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コロッケパン

 私の高校時代の親友に、Sという男がいた。今から二年前の夏、バイク事故で命を落としてしまったのだが、これがまたぶっとんだ男であった。
 まず、身長186㌢、体重65㌔という超モデル体型。顔はあの「修二と彰」を足して二で割ったようなイケメン。当然女の子はキャーキャー大騒ぎで、バレンタインの前後など、大変なことになった。本人もその自覚はあったらしく、結構多くの女の子と遊んでいた(らしい)。
 しかしこの男、顔に似合わず下ネタが好きで、しかも、イケメン的な部分で騒がれるよりも、面白いことを言ってウケを取ったりすることに至上の喜びを見いだす、困ったちゃんなのであった。
 さて、私とこの男との間には色々なエピソードがあるのだが、その中で、私がこの男に対して底知れぬ恐怖を抱いたものを紹介する。
 当時、高校三年生だった私は、補習か何かを受講した後、一人で家路につこうとしていた。記憶ではこの日Sは、補習を受けずに先に帰っている。
 私は、昇降口まで来たところで、鞄の中に賞味期限の切れたコロッケパンが入っていることを思い出した。きょろきょろしながらゴミ箱を探していると、不意に、Sの下足箱のふたが若干開いているのを発見してしまう。私の心に悪魔が訪れた。
「……S、ウケ、取らしてやるからな」
 そう呟きながら私は、コロッケパンの封を開け、Sの上履きの中に中身を入れた。
 翌朝上履きに足をつっこんだSが、周りで見守る人々に向かって、
「あー、コロッケパンやー。美味しそうやなー……ってコラー!」
 みたいなことを言ってウケを取る場面を想像し、「ああ、オレは何て友達思いなんだろう」などと思いながら、家路についた。
 翌朝、私が学校に来てみると、Sはまだ来ておらず、下足箱も私が昨日仕掛けをしたそのままの状態だった。
(S、腕の見せ所やぞ)
 まるで運動会の代表リレーに出場する息子を励ますような気持ちで、私は先に教室に向かった。
 約十分後、Sの足音が廊下から聞こえてきた。私としては、彼が教室に入ってきた時の反応まで想定していた。Sは恐らく
「上履きにコロッケパン入ってたんですけど! もー、誰よー?」
 くらいのことを言うだろうから、私は「もちろんオレでしたー」と行こうと、待ちかまえていたのだ。
 しかし、Sが教室の扉を開けた瞬間、私は凍り付いた。コロッケパンが見事につぶれた上履きを片手に持った、阿修羅のような形相の男が入ってきたからである。そのまま彼は、私の机に向かって歩いてきた。
「……おい、坂谷(私)。オレの上履きにコロッケパンなんか入れやがったヤツがいる。犯人捜し手伝え」
 そう言うが早いか、Sは片っ端から男子生徒の胸ぐらをつかみ、「お前か!? コラァ!」とやり出した。彼が非常にけんかっ早く、しかも強いことを知っていた一同は戦々恐々。
 結局、事件は迷宮入りとなった。
 後で聞いたところによると、下足箱の所では、Sはほぼ私の想定通りの行動をとったらしい。しかし、ソースで湿った上履きと靴下で階段を上ってくる間に、怒りがこみあげ、教室でピークに達したのだという。冗談の線引きを学ぼうと、心から思った瞬間であった。
最終更新:2009年07月23日 22:36