839 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/05/22(火) 04:44:11
「ところで一成、さっき言ってた私事って、この辺りでするような用件なのか?」
帰る直前の背中に向けて、そんなことを口にした。
「ん? ああ……そうだな、衛宮には話しても問題はなかろう」
一成がくるりと振り返る。
「衛宮、霧島君を知っているな」
キリシマ。
その名字にぞくりとした。
そうだ、何故忘れていた。
三月にまで延期された生徒会長選で一成の次代を引き継ぐことになった、先代の副会長。
そして——
「ああ……知っている、今の、生徒会長だよな」
——君は、君達は、お互いが実に利用しがいがあるナカマさ、それは誇って良いことだと思うぜ?
おそらく昨日戦ったJ.B.に……
「……どうした、衛宮?」
我知らず拳と歯に力を込めていたらしい。
「いや、なんでもない……話を続けてくれ」
「その霧島君がな、ここ数日生徒会に顔を出さんらしいのだ、俺自身の引き継ぎは終わっているのだが、決済しておかねばならない書類がまだ幾つかあるようでな……
勿論、春休みという時期を考慮すれば文句も言えんのだが、連絡も取れんのでは少々問題があるのでな」
大凡の事情は掴めた、だが、一成には……そして彼女達にはこっち側に踏み込んで欲しくないと思う。
「……一成が決済できないのか?」
「駄目だ、俺はもう生徒会長ではない、後進の指導は出来ても実務までしては示しが付かん……それで見舞いをと思ったのだ」
その辺りの、生徒会長という立場への配慮というべきか、融通の利かなさというべきか分かりかねる思考はさすが一成と言うところか。
そしてそう考えているならば、考えを変えさせることは極めて難しいだろう。
「そうか、足止めしてしまって済まないな……」
ならばせめて夜が来る前に用件を終わらせて返さなければ一成が危険だ。
「構うまい、見舞いの品とはいえあれだけ持っていては迷惑だろう、衛宮達のおかげでこれだけ減らせたしな」
「お詫びというわけではないが、ついていこうか?」
「はは、衛宮がついてきてくれるのは有り難いが……彼女とそれほど親密というわけではないのだろう?
彼女から衛宮の話を聞いたことはないし、ただでさえこの家の女性達は数多いしな」
一成が笑いを漏らす。
悪気はないのは分かるのだが……悪気がないから余計に心にズキリと来るものがあるなあ。
「それならせめて……早く帰れよ? 最近はまた物騒だからな」
「うむ、隣のS市の事もあるし、この近隣でも行方不明事件があったようだからな……日が暮れる前には帰ろう」
行方不明事件?
それは初耳だが……それはやはり……
「それではな、あまりここで話し込んでいるわけにもいくまい」
「あ、ああ……それじゃまた、気をつけてな、一成」
「うむ、今度は衛宮も寺に来ると良い、歓迎しよう」
そんな言葉を最後に、一成は再び背を向けて歩き出した。
閉まりきったドアを見つめて思考に浸る。
近隣で発生した行方不明事件、霧島さんの失踪、S市を中心に行われている歪な聖杯戦争。
これらはイコールなのか?
それとも、別の何かなのか。
少なくとも、セイバーを名乗るJ.B.と彼女の失踪はイコールの筈だ。
だが既にこちらはあの家がアジトだと理解している。
そしてこちらを調査したのならば、こちらがどれだけの戦力を保有しているかは理解できるはずだ。
どれほどの実力者であろうと、この戦力を相手にするのはほぼ確実に不可能、可能であったとしても決死であるはずだ。
そう考えれば、あの場所に戻っている可能性は極めて低いはずである。
最終更新:2007年11月24日 13:50