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――約束――


ん、と目を覚ますとなぜか私は布団の中にいた。
来ていたはずの制服も別の服になっている。
隣を見ると咲さんが眠っていた。
私は確か……



新幹線に飛び乗って、長野に帰ってきた私は電車を乗り換え清澄高校を目指した。
清澄高校についた頃にはもう時間も遅くて、校庭は人気は既になかった。
でもまだわからない。そう思い、旧校舎に向かった。
電気は点いてない。旧校舎自体が施錠されていた。
すぐに咲さんの家に向かおうと思った。
でも、私は咲さんの家を知らない。
もう駄目だ。きっと間に合わなかったんだ。
諦めかけた時、浮かんだのは淡だった。
淡は涙を見せなかった。淡のおかげでここにくる勇気が出た。
まだ、まだだ……。

諦めるにはまだ早すぎる。だって私はまだ何もしていない。
まだ、伝えたい気持ちを届けられてない。

それから私は登下校で通った道、優希と寄り道した商店街……思い浮かぶ限り全てを探した。
途中から雨が降ってきた。
でもそれを防ぐ術が私にはない。
今はただ、咲さんに、会いたい。
時計はもうすぐ0時になるところだった。
クリスマスイブが終わろうとしていた。
私は空に願った。

神様、お願いです。
あと一度でいい。だから、私を咲さんに会わせてください。


願いは届かないだろう、そう思う自分はいた。
こんな私の願いを神様が聞き入れてくれるわけがない。


―――――・・・せっかくのクリスマスなんだから何か奇跡でも起こしてよ。


それは紛れもない咲さんの声。
きっと神様の贈り物。
神様が幻聴くらい聞かせてくれたんだ。

幻聴のした方を向いてみた。
今度見えたのは幻覚だった。
幻だと分かっていても、足は勝手に向かってしまう。

「……咲さん。」

幻に呼びかけてみる。

「……咲さん。」

もう一度。
でも、幻が振り向くわけない。
だからこれで最後。
最後は思い切り大きな声で。
でもそれは私が声を出す前に振り向いた。
目が合った。

「……咲さん!!」

夢中だった。
叫ぶと同時に抱きしめた。
咲さんの手から傘が飛ぶ。
それは、幻なんかじゃなかった。

「咲さん…。ごめんなさい。咲さん。私、咲さんを傷つけて…」

最初に出たのは謝罪の言葉だった。
少しして咲さんが抱き返してくれた。

「ううん。和ちゃん…。和ちゃん…!」



……あれ?
そこからの記憶がない。
ここはどこなんだろう。
でも、隣に眠る咲さんの寝顔を見ていたらそんなことどうでもよくなった。

「咲さん。」

返事がないと知りつつ、名前を呼ぶ。
あの時言えなかった言葉を、伝えたい気持ちを。
布団から飛び出していた咲さんの手に自分の手を重ねた。

「咲さん……。私はあなたのことが、好きです。」

不意に重ねていた手が握られた。

「私も和ちゃんが好きだよ。……そういえば、まだ言葉にしてなかったよね。」

ふわりと咲さんに抱きしめられた。

「和ちゃん……。私は和ちゃんのことが好き。ごめんね。本当は悩んでたんだよね?ごめんね、気付かなくて、ごめん。」
「な、なんで咲さんが謝るんですか?悪いのは私です!咲さんにひどいことを言ってしまいました……。」
「ううん、違うよ。私が気付いてればよかったんだよ。」
「いいえ、私は悪いんです。」

そうやってお互い譲らないでいたら、咲さんが笑った。
つられて私も笑う。

「ふふふ、じゃあ二人とも悪かったってことにしよ。」

そして咲さんはそう言った。
首を振ろうとしたら、咲さんが「ねっ!」って念を押したので「…はい。」と答えた。


 * * *


「おかえり、和。」
「のどちゃん!会いたかったじぇ~!」

咲さんと部屋を出ると、清澄の麻雀部の面々が出迎えてくれた。
私はみんなに頭を下げた。

「ごめんなさい、何も言わないで出ていってしまって……」

誰かの手が伸びてきたのが分かって、ぎゅっと目をつむる。
でも、次に来たのは衝撃じゃなかった。
頭に温かいものを感じた。

「…よかった、和。また会えて。」
「ほんとよかったじぇ!」

ゆっくり頭をあげるとみんな笑っていた。
それを見て涙があふれた。


それから昔に戻ったみたいに、みんなで笑った。
でもハンガーに掛けられた制服を見た時、私は気付く。
もう、私は白糸台の人間なのだと。

「和ちゃん……。」

咲さんがいつの間にか隣に立っていた。

「今、和ちゃんが何考えてるのか、なんとなくわかるよ。」

そう言って私の手を握る。

「和ちゃん。和ちゃんは裏切り者でも、よそ者でもないんだよ。」
「でも……。」

と続けようとした言葉は後ろから現れたみんなにかき消される。

「そうじゃ。」
「私達はただの部活仲間じゃないのよ?」

振り向くとみんなが笑っていた。

「そうだじょ!和ちゃんが別の学校に行っちゃっても、私達は友達だじょ。」
「だいたい俺らが和をよそ者扱いするわけねーだろ。」

私はまた泣いた。


 * * *


別れの時がきた。
そういえば、両親に何も言わずにここに来てしまった。
駅に着き、周りの景色を見渡した。
季節が違うから、あの時とは違う景色に見えた。
白糸台での生活が苦なわけでもなければ、つまらないこともない。
ただ、ここは幸せすぎた。

駅までみんなが見送りに来てくれた。
咲さんはここまで手を繋いできてくれた。
やっぱり寂しい。
この手を離したら、また別れなくちゃいけないのか。

「……和ちゃん。」

咲さんが離そうとした手を思わず、強く握った。
すると咲さんは、反対の手をポケットに伸ばした。

「これ……。」

そう言って差し出されたのはあのマスコットだった。
咲さんが私に渡してくれた、あの日私が手放したマスコットと、私が咲さんに渡したマスコット。

「私は、これ、和ちゃんに持ってて欲しいな。」

今日だけでもう、何度も泣いてる。
だから、私は涙をこらえそれに手を伸ばす。

「咲さん…。」
「うん!」

目を合わせ、そのまま見つめ合う。

「あ、そうだ!私はここで全国に行くよ!」
「え……?」
「だから、和ちゃん!全国で会おう!」

咲さんはペロッと舌を出して笑う。
私にだけ聞こえる小さな声で「麻雀関係なく会いに行くこともあると思うけどね。」
私は笑って「はいっ!」と答えた。

「うん、約束。」
「はい、約束です。」

そう言って小指を出し合い絡ませる。
今度は破りたくない。
約束はもう二度と破りたくない。

そう決意してた私に不意打ちがくる。

ちゅ


「約束。」


驚く私に咲さんは頬を赤らめて笑った。



 * * *



1月5日、いくつかの年賀状の中に一つ茶封筒がまぎれていた。
手に取ってみた。

宮永 咲様

私宛の何の変哲もない封筒。
全く心当たりがなく、封筒を裏返す。

「え…?嘘?」

そこには 宮永 照 と書いてあった。

お姉ちゃんからの初めての手紙だった。
お父さんとお母さんが別居してから、私に対して何の反応もしなかったお姉ちゃんからの、初めての行動だった。

他のハガキをテーブルの上に投げるように置き、私は封筒を手に部屋へ走る。
ドアを閉めて一つ溜息。

もし、期待して開けてそこに「妹はいない」とか、そういうことが書かれていたら…?
首を振る。ハサミを持つ手が震える。
中に入っていたのは手紙だった。

咲へ

で始まる、お姉ちゃんからの手紙。



咲の姉 照より


涙が出てきた。
ごめんね、お姉ちゃん。
私とお姉ちゃん、いつの間にかすれ違っちゃってたんだね。
まだ会うのは怖いというお姉ちゃんを私はずっと待ち続けようと思った。

部屋の窓から空を見上げた。

「お姉ちゃん、咲は元気です。そして、大切な人もできました。大切な友達と仲間がいます。」

お姉ちゃんに言いたいことは山ほどあった。
まだ伝えられないけど、いつか伝えられるよね?

青く澄んだ空が私を見下ろしていた。
この空は和ちゃんにも、お姉ちゃんにもつながっている。

そう思うと、無性に和ちゃんに会いたくなった。




おわり。


――――――――――――――

視点=和和和咲

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最終更新:2010年02月19日 01:12