「戦火の中犯される娘達」SS保管庫

陥落

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匿名ユーザー

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夕暮れの町を、『白き民』の男たちがとぼとぼと歩いていく。
城門まで続く列の傍らでは、皮の甲冑をつけ、大きな槍を持った
真っ黒な男たちが、彼らを睨み据えている。

トマスも列を成す男の中の一人だった。列を成す男の中には兵隊たちを
睨みつける者もいたが、着の身着のままという格好の彼らが、
大柄な『黒き民』の兵たちを下から睨みつけたところで、卑屈な印象しか受けることができなかった。

『ぶっ殺してやる』
『黒豚共め』
『悪魔!』

列から時折漏れる勇ましい呪詛の叫びは、すぐに黒き民の
怒鳴り声と共に掻き消えてしまうのだから、締りがない。
列の前を歩くジョンがトマスに話しかけてきた。

『見ろよ、あれ。ヘンリーの娘じゃねぇか』

大通りをはさんで向こう側に目をやると、トマス達と同じように、
女は女で虚ろな目をしながら列を成している。違うのは、列の方向が城門ではなく
町の中心のほうへ向かっていること、そして、女たちのほとんどが
ぼろぼろの衣服を身にまとって上裸に近い格好であることだ。
その中に確かに同じ町区に住むヘンリーの娘が居た。
彼女も服を破かれ、膨らみかけの若々しい乳房を露にさせている。

『まだ、子供じゃねぇか。あいつら、許せねぇ』

ぶつぶつと呟くジョンの背中に、

(お前は最後の集会で『おとなしく黒き民の言う事を聞こう』って
一番大きな声で言ってたよな)

と言ってやろうとしたが、止めておいた。自分も含め、ここで列を成している連中は、
みんなそうなのだ。そうでない連中は立派に戦って、惨めに皆殺しにされた。

黒き民が『半島』に攻め込んできて、半年になる。大陸からは険峻な山々で
蓋をされた格好の『半島』は、何百年も断続的に行われてきた黒き民の
『西征』の際はいつも無視されてきた。
そして『白き民』の反攻の際は、海を渡ってきた白き民の騎士達の
前線基地となった。

ただ、今回の黒き民の『西征』では勝手が違うようだ。

山々を越えて半島になだれ込んだ『黒き民』の大軍勢は、
油断していた半島の駐留軍をあっという間に蹴散らした。
『黒き民』の本隊が大陸の『白き民』の領土奥深くまで侵攻している今となっては、
援軍も望めない。半島に残る兵力は、各都市の雑多な守備隊のみである。

半島に流れ込んだ『黒き民』の軍勢は、さしたる抵抗もなく、各都市を陥としていった。

守備隊が弱かったのか?黒き民が強かったのか?どちらも違う。

彼らは都市の城壁を囲むと、すぐには攻撃せず、まず城内に矢文の雨を降らせた。
文の内容はこうだ。

『城門の鍵を明け渡せ。抵抗しないなら男だけは逃がす。抵抗すれば殺す』

一番初めに黒き民の侵攻を受けた都市は文を無視した。

そして、見たこともない城攻めの道具を使う黒き民達によって、1週間も経たないうちに、
都市は攻め落とされた。
捕虜となった男たちは、一日ずつ、手足を順々に切り離され、5日目まで生き延びた者は、
生きたまま、黒き民が連れてきた獣達の餌となった。

4番目に『黒き民』が攻め込んだ都市は、初めて黒き民の要求を聞き入れた。
男達は城を出る際、武器をつけていないかを見るために、着ているものを全て脱がされ、
城外に出されただけだった。

彼らは隣の都市に全裸で逃げ込んだ。女たちを見捨てて逃げ出した彼らを、
都市の者達は軽蔑の眼差しで見ていたが、数週間後、彼らは黒き民の要求を聞き入れた
2番目の都市となった。

それから、幾つもの都市が陥落し、今度はトマスの都市がその矛先となったのだ。

男が逃げ出した後の町はどうなるのか。詳しくはわからないが、道の向こうで
列を成している女達を見れば、充分に察しが着く。
ふと、目を女の列に向けると、そこにトマスの妻、ナタリアが居た。

『ナタリア!!』

トマスは列を離れ、『止せ!トマス!』と叫ぶジョンを無視して、
妻の下へ駆け寄った。

『ナタリア!ナタリア!』
『あなた?トマスなの?もう…会えないと…』

最愛の妻はほかの女達と同じく、着ているものを乱暴に破かれて、
豊かな白い乳房を露にさせていた。

『あなた…私、黒い兵隊達に…あなた以外の人と初めて…』

まるで自分が悪いことをしたかのように泣きながら、伝える妻を
トマスはただ抱きしめる事しかできなかった。妻を抱きしめた瞬間、
10年間連れ添った妻の柔らかな香りと共に、明らかに妻のものではない、
生臭い雄の臭いがつんと鼻をついた。

『すまない…すまないナタリア…子供達は?』
『子供達は別の列に…お願い、助けて。もうあいつらの相手は嫌…』
『わかった。すぐに助けに来る。すぐ助けに来るからな。
 それまで、あきらめるんじゃ…あぐッ?!』

最後まで言う事はできなかった。黒き民の兵がトマスの背中の奥深くまで槍を突き立たのだ。
兵は突き立てた槍を乱暴に振り回し、トマスをナタリアから引き剥がして大通りの中央に投げ捨てた。

自分の運命を自覚したトマスは、妻の名前を呼び続けた。最期に妻の姿を見たいと
首をめぐらそうとしたが、黒き民の兵に髪の毛を掴まれ、持ち上げられる。

黒の縮れ毛、黒い瞳、潰れた幅広の鼻、分厚い唇、ごつい顎。

町で一番美しいと言われた妻の顔の代わりに、黒き民の醜い大きな顔が、
視界いっぱいに広がる。

『ナタ…リ…ア…』

朦朧とした意識の中で、うわ言の様に妻の名前を呼び続けるトマスに、
黒き民の兵がニヤリとして何かを言った。

トマスには意味は分からなかったが、きっと知らなかった方が良かっただろう。
最期に聞く言葉としては、あまりにも、慈悲がなかったから…

【ナタリアは俺達の妻になるんだ。大事にして、黒き民の子供を
 たくさん産ませてやるから安心しな!】

トマスの胸に一瞬激痛が走り、何も感じなくなった。
黒き民の短刀が差し入れられ、心臓を貫いたのである。

薄れいく意識のなかでトマスが最期に目にしたのは、
黒き民の兵の勝ち誇る笑みだった。

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