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男が魔法使ってナニが悪いっ! - (2010/11/15 (月) 17:08:52) のソース

*男が魔法使ってナニが悪いっ! 始まり


――ユウ――キ――ユウキ――


 狭い穴の中。黒くて、深くて、冷たい、全てを投げ出したくなってしまうくらいの絶望的な感覚。
どれだけ足掻こうとも決して抜け出すことはできない。水が跳ね、そして音がうるさく反響するだけ。上から降り注ぐ暖かな光も何の助けにはならない。このどうすることもできない状態をただ明白にするだけだった。
助けて。その一つの願いが水とともに反響する。助けて。助けて。助けて。

――ユ――ウキ――

耳に届く声が小さくなっていく。それは、自身の力が失われつつあることを物語っていた。
小さなその体ではあまりにも無力。呼吸をするために顔を水面から出すことが難しくなってきた。
もう、だめだ。そんな感情ばかりが自分を包み込み始める。
徐々に手を動かすことすらできなくなり、体はとうとう水の中に沈みこんでしまった。
視界が不透明に濁る。最後に見る上の景色は空と緑が混ざった不思議な色だった。

「……また、夢か」 
再び見えた上の景色は、いつもと何も変わらない。澄んだ青色。下に感じる固さはコンクリート。 
ここは、そう、学校の屋上だ。この時期、春のほどよい太陽の暖かさが全校の人間を心地よい睡眠へと誘うもので当然その恩恵を受けるのは屋上であっても同じことであり、俺はここをサボり場所として活用してる。 
 けれども最近はどうも屋上が人気スポットになってしまったらしくしばしば生徒に使われてしまうということでここに通じる扉を全て鍵をかけられてしまったわけで。そのために多くのサボり愛好者は一つの希望を文字通り閉ざされてしまったかのように見えた。 
「さてと、そろそろお昼だし戻るとするか」 
 屋上からは学校の壁に設置された大きな時計が見える。そのために時間を把握するのはとても容易だ。早速俺はこの屋上というある意味の閉鎖空間から脱出するべく行動を開始する。もちろん扉には鍵がかけられており一部の先生や用務員ぐらいしか開けることはできないのだ。 
「ま、これが発想の転換って奴だろうな、っと」 
俺が今いる場所は扉のすぐそばにある梯子を上った色々なタンクのあるところ。別に先生が来ることはまずないし隠れる必要はないけど、この場所が一番過ごしやすい。それでもって下との行き来にとても都合がいい。 
脱出の方法は単純だ。上から体を投げ出して下にある窓を手で開ける。そしてそのまま窓から侵入すれば…… 
「よいしょっ、と……仕上げに窓を閉めないと」 
なるべく音を立てずに、そっと閉め、鍵をかける。だけど常々思うのはこんな行き方ができてしまうっていうのはちょっとした設計ミスなんじゃないのか。どちらにしても、この学校に造りに感謝。 
ちなみに、現在このことを知っているのは俺と俺の友人くらいなものでほとんど貸しきり状態。他の人は恐らくサボることを諦めたか、それとも他のやり方でも見つけたか。どれにしても屋上に来ることがないのは確かだった。すでに一ヶ月以上使用しているにも関わらず他の生徒が来たことは一度もない。二度ほど見回りに先生が訪れたときは内心本気でどきどきモノだった。だけど先生はちらっと覗いた程度ですぐに戻っていった。それ以降は先生が見に来ることもないので安心している。 
 階段を下りて四階までやってきた。ここは一年生の教室が並んでいて奥に家庭科室がある。二年生で帰宅部の俺には特に用事のないところだけど。 
「おい」 
突然、不意に肩をつかまれた。やばい。ここで捕まったら当然補導は確定になってしまう。説教だけならまだしも悪ければ課題提出。そして何よりも、俺にとって最も問題なのは確実に購買に行けなくなってしまうこと。 
この学校の購買というのはこの辺りでは噂されるレベルの人気で、数分もすると目ぼしい品は全て売り切れというのはこの学校では本当によく目にする光景で。はっきり言おう。この学校のサボりの半数以上は購買のためにサボっているに違いない。いや、むしろ購買があるからサボってるんじゃないか? 少なくとも俺はそうだし。 
ってそんなことを考えている場合じゃない。とにかくこの場を逃れるための言い訳でもなんでも考えないと…… 
「ははは、バーカ。先生に見つかったとか思ったろ?俺だよ俺」 
先生じゃ、ない。というか、非常に聞き覚えのあるわけで。俺は安堵しながらそいつへ振り向いた。 
「なんだ杉原かよ……ていうか何してるんだよこんなところでさ」
「そろそろ時間だしお前と一緒に購買でも行こうかと思ったから来てみたんだよ」
俺の目の前にいる杉原はそう言って、そのまま下へ降りるように促した。階段を下る途中で俺達は話を続ける。
「で、授業はどうしたんだよ?」
「そんなの初めから丸井のとこにいたに決まってるだろうよ」
「丸井って、あー保健室のあの人か。下の名前覚えてないけど」

いったんここまで。
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