木の葉高校の近くにあるファーストフード店。
そこは放課後、木の葉高校の学生で賑わっている。
そこの2階の一角に、ピンク色の髪をした少女が携帯をいじりながら座っていた。
すると、少女に二人分のハンバーガーの乗ったトレイを持った少年が近寄っていった。
「サクラちゃん、お待たせだってばよ!!」
照明が反射してきらきらと光る金髪を揺らしながら、少年は少女の前に座った。
「サクラちゃんはいちごシェイクでよかったよな?」
「うん。ありがと、ナルト。ていうか、あんたそんなに食べるの??」
「おう!!今からバイトだから食ってないと腹減るんだってばよー。」
シェイクの他にトレイに乗っているのは、ハンバーガー二つとポテトのLとナゲットとコーラのL。
少女・春野サクラはため息をついた。
「なんでそんなに食べるのに太んないのよ・・・バイト終わってラーメンも食べるんでしょ?」
「あったり前!!オレってばまかないラーメンのためだけにバイトがんばってるっつっても過言じゃねーもん!!」
少年・うずまきナルトは眩しいくらいに笑った。
サクラとナルトは小学生の頃からの友達だ。小学校低学年のときに編入してきたナルトはイタズラ好きで悪目立ちしていて、サクラは当初そんな彼に注意してばかりだった。そんな「くされ縁」が続いて、高校も一緒になり、今ではサクラはナルトのお姉さん的存在だ。
周りからそう言われると憤慨するナルトだったが、実際ナルトはいろいろなことをサクラに相談しており、内心ナルト本人も姉のように慕っていた。
それから二人は他愛もない話をしていた。
勉強のこと、テレビのこと、クラスメートのこと・・・
ふと、会話が途切れ、しばらくの沈黙が流れた。
「ねぇ。ナルト。」
飲みきったいちごシェイクをトレイの上に置き、真剣な目つきでサクラが言った。
その瞬間、ナルトはサクラが言わんとしていることがわかった。
なので、ナルトも頬張っていたポテトをコーラで流し込み、言った。
「言わないってば。」
ナルトもまた、サクラに負けないくらいまっすぐな瞳で言った。
「どうして?言わないといいのもダメになっちゃうのよ。」
サクラは右手に力を込めて言う。
「前から言ってるじゃん。いいとかダメとか、それ以前の問題だろ?」
しばらくの間のあとでナルトは苦笑しながら言った。
「だって、相手は男なんだってばよ?」
サクラはぎゅっと身体を硬直させた。ナルトの真剣な瞳の中に、哀しみをみたような気がした。
「・・・でも、可能性は0じゃないじゃない。」
サクラは、消え入りそうな声ながらもそう答える。
ははっと笑いながらナルトは言った。
「0じゃねーかもせれねーけど限りなく0に近いってば。サクラちゃんはさ、同性に『好きだ』って言われて、付き合える?オレってば無理。ちょっとは嬉しいかもしれねーけど、それ以前に気持ち悪ィって思うもん。それが普通だろ?」
サクラは、言葉が出ない。
「サクラちゃんが応援してくれるのはすげー嬉しいよ。・・・でもオレは、今のままでいい。あいつの”友達”でいられれば、それで充分なんだってばよ。」
ナルトはサクラにニカッと笑う。それを見たサクラは思わず俯いてしまった。
「サクラちゃん。」
ナルトは力を込めて握っているサクラの右手にそっと手を添えた。瞳をあげたサクラに
「本当、ありがとだってば。」
そういってナルトは微笑んだ。
「ごめん!オレってばもうバイトの時間だから!久しぶりにサクラちゃんと寄り道できて嬉しかったってばよ!!」
サクラを残し、トレイを片付けた後、めいっぱい手を振って笑顔でナルトは去っていった。
一人残されたサクラは、今は誰も居なくなった席を見つめ、小さくため息をついた。そして、
「あんな顔されたら何も言えなくなるじゃない、しゃーんなろ・・・」
とひとりごちた。
冬が近づいてるようで、日の入りが早い。6時過ぎたばかりなのに空はもううす暗い。
ファーストフード店を出たナルトはブルッと身震いした。吐く息が白くなる。
早く行かなきゃ、また店長にどやされるってば、と考えながら早足で歩いていると、ふとナルトは前方にある色を見つけた。
その瞬間、胸の奥がぎゅうっと掴まれたような衝撃に襲われた。
―――どうして、こうも目が奪われてしまうのだろう・・・―――
何もかもを取り込んでしまうような、吸い込まれてしまいそうな・・・『黒』。
黒髪なんて、自分の金髪に比べれば、ここにはものすごくあふれている。
なのに、なのに、あの『黒』は普通と違う。どんな『黒』よりも深くて、重くて、そして、『綺麗』だ。
そう思っているのは自分だけかもしれないが。
自嘲するように小さく笑うと、少し深呼吸をして、ナルトは叫んだ。
「サスケェ!!!!!」
すると前を歩いていた黒髪の少年が振り返った。その瞳もまた、漆黒。
「こんな道中で人の名前叫ぶんじゃねーよ、ウスラトンカチ。」
不機嫌そうに眉をひそめる少年・うちはサスケに、ナルトは駆け寄った。
「お前、もう部活終わったってば??いつもより早ぇな!」
「今日は顧問の出張の関係でな。お前は何してたんだよ。」
「オレってばサクラちゃんとデート!!シシシ、羨ましいだろサスケ!!」
「・・・このウスラドベ。」
「ウスラドベってなんだよ!!このバカサスケ!!」
小学生のような会話。でが、二人とも自然と笑みがこぼれる。
これだけで、ナルトは幸せだった。
ナルトはサスケに恋をしていた。
サスケとも小学校時代からの同級生で、編入当時は容姿端麗でなんでもできるサスケにナルトはライバル心を燃やし、なにかとサスケにつっかかっていた。
それがいつのまにか「友達」になり、そして「恋愛対象」になっていた。
この想いがいつからなのか、ナルト自身にも分からなかった。
その想いを唯一知っているのがサクラだった。
とはいえ、ナルトが言ったわけではなく、サクラがナルトのサスケに対する態度の微妙な変化に気づき、ナルトに問うたのだった。
そのときは自分のその気持ちが何かいまいちわかっていなかったが、サクラに話すにつれ、自覚したのだった。
―――自分は、サスケが好きなのだ、と。―――
その答えにたどり着いた瞬間、ナルトはとても動揺した。
これまでにいいなと思った女の子はいた。編入当時サクラにもそのような想いが向けられた。
しかし、今時分が好きだと思っているのは、同じ『男』であるサスケ。
まさか同性に恋をしようとは自分自身、考えられなかった。
でも、気づけばサスケを目で追い、気づけば頭のどこかでサスケを想っている。
サスケと一緒にいると楽しくて、嬉しくて・・・ときどき胸が締め付けられる。
この気持ちに気づいた瞬間、自分のサスケへの想いを認めざるをえなくなった。
サクラはその気持ちをサスケに言ってみてはどうだ、と言った。
しかし、ナルトにはそんなこと到底考えられなかった。
男の自分が、同じ男のサスケに告白する。
どう考えても成就するはずがない。むしろ嫌悪され、嫌われてしまう。
ナルトは何よりもそれを恐れた。せっかく、いまや周りに親友と想われるくらいに仲良くなれたのに。
それが壊れてしまう。サスケのあの真っ黒で綺麗な瞳に拒絶されてしまう。
考えただけで、目の前が真っ暗になった。
サクラは「サスケ君はそんな人じゃないわよ。」とフォローしたが、やはりナルトにはそんな勇気はもてなかった。
別に自分が『好き』だからといって、相手にも同じ『好き』は求めていない。
ただ、隣に居れれば良い。一緒に笑えればそれでいい。
一番の『友達』でいられればいい・・・そう、自分に言い聞かせた。
「ナルトはこれからバイトか?」
「おう!!今日は『一楽』でバイト。サスケ、食いに来ねぇ?サービスしてやるってばよ!!」
「気が向いたらな」
別れるまでの数十分の間、サスケとナルトは話しながら一緒に歩いた。
気のせいかもしれないが、サスケの歩くスピードが少し遅いような気がする。
そんな風に思っただけで、ナルトはとても嬉しくなった。
「んじゃ、オレこっちだから!!またな、サスケ!!」
ナルトが力いっぱい手を振りながら、いつもの笑顔をサスケに向ける。
「おう。」
サスケもナルトに軽く手をあげた。
ナルトが己の行く道のほうを向いた瞬間、
「ナルト。」
と、サスケが呼び止める。
胸がきゅっとなったのを悟られないように気をつけて、ナルトが「何だってばよ!」と振り返る。
「お前、バイトばっかやってるだろ。身体には気をつけろよ。」
そう言われた瞬間、ナルトの碧眼が大きく見開かれた。心臓がドキドキいっている。
たった、その一言に。
あぁ、こんなにも好きなのだと、一言一言に思い知らされる。
ナルトは少し頭を振って、いつもの笑顔で答えた。
「オレってば、身体が丈夫なのだけが取り柄だから、大丈夫だってばよ!!!」
「フン、確かになんとかは風邪ひかねぇって言うしな。」
「ああん??なんだと??」
その後、二人で同時に笑って、別れた。
ナルトはバイト先に向かって全速力で走った。
この鼓動な速さが誰のせいか悟られないように。
この顔の火照りが誰のせいか悟られないように。
ふふっと時々笑ってしまうのが誰のせいか、誰にも悟られないように。
なんでもない日常が幸せだった。
サスケの隣に居られる。それだけで幸せだった。
例えこの想いが一生成就しなくても―――。
最終更新:2009年02月11日 00:46