180 :隣町での聖杯戦争 ◆ftNZyoxtKM:2007/06/13(水) 05:26:25
……ま、連れてきた責任があるしな。
「何をするにせよ、もう日が落ちるし、少なくとも今日は泊めるって事でいいんじゃないか?」
その言葉に、遠坂が苦笑いを浮かべる。
「……そう言うとは思ったけどね、一字一句まで違いがないとは思わなかったわ」
桜も分かっていたのだろう、結論が出ると同時に立ち上がり。
「まったくもう……それじゃあ、連絡の類は私がやっておきますね」
と、笑った。
「シロウ、ちょっと良い?」
桜の足音が止まる程度の時間が過ぎた頃、イリヤが不意に声を掛けてきた。
声の方向は、不思議な事に背後。
注意が逸れている間に縁側から廊下の方に移動したらしい。
「どうした? イリヤ」
振り返ってイリヤと正対する。
「ちょっとだけ話したいことがあるから、来てくれる?」
何だろうか?
他の人が居る前では出来ない話だろう、と言うことはすぐに想像できるが、内容についてはさっぱり分からない。
「ああ、分かった……」
廊下に出ると、桜が電話をしているのが見えた。
内容は聞き取れないが、表情は固く、そして通話に集中しているのか廊下に出たこちらに気付く様子はない。
イリヤは軽く袖を引いて注意を戻させると、桜の居る方とは反対方向に歩いて振り返り、周囲を警戒しながら手招きしている。
手招きの通りにイリヤに近付く。
「一体どうしたんだ? イリヤ」
他人が居る前では出来ぬ話、として想像した物の中に、今回の冬木の外で行われている異質な聖杯戦争に関する話と言うのが当然あった。
……他にあるとすれば、例えば朝から外で待っているあの男性の事か。
だとしても、ここまで警戒することだろうか?
ちらりと居間を見やる。
確かに人並み以上に好奇心が強い『普通の人』は居るが、周囲に部屋はなく、これだけの距離から話を聞き取ることは、少なくとも衛宮士郎には不可能だ。
ましてここにいるのはイリヤである。
衛宮士郎には不可能な手段、例えば魔術を用いて偽装する手段だって用意できそうな物である。
それをここまで警戒させる、というのはどういう事だろうか?
念の為に周囲を見渡してみても異常なんて発見は出来ない。
だがそれでも念のため小声で話しかける。
「イリヤ、一体どうしたんだ?」
「……うん、ちょっと話そうかどうしようか迷ってるの」
つまり、話すのも躊躇させると言うことか。
「そんなに、危険な話なのか?」
例えば居間に爆弾が仕掛けられていて誰かがそのスイッチを握っている、と言うことか?
「ううん、話自体はちっとも危険じゃないの……危険なのはこの話を知った後のシロウよ」
「……どういう事だ?」
ワケが分からない。
思わずイリヤの肩を掴む。
「この話を知ったらシロウは動揺して、真相を確かめようとする……そして、危険なことになる」
多分、恐らくのような推測ではない。
衛宮士郎という人物の行動を確信しきっている。
「だから、選んで、シロウ……知らないままこの戦いを進んでいくか、知った上で進んでいくのか」
「それは……」
イリヤ言葉を咀嚼する。
その通り、知ってしまえば、何もせずにいることなんて出来ない。
だが、知らなければ?
そうだ、何も知らなければ何もしなくて良い、出来ない。
……だが、それでいいのか?
結論は——
最終更新:2007年11月24日 14:00