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月が欠けた夜に

 昔付き合っていた恋人と、本当にもう二度と会えないことを、他人を通じて知った。
 未練がないと言えば嘘になるが、もう一度付き合いたいとか、昔のように笑顔で話したいと思っているわけではない。納得したかどうかはともかく、どんな手を使ってでも別れを防ごうとはできなかったし、しなかった。その選択の結果として今があるのだから、それも仕方がない。
 ところが、二度と会えなくなるとなると、言いようのない寂しさがこみ上げてくる。どうせ会おうと思わなければ会えなかった。だから、そんなことは関係ないはずだ。
 それなのに、彼女の存在というものを二度と認識できないと思うだけで、自分が生きてきた歴史の一部がそのまま何処かへ行ってしまったように思えるのは、何故だろう。事実として在るはずの彼女と過ごした時間が、まるで夢か幻のようになってしまう。
 彼女は別れる時、
「もう、あなたといるのが辛い」
と言った。その言葉は、僕をずっと縛り付けて放さない。
 彼女と別れてから何度、恋愛をしたいと思っただろう。目に映る好みの女性を、好きになろうとする度に彼女の泣き顔が浮かび、言葉が頭を巡った。
 彼女に二度と会えないことで、この言葉は僕の中で、永久に否定されることがなくなった。自分は、一緒にいてくれる女性を辛くする。その認識から、逃れることはできない。
 楽しかった思い出は現実ではなくなり、辛かった思い出だけが永遠に固定される。恋愛の喜びが絵空事となり、苦しさだけがはっきりと姿を現す。
 本当は、会いたい。再び「会いたくない」と言われても構わない。彼女が、少なくとも自分と同じ世界で生きていることさえ認識できれば、それだけでいい。
 でも、今はもう、そんな淡い願いさえ届かなくなった。
 一本ふかした煙草の煙が、明け方の空に溶けていくのを見つめて、僕は泣いた。ただただ泣いた。
最終更新:2009年07月23日 22:29