Lunatic Victors 匪石之心が開く道 ◆vV5.jnbCYw
草木も眠る丑三つ時。
だが、そのような時こそ、人ならざる者達は力を振るう。
アンディと脹相は、目の前の敵に関して1つの共通の見解を持っていた。
刀の範囲に入れば即、敗北が確定することを。
刀使いと戦うのに最良な距離は2つ。
1つは刀が届かないほど遠く。もう1つは刀が役に立たないほど近く。
2人は言葉を交わさずとも、前者の位置で戦うことを選んだ。
懐に潜り込めば有利この上ないが、この6つ目の男はそう簡単に許してくれないと踏んでいた。
「紅蓮盈月(ぐれんえいげつ)!!」
一歩退いてアンディは自分の血を刃に纏わせ、黒死牟の喉元目掛けて飛ばす。
(奇怪な技だ……鬼のようにも見える……。)
――月の呼吸 壱の型 闇月・宵の宮
未知なる技に対して、黒死牟は余裕綽綽と迎え撃つ。
迎え撃つのは、単純な居合い斬り。
だが、それを上弦の壱たる彼が放つことで、必殺の一撃となる。
「両腕が!!何故だ!?」
明らかにアンディは刀のリーチから離れた位置から攻撃した。
だというのに、反撃で両腕を飛ばされてしまった。
「くそっ!!赤血操術――百斂 穿血!!」
音速をも超える血の矢が、黒死牟の顔面に吸い込まれようとする。
その速さは、音速をも超える。
(二人共……外こそ人と似ているが……その内は異なる……。
鬼のようでもあり……鬼でもない……
あの痣も……かの痣者とは異なるか……。)
矢に襲われながらも、無我の境地によって透き通る2人の肉体を分析する。
黒死牟は人間だった頃、既に至高の領域に達していた。
故に、一目見ただけで敵の筋繊維の一本一本の動きを見抜くことが出来る。
最低限の動きで躱す。
だが、躱した先にあったのは街灯。
脹相は敵が自分の攻撃を躱せるほどの手練れだと見抜いていた。
避けた場所目掛けて、ストックしておいた血の武器を全て放つ。
―――月の呼吸 参の型 厭忌月・銷り
しかし、血の矢は当たる寸前、一瞬で切り裂かれた。
音速をも超える矢が来るというなら、こちらは神速の一撃で打ち落とせば良いというばかりに。
それは何の変哲もない、只の横薙ぎ。
だが鬼の力と鬼殺隊の力、両方を極めた黒死牟が撃つことで、死神の鎌のような一撃を放つことが出来る。
「……俺までっ!!」
脹相の低い声が、闇夜の街に響く。
その斬撃は、防御のために打っただけではない。
血鬼術を混ぜ合わせた斬撃は、一振りで横薙ぎの斬撃が幾重にも重なる。
最初に打ち出された二つは血の矢を全て弾き、残りは脹相に狙いが定まる。
戦闘経験が他の二人に比べて圧倒的に少ない脹相には、避けられぬ一撃だ。
だが、そのまま射手が斬り殺されることは無かった。
「部位弾(パーツバレット)、前腕(フォアアームズ)!!」
口で日輪刀を咥えたアンディが、切り株となった二本の腕を斬り飛ばした。
不死(アンデッド)特有の再生力により、銃弾か何かのような勢いで肉塊は飛んで行った。
片方の狙いは黒死牟の刀、もう片方の狙いはその持ち主。
「助かった。」
「礼ならここを抜けてから言いな!!」
窮地を脱した脹相は、衣が少し裂かれ、顔の線も幾筋か増えているが致命傷には程遠い。
彼が月の呼吸の一撃を潜り抜けたのは、呪霊と人間のハーフゆえの身体能力だけではない。
アンディが部位弾によって斬撃の軌道を逸らしたこと、そして
(斬撃がおかしい……どういうことだ……)
最初に2人目掛けて一撃を撃った時は、何かの偶然だと黒死牟は踏んでいた。
2度目に壱の型を放った時も、白髪の男を両腕だけではなく全身を斬り落とせ無かったのは、相手が予想外の反射神経で抵抗出来たと考えていた。
だが、今の一撃は確実に2人の男は殺せたはずだった。
「今度は俺が行くぜ!!紅十字(あかじゅうじ)!!」
アンディは刀を口から手に持ち替え、鬼目掛けて十字の血の刃を撃つ。
先の打ち合いの際に、咥えた刀で残った腕の部分を飛ばしたのは、脹相を助けることばかりが目的だったのではない。
腕を再生しやすくすることを一番の目的としていた。
彼の腕は、他者の攻撃からの再生は著しく遅くなっている。
だが、自分で斬った腕なら再生力は変わりはしない。
不治(アンリペア)、リップとの戦いで、再生しなくなった腕を自分で斬り落とすことで再生させた経験を、この戦いでも応用させた。
―――月の呼吸・弐の型 珠華ノ弄月
その一撃を、黒死牟は神速の斬り上げで打ち落とし、アンディも斬り裂こうとする。
だが、刀で遠距離攻撃を放ちつつも、後方に下がった彼には致命傷にならない。
「面白れえ攻撃だなあ!!」
軽口を叩いているが、その実、身の危険を存分に感じていた。
既に2度受けた攻撃なので、『目測以上の距離の回避』を要求される。
勿論、見抜いているだけでは神速の刃を凌ぐことは出来ない。
制限の呪いが掛かり、普段より力が落ちていてなお、身体を両断されずに済むという程度だ。
それほどまでに、この黒死牟という鬼の力は底知れない。
鬼舞辻無惨に次ぐ実力を持つ鬼相手に、2人はようやく土俵に立てる程度だ。力の差はそれほどまである。
だが、経験は時に単純な力以上に物を言う。
鬼殺隊の柱以上に長く生きて、それ故に戦闘経験も常人と比べ物にならないアンディだからこそできる芸当だ。
(そうか……あの縫い目男の仕込んだ呪いか……。)
三度の斬撃を経て、黒死牟は自らの異変をはっきりと掴んだ。
月の呼吸の売りとも言える、斬撃に付随する月の刃の数が、明らかに減っているのだ。
これはあの男が自分にかけた呪いだと、既に無惨から血の呪いを受けている彼は推測した。
「目ン玉にも『上弦』って書いてあるし、よっぽど月が好きみてえだな!!
けど月の技なら、俺も出来るぜ!!」
アンディの最も使い慣れている技の一つ、紅蓮三日月。
元々彼の得意としていた技である『紅三日月』が冒険を経てさらに進化したものだ。
再び日輪刀に血を纏わせ、力一杯袈裟斬りに振る。
三日月状の血の刃は、鬼の首さえも刈り取ろうとする。
(血の刃か……人間の戦い方とは異なるが……鬼のそれとは肉体が異なる……。
相まみえたことのない剣士だ……。)
何の因果か、その刃の姿は黒死牟と同じ上弦の鬼、妓夫太郎の血鬼術と酷似していた。
勿論上弦の陸の技では、上弦の壱たる彼には遠く及ばない。
「赤血操術――百斂 穿血!!」
だが、彼の命を狙う血は、アンディのものだけではない。
黒死牟がアンディにかかりきりになっている間に、再び『百斂』で血の武器をストックし、黒死牟目掛けて放った。
「「消えた!?」」
二種類の血の刃が迫る先で、ゆらりと空気が揺らめくと、鬼は消えた。
煙に巻かれたような感覚を覚えた二人。
アンディも脹相も、それ以上の思考を練る余裕は無かった。
「背中を合わせろ!!」
後ろから現れれば、最期だと考えた脹相は、アンディに指示を出す。
そうするしか無いと考えたアンディも、刀を握りながら言う通りにした。
「何をしようと……無駄だ……。」
黒死牟はゆらりと、脹相とアンディの真横に現れた。
先程黒死牟が消えた時は、アンディとの距離はざっと5,6mほど離れていたはずなのに、現れた時は既に剣の間合いだった。
現れる際は亀のように遅く、消える際は瞬きする一瞬の間。
その独特の足運びは、この場にいる誰も知らぬことだが彼の遠縁の子孫まで受け継がれている。
動きを感じさせず、それでいて躱す暇のないほどの速さだ。
――月の呼吸 伍の型 月魄災禍
その静かな速さと美しさ、それに鋭さを持つ攻撃は、まさに水面に浮かぶ満月のごとし。
敵は刀を振ってすらいないのに、幾重もの刃が二人を襲う。
それは黒死牟の剣というより彼を中心に回る竜巻。
それは相手を斬る剣技というより、相手を斬り刻む厄災。
今更退いても遅い。
そして前左右は刃。
跳ぼうとしても、その為に踏ん張る足を斬り落とされる。
案の定、アンディの腰より下と上は離別を遂げた。
(斬られる前に斬ってやる!!)
否、斬られたのではない。黒死牟の剣から刃が現れる前に躊躇なく自身を斬ったのだ。
片手で脹相を抱え、もう片方の手で自分の腰を斬られる前に真っ二つにする。
怪我の功名と言うべきか、すでに腹に広い傷を負っていたため、その分斬り裂く手間が省けた。
先程の部分弾を、回避に応用した。
斬られた勢いを利用し、そのまま2人でロケットのように上空へ飛ぶ。
アンディは長年に渡り、死を潜り抜けて来た。
故に、死とは1世紀前から、自分の予想もつかぬ形で襲ってくることを学んでいた。
黒死牟が消えた時、地上の何処にいても斬られると察した彼は、空へ逃げる芸当をやってのけた。
「その再生……鬼の物とは異なる……奇怪なり……」
下半身を失ったとしてもさほど問題ないのは、鬼とて同じ。
だが、再生の反動を攻撃や防御に生かす鬼は、300年以上鬼として生きた彼でさえ、見たことが無かった。
「だが……空に逃げた所で……無意味だ……。」
彼らは鳥のように空を自由に動き回れる訳ではない。
重力に従って高度が下がり、刀の範囲内に戻ってきた頃に斬ればいい。
「面白そうな武器があるんだ。ここで使わせてもらうぜ!!」
月夜の空を舞いながら、アンディは袋から1つ武器を出す。
それは穴の開いた木の筒のような物体だった。
そこから、大量のクナイが発射される。
黒死牟が勘違いしていたことだが、アンディは剣士ではない。
彼と同じ国で剣術を習ったこともあるが、あくまでそれは経歴の一つでしかない。
剣に対する拘りは強い訳でもなく、刀だけでは勝てないと思った相手には躊躇なくロケットランチャーを発砲したりする。
(所詮は時間稼ぎか……。)
夜の街に雨あられと降り注ぐのは、大量のクナイ。
「この程度で私を止められると謀るとは……笑止なり……。」
例え全弾命中したとしても、圧倒的な再生力と生命力を持つ彼には、命取りではない。
顔に入れ墨が入った男が同時に飛ばしてきた血の刃の方が厄介だと感じた。
(否……これは……)
その考えを、即座に切り替える。
只の時間稼ぎではなく、何かこのクナイを使った策があるのだろうと察した。
彼もまたアンディと同様、文字通り人並外れた戦闘経験がある。
故に戦闘中の未知の危険性を嗅ぎ取る嗅覚もまた、優れている。
――月の呼吸 陸の型 常世弧月・無間
刀を握り、一振りで無数の幾重もの斬撃を繰り出す。
それは斬撃というよりかは、剣により生み出された天蓋。
かつて同じようにクナイの嵐を受けた妓夫太郎と、似たような凌ぎ方をした。
そのひと振りで、クナイは全て打ち落とされたはずだった。
「赤血操術――百斂 苅祓!!」
脹相はアンディに掴まっているだけではない。
血の刃を幾つかのクナイに打つことで、軌道を不規則なものにし、狙いを定めにくくさせた。
鬼が嫌う毒を含んだクナイは、黒死牟の脛に刺さった。
だが、それは上弦の陸でさえ数秒で分解した程度の毒。況や上弦の壱をや。
最も、そのクナイに含まれているのが、藤の花の毒だけならばの話だ。
「!?」
毒だということは察していたが、この1本で身体が動かなくなるのは彼も予想していなかった。
そのクナイには、藤の花の毒のみならず、同じように毒を含んでいる脹相の血が混ざっている。
どちらか片方だけなら彼の動きを阻害する威力は無かった。
「でかしたぜ!もう少し掴まっていろ!!」
そして、もう1つ黒死牟が勘違いしていたことだが、彼らの目的は自分を倒すことではない。
彼自身との勝負では、死を覚悟で勝負を挑んできた者ばかりだった。
戦意喪失し、逃げようとした者もいない訳では無かったが、逃げようとした相手は瞬時に斬殺していた。
一方で2人の目的は、「この場を切り抜ける」だ。
確かに黒死牟は彼らが欲している貴重なポイントではあるし、彼を倒すことでポイントが欲しくないと言うのは嘘になる。
だが、相手が悪すぎた。
二対一でも全く有利にならない圧倒的な手数に、目で追えないほどのスピード。
おまけに攻め続けているのに傷らしい傷を負わせることが出来ず、疲れを見せることもない。
よしんば倒せたとしても、少なくない損害を被ることは確かである以上、戦うのは得策ではないと判断していた。
そのまま上空でアンディが部分弾を繰り返し、その反動で逃げ続ける。
彼は鳥のように飛ぶことは出来ぬが、飛べぬという訳ではない。
死の否定者たる彼は、重力の鎖さえも否定できるという訳では無いが、逆らうことぐらいは出来る。
少しずつ重力のベクトルに部分弾の反動を加え、先程まで戦った場所の近くにあった、家々の裏側に着地した。
三日月状の刃を飛ばしてくる黒死牟を、刀に関係するUMAだとアンディは解釈していた。
UMAを相手にする時は、戦うにしろ逃げるにしろ、いかに敵の定めたルールに抗いつつ、時には順応して対策を練って行くかが重要になって来る。
場所は市街地の、家々を跨いだ隣の区画
「ここまで来たら大丈夫だな。」
既にアンディの下半身は再生していた。
これならば普通に走って逃げることが可能である。
「ああ。助かった。礼を言おう。」
「俺を殺すんじゃなかったのか?ま、殺されるつもりなどさらさらないが。」
「あれほどの芸当を見せられてなお、あんたを殺せると思うほど俺も愚かじゃない。
それに悠仁にあの6つ目のことを伝えなければならない。」
だが、助かったと思ったのもつかの間。
「「!!!!」」
その瞬間、1つの家屋が音を立てて崩壊した。
まるで台風の直撃を受けたかのように、棟が一瞬で崩れ落ちた。
しかしそれは台風でも地震でもなく、ただ一人の男が放った異形の刀で起こした斬撃だった。
「それで……逃げたつもりか……」
家の柱を一太刀で全て斬られ、一瞬で木材の山へと変わった家の向こうで、真っ赤な6つの目が光っていた。
その手に持っていたのは、先程より数倍長い刀身を持ち、木の枝のような分かれ目がついている、刀と呼ぶべきか悩ましい凶器。
6つの目から放たれる、血のような光に当てられた4つの目は、阿呆のように見開かれたままだった。
そうであっても無理はない。
逃げ切ったと思った相手が、家を一太刀で壊して追いかけてきたのだから。
むしろ並みの剣士ならば、この瞬間を目の当たりにしただけで気絶するか頭を垂れるかのどちらかなので、立っているだけでも誉められてしかるべきだ。
ホオオオオ、と辺りに呼吸音が響く。
黒死牟がまだ人間の剣士だった頃から、使っていた技の前動作。
それはまるで、地獄の釜の火を焚くふいごのように聞こえた。
アンディが戦って来たUMAになぞらえて言うなら、今ここで『フェーズ2』が始まった。
ーー月の呼吸 捌の型 月輪龍尾
そして、刀の長さが変われば、当然技も変わる。
度を越えた長さの刀は、剣技の攻撃範囲をさらに長くした。
月の呼吸を用いた、刀の理を逸脱した一撃。
全てを滅ぼす龍の尾を思わせる橫薙ぎの一撃は、壊れた家の左隣を切り裂き、瓦礫の塊を吹き飛ばし、右隣の家をも瓦礫の山にした。
「くそ!何だこれは!!」
最初に家が壊された瞬間、胸の内に嫌なものを感じていた脹相は、慌てて後ろへと飛び退く。
元々彼と脹相の距離は、遠距離攻撃の使い手のワンサイドゲームになるほど離れていた。
だというのに、そのディスアドバンテージをこの鬼はものともしなかった。
龍の尾となった刀は、脹相の腹の肉を数ミリ食いちぎる。
一方でアンディはまたも脛を斬り落とし、斬撃が来ない場所へと逃げた。
だが、空中だからと言って安全だという保証は、どこにもない。
「いいねぇ、最高だ!!
この状況でもアンディは笑みを絶やさず、攻撃を続ける。
逃げるという考えは少なくとも一度は破棄。背中を見せれば確実に死につながる。
ならば、目下の危機を精いっぱい楽しむことだ。
「紅蓮………。」
――月の呼吸 玖の型 降り月・連面
空から剣鬼を狙撃しようとするアンディに対し、今度は上空から飛来する斬撃。
月の力を得ながらも、その軌道は流星群のように見える。
天空から降り注ぐ刃が、アンディの右腕、左脇腹、右の腿を切り裂く。
「ぐああああああ!!」
ただでさえ回避手段が限られる上空で幾重もの斬撃を受け、たまらずアンディは悲鳴を上げた。
それでも紅蓮弾(ボルテックスバレット)で、敵の攻撃を僅かながら逸らしていたのだから大したものだ。
もしそれが出来なければ、彼は膾にされて、地面という皿に盛りつけられていただろう。
敵からの斬撃で失った箇所は、戻るのに時間を要する。
部分弾で逃げることも反撃することも出来ぬまま、アンディは地面に崩れ落ちた。
「アンディ!!」
地上からその様子を見た脹相は、さっきまで殺しあっていた相手にも心配の言葉をかける。
「赤血操術――百斂 苅……」
――月の呼吸 漆の型 厄鏡 月映え
是が非でも敵の動きを止めなければ、2人分の刺身が出来上がるだけだと思う脹相が動く前に、次なる一撃が振るわれる。
今度は紫電のごとき衝撃波が、瓦礫を吹き飛ばし、その先にいた脹相に襲い掛かった。
月の力を借りた、地を這う紫の濁流は、三日月状の刃を伴って脹相の両足を飲み込む。
跳んで躱すも、両脚を失うことを避けられただけだ。
脛と足の肉を奪われ、脹相も地面に崩れ落ちる。
呪霊とのハーフである脹相は、失血死することはない。
だが、全身を切り刻まれれば、命尽きる。
この殺し合いの会場は、死と殺しを円滑に流布するために、人ならざる者が死に近づきやすくなる呪いがかけられている。
それは鬼も、呪霊も、死の否定者も同じ。
太陽の力を借りた武器でなくても、鬼は首を斬られればその命は終わるし、呪いを祓う武器か呪術師でなければ殺せぬ呪霊も人と同じ殺し方で殺せる。
「よもや……ここまで戦い抜くとは思わなんだ……。」
先程まで凶悪な技を繰り出していたとは思えぬほど、優雅に現れる。
とてつもない長さの刀を小枝のように4度振るってなお、ほとんど身体をぶれさせずに佇むその姿は、十二鬼月の最高峰に相応しかった。
その佇まいは、アンディがかつて居合いを習った、日本刀の達人以上に美しく見えた。
「くそ……悠仁……逃げろ……。」
立って逃げることさえ出来ず、ただ最愛の弟の名を呟く脹相。
その隣にいるアンディも、立てずに地面に這い蹲っていた。
「たとえ私を殺さずとも……助かる方法はある。」
真っ赤な6つの目がアンディと脹相を見下ろしながら、彼は1つ提案した。
「鬼になれ……共にあのお方を御守りするのだ……。」
最終更新:2025年08月11日 22:05