夏期講習のあとの塾帰り。
突然の夕立に遭った私は、鞄を頭の上に走った。
走って走って走って・・・
今日に限って自転車が壊れているから、歩いて来たのだった。
母はまだ職場にいるだろう。今から迎えにきてなんて言っても、母を困らせるだけということは目に見えている。
みんな親に迎えに来てもらうか、準備のいい奴は折り畳み傘を開き、何の苦もなしに帰っていった。
傘に入れてもらうのもなんだか悪くて、私は真っ先に塾を飛び出し、大急ぎで家へと向かったのだ。
とたん、何かにつまずいた。
「痛・・・」
膝からに血がにじみ出ている。足元には、空き缶が転がっていた。
(ったく、こんなとこにポイ捨てした奴誰だよ・・・)
こういうときだけポイ捨ての犯人を憎む自分が情けない。
とりあえず雨宿りしなきゃ。私はとっさに、道路脇のバス停に転がり込んだ。
バス停はすでに、廃墟地となっていた。
なんか薄気味悪いところだけど、膝小僧から血がぽたぽたと流れ落ちているのを見ると、このまま帰るわけにはいかない。
私は、バス停のベンチに腰掛けた。
「ハ、ハクション!」
やっば、風邪ひいた・・・?こういうときに限って。雨はまだやみそうにない。何だか寒くなってきた。
人の気配もないし・・・私ってなんでこんなに運悪いんだろ。
「大丈夫?」
隣で声がした。あわててそっちを見ると、同い年くらいの少年が。
「あ、はい・・・」
「塾帰り?」
「・・・うん。」
「そりゃ、災難だったね・・・」
その少年はやがて、自分の上着を脱ぐと、私の肩に被せた。
「冷えるといけないから。」
「あ、ありがとう。」
それからしばらく、沈黙状態が続いた。
私自身何か話そう、なんて思っていなかったけれど、向こうが話しかけてこないのも気まずい。
「「あの・・・」」
ハモった。余計気まずいじゃん、これ。
「・・・なに?」
「いや、別に。ただ・・・」
「ただ?」
「君に会えて、なんか良かった。」
えっ・・・?
「私に・・・会えて?」
「うん。ほんとに、良かった。」
少年はそう言うと、最後に「じゃあね」。そう耳元で囁いた。
「え、待って・・・」
私はあわてて言ったけど、もう遅かった。
あの少年の姿は、もうどこにも見えなかったのだ。
どこへ・・・行ったの?
肩の上にかかっていたはずの上着も見当たらない。気がつくと、もう雨はやんでいた。
―――翌日。
私はいつものように塾の教室で授業の予習をしていた。
もっとも、予習なんかしてるのは私くらいで、みんなお喋りしてるけど。
「・・・ねえ、昨日幽霊が出たんだって!」
そんな会話が、耳に入った。私は思わず耳を傾ける。
「あの廃止されたバス停。3年前にあそこで交通事故で亡くなった、男の子の霊がね・・・」
「ちょっと、やめてよぉ」
幽霊・・・?じゃあ、私が昨日見たのって・・・
でも、怖くはなかった。
『君に会えて良かった』
あの少年が言った言葉の意味が、なんとなく分かったような気がする。
最初で最後の出会い。
「私も、あなたに会えて良かったよ。」
小さな声で、つぶやいた。
膝小僧の絆創膏を見つめて。
<<END>>
最終更新:2007年12月23日 15:41