咲き誇る花 衣×京太郎×優希×咲 衣の人
第2局>>598~>>620
「・・・・だめ」
勉強が手に付かず宮永咲は筆記具を放り出し天井を仰いだ。
(なんだか集中できないな)
咲が勉強に集中できない理由、それはどうしても気になることがあったからだ。
(京ちゃんに恋人か・・)
幼馴染の須賀京太郎に恋人ができた事、それ自体は祝福すれば良い事、実際咲も聞いたときは祝福したのだが・・・家に帰ってくると、何か大切にしていたモノが消えてしまった、そんな喪失感に苛まれた。
(寂しいけど、けど応援しなきゃ、ちゃんとおめでとうって言ったんだし・・でも)
祝福はした、けど引っかかりも覚えた、それは幼馴染を心配する気持ちだろうか。
(衣ちゃん・・・いい子そうだし心配する必要なんて無いはずなのに)
悪そうな人間なら心配にもなるが、でも相手は天真爛漫で悪意とは無縁そうな少女、だから心配する必要は無いはず、そのはずなのだが。
(優希ちゃんも納得してくれているから・・・だから・・)
最初は京太郎と衣の関係に納得していなかった片岡優希も、一日経った今日には説得されたのかすっかり納得して、今まで通り・・いやむしろ京太郎と仲良さそうにしていた、だから何の問題も無いはずなのに、咲に心は晴れない。
(なんだろう、このもやもやする感じ・・)
見上げた天井に浮かんだ京太郎の顔に手を伸ばす・・だが。
「あっ・・」
近づいた瞬間、消え去る京太郎の顔、けれど胸のもやもやは消える事は無かった。
「はぁ・・」
ため息をついていると部屋の戸がノックされた、今の時間自分の部屋に訪ねてくるのは父親位だ、仕方なく頭を振って余計な考えを飛ばして立ち上がると、咲は戸のノブに手を伸ばした。
「で、なんの用事なんだ?」
「今日部活は休み、なのに突然の召集」
龍門渕高校麻雀部の部室にて集まったのは、衣を除く龍門渕麻雀部の面々だった。
「緊急事態ですから仕方ありませんわ、一あれを」
「う、うん・・・これなんだけど」
一が純と智紀の前に一枚の写真を置く、そこに写っているのは京太郎の腕に笑顔で抱きついている優希の姿が写っていた。
「これって、須賀と清澄のタコス女か?」
「そう、純がタコスを盗み食いして、ペースを乱したあの子ね」
「わざとじゃねえよ、ってこの写真が何だって言うんだ?」
純はその写真を見せられた意図が理解できず、見せた本人である透華に尋ねる。
「お分かりませんの?」
「分からないか聞いているんだろう」
「はぁ・・まったく」
純の態度にやれやれといった感じで、呆れ気味にため息をついた透華は純の顔をじっと見て、もう一度ためいきをつく。
「はぁ・・やはり殿方は疎いですわね」
「誰が殿方だ俺は女だ!」
「智紀は何か感じたかしら?」
純の抗議を無いものの様に無視して智紀に意見を尋ねる透華、智紀は純と同じ扱いを受けるのが嫌なのか、じっくりと写真を見つめ答えた。
「・・・仲が良すぎる気がする」
「そうか?」
智紀の答えに首を捻る純、だが透華はその答えに満足げだ。
「智紀の言う通りですわ、このえっ~と・・」
「片岡優希さん」
名前を度忘れしていた透華に、耳打ちしてすぐさまフォローする一。
「そう片岡さん、この二人いくら同じ麻雀部とは言え、少し仲が良すぎるじゃありませんこと?」
透華の言葉に、再び全員の視線が写真に集まり、今度は全員でじっくりと見つめる。
「う~~ん、言われて見ればそんな気もするが、けど須賀とタコスは仲良いのはわかっているだろう、決勝の時も態々タコス差し入れしていたみたいだからな」
「そもそも、これは何時撮られた物なのか、という疑問が」
写真には日付やそれの参考になるものは無く、最近であろう事はわかるものの正確な日にちまでは分からなかった。
「これは本日、清澄の方に行く用事があって、その帰りにたまたま撮影したものですわ」
「うん、その時ボクも一緒に居たから間違いないよ」
「それで、生で見た感想は?」
純の質問も当然だろう、写真より生で見たほうがより関係がはっきりと見えるのだから。
「えっ~と・・・かなり仲良さそうには見えたよ・・・」
若干躊躇して答える一、それを聞いた純と智紀の表情が曇る。
「おいおい、それってまさか・・・」「浮気・・?」
「いや、実際仲良い友達って可能性もあるしさ、別にこれが即浮気っていうのは・・」
「そうですわ、浮気が確定したわけではございません、片岡さんが一方的にアプローチしているだけかもしれませんし」
一が京太郎を庇うと、透華も別の可能性を挙げた。
「まあ、その可能性もあるわな」
「彼はいつもどおりにしていたとしても、彼女はそう思っていない」
「それに、須賀君が衣を泣かせるような真似をするとは思えないんだ・・・」
「俺もそんなに悪い奴には見えなかったが」「私も悪い人でないと思う」
遊園地デートの一件である程度の信頼は勝ち得ているのか、京太郎をあまり悪く言う者はこの場には居なかった、まさか二人目の恋人と言う発想をする者もさすがに居なかった。
「う~ん」×3
考え込む一、純、智紀だったが、この写真と情報だけではそれ以上はわからない。
「まあ、このまま考えていても結果が出ませんわ、そこで明日全員で清澄に行きますわよ」
「おいおい、突然だな、っていうか行ってどうするんだよ、まさか全員で須賀を尋問か?」
「尋問するだけなら全員は要らない、色仕掛けなら私、力技なら純で十分」
「なんで俺が力技担当なのかはあえて聞かないでやるよ」
(ボクには智紀が色仕掛け担当なのが気にかかるけど・・)
純はツッコミまずスルー、一は心の中でツッコミを入れるが話が逸れそうなので口には出さない。
「尋問なんてナンセンスですわ、明日交流戦という名目で勝負できるようにしておきましたので、勝ったらチームが負けたチームの言うことを聞くという条件を提示するんですわ、華麗に勝利して全員で須賀さんから訳を聞きだすんですわ、ほほほ」
(それを尋問って言うと思うんだが)(ツッコミを入れたら負け)(智紀が色仕掛けなら、ボクはご奉仕・・・って、ボク何考えているんだ!?)
純と智紀はツッコミをせずにスルー、一は一人まったく別の事を考えて頬を紅く染めていた。
「いったい誰だよ、こんな作戦考えたのは?」
「一のアイデアですわ!」
透華が一を指差すと、純と智紀が詰め寄る。
「お前は何を考えて・・」
「はぁぁ、透華が歩いている須賀君を、その場で連れ去ろうとするから仕方なく・・」
「すまん・・それよりは百倍ましだ」「身内から犯罪者を出すのは忍びない」
ため息交じりで答える一、純と智紀も連れ去るよりは全員で交流戦をするほうがましに思えた。
「でもよ・・あいつ、負けたときの事考えていないだろう、きっと」
「まあね・・」「それは確実」
三人は自分の勝利を疑わず高笑いをする透華を見て、揃ってため息を漏らした。
「と言う訳で、今日は龍門渕の人達と交流戦だからよろしくお願いね」
京太郎を含む清澄麻雀部全員が集められたところで、部長である久の口から出てきたのはそんな言葉だった。
「また唐突じゃのぅ」「そうですね、昨日は何も言ってなかったじゃないですか」
「仕方ないわよ、申し込まれたのも昨日だから」
突然の事に少しあきれ気味のまこと和に、久はあっけらかんと理由を話す。
「それで今日なのか・・唐突だじぇ」「龍門渕なら衣ちゃんもですよね」
「そうよ、けど他の四人も強いわ、特訓相手にはもってこいよ」
「じゃな」「そうですね」「納得だじぇ」「そうですね」
やる気を漲らせる清澄麻雀部女子部員達、そんな中ただ一人男子である京太郎は、一人蚊帳の外といった感じで話を聞いていた。
「俺は相変わらず雑用ですね」
「まあ・・そうね、参加したいなら参加しても良いけど、どうする?」
「止めときます、面子足りていないならまだしも、交流戦なら女子同士の方が良いでしょう?」
一応交流戦ならば女子同士やるのが良いと思い、京太郎は自ら辞退を申し出た。
「まあ、そうじゃのぅ」
「いいじゃねぇか、龍門渕ならころちゃんもいるから京太郎も退屈しないじょ?」
「まあな、でなくても見ているだけでも勉強になるだろうし、退屈はしないだろう」
とは言う京太郎だが、やはり一番の恋人である天江衣に会えると思うと心が弾んだ。
「いちゃつくのは良いけど、試合が無いか、試合が終わってからにしてよね」
「そうですね、試合中は避けて欲しいですね」「じゃあな、あんな見せられながら打たされるのは独り身には地獄じゃ」
「わかっていますよ、さすがにそんなことするわけ無いでしょう」
苦笑しつつ答える京太郎だが、からかわれているのも満更でもない様子だ、そんな五人の会話にも加わらず、咲はじっと京太郎を見つめていた。
(衣ちゃんは京ちゃんの恋人、だから楽しそうにするのは当然・・・なのに、どうしてそれで胸がもやもやするの、なにこれ・・・気持ち悪いよ)
それが何か解らないのは幼さ故か、それとも・・。
(お願い、もっと側にいてよ・・京ちゃん)
幼馴染として友達として簡単に口にできそうな言葉、それが口にする事が何故かできないのは、その言葉が幼馴染としてではなく、別の何かからの来る言葉だからか。
「まあ、ころちゃんが相手してない時は私が相手をしてやるから安心するじぇ」
そんな事を言いながら、無邪気に京太郎に抱きつく優希、他の部員が知っている京太郎なら優希を鬱陶しそうに払うところだが、そうではなく。
「まあいいけどよ、お前も試合だったらやっぱり手持ち無沙汰になるよな」
「おお、そうだったじぇ、まあ暇だったらって事で、よろしくだじぇ」
「ああ、そん時は相手してもうよ」
普通に流す、むしろ優希の頭を軽くぽんぽんと軽く叩いて、優希の相手をするといっていた、そんな京太郎の態度に優希も楽しそうにじゃれ付いていた。
(やっぱり、昨日から変よね)(恋人ができたのにこの態度、本気じゃなかったかのぅ?)
(ゆーき、無理しているわけではなさそう、開き直って友達として仲良くなったんでしょうか)
京太郎と優希が恋人関係になったことを知らない四人は、不思議そう仲良さそうな二人を見つめていたが、咲だけは少し違う思い出見つめていた。
(どうして、どうして衣ちゃんと恋人になったのに、優希ちゃんにそんな優しそうな顔をするの、なんで・・友情が深まったから、私にもそんな顔見せてくれなかったのに・・)
疑問と同時に胸のもやもやしたものが更に増大するのを感じた咲、何故かはわからないがこれ以上見ているのが辛くなり、京太郎と優希から視線を逸らした。
「うん・・咲?」
「どうしたじぇ、京太郎?」
「いや、なんでもない」(一瞬咲に表情、ずいぶん辛そうだったけど・・気のせいだよな)
京太郎は咲の表情に違和感を覚えたものの、それが何かまではわからなかった。
交流戦の話を久から聞いて十分ほどたった頃、麻雀部の扉がノックされた。
「どうぞ、入ってきて」
久の声と共に扉が開く、そこに経っていたのは龍門渕麻雀部のメンバー。
「お邪魔しますわ!」
先頭を切るのは、部長である龍門渕透華、その後に純、一、智紀と続いた。
「まずは本日の交流戦をお受け頂いて感謝いたしますわ」
「いいえ、こちらこそ、よく来てくれて嬉しいわ、まああんまり綺麗な所じゃないけど試合を楽しみましょう」
「そうですね、あまり綺麗とは言えませんわね」
思ったことを正直に口にする透華の言葉に場の空気が凍りつく。
「と、透華!?」(うわぁ、いっちまったよこのお嬢さんは)(空気を読めない子)
(しょ、正直に言うか普通)(あらら・・)(ムカッときたじぇ!)(あるいみ龍門渕さんらしいけど)(人の学園の部室をなんだと・)(そんな・・・ひどい)
一触即発な雰囲気になりそうだったが。
「でも、暖かそうな雰囲気で悪くはありませんわ」
その言葉で大分空気は落ち着きを見せた。
「透華・・ほぉ」(最初からそう言ってりゃいいものを)(一言多いんだから)
(おおっ・・)(ほう・・)(そういわれては、文句が言えません)(気に入ってくれたみたいでよかった)
「京太郎、今のは褒められたのか?」
「ここが気に入ってくれたんだろう」
「そうか、ならいいじぇ」
京太郎の答えで納得いったのか、優希から不満そうな気配が消える。
「ところで、衣は?」
「衣なら先にくると言って・・いいっ!?」
「どうしたの透華、あっ!?」「うん・・おおっ!?」「おやまぁ・・」
龍門渕の面々が驚いたのは、京太郎の腰に優希が抱きついていたからだ、まさか恋人の居る男がここまで易々と、しかも堂々と抱きつかせているとは予想していなかった、四人は少々焦りながらも集まり話し合いを行う。
「ど、どういうことですの、あ、あんなに簡単に、も、もしかして須賀さんは・・」
「こりゃ、浮気が濃厚か?」
「いや、ほら、もしかし衣と付き合う前から、あんな感じかも知れないよ」
一人京太郎を庇う一だったが、京太郎と優希の話をする姿を見ていると、ただ仲のよい友人という枠には収まらない気がした。
(ど、どうして・・須賀君は衣を悲しませるつもりなの、そ、そんなことしたら許さないけど、もしかして衣だけじゃ満足できないとか?、で、でもあの子も衣とあんまり体格かわらないよ、それならボクに言って・・)
「一顔が赤い」
智紀の発言で透華と純が一の顔を見る。
「どうしたお前、まさか頭に血が上って」「おおおお、落ち着くのですわ一、まだ決まったわけじゃありませんから、おおお、落ち着きなさい」
「あっ、う、うん、大丈夫」(ぼ、ボク何考えて・・)
一番慌てている透華に落ち着けといわれて、少し冷静になった一はもう一度、京太郎と優希を見る。
「と、とにかく、あれを衣に見せるわけには」「ええ、いきませんわ」「だな」「同意」
幸い今この場に衣は居ない、だから優希を京太郎からなんとか引き剥がそうと透華達が画策していた、ちょうどその時。
「失敗失敗、迷ってしまったな・・あっ、京太郎!」
道に迷っていた衣がある意味ベストなタイミング、部室に入ってきて真っ先に京太郎を見つけた。
「しまった・」「だ、だめですわぁ!」「くぅ、まにあわねぇ」「あっ!」
透華達が声を掛けるよりも捕まえるよりも早く、衣は京太郎に抱きついた。
「京太郎!」
「よぉ衣、会いたかったぞ」
今回は不意打ちでないので、しっかりと衣を抱きとめて恋人との再会を喜ぶ衣と京太郎。
「衣も会いたかったぞ・・あっ!」
合えた事を喜びながらも微妙な違和感を覚えた衣が、視線をしたに下げると京太郎の腰に抱きついていた優希と目が合った。
(だめぇ!)(終わりましたわ!)(最悪だ・・)(修羅場突入)
透華達は衣が傷つくことを覚悟した、次の瞬間。
「優希ではないか、元気だったか?」
「おう、元気バリバリだじぇ、そういうころちゃんは?」
「ふん、衣も元気だぞ、でも京太郎に会えたから元気百倍だな」
「さすがだじぇ、私も京太郎からもっと元気を貰うじぇ!」
京太郎に抱きついている二人は、仲良さそうに話をしていた、あまりにも普通・・むしろ楽しげな会話に、問題が解決した事を知っている久達ですら驚いていた。
(納得はしただろうけど、あそこまで仲良くなれるものなのね)(納得したって言うのは本当みたいだじゃのぅ・・)(知ってはいましたが、こうしてみると安心しますね)
久、まこ、和は問題解決したのが本当だとわかり胸を撫で下ろす。
(良いな、衣ちゃんも優希ちゃんも仲良さそうに、京ちゃんに抱きついて・・あれ、私何考えているんだろう?)
京太郎に抱きつく、二人を羨ましいく思う自分の感情がやはりよく分からない咲。
「はぁ、呆けている場合じゃねぇだろう、おい!」
「あっ、そ、そうだね」「まさかの事態に放心していた」
「こ、衣、あなたその須賀さんの腰に抱きついている女性を知っていますの?」
純の声で現実に引き戻された一と智紀は少しショックが残っており、透華は急いで衣と優希の関係を問いただす。
「うん、そういえば透華達には話してなかったな、優希とは一昨日に友達になったんだ」
「おう、片岡優希だじぇ、よろしく・・そこのタコス泥棒以外はよろしくだじぇ」
タコスの恨みを忘れていないと言わんばかりに純を指差しながらも、他の面々には挨拶をすませる優希。
「誰が・・ああっ、あんときゃ悪かったよ、一応井上純って名前があるんだから覚えろよ、タコス娘」
「純もちゃんと覚えようね、ボクは国広一」「沢村智紀」「龍門渕透華ですわ、以後見知り置くとよいですわ」
衣が友達と紹介した人間を無下にはできず、透華達もちゃんと挨拶をした。
「これで互いに紹介が終わったな、ののか、咲、こんにちは」
優希の紹介が終わると、衣は和と咲に挨拶をする、透華達はその間に再び集まって話し合いを始めた。
「ねぇ、抱きついていても怒らないよ、あれが普通なのかな?」
「わからんが、衣が友達と言って怒ってないんだから、俺たちがとやかく言うことじゃなんじゃないか?」
「衣が泣かないし文句も言わない、しかも友達であだ名で呼び合う仲、私はいいと思う」
「でも、気になるだろう」「そうだね・・やっぱり」
「こうしていても埒が明きませんわ、それも須賀さんに聞けばはっきりしますわ!」
「・・だね」「だな」「そうね」
透華の言うとおり、これ以上考えても答えが出るとは思えず三人は頷いた。
「あっ~、もういいかしら」
ちょうど話が纏まった所で、久が透華に話しかけてきた。
「ええ、お待たせして申し訳ございませんわ、ハギヨシ」
「はい、少々お待ちください」
透華の合図でハギヨシがどこからとも無く現れ、手早く全自動麻雀卓と椅子を用意する。
「これで、同時にできますでしょう」
「準備ええのぅ」「確かに一つだと四人ずつしか出来ませんから」
「そうね、これなら待たなくても出来るわね、じゃあさっそく始めましょうか」
「お待ちを!」
準備が整い早速始めようとする清澄の面々を制止する透華。
「なにかしら?」「なんじゃ?」「なんですか?」
「普通に交流戦をするだけでは、つまらなくありません?」
「そうか、普通にやるだけでも楽しいじぇ」「うん、私もそう思うけど」
「まあまあ、内容を聞いてみようじゃないの、それで普通じゃない交流戦ってどういうことをするのかしら?」
久は透華の言葉に疑問を口にする優希と咲を宥めつつ内容を尋ねる。
「それは負けたほうが勝ったほう言うことを聞くんですわ!」
透華は自信満々に発表するものも、清澄部員の反応はあまり芳しくなかった。
「ベタね」「ベタじゃ」「ベタベタだじぇ」「あまり奇抜なのもどうかですから、良いんじゃないんでしょうか」「そうだね」
特に驚くべき内容でもなく、予想内の内容に清澄の女子全員落ち着いた反応だった。
「な、なんですの、この反応は?」
(ある意味当然だな)(誰でも思いつく内容だから)(う~ん、まあそうだよね)
反応に不満そうな透華と、反応を予想していた一達は納得していた、そして衣は。
「京太郎、言うことを聞くとはどういう意味だろうか?」
「う~ん、たぶんだけど、相手の願いを適えるって事じゃないか?」
「おおっ、願いを適えるとはまるでランプの精だな」
「いや、そこまでなんでもは適えられないと思うが・・・」
相変わらず京太郎に抱きついたまま、目をきらきらと輝かせていた。
「その条件はええとして参考までに聞くけど、龍門渕の部長さんは誰を指名するんかの?」
「ふっ、私が指名するのは」
まこに聞かれて透華かビシッと指差したのは当然、従来の目的である人物。
「須賀京太郎さん、あなたですわ!」
「えっ?」「ほぉぉ」「なんと!」「須賀君を・・」「ええっ、きょ、京ちゃんですか!?」
「えっ、お、俺!?」
突然の指名に驚く清澄の面々、一番驚いているのは指差された京太郎自身だが。
(いや、私はてっきり・・・って、須賀君は天江さんの恋人だからかしら?)
(意外ちゃあ意外じゃ、でも・・まあ天江の恋人じゃからか?)
(なぜ須賀君なんでしょうか、あっ、もしかして天江さんを思って)
(もしかしてこいつも京太郎を・・)
(なんで京ちゃんを・・こ、この人も京ちゃんの事好き・・なのかな?)
「なんと、勝てば京太郎がどんな願いでも適えてくれるのか!?」
恋人が願いを適えてくれるということで衣の目はさらにキラキラと輝く。
「さぁ、お受けいただけますでしょうか?」
「う~ん、そうね、まあいいちゃ良いけど、こっちも幾つか条件付けをしてもいいかしら?」
「どうぞ、なんでもおっしゃってくださいな」
「須賀君に言うことを聞かせるのはかまわないけど、もう少し条件をはっきりさせたらどうかしら?」
「と言うと、何か妙案がおありにあるのですか?」
「ええ、こんなのはどうかしら、1から5までの番号の振ってあるくじをそれぞれが引いて、1・2は左の3・4は右の卓でしましょう、
でそれぞれの卓の一位と5が決勝でやるっていうのは、そして最終的に勝った人が、須賀君とあと一人誰かに命令できるっていうのはどうかしら?」
「確かにそれだと勝ち負けが明確ですわね、良いですわ、では一回戦目は東風戦、二試合目の決勝が半荘でよろしいくて?」
「ええ、その条件で良いわ、それじゃあさっそくくじを作って」
「ちょ、ちょっとまった!」
ルールが細かく決まろうとしていたところで、京太郎が部長同士の話し合いに割っている、自分の意思と関係なく商品にされそうになったら当然か。
「あら、どうしたの須賀君?」「なんですの、須賀さん?」
「お、俺の意思はどうなるんですか、そんな勝手に・・」
「あら、なら須賀君も参加する?」
「私は構いませんわ、それならば最下位の人間が言うことを三つ聞くに変更した方がよろしいかしら?」
京太郎の抗議にも、久も透華も焦らずそんな事を提案してにやりと笑う。
「うっ・・そ、それは・・」
京太郎が周りを見渡せば。
「俺はどっちでも良いぞ」「同じく」「ボクも良いかな」
指をしきりに動かしてやる気満々の純、静かにやる気を漲らせる智紀と一。
「私はどちらでも、でも来るなら全力で、負ける気はありません」
あまり条件自体に興味を示さない和。
「わしもどっちでも、京太郎が参戦してわしが勝ったら三日はただ働きじゃがの」
「あっ、それいいわね、なら私は・・そうだ部活以外の買い物をお願いしましょう」
労働力として京太郎を必要とするまこと久。
(京太郎が出れば、三日間京太郎を独占できるじぇ、あ~んなことやこ~んなことも思いのままだじぇ!)
(勝てば、京太郎がなんでもしてくれるぞ、どうするか・・一日だっこも良いし、一日膝の上に乗せて頭を撫ぜてもらうのも・・・うう、迷うな)
(私達の誰が勝っても須賀さんに聞けるのは変りありませんわ、衣が勝った場合は隙を見て聞くことにしましょう)
己が勝利を疑わず願い考える優希と衣、算段を企てる透華、そして。
(勝てば・・京ちゃんが言うことを聞いてくれる、そうすれば、この胸の・・良くわからない感じ、なんとかできるかな・・?)
京太郎に何でも、そう思うと咲の胸が少し高鳴った。
「・・・・参加せず、一ついうこと聞きます、入った瞬間に飛ばされそうですから」
猛獣の檻に投げ入れられた羊の気分を味わい、戦意を喪失する京太郎は久の出した最初の案を渋々承諾した。
「OK、じゃ始めましょうか」
「ええ」
くじを引くために、それぞれに別れる清澄と龍門渕。
「はぁぁぁ、なにやらされるんだろう・・」
「安心しろ京太郎、今回も絶対に衣が勝つ!」
不安そうな京太郎を安心させようと笑顔で必勝を誓う衣、そんな衣を見ているとため息をついている自分が情けなくなってきた京太郎はため息をつくのを止めた。
「ありがとな衣、頑張れよ」
「任せておけ、衣もくじを引いてくるぞ」
自信満々な態度で京太郎から離れて、龍門渕の輪に加わる衣。
(衣なら変なお願いもしないだろうからな、龍門渕さんのお願いはなんか怖いんだよな、染谷先輩と部長は単純に大変そうだし、ふぅ・・龍門渕さんと染谷先輩と部長以外が勝つことを祈るか)
勝負を降りた京太郎は、存在するかどうかわからない神様にただ祈るしかなかった。
くじの結果、左の今まで部室に置いてあった1番卓には和、久、一、智紀が右の先ほどハギヨシが用意した2番卓には優希、まこ、純、そして透華が座っていた、自動的に決勝行きが決まったのは大将戦で戦った二人、衣と咲だ。
「咲と衣が自動的に決勝か」
「ふふ~ん、衣の相手は誰になるか楽しみだ」
京太郎の膝の上に座り、上機嫌な様子でお茶を飲みながらそれぞれの卓を見る衣。
「東風戦なら私の天下、タコス泥棒にも目にもの見せてやるじぇ」
「あの時みたいにほえ面かかしてやるぜ」
「なんとでも言うがいいじぇ、勝つのは私だじょ!」
「何を言っていますの、勝つのは私に決まっていますわ!」
「まあ、ぼちぼちとはじめるかのぉ」
それぞれがやる気をみなぎらせながら、2番卓の試合が始まる。
「さぁ、始めるわよ」
「どうぞ」「・・・・」「うん、始めよう」
一番卓は静かながらも、内に闘志をみなぎらせて試合が始まる。
「始まったか・・咲もこっち座ったらどうだ?」
一人たっている咲に声を掛けて、自分の隣の椅子を指差す京太郎、だが。
「京ちゃん・・・ううん、いいよ、私ここで見ているから」
(衣ちゃんと仲良くしている京ちゃんを、これ以上近くで見るのはつらいな)
「そうか」(咲の奴、少し様子がおかしいように見えるけど、気のせいかな?)
咲の態度に変わったところを感じながら、観戦もまた修行と思い京太郎は勝負の行方を見守ることにした。
「ツモ、断幺九、三色、ドラ2、六千オールですわ」
「くっ、バカづきしすぎだ」「くそう・・追いつけなかったじぇ」「あちゃ~~」
「どんなもんですの、これが私の実力ですわ!」
2番卓はバカづきした透華か完全に三人を飲み込んで試合を終えた。
「ツモ平和、七百オール」
「あっ・・」「逃げ切られた」「今回は普通の待ちか」
「三十六計なんとかってね、勝っているなら逃げるだけよ」
1番卓は接戦だったが頭一つ抜け出していた久が、安い手だが逃げ切りを果たす。
「龍門渕さんと部長か・・・こりゃどっちが勝っても大変そうだな」
「京太郎、先ほども言ってであろう、勝つのは衣だ、そして京太郎にお願いを聞いてもらうんだからな!」
勝負と商品が楽しみなのか、衣は嬉しそうに微笑んでいた。
(別に衣なら普通にお願いされたら聞いてやるんだけどな・・でも、あの二人に勝たれるよりはいいかもな)
「頑張れよ衣」
「うん、大船に乗ったつもりで構えておればよい」
京太郎の膝から降りて勝負する卓に向かう衣、そんな衣の背を見る京太郎だったが、ふともう一人の対戦者の姿が視線に入った。
「咲・・?」
「・・・何、京ちゃん?」
呼びかけられてから少し間が空いて、ゆっくりと京太郎の方を見る咲。
(いつもと雰囲気が違う、相手が相手だから緊張しているのかな・・でもなんか)
「京ちゃん?」
「えっ、ああ、悪い、咲も頑張れよ」
「うん、勝つよ・・絶対に」
咲は笑顔で勝利を誓うではなく、表情は変えずにただその言葉を呟いたのみ、ただその短い言葉には強い・・いや異常な強さの意思を感じさせる。
(咲・・やっぱり、なんか変だな・・)
何か起こるのではないか、そんな言い知れぬ不安が京太郎の胸に広がっていた。
座席と親を決め準備が整い、二回戦が始まる。
「それじゃあ、さっそく始めましょうか」(さてさて、どんな勝負になるか)
「ええ、早く始めませんと時間の無駄ですわ」(勝って、あの片岡さんと須賀さんの関係をはっきりさせますわ、そして衣とどこまで進んでいるのかも)
「さぁ、やるぞ」(楽しい試合になりそうだ、だが京太郎が商品ならば勝つのは衣だ!)
(勝って、聞いてもらうんだ・・京ちゃんに、私のお願いを!!)
「始めましょう」
咲が短く呟いた瞬間、その場の空気が急変した。
(何、これ、あ、あの時の衣と対戦した時みたい)(なんだこの異常なのは・・わからん、わからんがまがまがしい雰囲気を感じる)(これは・・異常事態)
(な、なんじゃこりゃ!?)(宮永さんの周りの雰囲気が・・そ、そんなオカルトありえません!)(な、なんだじぇこの雰囲気は・・[[咲ちゃん]]、変だじぇ)
(咲、やっぱりおかしいぞ・・)
観戦して居る者もその異常さを感じ取り、凄まじい空気に冷や汗をかいていた。
(な、なんですのこれは!)(咲・・よね、今いるのって・・)
(これは・・・どうしたというんだ、これではまるで・・)
対戦者達は、周りのものよりも遥かに異常な空気を感じていた、咲から発せられる黒いオーラの様な・・・そんな異常すぎる空気を。
「どうしたんですか、早く始めましょう」
「・・えっ、そ、そうね」
咲の言葉で現実に引き戻された久はサイコロのボタンを押した。
勝負は開始前の空気に負けないほど異常な、いや異様なものになっていた。
「嶺上開花、小三元、中、白、二千、四千です」
「なぁ!?」「これは・・」「・・・」
本日三度目の嶺上開花で咲が上がり、他の者から点数を奪い取る。
「おい、おいおいおいおい」「ここまでとは・・」「異常」
想像以上の事態に観戦していた者達も騒ぎ出す、それも当然か目の前で繰り広げられるのは異常な事態だった。
「宮永さん・・」「さ、咲ちゃん、なんか変だじぇ・・」「なんつぅか、いびせぃの」
一位は今上がった咲が七万点でトップ、二位の衣が二万千点とぎりぎり粘っているが、透華と久は五千点を切っておりもはや勝負外のところまで追いやられていた。
(こ、衣を倒したから強いとは思っていましたけど、なんですこの異様な雰囲気は・・・まるで昔の衣を、いえ、それ以上ですわ!)
(どうしたの咲、あなたらしくないわよ、でもこの感覚はあの時の天江さんと似ているから、どうしても勝ちたい理由があるのかしら?)
(咲よどうしたというのだ、全然楽しそうじゃないぞ、あの時のお前はもっと楽しそうに麻雀をしていたじゃないか!)
(咲・・・お前どうしちまったんだ、)
そんな他の者の気持ちなど知らず、咲は勝利にひた走る。
(ここで勝てば京ちゃんは・・・)
それぞれの色々な感情が入り混じりながら、透華が親の大ラスが始まる。
「こりゃ、ほとんど勝負がついたな・・・」「そうだね、可能性があるのは連荘か、あるいは・・」「役満、しかも直撃のみ」
「あるいはダブル役満だじぇ」「それはさすがに」「あまりに可能性が低いじゃろう」
外野が話している間に配牌が終わり、それぞれが自分の配牌を見る。
(だ、だめですわ、これではとてもダブル役満で逆転劇は・・・ううっ、め、目立てませんわ!)(駄目ね、でも最後の最後まで諦めないわよ)
(いける、これならこのまま!)
透華と久は苦虫を噛み潰した様な顔をして、咲は自分の勝利を確信して微笑む、そして衣は。
(これは・・・咲はかなり良い手がきている、透華と清澄の部長はあまりか、衣はこの手感覚では微妙だが、いや、それはあくまで感覚の話、ここには衣を凌駕する者もいる、ならば・・)
対戦者の手牌の気配を感じながら、何かを決意して勝負に挑む衣。
ぽつぽつと何かが窓を叩く音に気付き、京太郎は外を見た。
「あっ、雨・・・・」
いつのまにか空はこの場と同じように、暗く淀んだ色に変わっていた。
最終更新:2011年08月22日 02:24