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こころひとつ 1ー2

 捕縛したミルウーダは、ほどなく解放された。アルガスが強く進言したように、「殺す」という案もあり得たはずだが、ラムザはそれを選択しなかった。
 オーウェルは内心、甘いな、と感じていた。アルガスほど熱くなる気にはなれないが、仮にも一隊を率いる者の選択としては、甘いと思わざるを得ない。ましてやそれが、ラムザ自らの選択であったのならばまだしも、部隊員であるディリータの意見を、ほぼそのまま飲むような形でなされた選択だったから、なおさらだった。
 帰途は、重苦しい雰囲気に包まれた。何も言わず、先頭を歩くアルガス。思い詰めたような表情で最後尾に位置するディリータと、その一列前でひどく優柔不断な様子のラムザ。その三人を除く一行は、彼らにちょうど挟まれた位置に、ひとかたまりになっていた。
 三人を除いては、オーウェルを含めて五人のメンバーがいる。サブリーダー格で、一行のムードメーカーも兼ねる、女モンクのエリー。気弱で、平常時でも戦闘時でも控えめな、黒魔道士のブランドル。堅実なアカデミー生といったイメージで、これといって特徴がないのが特徴の、男弓使いバグシー。いずれも、中流貴族の出身である。そして……
「……ちょっとオーウェル、アンタもモンクでしょ。しかも男なんだから、優しくおぶってあげなさいよ」
 エリーはそう言って、オーウェルの肩をつついた。今彼女がおぶっているのが、白魔道士のサマンサ。上流貴族の出身で、いかにも「癒し系」といった雰囲気のお嬢様だ。
 サマンサは、ミルウーダたち骸旅団との戦いで、気を失っていた。別に肉体的なダメージをくらったわけではなく、精神的なショックからだ。生まれて初めて生で接した、平民の厳しい現実は、彼女にとって刺激が強すぎるものだった。
「ごめんだ。そんなお荷物」
「バカ。私だって疲れてんのよ。それともどうする? ここに置いていく?」
 オーウェルは、ブランドルとバグシーに一瞥を送った。しかし、ロッドを杖代わりにするほど疲れているブランドルは問題外で、バグシーも弓矢を背負っていて、手に負えそうにない。
「はい、よろしく」
 半ば強引に、背中にサマンサを乗せられた。純白のローブ越しに感じる肌の柔らかさは、紛れもなく上流階級のそれだった。
 オーウェルは最初から、サマンサが嫌いだった。サマンサの家は、ベオルブ家ほどではないものの、分類すれば同じ部類に属するほどの上流家系で、彼女はそこで蝶よ花よと育てられた、いわば深窓の令嬢だった。同じ貴族でも、オーウェルとは全くの正反対。アカデミーに入学したのも、白魔道士としての能力や知識を身に付け、上流貴族の娘として恥ずかしくない人間にさせんとする、家の意向である。いつも一人で本を読んでいることが多く、いかにも世間知らずといった、ポーッとした雰囲気を放っていた。アカデミーの同期の中には、その雰囲気がたまらないというファンも多かったが、彼はそうではなかった。
 サマンサはアカデミー男子生徒から、それなりに憧れの目で見られてはいたが、実際に声をかける生徒はほとんどいなかった。
 純然たる身分差別が当然と思われていたこの世界では、貴族間にもまた、序列が存在した。ラムザなどは比較的気さくで、自分から話しかけたりもしていたが、そうではない上流貴族の方が圧倒的に多く、彼らは彼らだけのコミュニティを作り、自分たちよりも下級に位置する貴族との交流は望まなかった。逆もまた然りで、下から上への働きかけも、基本的に行われることはなかった。
 しかしサマンサは、そのどちらにも進んで与しようとはしなかった。エリーとは、幼年学校に通っている時に友人になっていたので、エリーと一緒にいることは比較的多かったが、清楚な令嬢というイメージが先行し、中流貴族以下の生徒からは羨望の眼差しを浴びる以上のことはなかった。一方上流貴族内には、下心を丸出しにして近づいてくる男と、男の人気を集める彼女を妬む女とが多くいた。サマンサはその両方に、何の関心も示さなかった。故に、彼女は基本的に孤独だったのだ。その点で、サマンサとオーウェルには通ずる部分があったはずなのだが、同族嫌悪というのか、オーウェルは全く、サマンサには良い意味での関心を示そうとはしなかった。金持ちのいけ好かない、世間知らずのお嬢様という存在としてのみ、彼の中にサマンサは存在していたのだ。

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最終更新:2009年06月26日 23:25