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こころひとつ 2-3

 骸旅団の残党、ゴラグロスの手により、ジークデン砦は爆破された。北天騎士団員の遺体もアルガスの遺体も、爆発に巻き込まれて無惨に吹き飛んだ。しかし、後に北天騎士団がいくら調べても、ティータ・ハイラルの残骸、爆破の瞬間にその亡骸を抱きしめていたディリータの姿だけは、終ぞ見つからなかったという。
 ラムザ一行は最早、イグーロスの支配下にある街には、戻ることは許されない。既に彼らは、「脱走兵」を越えて、「敵」として認識される立場にある。
 ジークデン砦を北に抜け、北領リオファネスから大回りして、貿易都市ドーターに出ることにした。ありとあらゆる人種がごったがえす貿易都市は、彼らが身を隠すにはうってつけである。またリオファネスは、五十年戦争当時「武器王」として名を馳せた勇将バリンテンが治める土地で、戦争直後で疲弊している北天騎士団では容易に攻め込むことは出来ない。彼らは足を棒にしてリオファネス領を踏破し、普段なら3日以上はかかる道のりを、わずか一日半で貿易都市までたどり着いた。途中にあるベルベニア活火山の常識外れの暑さにも、誰も音を上げることなく、ようやく貿易都市にたどり着いた時には、全員の疲労は限界に達していた。
「騎士団の定宿の近くは危ない。下町の方に行こう」
 下町といえば聞こえはいいが、ほとんどスラムと化した貿易都市の場末の一角は、殺人、麻薬、不法滞在が横行する、安宿ばかりの薄汚れた世界。サマンサはもちろん、ラムザも、エリーやバグシーたちでさえも、初めて足を踏み入れる異界であった。
「姉ちゃん、いい乳してんな。これ、めぐんでやるから、オレの部屋来いよ、な」
 歩いていると、麻薬らしきものをちらつかせた男にエリーが声をかけられた。彼女は赤面しながらも声をかけてきた男を殴り飛ばそうとしたが、オーウェルが止めた。
「相手にするな。あとあと、面倒なことになるぞ」
 オーウェルにとっては、さして珍しい光景でもなかった。彼の棲んでいたガリランドの下町にも、そのような輩は掃いて捨てるほどいた。
 幸い彼らには、普通の宿に泊まれる程度の持ち合わせはあったので、スラムで最もマシな宿に腰を落ち着けた。マシとは言っても、麻薬中毒者や凶悪犯罪者がいないという程度のもので、ロビーで娼婦が平気で客引きをやっているような所だが。
「みんな、出歩かないように。少なくとも、スラムからは絶対に出ないで」
 ラムザに言われるまでもなく、誰もそんなことをしようとはしない。ただ一人を除いては。
 翌日は全員、夕方前まで泥のように眠っていた。スラムの安宿では、宿側もそんなことは全く意に介さない。目が覚めてからも、旅程の疲れとジークデン砦のショックが抜けきらない一行は、ベッドから起きあがろうとさえしない。
「ど、何処行くんですか、オーウェルさん」
 そんな中で、唯一スラム街にも何も感じていない男だけが、宿を後にして外に出ようとしている。その背中に、たまたま部屋から顔を出したサマンサが声をかけた。
「あー? 飲みに行くんだよ。スラムからは出ねえよ」
 スラムの酒場に平気で行く貴族などは、おそらく彼しかいないだろう。同室のバグシーとブランドルは、二度寝に入っている。ラムザは個室で、女性陣は別部屋。彼は、こっそりと宿を出るつもりだったが、見つかってしまっては嘘をつく理由もない。
「そ、そんな、止めましょうよ。危ないですよ」
「それはお前らだけだ。オレはこんな所、慣れっこなんだよ」
 言い出したら聞く性格ではない。サマンサは自らも身支度を整え、宿のエントランスでオーウェルに追いついた。
「付いてくんじゃねえよ、お嬢様。部屋でおとなしく寝てろ」
「オーウェルさん。約束、破りましたよね? 私の言うこと、聞いて下さい」
 オーウェルは舌打ちしてきびすを返した。約束を守らないことは、彼のポリシーに反する。それがたとえ、どんな勢いでした約束でもだ。しかし、部屋に戻ろうとするオーウェルの上着の裾を、サマンサが指先できゅっと握った。
「……違います。私も、私も連れて行って下さい」

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最終更新:2009年07月23日 22:43