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白と、空色

夏休み―――。
あの受験戦争が、つい昨日のことのように思えてならない。
私は、自転車から降りると大きく息を吸った。
そばの木陰に腰掛けて、空を見上げる。ふわふわと浮かぶ白い雲。空色の背景にぴったりだ。
私はふと考えた。
沙耶はまだ、怒っているだろうか―――。

1月24日、入試当日。
ちょうど試験が終わり、そのまま塾へ。
問題用紙を片手に、自己採点をした。
結果は――、300点満点で195点。
微妙だ。合格ラインに達してるかどうか。それだけが気がかりでならない。
「朝香・・・どうだった?」
「・・・沙耶は?」
「私・・・185点。もうダメかもぉ~」
自信無げに言う沙耶。沙耶はクラスでも成績優秀で、よく勉強を教えてもらった。
その沙耶が、どうして・・・私より10点も・・・。
「大丈夫だよ、私180点だったし。」
私は思い切って嘘をついた。本当のことを言えば、あのプライドの高い沙耶なら絶対傷つくだろう。そう思ったから。
沙耶は私の言うことを疑いもせずに、
「そうだよね、大丈夫だよね。」
と言った。
嘘をついちゃいけない。分かっていたはずなのに。

1月26日、合格発表。
私と沙耶は、並んで歩き、学校へと向かった。
「うわぁ~、緊張する。」
「もう私だめだぁ~」
なんて言いながら。
掲示板の周りにはもう、人でいっぱいだった。
こんなに受験生いたっけ・・・と思いつつ、すでに布がはがされている掲示板の元へ。自分の受験番号を何度も確認し、掲示板の番号を探した。
231・・・231・・・

――あった。

もう一度確認、そしてもう一度。
だけどそこにあるのは、
231番だった

「受かった!受かったよ、沙耶!」
けれど、何処を探しても沙耶の姿は見えなかった。
入試のデータが、掲示板の横に書かれている。
『合格最低点・・・187点』
「沙耶・・・・」
沙耶が受からなかった。なのに何故自分が・・・
受かったという嬉しさよりも強い、悲しさ。
受かるはずの沙耶が落ちたという、不合格率の方が高かった私が受かるという、この運命は何なのだろう・・・。

次の日もその次の日も、沙耶は学校に来なかった。理由は風邪らしいけど、本当のことを知っているのは私だけだった。
沙耶が休んでから3日目。私は思い切って沙耶の家を訪ねることにした。
ピーンポーン。
「・・・はい」
「下村・・・朝香です。」
出てきたのは、目の下にくまのできた沙耶だった。
「沙耶・・・あのね、私・・・」
「言い訳?」
「え?」
「あんたのせいだからね。あんたのせいで落ちたんだから!」
私・・・のせい・・・。分かっていながらも、認められなかった現実。沙耶は、私のせいで落ちたのだ。私が勉強なんか教えてもらってなかったら・・・
「ごめん、沙耶。」
それだけ言うと、私は踵をかえして走った。
右目から零れ落ちそうな涙をぬぐって、ひたすら走る。
家に着いたときには、私の袖は涙でぐっしょり濡れていた。

あれから半年。無事に入学することの出来た私は、平凡な夏休みを過ごしている。今日のように、木陰に腰掛けて、空を見上げて・・・ポツリと独り言。
「許してくれないかなぁ・・・沙耶。」
「許すよ。」
えっ?どこかで聞き覚えのある声。
目の前に立っているのは、紛れもなく
―――沙耶だった。
「ごめんね、朝香。朝香のせいじゃないよ、落ちたの。」
「そんなことないよ、だって私・・・」
「いいから。・・・あのね、朝香。」
沙耶はそこで言葉を切った。
「これからも、友達でいてくれる?」
私は大きく頷いた。『友達』という言葉が、懐かしく鮮明に聞こえた。

白と、空色。
その下で交わした言葉は、平凡なんかじゃない。
大切な友との、大切な“ことば”だ。

<<END>>
最終更新:2007年12月22日 17:56
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