927 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM :2007/05/26(土) 05:10:41

僅かな差であった。
この家を根城にしたサングラスの男がその痕跡を消してから既に数時間が経過している。

だが衛宮士郎が訪れた前後30分の間に、衛宮士郎を含め5人がこの家を来訪した。
一人は柳洞一成。
呼び鈴を鳴らし、その数分後に鍵の掛かっていない扉を前にこの家を去った。
一人は山猫のような男。
戦いの痕跡さえ消えたその室内で鼻をヒクつかせ、その臭いを追跡するべくこの家を去った。
一人はジャッカルのように鋭い目を持つ男。
戦いの痕跡が消されて尚、その戦いの様子がその男の目に浮かび、消された痕跡の向かう先を追いかけるべく、この家を去ることとなる。
そしてもう一人は、衛宮士郎と遭遇することとなった。



——落ち着け。
口元を抑え、呼吸音を消すようにしながら深呼吸をする。
体温で暖められた空気が深呼吸の爽快感を打ち消したが、頭は冴えた。

僅かな足音が違う方向に向かう。
必死に家の構造を思い出す。
……合致、続いて音の聞こえ方から対象の位置を割り出す。
この音から察するに……背後を見せている。
そう判断して壁から身を乗り出し、対象を確認する。

予想通り、違う部屋の入り口に立ち背後を見せているのは……子供、少女だった。
上から下まで、紫を基調にしたシックなドレス姿に白い手袋をしている。
屋内にも関わらず同じく紫を基調にした山高帽を被り、立ち止まっているようだった。

室内を見渡しているのか、一瞬だけ横顔を見せる。
物憂げな顔が印象に残った。


ざわつく。
この場所で昨日戦ったという認識がそうさせたのか。
それとも何か理由があるのかは分からない。
あの少女を警戒しろと、何かが訴えている。

あの少女はただの少女だと脳が訴える。
あの少女はただの少女ではないと、心が訴える。
思考と本能のズレとでも言うのだろうか、その感覚を、衛宮士郎は感じていた。

だがどちらにせよ、少女に気付かれずにその場から離脱することは難しいと言うことは理解できる。
窓でも割って逃げれば別だろうがそれはそれで問題だ。
もう一度深呼吸し、心を落ち着け、それでも警戒を解かずに少女に話しかける事にした。
まず足音をわざと立て注意を向けさせておく事にする。
「君は、この近所の子かい?」
距離を保ちつつ、視線を少女と同じ高さにし、出来うる限り優しく話す。
少女はこちらを振り向いたが、反応は無く、表情も乏しい。
「えっと……君の家はどこだい? 父さんか母さんはこの辺りにいるのか? それと、ここに来ることを伝えていたりしているかい?」
ここは危ない、なんてことはうっかり言えたものではない。
もしかしたら、霧島の家とは親交がある家の子供かも知れないからだ。
そんなことを考えていると、少女は俯いてしまった。
「お父さんも、お母さんもいないから……」
「あ……そう、なのか」
しまった……おもいきり地雷を踏んでしまった。
俯いた山高帽の鍔に遮られて表情が見えないが、とてもじゃないが愉快な表情をしているとは思えない。
「えっと、とにかく、この家には今誰も居ないから、ここにいても何にもならないぞ?」
近付く、少女の頭を軽く撫でる。
「うん……」
「ほら、手を出して?」
ゆっくりと差し出された少女の手を取る。
「君の家は、どこにあるんだい?」
「……わかんない」
……まさかまた迷子なのか。
両親が居ないと言えている事を考えればノインのような記憶喪失の線は消えるが、この少女は何者だ?

例えば両親を亡くした少女が遠い親戚の家に預けられ、家に帰ろうとして迷子になった、と言うことならば……
いや、その場合この家に立ち寄った理由が説明できない。
仮にこの家に預けられるとすれば、預けに来るであろう大人が不在を確認しただろう。
……だとすれば聖杯戦争がらみか?
昨日のS市で行われた大規模な戦いの他、冬木でも戦ったし、詳細こそ知らないが行方不明事件もあったという。
その場合それに両親が巻き込まれて……駄目だ、そうだとすればこの時間までどこかを歩き回っていたことになる。

少女を家の外へ誘導しながら考え込む。
どうするべきか。


ザ・コップ:失踪者であると考え警察に連れて行く
クライストチャーチ:聖杯戦争がらみであると予測しS市教会に連絡を入れる
カオスロジック:判断を保留して衛宮邸に連れて行き、善後策を考えることにしよう

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最終更新:2007年11月24日 13:54