジミ・ヘンドリックス。
Episode Title
『ロックンロールは生きている』
◆
【遠藤カンナ@20世紀少年】
[状態]:精神的疲労(中)
[装備]:キング・クリムゾンのスタンドDISC@ジョジョ
[道具]:基本支給品一式
[思考]:殺し合いを終わらせる。……おじちゃんなら、きっとそうする。
1:ぼっちと一緒に、この場所から脱出する。
2:……生まれなんて知るか。
3:……私の『力』なんて知るか。
4:絶望だろうが何だろうが、前に進む。……それがおじちゃんのロックだ……っ!
【後藤ひとり@ぼっち・ざ・ろっく!】
[状態]:実質死亡
[装備]:ギター、いつもの段ボール@ぼざろ
[道具]:基本支給品一式
[思考]:……え、無理です。
1:え、え、え?? 死んでなかった……ってこと?
2:じゃあ私、段ボールの中をあの世だと思ってたの?
3:というか私、さっきまで何を……一体何をトランス状態でやらかしてたの……?
4:偽サンボマスターみたいな歌を全力熱唱してたの?
5:……ちょっと待って。あの人が言った『録音』って、なに?
6:待って待って、録音って、あの、現代の科学技術が産んだ、音声をデジタルデータとして永久保存するあの録音……!?
7:全部?
8:最初から?
9:『承認欲求ぶくぶくぶく……♪』も?
10:『お葬式は日通~~♪』も?
11:『1+0でも2になる~~♪』も?
12:うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
13:神様お願いです!! 消えてほしいのは私の肉体じゃなくて、その子が握りしめてる古い音楽プレイヤーの方なんですけど!!!!
14:というか初対面の、しかもオシャレで普通に陽キャそうな見た目の女の子の前で、何あの一人語りポエム!?
15:なにが『音がなかった私に楽譜が』だよ!! 急に自伝始めるな!!
16:押し入れで一人で熟成させた黒歴史をなぜ初対面にフルコースで提供したの私!?
17:『あの、それ、録音消してください……』って言いたい……でも、それを言ったら『あ、やっぱりさっきの自覚あって恥ずかしがってたんだw』ってなって精神的トドメを刺される……。
18:じゃあ言わない方がいい……でも本当に録音してたらどうしよう……。
19:いや待って。もしかして録音してないかもしれない。希望はある。
20:……いやあの人、絶対録音してる顔だった。
21:死ぬ。
22:今度こそ本当に、心臓がバックロワイヤルして死ぬ。
23:というか死んだと思ってた時の方がまだ心が安らかだったよぉ~~~~。
最終更新:2026年06月20日 14:32