Scarborough Fair

ノストラダムス『1999年滅亡説』解説

最終更新:

scarboroughfair

- view
管理者のみ編集可
    ノストラダムス『1999年滅亡説』解説



                     ♜

……

ノストラダムスの予言なるものが事実か嘘か、そうした論議はとりあえず置いておき、
ここでは一時期一世を風靡した珍説、
『ノストラダムス予言 1999年滅亡説』について語る。

……

この説はルネサンス期フランスに生きた、イッサカル系ユダヤ人の
医師、占星術師、詩人、料理研究家である
ミッシェル・ド・ノートルダム(Michel de Nostredame 1503~1566年)の、
いわゆる『予言集』(百詩篇、諸世紀)の以下の文を根拠にしている。



1999年 第7番目の月
天から地に落とされし 驚愕の大王
アンゴルモアの大王を蘇らさんと
その前後 軍神は平和を楯に支配に乗り出す

………………………『予言集』 第10章72節


L'an mil neuf cens nonante neuf sept mois,
Du ciel viendra vn grand Roy d'effrayeur:
Resusciter le grand Roy d'Angolmois,
Auant apres Mars regner par bon-heur.

………………………………………(原語)


しかし一読すれば子供でもわかる事だが、
ここに「人類が滅亡する」などとはただの一文字たとも書かれてはいない

要するにただの牽強付会、完全にソースから離れて
脳内妄想で勝手に騒がれていた都市伝説にすぎないというワケだ。

……

ちなみに著者ノストラダムスは以降続々刊行する事になる予言集の
第1巻初版巻頭に掲載された予言集全体に対する序文
『息子セザールへの手紙』の中で、
自分の著作についてこう書いている。


..「私は苦悩を背負う全人類の中で、最も大きい罪人であるが(中略)
研究する中に喜びを発見し、その作業において私はこの預言詩を完成させていった。
それぞれには無数の節目があって、理解を超える事柄も加味せざるを得なかったが、
今から西暦3797年までに及ぶ、絶え間ざる預言を書き残しておくつもりである」

……

短く見積もっても「西暦3797年」までは人類の歴史が続くと書いている以上、
ノストラ自身も1999年に人類が滅亡するなどとは一㍉たりとも考えてなかったし
『予言集』を購入した読者にそんな誤解を与えるつもりも全くなかった。
要は1999年滅亡説というのは、有名ではあるがその実ノストラの考えでも何でもなく、
トンデモ研究家の勝手な解釈にすぎないというワケだ。

                     ♜

では前世紀末に社会現象まで起こした、この四行詩を解説してみよう。
まず最も目を惹くのは2行目の「天から落とされし驚愕の大王」という単語だ。

この「天から落とされた恐怖の大王」なるものについては
その刺激的で曖昧な表現から、色々な解釈や憶測が生まれた。




「全面核戦争による核ミサイル飛来説」
「カッシーニ墜落説」「ダイオキシン散布説」
「地磁気消滅による宇宙線照射説」
「UFO船団襲来説」「巨大怪獣降臨説」「イエス・キリスト再臨説」…

等々が唱えられ一時期世間を騒がしたが、
実際のところこの解釈については、西暦1558年の時点でとっくにケリがついている。
パリ国立図書館に現在も保管されている『ブロワ城対談記』に
その正体が明記されているのだ。

『ブロワ城対談記』とは当時様々な方面で活躍していた、
宗教家、医師、料理人であるノストラダムスと、
シャルル9世、カトリーヌ王妃、及び公妃などとの対談を記録した書物である。
当時のノストラダムスは「予言集」を既に10冊ほど出版し、
フランソワ・ラブレー、アルバ公の教皇領侵攻、ガルドン川大洪水など
幾つかの予言を的中させて既に有名人であった。

また話は横道に逸れるが、彼はこのような予言をも書き記している。



若き獅子が 老いたる獅子を打ち負かす
野試合の一騎討ちの果てに
金のかごの中で目を突き刺され
二つの傷は一つになり痛ましい死が訪れる

………………………『予言集』 第1章35節


1559年6月30日、フランス国王アンリⅡ世の妹マルグリットがサヴォア公と結婚し、
その祝賀で国中が沸き立っていた。
そのような中馬上での武技を競う御前槍試合が開かれる。
この晴れがましい「決闘」ショーに、腕にいささか覚えのあるアンリⅡ世は
自らの槍を手にするとごく軽い気持ちから参加し、二人の敵を打ち負かす。

三人目の相手はスコットランド国軍の儀仗隊長であったガブリエル・ド・モンゴムリ(モンゴメリー伯)。
しかしこのお遊び感覚で行われた決闘は大惨事と化す。
互いが互いに向けて槍を繰り出したのだが、モンゴメリー伯の木の槍は
その一部が裂けてささくれ立っており、そのささくれが王のかぶった黄金の兜の隙間を貫き、
眼球を深々と突き刺してしまう。
侍医たちの必死の治療にもかかわらず、この怪我が元で王は十日に及ぶ苦悶の末に命を落とす。

「若き獅子」とは、スコットランド軍の紋章をつけたモンゴメリ伯、
「老いたる獅子」とはフランス国王の事で、まさにノストラダムスの予言通りに事は成就した。
この事件は彼の著書の名をさらに高める事となった。

                     ♜

ノストラの著書は極めて曖昧でわかりにくいため、より突っ込んだ解説を多くの人に求められていた。
そしてアンリⅡ世が没する前年に当たる1558年初秋においても、
ブロワ城にて、例の第10章72節の予言に登場する
「天から落とされた驚愕の大王」について、カトリーヌ王妃がノストラに対してその正体を訊ねている。

……

前述の『ブロワ城対談記』によると、それについてノストラは噛み砕いて以下のように説明している。

 ・ 曰く、その者ははじめは高貴で輝く存在であったが、自ら軍勢を集めて神へと戦いを挑んだ。
 ・ 曰く、 その者は戦いに敗れ、天界から地へと落とされて闇の大王となった。
 ・ 曰く、その者は神に逆らったがために肉体を与えられず、
   そのため人の目では決して見ることのできない存在である。
 ・ その者は肉体的にも霊的にも、人類を滅ぼそうと画策している。

これらの特徴を聞けば、聖書に詳しい者ならすぐにその正体がわかったであろう。
早い話がこの驚愕の大王(恐怖の大王とも)とは、
ノストラ自身が敬虔なキリスト教徒だった事からもわかるように、それはそのままストレートに、
聖書的にいうところの「イエスが天界から落とされる姿を目撃した」という堕天使ルシファー、
悪霊たちの王である、いわゆる「サタン」の事である。

……



──イエスは言われた。
………「私は、サタンが稲妻のように天から落ちるのを見ていた」
……………………(新約聖書 『ルカによる福音書』 第10章18節)

──ああ、お前は天から落ちた明けの明星、暁の子よ。
………お前は地に投げ落とされた。 諸々の国を倒した者よ。
……………………… (旧約聖書 『イザヤ書』 第14章12節)

──この巨大な竜、歳を経た蛇、悪魔とかサタンと呼ばれるもの、
………全人類を惑わす者は、投げ落とされた。
………地上に投げ落とされたのである。
………………………(新約聖書『ヨハネの黙示録』 第12章9節)
……………


人類を滅ぼそうとしている云々の行動原理についても、サタンの実在性についてはともかくとして
聖書に書かれた悪魔のそれと本質的に何ら変わりはない。

太古に堕天 (=本当に空から落ちるという物理的な意味ではなく、天界を追放され、
 生命の樹の高処からその裏側の死の樹の階梯にまで堕ちるという霊的な意味)
した、目に見えない悪霊こそが驚愕の大王であると、
この対談記の中でノストラは語っているのだ。

要は例の四行詩は「1999年に何かとんでもない未知の物体が落下してくる」
などという事を書いたものではない。
さらに言えば1999年という年代は「アンゴルモアの大王を蘇らさんと、
その前後 軍神は平和を楯に支配に乗り出す」という言葉にかかっており、
その年に驚愕の大王が落ちてくると主張しているわけではないのである。

(ちなみにノストラは本来異端や魔術師としてカトリックに糾弾される側であったが、
 彼の死後、カトリックは彼を批判できず放置していた。
 というのもかつてノストラがミラノに立ち寄った時、一人の若い修道僧とすれちがい、
 その時ノストラは突然修道僧の前にひれ伏して「猊下」と言った。

 同行していた別の修道僧が「お前は頭がおかしいのか?」と聞いたが、
 これに対しノストラは「尊いお方の前で跪いて礼をするのは当然の事です」と答えた。
 そしてその修道僧が40年後ローマ法王となり、彼はノストラの予言が的中した、
 つまり予言者である事を認めざるを得なかったからである)


                     ♜

さらに解説を進めて3行目に移る。
「アンゴルモアの大王」のアンゴルモアであるが、
これはノストラ自身がフランス人であるが、そのフランス東北部に実在する「地名」の事である。
現実にフランスにアンゴルモアという地名が厳然として存在している以上、
かつてノストラ解釈者が自分の都合のいい解釈となるように
あれこれアナグラムやら何やらを試みてきたが、そのような事をする必要は元々ない。
モンゴルやモンゴリアンなどといった類似した言葉の事でも何でもない。
単なるフランスの地名である。

ちなみにこのアンゴルモアでは、百年戦争の時代に
飢えで苦しむ多くの農民を救済するため、民衆が叛乱決起を起こしている。
中でも有名なのが過度の重税と賦役負担に絶えかねたギョーム・カイムが
中心となって起こした「ジャックリーの乱」(1358年)である。
(ジャックリーはアンゴルモアの別名にもなっている)

この叛乱ははじめは正義と平和の名のもとに行われていたが、
やがてグランド・サタン(大魔王)の異名を持つ男が首領となり
それ以降民衆を襲う恐怖の盗賊団へと変貌を遂げる事となる。
「アンゴルモアの大王」とは要するにこの男をさす比喩である。

そしてそれを蘇らせようとする
(もちろん文字通り蘇生させる意味ではなく、似たような事件を再現するという事)
ために、1999年、つまり21世紀の境目前後に、
侵略戦争が起こることになるだろう──というのがこの四行詩の骨子だ。


                     ♜


要するにこの予言はわかっている限りでは

『1999年 第7の月
天から地に落とされし 驚愕の大王(サタンの事)
アンゴルモアの大王(巨大テロリスト組織の首魁の事)を蘇らさんと
     . .
その前後、マルス(=軍神、圧倒的軍事力を持つ存在)は
 平和を楯に支配に乗り出す』

という事だが、これだけでは曖昧すぎてまだ何の事なのかわからない。
ここからはいくつも解釈が生まれるであろうし、そのどれが真実であるのかはわからない。
ゆえにここからは単なる個人のいち解釈である。

これを全てそのままに解釈すると、

『サタンか、それにまつわる者たちが
 かつてあった、正義の名のもとに民衆の支持を集めて軍事力を増強し、
 やがてそれが周囲に災厄を齎すとてつもない恐怖の対象に化けてしまったという
 ジャックリーの叛乱のような事件を現代に再現すべく
 その前後において、強大な軍事力を用い、
 平和の美名のもとに(自国の内部組織やどこかよその国を)
 支配に乗り出すだろう』
 という意味となる。

ちなみに1999年を挟んだ前後の世紀にイラクに対して湾岸戦争を起こした
ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ(パパブッシュ)と
2003年にイラク戦争を起こしたジョージ・ウォーカー・ブッシュ(ブッシュJr.)は
ともに『スカル・アンド・ボーンズ』という、イェール大学トップエリートたちによる
秘密結社のメンバーである。
この組織については写真や名簿も残っており、英語版Wikipediaにも
詳しい情報が掲載されている。
アメリカのメディアでも両大統領がメンバーである事が暴露されて一時期話題を呼んだ。

彼らの戦争を支えたネオコン連中にもスカルアンドボーンズの面々が見受けられる。
そしてこの結社は、悪魔を崇拝する儀式を持つサタンの眷属のごとき存在であるそうだ。

要はこの予言は新世紀の到来を境目に、アメリカがテロ撲滅をお題目に、
世界中で大規模な戦争を勃発させる、テロ以上の恐怖の存在に
変質してしまう事を皮肉った予言詩で、
その中核には悪魔崇拝結社の人間が紛れ込んでおり、その者は新世紀前後に
強大な軍事力をもって平和の名のもとに各所の支配に乗り出す…
といった事を言ったものではないだろうか。
(かなり強引な解釈だが)

ノストラダムスの預言がインチキでたまたま数打てば当たるものだったのか、
それとも事実なのかはわからないが、要は少なくとも
1999年で人類が滅亡する、などといった文が書かれてなかった事だけは確かである。

                     ♜

そもそも彼についてはあまりにも謎が多い。
本当にこれらの予言は、超自然的な力で未来を見せられた結果のものなのだろうか?
それとも彼はあるオカルトの結社に所属しており、
その中で世間に対するメッセンジャーとしての役割を与えられたのではないだろうか。

そもそも、ノストラダムスという得体の知れない男の異様な人脈の広さは、
単にモンペリエ大学卒業生の医師というだけでは説明がつかないものなのである。

想像を逞しくすれば、彼の遺した「予言」とは、国境を跨いで歴史を影から操る秘密結社の
今後の「予定表」なのであり、それを後から自己実現するからこそ
「予言が的中した」という事になるのではないだろうか。

また、結局実行を見送られた予定や失敗した事については、
「はじめからそのような予言はない」という事で誤魔化せる。
何せノストラダムスの遺した予言の数たるや膨大なのである。

いずれにせよ、ノストラダムスという人物とその著作が
今なお謎に包まれた存在である事に変わりは無い。
目安箱バナー