な、な、なんだこりゃ~!ちょっ、ばっ、キスなんて早くないか!いきなりすぎるじゃないか!
うぅっ、私らしくない。なんで時めいちゃってるんだよぅ…。
ていうか、キスする勇気があるなら「抱く」くらい楽勝だろうよぉ…。
もう頭がわけわかめだよ!



私は知りたかっただけなんだ。自分のことを「愛してる」とまで言ったこん野郎の温もりを知りたかっただけなんだ。
なのに、こんな、こんな!キスだなんて、温もりってレベルじゃねえぞ!あぅぅ
うまい下手の問題ではなく、藤岡とキスをする、その事自体が私にとって大事件~快感~だ。
その人生初の『大事件』に私は翻弄される。

キスだけじゃ温もりなんてわかんないよ!もっと、躰で触れあって…、って私はなにを言って…!
あぁっ!身体が勝手に動…!うわぁぁぁん。

私の四肢は藤岡の身体に絡みつく。「本能」なのだろうか。女としてのそれが、藤岡をこんなにも求めているのか。
なら仕方あるまい。私の所有者であるこの男にすべてを委ねよう。



「委ねる」。そう決めたばかりなのに、私は藤岡の舌に自分の舌をコンタクトさせていた。



南の舌に触れた。何とも言えない感動を覚えた。しかし、それと同時に我に返った。
やっぱり、違うよ。俺が求めていたのはこんなことじゃない。「愛する」イコール「性行為」ではない筈だ。
今からしようとしていることは、俺の中では正しくない。せめて、ちゃんと段階を踏んでから至りたい。
真面目くん、いいや、イデアリストだ。ずっと夢見てきたんだ。南といちゃついて、南とデートして、幾日か過ぎて漸くキスができて、そして…!


俺は、唇を離した。一瞬、唾液の橋が架かる。
「ふじおか…?」
「ごめん…」
「え?…ん、あぁ」
どうにか、このマズい空気を変えたいな。
俺は、今何と声をかけるべきか考える。



「ま、まあ、そのだな。」
南が沈黙を破る。
「か、カップルなら、き、キスくらい、普通、だろ?」
「で、でも!」
「えい!」
「うわぁっ!」
南が俺に抱きついてきた。む、胸が!
「藤岡、お願いがある。」
「は、はい」
「私を、私を強く抱きしめてくれ!」
えぇっ!
俺が狼狽えるのをよそに南は俺を強く抱きしめる。うわはぁ、匂いが!
「ダメ、なのかぁ?」
み、南ってこんなキャラだったか!?「活発的」は「積極的」とは違うぞ!
「ふじおかぁ…!」
あぅぁぁぁああ…。もう!だ、抱けばいいんだな!抱けば!
俺は意を決して、けど恐る恐る南の背中に腕を回す。

この心臓の鼓動は、南にはどう伝わっているのだろうか。



「えい!」
私は、これでもか!という位力を入れて抱きしめた。恥ずかしくて、首まで熱い。というか全身が熱い。
ふと、自分が胸を押しつけている状況に気がつく。私の鼓動、こいつは感じているのだろうか。
そして、私の温もりを感じているだろうか。


はぁ…
なんからしくないな。藤岡なんかに、こんなにも心を奪われるなんて。
ずっと、私には彼氏なんてできないだろうな、と思っていた。
女らしくなくガサツで、しかも際だった長所もない。私を好きになる物好きなんていないと思っていた。
けれど…



切なくなる。胸が締め付けらる。想えば想うほど締め付けは強くなる。
それに比例して、藤岡への「締め付け」も強くなる。



俺は、遂に南を抱きしめた。南の体がピクリと反応する。
「…もっとぉ」
今にも消えてしまいそうなか細い声で甘えてくる。俺は、反射的に強く抱きしめた。
南の温もりをより強く感じる。俺は更に強く抱きしめる。
「あっ…」
「南、…南!」
俺は思わず名を叫ぶ。
「好きだ。南。」
「…私も」
「え…?」
「私も、藤岡が好き。好きなんだ。」
「…ああ」

確信した。もう南は俺のモノだ。
「南、顔をあげて。」
「え?」
南が顔を上げる。
「南、改めて、これからよろしく。」
「あ、ああ!その、こちらこそよ」
俺は南の唇に自分のそれを重ねた。


最終更新:2008年02月23日 21:53