案の定、チアキちゃんはムッとして、俺の両頬をつねる。痛気持ちいい。
「へぇ、ってなんだよー!」
「ご、ごめん、いきなりだったから…」
俺はチアキちゃんを一生懸命宥める。
「それに、初めてだったから、告白なんて」
「え?」
チアキちゃんは、つねるのをやめた。
「俺、生まれて初めて告白された。」
「そうなのか?」
「ああ」
チアキちゃんは意外そうな顔をしている。



告白されたことがないだと!?
こんな色男に告白する女が一人も居ないとは…。藤岡の周りは産業○○物しかいないのか、かわいそうに。

それは兎も角、どうにか藤岡を落とさねば。
「私が初めてか。なんか嬉しいな。」
嘘ではない。「初めて」という要素は非常に重要だ。
「俺こそ、嬉しいよ。人に好かれることはさ。」
こ、これは…良いベクトルではないか!だが慌ててはいけない。クールになれ。
私は、藤岡の言葉を待った。



告白。したことはあっても、されたことはなかった。
告白される。相手にもよるだろうけど、それは非常に嬉しいことだ。
チアキちゃんが俺のことを想ってくれているのは意外だった。けれど、嬉しい。

南は、俺に告白されて何を思ったのだろうか。何故、こんなことになったのか。

告白。それは強大な力を持っていて、先まで何とも想っていなかったチアキちゃん相手に胸が時めく。
だが、南の姿が脳裏に浮かぶ。
南と手を繋ぐ。南と抱き合う。南とキスする。そして南と…
妄想の中で南を犯したこともあった。俺の中の南は俺に従順だ。俺なしては生きていけない存在だ。
だが、実際には逆なのだろう。俺が南に依存しているんだ。

チアキちゃんは、この俺の病を治す特効薬になってくれるのだろうか。
俺を、南という鎖から解放してくれるのか。
俺は…





「好きだ。」



「俺は、南が好きだ。」
「え…でも、」
どうしてだ!どうしてこいつはそこまで!
「やっぱり、ちゃんと断られたい。ちゃんとけじめをつけたいんだ。」
「……」
何も言えない。藤岡が正しすぎる。…いや、私が誤っているだけだ。
藤岡の言葉を聞いて、件の己の行為が恥ずかしくなってきた。どうしてこんなにも必死なのか。

答えは一つ。



「な、ならば!」
「分かったよ。」
「え…」
藤岡が優しく私の頭を撫でる。
「もし、南がちゃんと俺を振ったなら、その時は。」
「藤岡…」
私は、その優しさに温もりを感じた。…やはり、藤岡にはかなわない。
私は、ギュッと藤岡を抱きしめる。もう二度と、こうできない気がしたから、強く抱きしめた。




気が済むまでこうしていてあげよう。髪を撫でながら、俺はそう思った。



居間に夕陽が差し込む。あれから一時間近くこの状態だ。俺自身、この状況を堪能してしまっているのかもしれないな。
「自分を好きでいてくれている人」の温もりは俺にとって初めて感じるものだった。

そして、もう一つ感じるものがある。それは…視線だ。廊下に通ずるドア、その隙間からハルカさんが覗いている。
俺はとりあえずお辞儀をする。ハルカさんはビクッと身を揺らす。
「あの、入ってきて大丈夫ですよ?」
「え、ああ…」
躊躇いがちに居間に入ってくる。何を躊躇っているのかさっぱりだ。
「眠ってます。」
「あら…」
チアキちゃんは、俺の中で心地よさそうに眠っている。
「なんていうか、懐かれちゃってるみたいで」
俺は苦笑いをする。
「…そう。」
何か腑に落ちない顔をしている。



…私の思いこみ?さっき、してなかった?あれ?
「あの…」
「何ですか?」
「さっき、私がここに『お邪魔』しちゃった時、…してた?」
藤岡くんが頭に「?」を浮かべている。
「あ、ああ、嗚呼、ごめんなさい、今の忘れて!」
「はぁ。」


じゃあ何?私はそんなことで一時間ももだえていたというの!?
くっ…経験の無さが響いたか!



それにしても…
「懐いてる、っていっても『これ』はないんじゃない?」
私はチアキの状態を指摘する。どう考えても普通じゃない。こんなにしがみついて…
「それはその…」
やっぱり何かあったのね!でも聞いたらマズいような気がなんとなく…
「告白されました。」





こ、告白って…まさか
「チアキに?」
恐る恐る尋ねる。すると、藤岡くんは頷いた。
「それで?」
「…俺は、ほかに好きな人がいるから。諦められない人がいるから。」
「それってまさか…」
藤岡くんは再び頷いた。
「南…です。」
やっぱり、そうだったのね。
「今までに何度も告白してきました。でも、いつもはぐらかされて。南が何を思っているのか分からないんです。」
藤岡くん、なんて健気で可哀想なのかしら!
「今日、チアキちゃんに告白されて、嬉しさと恥ずかしさを感じました。それって、多分南も同じだと思うんです。」
…え?
「南は、恥ずかしがってるんだ。そう確信しました。」
は、はぁ。
「だから、次に南に会った時には、積年の戦いに決着をつけようと思います。」
どう相槌を入れようか悩んでいたら、
「…ほぇ。」
チアキが目を覚ましたようだ。



…部屋が暗い。夕陽の光だけが部屋の灯りだ。その夕陽も沈みつつある、そんな時間だろうか。
しかしなんだろうか。いつもより遙かに寝心地が良かったような。布団の温かさとは違う、まさに「温もり」を感じて…え?
私の脳が徐々に覚醒しだす。見上げる。
「ふじ、おか?」
「おはよう、チアキちゃん。」
藤岡が笑顔で挨拶をした。
「ああ、うん。」
あたりをキョロキョロする。
「……姉様?」
「お、おはよう」
なんか戸惑っているようにも見える。
私の脳の状況把握能力は格段に回復してきた。
私は、藤岡に抱きついて眠っていたらしい。


…え?
私はハルカ姉様のお顔を窺う。ひきつっている。
藤岡の顔を窺う。最高の笑みを浮かべている。



あ……あぁっ………!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁ!」
私は急いで藤岡から離れる。
しかしバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
が、藤岡が私を背中から支えてくれた。
「大丈夫?」
「あ、ああ。うん」
自分の顔が真っ赤なのが分かる。かっこよすぎだバカやろう!


最終更新:2008年02月23日 21:30