『デジタル・デビル・サーカス』
(キャラ)ポムニ、中島朱実、白鳥弓子
「……え」
前に、ケインが言ってた。
『このサーカスには君たち以外生物はだぁ~~れもいないヨ!』ってさ。
……なら、今、目の前に垂れ下がってるクモの糸はなんなのよ? とか。何となくで引っ張ってみたら──これ。
グリッチエフェクトと共に現れた、灰色の扉。
──【INSIDE-LOCKED ROOM】『内側施錠室』。
「内側からしか閉められない部屋って何!?!?──」
「──……やだ……。いや、ちょっと待って待って待って待って!!!」
意味が分からない。
意味が分からない、意味が分からない、意味が分からない。
狂いそうなのは世界なの? それとも私の頭のほう!?
……でもさ、恐ろしいのは、こんな不気味な扉なんてほんの“前座”に過ぎなかったってこと。
扉はいつだって、その奥にある「もっと最悪な何か」を隠すために存在しているんだから……。
震える手でドアノブを回す。
カチリ、と嫌な音がした思ったら、……私は不意を突かれた。
「………………え?」
ブゥゥゥゥゥン……。
低く、頭の芯に響くような換気扇の回転音。
壁一面を埋め尽くす、無数の白いタイル。小さな目隠しされた窓。
謎の張り紙。
『三十分厳守!』『水垢は絶対残さないこと』『絶対バレるな』。
足元には、子供サイズのバスチェアと、古びたシャワーヘッド。棚にはポツンと何故かコンディショナーのボトルが一本だけ。
そして、浴槽。
「え?」
お風呂場だった。
「え??」
やっぱり風呂場だった。
……前に、ケインが言ってたわけ。
『ここじゃお腹も空かない! 疲れもしない! 汚れもしない!』
じゃあさ、当然の疑問として思うじゃん……?
「……なんで、お風呂があるの?」
……誰も答えないけど。
誰もいない。誰もいないはずのに。
──まるで、五分前まで誰かが使っていたみたいに、この場所は綺麗だった。
「……ッ」
ぴちゃん。
ぴちゃん。
ぴちゃん。
誰もいない……のに。
曇った鏡を拭ったら、……自分の背中に誰かがいる気がして。
「……ケイン……」
返事はない。
「ジャックス……?」
返事はない。
「ラガタ……?」
返事はない。
代わりに、──ぴちゃん──って、それだけが返ってくる。
「……っ、…………これもジョーク?」
本当に、本当に心から泣きそうだった。
怖かった。
怪物が出るからじゃない。血痕があるからじゃない。
誰もいないから。……いや、違う。
──誰も使う必要がないのに、この場所は確かに存在しているから。
「…………誰か。お願いだから、そう言ってよ……っ」
……それだけが怖くて、
このうるさい心臓の音を止める方法はもう、一つしか思い浮かばなかった……。
………
……
…
カポン。
「あ~~~~~~~~~~~~~~~~……やばい。──」
「──あったかい……、めちゃくちゃ気持ちいい……」
……うん、怖いけどさ。
それはそれとして、湯加減は完璧だったり~~……。
😬「そういやあのクモの仕掛け、誰も使って無くね? ポムニはまだ見つけてすらいないようだし」
👀「いいんだよバブル! 子供たちはクモのアニメが大好きなんだから! クモに噛まれて超能力~~~!!」
😬「へえ。どんな超能力?」
👀「よくぞ聞いてくれたネ! まずは皮膚が脱皮して、頭が割れて、手足が八本に増えて、お腹から白い糸を出して、筋肉も剥き出しパンパンのマッチョマンでさ、眼球も七十個に増えて──」
………
……
…
◆
──立ち上る、真っ白な湯気。
──浴室の隅っこに、小さく小さく畳んで置いた私の服。
──張り付いて剥がせないと思ってた、あの忌々しいピエロ服。
──……おかげで、シャワーは使えないこの現状。
あと五分だけ。
……いや、あと十分だけ。
……あと三分だけ。
三十分厳守……。三十分厳守……。
「あ゛~~~~~~~~~~~~~~~~~~……」
────カポン。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~~……。──」
「──服脱げるの、……どんなバグなのよ?──」
「──まぁ、いいけどさ……。はぁぁ~~~~」
最悪。
だけど、脳がとろけるくらい気持ちよかった。……悔しい。
……はぁ、なんなんだろう、ここ。
絶対ダメな場所だったじゃん。
なのに。なんでこんなに……天国みたいな快感、味わえるわけ?
……いや、そりゃ分かってるよ。分かってる。
裏がある。……絶対ある、あるに決まってるよ、こんな美味い話。
ホラー映画だったら定番中の定番じゃん。
今頃、後ろに誰か立ってるし。排水口とかから手が出る。鏡の中に嫌なナニかがジャンプスケア、ドガンッ!
……そういう流れなのに。
だから思わず変な独り言、恐怖と温度差で頭がバグって漏れちゃうし。
「出るなら出てきなさいよ……」
……。
「……いや、やっぱり出てこないでいいけども……! むしろ一生、未来永劫出てこないでほしいけど……っ。──」
「──はぁぁぁ~~~~~~、……ぶくぶくぶく…………」
……誰も出てこないのが余計怖いけど、まぁいいや。もう知らない!
この際だし、肩まで深く沈みながら日頃の思いを全部ぶちまけることにした。
サーカスに来てから溜まりに溜まった、ドス黒い本音。
今から言うのは、この湯船と、私だけの秘密話ってわけね。
ぶくぶくぶくぶく…………──。
「※訳:(はぁ、もう……っ!)──」
「──(#$”%*+M&#%*>Lがァアアアア~~~~~ッ!!!!)──」
「──(あ、自動検閲システム……。初手でアクセル全開すぎたわ。……暴言怖い。言った私が何より怖いわ……)──」
「──(…………)」
ぶく──…………。
……これは、多分いつかの冒険での記憶。
あるあるにはなるのかな。
私は別に、お風呂が好きだったわけじゃない。
むしろ入るまでが面倒くさかったし、お風呂上がりに長い髪を乾かすのは大嫌いだったし、冬の脱衣所なんて凍えるほど寒くて最悪だった。
でも、一年に一回……ううん、数年に一回くらい。
──「明日が、ほんの少しだけ楽しみな日」の前夜。
その時だけは、なぜかお風呂という空間が好きだった気がする。
ぶくぶくぶくっ。
「──(なんなのよこの世界ぃぃぃぃぃ!!!)」
十歳くらいだったと思う。
ハッピーニューイヤーを迎える前日の、夜の九時。
湯舟に浸かりながら、どうでもいいABCの鼻歌終えた時、ふと。
湯気が鼻を抜ける感覚とか。
お母さんがシュッシュッてしたバスマジックリンの、妙に安っぽいシトラスの匂いとか。
ほんの壁の向こう、道路を走り去っていくバイクの排気音とか。
そういうものを、なぜか急に愛おしく意識してしまう瞬間があった。
ぶくぶくぶくぶくっ。
「──(ジャックスは息をするように嫌がらせしてくるし!! 最悪だし!!)──」
今思えば、あれは幸せだったんだと思う。
幸せだなんて考えてもいなかった。
ただ、明日が来るのを待っていただけ。それだけだった。
無理に目を閉じなくてもいい。
ヘンに思い馳せたり、この幸せについて考え伏せなくてもいい。
ただ、白い壁についた、つま先くらいの小さな黒いシミを、ぼんやりと眺めるだけ。
ぶくぶくっ。ぶくっ。
「──(ケインはもっと最悪だし!!)──」
「──(そもそもサーカスなのに! なんで団員が命がけで冒険しなきゃいけないのよ!? 意味わかんないわっ!!!)──」
あとは勝手に温かく包まれるだけの、
……なんだろう。
今までリラックスだと思っていたものが、全然身体が休んでるように思えないみたいな。
髪を乾かして、湯冷めするまでの、遠くの夢を見てるような無の時間が。
私は好きで、
……普段は忘れちゃうほど好きで、
ぶくぶくっ!
「──(ほんっと……)──」
そんなことを思い出そうとしては、
『元の世界の私』は、お風呂でゆったりするヒマすらなかったなって。
ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶくっ、ぶくぶくぶくぶくぶくぶく
「──(私はなんでピエロなの!?!?)──」
「──(この……#$”を%*+M&に包んだ#%*>Lめぇえ~~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!!!!!)──」
「──(なんでいつもいつもこんななのよ~~~~~~~~~~~~~~~っっ!!!!!)──」
ぶく────。
「──(………………あれ……)──」
「──(……『元の世界の私』って…………?)──」
「──(…………。…………やめよ)──」
…………ふと気づいたら、さっきまで何を思い出してたのかさえ、覚えてなくて。
「──ぷはっ……。……はぁ、ちょっとスッキリしたかも」
ザバッ……。
若干頭の中がぐにゃぐにゃになりながら、私は湯船から顔を出した。
……まぁ色々思ったけどもさ、別に今の私にそんな幸福なカウントダウンタイムは訪れてないんだけどね。
明日始まるケインの思いつきの冒険、嫌な予感しかしないし。地獄確定だし。
もう泡の絶えたお湯の下、私はぼんやりと天井を見上げた。
「お風呂ってすごい。人類の発明? 人類だよね? 人類だった気がする。──」
「──もう自信ないけど。……まあいいよ、もう何でも」
ぴちゃん。
ぴちゃん。
……それと、ブゥゥゥゥン。
相変わらずこのおかしな世界では、意味もなく換気扇が回り続けてる。
汗も、喉の渇きも出なかった。
……いちいち『不思議なことに~』なんて、海外アニメのナレーションみたいな感傷に浸る気はもうないけどさ。
「……うん、あがろ」
お湯が肩から落ちる。湯気が揺れる。
仕方ないから、謎張り紙で適当にゴシゴシ身体を拭いて、深く一呼吸。
私は、浴室の隅に畳んでおいた、あの忌々しい赤と青のピエロ服に頭を通す。
……視界が開けた時、ほんの少しだけ、お風呂のお湯が恋しくなった。
◆
………
……
…
【♪BGM】
【👀Pomni's Theme™(笑)👀】
「あれ?」
…………で、服から顔を出したら、
──見おぼえない、真っ暗なオフィス。
──全く知らない、男女の学生ふたり。
「中島君……、これが……『それ』なの?」
「……あぁ。悪魔召喚プログラム(DDS-NET)は正常だ。……失敗じゃないようなのが、何より恐ろしいんだよ……ッ」
「えぇ……?」
──その二人の話を聞いたらさ。
──今、殺し合い中(?)らしくて、
……で。
「……とりあえず、僕は中島朱実。……で、こっちが」
「弓子です。白鳥弓子。……あのーー、と、とりあえず……よろしく……ね?」
「……僕たちのせいで、異界から面倒に巻き込んで申し訳ない。だがもう後がないんだ。よろしく頼むよ。──天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(アメニギシクニニギシアマツヒダカヒコホノニニギノミコト)さま」
────私、パソコンから召喚された魔獣らしい。
暗い。
意味不明なあだ名付けてくる男子と、困惑気味の女の子。
バグり散らかしてるパソコン画面と、……私。
……えーと。
……うーんと、
なにこれっ!!?!??!??
「……生贄。……必要なら、このビルの生存者をいくらでも用意する」
「な、中島君っ! ふざけないでちょうだいっ!!」
「……っ。……背に腹は変えられないんだ、弓子。ガルムやケルベロスを召喚するには、僕の精神力も、儀式の時間も足りない。……頼んだよ、天邇岐志国──……いいや、画面のデータが書き換わったな。──」
「──『ぽむニ』…………!」
「だからなによこれっ!!?!?!?!?!?!?」
【DDS-NET/AWAKENING SYSTEM Ver. 0.666】
LOAD: SUMMON.EXE
TARGET: 天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命
CLASS: AMATSUKAMI
STATUS: SEARCHING...
ERROR 404: DIVINE ENTITY NOT FOUND
ERROR 108: NAME CONFLICT
ERROR 256: DIGITAL BODY DETECTED
RECONNECTING...
RECONNECTING...
RECONNECTING...
UNKNOWN DATA STREAM DETECTED
NAME: POMNI
TYPE: DIGITAL PERFORMER
ORIGIN: THE AMAZING DIGITAL CIRCUS
SOUL: NOT FOUND
BODY: NOT FOUND
ESCAPE ROUTE: DENIED
WARNING
WARNING
WARNING
THIS IS NOT NINIGI
すぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせ
すぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせ
すぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせ
すぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせ
すぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせ
すぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせすぐにけせ
OVERRIDE: ACCEPT
OFFERING REQUIRED
SUMMON COMPLETE
N6はみぴょ。
ぴぴぴぴぴ、ろももも。
──ぽむニ。
【ポムニ@The Amazing Digital Circus】
[状態]:混乱
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:またこれっ!!?? 私またこれなのっ!!?
1:ケイン!!! ケイーーン!!!!
2:ケルベロスって何?! いけにえってなによっ!? 怖っ!!!?
3:いや待って、お風呂は!? 私のお風呂返して!!!!!
【中島朱実@デジタル・デビル物語 女神転生】
[状態]:疲労、召喚結果への警戒
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考]:このゲーム主催者を、自分の作ったプログラムで絶対に討伐する。
1:DDS-NETは失敗していない。……それが一番おかしい。
2:これがニニギ(高位神)だと……? 僕にそれを信じろと言うのか……?
3:……クッ、時間はない。今はせいぜい試すまでだ、ぽむニ……っ!
4:何があっても、弓子の安全だけは守る。
【白鳥弓子@デジタル・デビル物語 女神転生】
[状態]:困惑
[装備]:不明
[道具]:支給品一式
[思考]:ゲーム打破。中島君が暴走したら止める。
1:どう見ても怯えてるじゃない……。
2:天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命って……。
最終更新:2026年06月22日 13:29